よく読んだ9月。季節の変わり目。三輪そうめん美味かった。山登って脚ガクガクだったから、ここでの休憩が良かったな。
阿刀田高「獅子王アレクサンドロス」
アレクサンドロス大王、イスラム圏での呼称はイスカンダル。広大な地域、王との旅。
紀元前342年、ギリシャの北方マケドニア。ミエザの学舎で、マケドニアの王フィリッポス2世の息子、13歳のアレクサンドロスは、41歳のアリストテレスと出会う。アリストテレスのもとでやがて成長し父王とともにマケドニアの統治にいそしんでいた折、父が刺客の手により急死するー。
アレクサンドロスは王位を継ぎ、ギリシャ世界に脅威となっていたダレイオス3世のペルシアと戦うべく、東征を開始する。イッススの戦い、そしてティグリス河に近いガウガメラの戦いでペルシアを破り覇権を築いたが満足せず、東へ東へと進み、インド東部まで進出する。
なんといってもアレクサンドロスの快進撃、そしてヨーロッパ世界とペルシアとの衝突、さらなる遠征と、この時代の世界の状況というベースが興味をそそる。プリュギア、パルティア、ソグディアナなどの、この時代の地域名が踊るのも楽しい。
また学友であるヘパイスティオン、プトレマイオス、さらに重臣にセレウコスやアンティゴノスといった、後の歴史に名を残す武将が出てくるのもワクワクする。
もちろん遠征は楽ではなく、反乱、裏切り、蛮族との戦い、苛烈な行軍などの苦しみに人間的な悩みがつきまとう。
様々なまた資料とするものも古く、エピソードも言い伝えのような色があるが、やはり小説は人間的な部分の描写があり、説明も柔らかく、没入しやすい。
昨年アレクサンドロス大王の東征をビジュアル的に紹介した本を読み、調べてみると阿刀田高のこの小説があったので探していた。絶版との情報があり諦めかけていたが、ある日、良い状態のものを見つけ、即買いした。
アレクサンドロス大王は、意外に小説が少ない。日本人では阿刀田高と荒俣宏くらいじゃないのかな。
面白かった。
ウィリアム・シェイクスピア「マクベス」
四大悲劇のひとつ。短い舞台で、スピーディーに話が進む。あっという間に読み終わった。
中世のスコットランド、武勲を上げた武将マクベスは、城への帰路の途中3人の魔女に出会う。「いずれは王になる」という魔女の言葉に惑わされ、マクベスは王ダンカンに対し奸計を企てるー。
なんか因果応報的な、分かりやすい物語である。シェイクスピア独特の、節回しというか調子の良いセリフの言葉が読ませどころだと思う。マクベスもその妻も、なんのことはない魔女の言葉に惑わされ、権力欲に負けて葛藤に苦しむ。
マクベスをそそのかす魔女たちはなかなか絶妙な存在だ。「きれいはきたない、きたないはきれい」というセリフは、シャーロック・ホームズの聖典にも出てくる。
タイトな話ということもあるが、さすが悲劇は、これまで読んだ喜劇のようにドタバタはあまりしない印象がある。
解説によれば、この短さは宮廷上演用、という向きがあったのではないか、とのこと。ちなみに1600年代初頭に書かれたものだそうだ。時あたかもスコットランド王がエリザベス女王の死去によりイングランド王・ジェームス1世となった時期であり、この状況に配慮して作ってある、とのこと。
シェイクスピアはなかなか興味深い。まだまだ楽しめそうだ。
平岡陽明「ライオンズ、1958。」
タイトルと裏表紙で、どんな物語かはなんとなく読めたのだが・・ちょい泣き。なんというか、私の中の、福岡の血だな。
1956年の師走、この年のシーズン、西鉄ライオンズは初の日本一に輝き、戦後復興途上の博多の街を明るくしていた。西九州新聞の西鉄番記者、木屋淳二はある日、ヤクザの田宮という男の来訪を受ける。木屋の弟分で西鉄ライオンズをクビになったばかりの川内が、中洲の娼婦と逃げ、田宮は捕まえるべく追っていたのだった。
