2017年11月5日日曜日

10月書評の1

写真は草野球あがりのビール。10月っていろいろあったなあ。ではレッツスタート!


伊岡瞬「代償」


ムカつく悪(わる)との対決。前半はかわいそう。後段は一転、法廷、捜査もの。


小学6年の奥山圭輔の家では、近くに住む遠縁の浅沼道子、息子の達也とのつきあいがあったが、達也を預かっていた年の暮れ、失火による火事で圭輔の両親が焼死する。圭輔は浅沼家に引き取られたが、そこでは過酷な生活が待ち受けていた。


なんかですな、読んでて、嫌あな気分から逃れられなかった。作者の狙いにハマっているな。


達也という、典型的な悪(ワル)と、それを引き立たせる、大人になってもちょっと弱気な圭輔との対比、道子のキャラククター、また尋常じゃない感の出し方などなどが強烈で、イヤな感じの中で謎を追いかけるミステリーだ。


謎もまた、達也という悪が、そう簡単にヘマをするはずがない、という観点からなので、ちょっと興味が湧く。探偵役の魅力の出し方を抑えているように見えるのも計算だろうか。


これが嫌ミスってものかいな、やだなあ、と思いつつ、けっこうなスピードで読み終わった。ちょっと悔しい(笑)。


山根一眞

「スーパー望遠鏡『アルマ』の創造者たち」


いやあ〜、興奮した。過去最大の国際科学プロジェクト、電波望遠鏡アルマ。チリに行きたくなるなあ。


アルマ(ALMA)とは、欧米などの各国と共同で66台の電波望遠鏡をチリの5000mの高地アタカマ砂漠に展開し、それぞれの観測で得られたデータを集積して、天体の研究・観察をするプロジェクトの総称だ。


日本もお椀型の直径12mアンテナの望遠鏡4台と7mの望遠鏡12台を造り参加している。この巨大な望遠鏡製造には、極小の電波を観測するため、厳しい基準が課せられた。しかも部品はものすごく多い。


巨大なパラボラアンテナの鏡面は厚さ2ミリのアルミ板を貼り合わせるが、板を削るのに求められる精度は凹凸1ミリの200分の1、5ミクロンだった。鏡面ばかりでなくバックパネルや骨組みも、昼夜で40℃もの温度差がある砂漠で、膨張や収縮が極小になるようにしなければならない。


アルマの望遠鏡は三菱電機が主体となったが、これらの鏡面加工やバックパネル等の製造を行ったのは、最高の技術を持つものの決して大きいとはいえない町工場の人々だったりする。


この本では、アルマの電波望遠鏡に携わった人々の試行錯誤や製作の苦労を丹念に追っている。もちろん、ものすごく多くの天文学者たちの、計画段階から30年の足跡と夢の軌跡も記されている。


サブミリ波と呼ばれる1ミリ以下の宇宙電波をキャッチしようというアルマは、視力6000、東京から大阪の1円玉が見えるほどの能力があるそうだ。私は読んだ後、東京にいた時通った国立天文台のHPで、アルマが捉えた、系外惑星が産まれる課程の画像と記事を読んで、久しぶりにワクワクした。次々と成果は上がっている。


私はこの人の「小惑星探査機はやぶさの大冒険」も読んだが、すごいジャーナリストだと思います。ホンマに。


面白かったなあ〜。


望月麻衣「京都寺町三条のホームズ4

                          ミステリアスなお茶会」


今巻は、シリーズの雰囲気に似つかわしくないよな、生臭い事件。京都が生き生きしてるな。


京都寺町三条にある骨董品店のホームズこと家頭清貴とアルバイトの女子高生・真城葵は、作家である清貴の父に頼まれて、ミステリー作家相笠くりすの「朗読会」に参加する。なにやら解決して欲しいことがありそうなのだが・・。朗読会にはくりすの親友という2人の女性と元担当編集者、カメラマンとその助手、私立探偵が来ていたー。


これまでは、血を見ないタイプの問題を解決してきたが、今回はなにやら本格ミステリーっぽい感じである。まあやはりラノベなんだけど。プロットに、アガサ。味のある前半。後半は最近多い豪華屋敷の鑑定対決のようなもの。もちろんホームズの宿敵も登場するが、なんか覇気がない?出演だった。


相変わらず京都シロートの私には目を惹く観光案内がいくつか。


京都へ遊びに来る友人をどこへ連れて行けばいいか、という葵の問いに清貴は、八坂神社、清水寺、祇園と答えるのだが、これって友人がかつて私のために案内してくれたコースそのままだったり。


玉の輿神社と呼ばれる今宮神社、あぶり餅や、吉田山荘など興味をそそられるスポットも登場。楽しく読めた。


ウィリアム・シェイクスピア「オセロー」


いやあ、イアーゴーって悪いやつだなあ〜。


肌の黒いムーア人の軍人オセローは、ヴェニスの純粋な美女デズデモーナと結婚する。トルコ軍がサイプラス島目指して進撃してきたため、オセローはヴェニス公に防御の将に任命され、デズデモーナとともに赴く。オセローに誠実さを認められていた旗手イアーゴーは副官になれなかったことでオセローを逆恨みし、奸計を巡らすー。


いやー、シェイクスピア面白いな〜、イアーゴー悪賢いやつやな〜と思いながら読んでいた。イアーゴーはそのもったいぶり方、悪い仕掛け、口の巧みさなどなかなかの悪役っぷりである。


物語が進むうちに、ちょっと上手く行きすぎ感もあり、オセローがあまりにも直情すぎ、信じすぎという印象も受けた。


解説によれば、1599年に書かれた「ジュリアス・シーザー」の後、シェイクスピアの創作は悲劇の時代に入る。四大悲劇のひとつ「オセロー」もこの時代に書かれた。イタリアのツィンツィオという作家が書いた物語がベースになっている。四大悲劇の他の物語のように、魔女や亡霊が出てこない人間だけの悲劇で超自然的な雰囲気が感じられないこと、家庭悲劇であることなどから、四大悲劇の中でも例外的と見る向きもあるようだ。まあ、確かにトルコ軍との戦闘もないし、メロドラマに徹しているかも。


オセローの肌が黒くムーア人と書かれている。7世紀にアラブ人勢力がアフリカに伸張し征服地の住民をイスラム教に改宗させ混血した。8世紀にはこの混血人種がポルトガルに攻め入った。ヨーロッパ人たちは「回教徒」という意味でこの者たちをムーア人と呼ぶようになったという。「オセロー」では軍功のある頼もしい傭兵の将軍として登場する。ツィンツィオの元の話からそうなっている。歴史を垣間見る思いだ。


まだまだシェイクスピアは作品が多い。また探そうっと。





0 件のコメント:

コメントを投稿