2017年3月5日日曜日

2月書評の1





2月書評、ちょっと遅くなった。さて、長年使って来たT-Falくんが、ヒビが入って水漏れするようになったので、デロンギさんへモデルチェンジ。いつだって、前の方が使いやすく安全に思えるものだが・・まずはフタに気を付けよう。ではレッツスタート!

高殿円

「シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱」


「阿蘭陀西鶴」を買いに行ったら書店に平積みされていたから即購入。ネコにまたたび、私にホームズ。シャーロッキアン的で、ラノベで、エキセントリック。面白かった!


2012年、アフガニスタンから帰還した女性軍医、ジョー・ワトスンはロンドンの聖バーソロミュー病院で、女性顧問探偵、シャーリー・ホームズと出逢う。ベイカー街で共に暮らす事になった2人は、ロンドン市内で、女性連続殺人の捜査へと向かう。


シャーロック・ホームズとジョン・ワトスンは、第1作の長編「緋色の研究」において聖バーソロミュー病院で出逢い、ルームメイトとなった。


この作品は、かなり現代的でマンガチックではあるが、原典に忠実で、また、ほぼ全て男女をひっくり返している。登場人物の名前もなかなかだ。


ホームズとワトスンを引き合わせたのは、原典に忠実にスタンフォードとなってるし、スコットランドヤードのレストレード警部、イギリス政府に大きな影響力を持つ姉、さらに2人が取り組む事件には「緋色の研究」事件の関係者の名前が並ぶ。ホープ、ドレッパー、スタンガスン・・。


住まいには人工知能のハドスン夫人が居るし(ハドスンさんの性別が同じなのはちょっとホッとする)、ワトスンが戦地で負傷し、孤独をかこっているのも味がある。そして宿敵モリアーティ教授も女性、ホームズのモデルになったというベル教授も出演する。


周囲の人々や環境は、かなり先鋭的で、物語の展開も早く、ああラノベ〜って感じがするけど、楽しいお気楽な読み物で、好感が持てる。


続編必須の終わり方。日本人のシャーロッキアンものは、相変わらずかゆいところに手が届く作り方。先が楽しみだ。


紅玉いづき「毒吐姫と星の石」


「ミミズクと夜の王」の続編。王国のファンタジー。おとぎ話なストーリーだけど、どこか感じるところがある。あっという間に読了。今回、ちょっと考えちゃった。


占いが重視される国、ディオンの姫として生まれたが、凶兆のため、赤ん坊の時に捨てられたエルザ。成長して口の悪い少女となった彼女は、突然、占者(占い師)たちに囚われ、同盟国レッドアークの王子の妃として、送り込まれる。


今回もなかなかそれなりに面白くて、さらさら読んだ。おとぎ話ベースで、ちょっとだけ飽きた感も正直あったけど、この作家の語りは、意外に繊細だと思う。


キーとなる微妙な色の演出が心に響く。登場人物たちが活き活きと動き回る。


物語の発想は、本来自由であって、現在隆盛を極めているファンタジーSFのジャンルにおいても、私がよく読む児童小説やラノベでも、のびのびと発揮されている。もちろん技術というのはあるもので、あまりに都合が良かったり、幼い子供の心理を創造しすぎ、とかが見えるとしらけたりするのだが、基本は制約が無いのは面白い。


もちろん小説にはたくさんのジャンルがあるわけだが、大人向けの大衆小説やミステリーになると、そこにはたくさんの制約が付く。本来の社会で起き得ることだけ、現実の中で紡がれた、面白く、特徴があり、感動できる物語は、やはり美しく、実感がある。


最近は、自由な発想の作品は、大人の大衆小説その他を読む目を養ってくれるような気がしている。文章であり、表現であり、文章をつないだ構成があることには変わりがない。現実の制約がある話でも、かなり突飛な設定は多いし、意外に、両者には境目はない。


まぁ要は、これからも児童小説やファンタジーも読もうということです。はい。


白石一文「彼が通る不思議なコースを私も」


相変わらず色がある。が、ちと不思議かな今回。似たような話を読んだ記憶も・・


大手家電メーカーに勤める霧子は、友人、みずほが恋人の吉井に別れ話をする場に立ち会う。吉井は逆上してビルの屋上から飛び降りてしまうが、その直前、下に居た霧子は死神のような男、林太郎と出逢う。


白石一文は、平凡な設定を掘り下げていくという特徴があると思っている。また、こと恋愛に関しては、人が思うのと逆方向の結果になったり、またしばしば社会問題を正面から扱う。今回はそれに、ファンタジーめいた味が加わっている。


林太郎と霧子の現実は、だんだん突飛な方向へ動いていく、気がする。ちょっとハデかな、とも思う。


そんな作品だ。


名作といっていいだろう「私という運命について」を読んだ女子たちが軒並み影響を受ける、というのを目の当たりにしたので女性受けのいい恋愛もの作家さん、というイメージを持っていた。しかし後にハードなものも書く人、ということが分かった。


今回の話は不思議で、ヒーローもののような流れもあるので、いかにも物語、という見方も出来るが、男女をていねいに描いている部分や、なんというか、行間には、独特の色がある。


ふうむ、やはり、もう少し読みたいと思わせる筆致の持ち主のようだ。


新海誠「小説 言の葉の庭」


作者は、そう、「君の名は」の監督さん。別のアニメーション作品のノベライズ。万葉集が良い味付けの、美しいストーリーだ。


15歳の孝雄は、雨の日は高校をサボり、新宿の近くの庭園で過ごすことが多かった。ある日、いつもの庭園の東屋で、孝雄はスーツを着てビールを飲んでいる女性、雪野と出逢う。


手法は一時期流行った、章ごとに主人公の変わる方式。孝雄と雪野を軸に、孝雄の兄・翔太、雪野の同僚教師・伊藤、雪野と伊藤の教え子・相澤翔子、孝雄と翔太の母らの目線から物語を展開している。


孝雄がまっすぐさ、雪野に何があったか、などをみずみずしく、また痛々しく表現している。人間臭さと同時に、大都会と対照的な、キーポイントとなる雨の庭園の美しさ、不思議さと深さを与える万葉集の数々の歌、いくつかの暗合で、物語を上手にきれいに織り成している。


劇中に出てくる井上靖の「額田王」は私もかつて感銘を受けた作品で、どこか共鳴した。46分ほどのアニメーション映画は、孝雄と雪野に絞られた話だそうだが、今回は映画では語られなかった人物をじっくり描いているらしい。


ノリにのってる人の作品は、やはり当意即妙さがかなりあって、噛み合わせがいい。手法はまあ以前よく見たものだし、どこか物足りない感がないこともないが、興味深く読めた。


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