戦後を引きずっている時代の福岡、1956〜58年の西鉄ライオンズの3連覇の時代がベースとなっている。設定とキャラ造形が巧みで、親しみが持てる。特に田宮という、刮目主人公の1人に惹きつけられる。前半で出てくる思いがけないつながりのエピソードには、ハートを掴まえられた。
クライマックスの仕掛けとしてはテレビドラマ的ではあるが、ここしかない、という舞台でうまく盛り上げていると取るべきか。
全編ほぼ博多弁で、なかなか書き物では見ないな、という、我々も使った口語的な言い方が出てくる反面、どっかおかしいな、と思うものもけっこうあり、途中言い訳もしてあるのだが、作者が九州人ではないな、と思った。そこまで気にしないけど。
西鉄の話はいろんな人からその話を聞いたことがあるが、熱が伝わってくるようだ。その熱もやがて去るー。一時代の終焉と未来を描くラストも、むなしく、しかし心地よい。正直よくあるようなストーリー展開ではあるが、なかなか人を惹きつける筆致だと思う。
さて、私は小学校3年生のころ、叔父に連れられて初めて平和台球場でライオンズ、当時はすでに太平洋クラブライオンズの試合を観た。野球好きの叔父が気さくに選手に声をかけ、選手が返して来るのにワクワクした。
それから何回平和台球場に行っただろうか。西鉄福岡駅から天神の新天町を通って福岡城のお堀端を歩き、城址のほうへ登ったところに球場はあった。今も大事な思い出で、取り壊される時には写真を撮りに、新幹線に乗って帰った。
小説のこの時代は、我々の両親の青春時代である。母が女学生の頃、西鉄ライオンズを観に行ったという話はよく聞いた。叔父は埼玉に去っても、ホークスが来ても変わらずライオンズのファンだった。私はホークスとともにあった期間が短いということもあり、今も「ライオンズ」という響きに惹かれる。
福岡にあった野球熱は、ホークスが来て昇華している。
長くなるが、ここ数年、かつての阪急ブレーブス、初優勝時の広島カープの時代と地域をベースにした小説が出ていて、それなりに愉しく読んでいる。でもやっぱり、福岡と平和台球場は特別だな、と改めて思った。
篠宮あすか
「太宰府オルゴール堂 独身貴族の探偵帳」
福岡・太宰府とその界隈が舞台のラノベミステリー。福岡シリーズになってるな。
太宰府天満宮の参道にある太宰府オルゴール堂。東京出身で、天満宮近くの女子大に通う坂下茉奈はアルバイト募集の張り紙を見て面接に行くが、「1年以内に博多弁をマスターする」というヘンな条件で、イケメンの店主・伊東潤に雇われる。バイトにも慣れて来たころ、茉奈のマンションのベランダに「たすけて」と書かれた紙飛行機が落ちていたー。
太宰府天満宮はもちろん、五条、二日市、都府楼前も出てくるローカルものである。日常というよりはやや深刻めの謎を探偵役、秀が解決にあたり、その周りを茉奈やその保護者的いとこ、蓮などのファミリー役がにぎにぎしく囲む。
いやー構成といいキャラといい、「京都寺町三条のホームズ」にけっこう似ている。オルゴール自体の造詣はさほど深くないが、楽しく、にぎにぎしく解決していくラノベである。
私は太宰府は福岡第二のふるさとと思っていて、周囲の事情もよく分かるから思い入れもある。よくぞローカルな地域を取り挙げてくれたと嬉しい。
この小説自体はエブリスタ・ミステリー大賞入賞作品らしい。ストーリーが冗長に感じるが、よく太宰府付近の特徴をつかまえてあり、また方言も懐かしく受け止めた。梅ヶ枝餅ネタも嬉しい。
続編ないのかな。ぜひ描いて!
0 件のコメント:
コメントを投稿