写真は初日の出。前の年越しの瞬間と合わせ、今年はどちらも息子と一緒だった。
年末年始はブックオフに通ってせっせと処分、本棚の整理をした。おもし的に取っていた本も手放した。値段にはがっくりしたけどね。
ただ、本棚も広いとは言えないし、そもそも絶対保存のシャーロック・ホームズものだけで少なくない数あるからね。
さて、12月は12作品だった。恩田陸の直木賞、本屋大賞「蜜蜂と遠雷」は、筆致はさすがな部分もあったが、慣れている身には職掌気味のネタだった。無邪気すぎるよな、いつものらしさが逆にないよな、と思ったのがグランプリから外した理由だった。
2018年、打たれるような感覚の本にまた、出逢いたい。
江國香織
「いつか記憶からこぼれ落ちるとしても」
ハードめなのが続いたから、可愛らしいのを。女子高生もの。感覚的でふむふむ。
菊子は中高一貫の女子高で、竹井、麻美子、柚とつるんでいる。母が病気がちで、宇都宮にたまに単身赴任が帰るといっしょに食事に出たりしている。ある日の通学電車で、菊子は赤いオーバーを着た女性に身体を触られるー。(「指」)
2002年の作品で、同じ女子高に通う生徒をそれぞれ主人公にした(一部違うが)連作短編集。一時期よくこういうのを読んだが、久しぶりに雰囲気に浸った。
さまざまに揺れ動く女の子たち。突然態度が変わり病気になった子の友人、ママと異常に仲のいい子に彼氏ができる話、ふくよかな体型女子のバイト生活と内面、などなどちょっと変わった、でもありそうな日常のエピソードが散りばめられている。
また、ミステリアスな子を頻繁に登場させ、その子を軸に毒の入ったストーリーも混ぜてあり、なかなか興味深い。
特徴は、持ち物、食べ物、ファッションなどが女子ものらしく細かく詳しい。そういう断片も女子たちの懐かしい記憶、なのだろうか。
個人的にはやはり「指」そして「飴玉」が良かったかな。人は内面と外面はやはり違う。その日常の渡り方、といったものが際立っているような感じだった。
後から振り返ると、懐かしいのであろう、ある意味ポエミーな記憶の数々。ほわほわっとくすぐられたし、鋭さ、巧みさも漂う。たまに江國香織流フェミニンさを味わうのもいいな。
恩田陸「蜜蜂と遠雷」
渾身と変身。結局はストレートのファストボールを軸に完投ゲーム、という感じか。直木賞、本屋大賞。
芳ヶ江国際ピアノコンクール。パリでの予備選で審査員の嵯峨三枝子は、出場者カザマ・ジンの演奏に激しい怒りを感じ、拒絶する。彼は巨匠ホフマンからの「ギフト」だった。すさまじい才能を宿した少年・風間塵、かつての天才少女・栄伝亜夜、優勝候補マサル・カルロス・レヴィ・アナトールらが、コンクールの地に集まるー。
私は、マンガ「ピアノの森」や多くのコンクールで審査員を経験した中村紘子氏の著書等々音楽ものはいくつか読んでいる。なので読み始めた最初、天才性を宿した若者たちが出場するコンクールを一から十まで描く、という形に少しだけ新鮮味のなさを感じていた。
しかしながら読みながらものすごく集中でき、一気に読み切った。やっぱ好きなんだなあと、苦笑した。
恩田陸が今回、音楽と出場者、コンペティションを描くのに投入したエネルギーとパワーがまっすぐ向かってくる。クラシックにありがちな過剰な表現と発想の嵐も、意外にバランスがよく、これだけ書き連ねられれば気持ちよく潜水できる、という印象である。
たくさんの音楽書でも触れられていた、東洋人がなぜ西洋の音楽を演奏するのか、とか、作曲家の背景なり想いをできるだけ理解して、というのも正統派だけれど、曲はあくまで媒体で、解釈は自由に認められるべきでは、とかいう考え方も散りばめられていて嬉しくなった。
直木賞の選考コメントを読むと、波のないストーリー、人物造形の深さなどなどに不満を感じながらも、恩田陸が技も表現力も、音楽への深い愛情も、フェミニンさも、またアダルトな思考も注ぎ込んだ渾身の作品に審査員たちもねじ伏せられた、という印象だ。
どこそか愛すべきクセもある恩田陸。今回は逆にそれを感じさせない。燃えるストレート、ファストボールを軸に持てる限りの変化球を使いながら投げ切った、という迫力を感じたな。やはり、音楽が聴きたくなった。
ウィリアム・シェイクスピア「ハムレット」
若さはじけるハムレット。評価が分かれるのもなんか納得。迷ってばかりで言葉が多くて、落ち着かない印象。それともリアルかな?
デンマーク王クローディアスの甥で先王の息子ハムレットは、父を慕い、母であるガートルードがクローディアスに嫁いだことで苦悩を抱えていた。そんな折、父王の亡霊が現れ、自分はクローディアスの陰謀により殺されたとハムレットに告げる。
そもそもシェイクスピアの台本はセリフが多いのだが、ハムレットは狂気を装うというのもあり、ホントに言葉数が多い。王と妃が心配して友人に監視させたり、恋するオフィーリアの父、ポローニアスが隠れひそんだりして、ハムレットが全員を敵視しているのもあり、自分にかしずく者に反抗してからかってみたりする。心千々に乱れ、触れる者全てを傷つけようとする、というどこかの歌詞で聞いたような振る舞いだ。
それが重い苦悩を余計に表し、また若さを端的に表現している。たしかに、若い頃は全てが理屈通りではなく、どこかで噴き出してしまうものがありがちではあるが、も少し落ち着くとこがあっても、とは思った。
「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」
はこの訳では
「生か死か、それが疑問だ」となっていて、最初は分からず、読了後に探した。うーん。
これで四大悲劇読了。それなりに思うことはある。さらに読んでいく中で、今回の感想もまた自分の中の受け止め方が変わっていくだろうか。来年も楽しめそうだな。
ジョン・ロバート・キング
「ライヘンバッハの奇跡
シャーロック・ホームズの沈黙」
クリスマスに、ホームズはよく似合う。今年も考えてこの時期読みました。
ケンブリッジ大学で科学を専攻した放浪者トマス・カーナッキと街で出会った美女アンナ・シュミットはライヘンバッハの滝にピクニックに行った際、滝の上から男が突き落とされるのを目撃する。急いで転落者を救助したものの、3人はライフル銃で狙われることとなり、馬車で逃げ出す。救助された男は記憶を失っていたー。
なかなか面白いシャーロッキアンものである。ホームズの宿敵モリアーティ教授がなぜロンドン犯罪界の帝王のようになったかというと、優柔な学生だったモリアーティはしかし、「極端に悪魔的な精神に向かう遺伝的傾向を持ち、血管には犯罪の資質が流れていて、並外れた知力によって逆に増強され途方もなく危険な形に変質していた。大学のある町で、彼に黒い噂が付きまとった」という意味合いのことが原作には書いてある。
そこを掘り、詳しく描写し、さらにホームズの活躍の時期と重なるジャックザリッパー事件とも関係させているユニークなパロディだと言えよう。また後に幽霊狩人探偵として小説化されるカーナッキが絡むものらしく、少々オカルト的でもある。ホームズものであり、モリアーティもの。
解決もパロディらしく現実離れしてて面白いってとこかな。意外にホームズたち、ガンガンやられてしまうし。ケガし過ぎ、復活早過ぎ(笑)。でもま、トータルとして、シャーロッキアン的娯楽ものとしてまずまずだったかな。
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