写真はバックハウスイリエのクリームパン。並んで買った。シュークリームみたいな中身で、美味しい。
10月は16作品16冊。すでに年間140冊を突破した。我ながら、史上ナンバーワンのペース。よく読んでるなあ。
米澤穂信「満願」
多才な作家の、多彩な短編集。何というか、どんな筆致がフィットするか、は微妙なことだ。
警察学校を出て、緑1交番に配属された川藤。交番長の柳岡は、川藤が警官に向いていないと見抜く。ある、朝からおかしな事が続いた日の夜、女性から、夫が刃物を振り回しているとの通報があり、柳岡、川藤らは出動する。(「夜警」)
上記のほか、温泉宿での推理もの「死人宿」、離婚家庭の話で、イメージが転調する「柘榴」、海外の開発で犯罪に手を染める商社マンの話「万灯」都市伝説を追いかけるライターが事故の多い峠を取材する「関守」そして表題作を収録した短編集である。
それぞれに小気味良い短編なのでさくさくと読み進められる。色合いの違う力作を詰め込んでいる、という点では佳作だろう。ミステリー3部門1位制覇、山本周五郎賞を受賞している。
んー、でも、どこか足りない、何か足りない。「柘榴」「関守」は先が読めてしまった。雰囲気として好きなのは「死人宿」だろうか。
短編集だと余計に、どこまでを読者への想像力に放るか、というのはポイントになると思うが、少しくそこにずれがあるよな気もする。私だけかもしれないが。
森絵都「つきのふね」
こういうのを読むところが女子系なのだが、ラストの疾走感にホロリと泣いてしまう。野間児童文芸賞。
中学生の鳥井さくらは、万引きで捕まった時のことがもとで親友・中園梨利(りり)と口をきかなくなってしまった。店から逃がしてくれた店員、戸川智のアパートに、行き場をなくしたさくらは通いつめ、さくらと梨利、2人の世話を焼こうとする同級生の勝田尚純に見つかる。智は優しかったが、言動におかしなものが見えていたー。
最初は、これまでに比べると少しはみ出した悪や突飛な展開に正直違和感があった。しかしちょっと停滞しながらもそれなりにトントンと読み進み、ラストの疾走感には参ってしまった。閉塞感を一気にふりはらう、強いイメージだ。
最近よく考えるが、小説には多かれ少なかれフィクションや偶然があって、それがストーリーを盛り上げる。このラストはその最たるものではあるが、色合いまで含めてよきフィクショナルな感じを出している、と思う。今回はまた、抑制が効いてないのが良い方に向いているのかな。
森絵都は、「カラフル」「リズム」「宇宙のみなしご」「アーモンド入りチョコレートのワルツ」そして直木賞受賞作品のアダルトな「風に舞い上がるビニールシート」を読んだ。これまでのところ、やはり児童文学のほうに惹かれるものがある。「DIVE!!」や「永遠の出口」、評判のいい「みかづき」は未読。まだまだ楽しめそうだ。
東山彰良「流」
どーんと感じたわけではないが、なにより活き活きと描いている感がすごい。深みもある。こんな小説もあるんだなと感心。満場一致だったという直木賞作品。
台北に住む17歳の葉秋生は、国民党の抗日戦士だった祖父・葉尊麟らとともに暮らしていた。5月、総統の蒋介石が死んだ騒動のどさくさの中、営む布屋に泥棒に入られた葉尊麟は店の夜番に出かけるが、翌日の昼、店を見に行った秋生は祖父の死体を発見するー。
あれこれと詰め込んであって、面白みはあるんだけども物語がどこへ行くか分からない、といった感じを受けつつ読み進めた。
抗日戦争後に起きた、大陸の共産党と国民党の覇権争いや、台湾の外省人と本省人と国情、また秋生の家族の設定や街の描写、ハチャメチャな行動に幽霊エピソード、初恋、軍隊生活などなど、本当に様々な要素がたくさん入っている。戦争やそれにまつわる虐殺、さらに殺人事件などシリアスなテーマを扱うけれどユーモアもたっぷりあり、謎もあり、秋生の人生とともに時間が経過していく。
このエッセンスの渋滞ぶりに、どう捉えていいのかとも思ったが、解説を読んで納得したのは、この作品は熱気にあふれ、街の喧騒や生活音が生で聴こえるかのように活き活きとしたリアル感を漂わせていることだ。私は台湾に行ったことはないが、台湾映画なら観ている。当地のある時代の雰囲気を、読みながら味わっているようだった。それでいなから様々なエピソードのバランスが取れていて、かつ哲学的・文芸的な匂いもする。
感動というよりは、「これまでにない感覚で楽しく読めた」というものだろうか。台湾出身で抗日戦士の祖父にルーツのある作者の自伝的な面もある作品。なるほどなるほど。
高野秀行「謎の独立国家ソマリランド」
「アフリカの角」にあるソマリランド訪問記。国の状況はもちろん、分裂した体制とその底にあるもの、海賊自治体、武力衝突から著者の思い入れにいたるまで、ぎゅーっと詰まった作品。
現在国家と見られているソマリアは、事実上5つの勢力圏で成り立っている。その中で独立を宣言しているソマリランドは、氏族を母体に高度な民主主義統治が行われており、治安も良い。国連が介入したり内戦が絶えない地域だが、ソマリランドというラピュタのような国があったー。
著者は2回に渡りアフリカへ渡航、難民キャンプ、ソマリランド、隣の海賊国家プントランド、南部のソマリア首都モガディショなどを訪問する。外国人には危険度が高く、何人もの兵士を雇わなければならなかったり、万事がカネで荒っぽいソマリ人社会で翻弄されたり、国際テレビ局の面々と友情を育んだりと、波乱万丈な取材行。最後には思い入れたっぷりとなり、この作品を出した後にも何度も再訪するなどハマってしまう。
資料もほとんどない中での訪問であり、見て聞いて、じっくりとソマリというものに向き合っているから貴重で読みごたえがある。まただからといっておカタいわけでは全くなく、全編がユーモアに溢れている。
んーまあ、濃くて長いのでちょっと停滞した部分はあったかな。でも興味深く、楽しく読めた。
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