2016年10月2日日曜日

9月書評の1




9月は、よく読んだかな。読みたい本を予定通りに読めたし、見つけた意外な作品を読んだり、大作もあったから、充実してたかな。

重松清「赤ヘル1975」

やっぱ広島カープ4半世紀ぶりの優勝か、という今年、今のうちに読まなんね、と購入。上手いな、と思った。

中学1年のマナブは、仕事がいつも上手くいかない父と暮らし、転校を繰り返す身の上だ。1975年の夏、東京から広島市内に引っ越してきたマナブは、酒屋の息子で野球が上手くやんちゃなヤスと、将来はスポーツ新聞記者志望だが国語が苦手なユキオという、筋金入りのカープファン2人と仲良くなる。広島はまた、原爆投下から30年めの夏を迎えていた。

広島カープ初優勝の年の物語。かつてカープは弱く、セ・リーグのお荷物とか、3強、2弱、1番外地とか言われたこともあったという。私は、ちょうどこの年からプロ野球を見た記憶が始まっているので、その感覚は分からない。

重松清らしく、少年の物語を、家族と地域のことを上手く捉え、原爆のこと、この時代のことに向き合い、しかしバランスよく描いていると思う。雑多な出来事も考え方もあり。哀しさも、笑いも、ドラマならではのエピソードもあり。淡い恋のことも。

この年、広島カープはついにセ・リーグで初優勝し、日本シリーズでは阪急に敗れたが、赤ヘル軍団は一気に全国区になった。長嶋監督を迎えた巨人はなすすべもなく負け続け、球団創設以来初の最下位に沈んだ。

あの時代の野球の雰囲気も、世相の感覚も肌感覚でマッチするものがあって、上手い作品だと思う。

600ページ超の作品で、ちょっと骨が折れたのも確か。ミステリー特集からなんかページ数が多い本が増えてるな。女子系を読みたい気分だ。

垣谷美雨 「結婚相手は抽選で」

「女子による女子のための文庫フェア」の一冊。作家的には極端な仮定の世界を作り出す方のイメージが強いが、んー、やっぱ女子ジョシしてたな。

少子化を防ぐため、抽選お見合い結婚法案が可決された。25歳から35歳までの独身男女は、国が抽選により決めた相手とお見合いしなければならない。3回断ったら、テロ撲滅隊に、強制入隊させられる。31歳でモテない看護師の好美、ラジオ局に勤める、美人の奈々、彼女いない歴27年の龍彦は、それぞれに、辛い現実を噛みしめる。

上にも書いたが、そもそものアプローチは違っていて、ある、女子から面白い、と聞いたのが始まり。「七十歳死亡法案、可決」とか面白かった、と聞いたので、仮定の形で社会的な話を進める人かなと思っていた。で、どこかの書評で、この作品と、次の「禁煙小説」がまずまず面白い、と読んだから、軽めの作品から試してみようと買ったのだった。

感想は、うーん、こういう法律の仮定のでは、まあコミカルな成り行きになるなと、おそらく普通は思うし、またバランスよく配置した複数のキャラのオムニバス的な感じかな、と予想した。

出てきたのは、意外に、似通ったようにも見える形だった。どうやら女子2人は、別テーマも同時進行させているようだ。

それぞれに、重荷や欠点やコンプレックスを抱え、厳しい現実に向き合う。コミカルで予定調和な感じもするけれど、そこはまあ、そもそもマンガ的な仮定なんだし。男性キャラはやはり、女子が書く男の子、という感じで結構予想通りだったけど、女子2人には、ふーむ、と思ったりもした。

抽選お見合い結婚法、の成り行きも、それなりに面白いものはあった。まあ、ただ、もう少し別の展開も織り込めたのかも、と思う。

この作家さん、というのは、まだまだ見えない。もう少し読んでもいいかも、だな。

森見登美彦「ペンギン・ハイウェイ」

子供ファンタジー。なんちゅーか、想像力に感心してしまった。日本SF大賞受賞作。

研究が好きな小学4年生のぼく・アオヤマはよく友達のウチダ君と一緒に、探検に出かけ、「海辺のカフェ」では歯医者に勤めるお姉さんとチェスをする。ある日、歯医者の隣の空き地に大量のペンギンが現れ、いずこかへと去る。ぼくは、バスターミナルで、お姉さんが缶コーラをペンギンに変えるのを目撃する。近くの森ではクラスメイトのハマモトさんが、正体不明の物体、「海」の観察・研究をしていた。

萩尾望都氏も解説で書いているが、ふつう少年ファンタジーは、やんちゃか、気弱な少年が主人公だったりするので、アオヤマ君のようなカシコイしっかりものは珍しかったりする。そのへんウチダ君に預けているようだ。

わけ分からん系の、でも奥に大きなものを感じさせるような不思議な、謎の現象を設定して、アオヤマ君と取り巻く人々のハートウォーミングでちょっと切ないストーリーである。理屈も分かったようなわからんような解決だが、読後感じが抜群にいい。我々世代の、探検の体験も思い起こさせてくれるものだ。ジュブナイルと言えなくもない。

森見登美彦は、「夜は短し歩けよ乙女」「四畳半神話体系」を読んで、興味はあったものの、しばらく読んでなかった。私の周囲ではけっこう好きな人が多かったが、同じ京大卒の、万城目学のほうが合うような気がして、見送っていた。

意外に、これまでとは作風が違って、好感を残した。こんな話、けっこう好きである。

久住四季「星読島に星は流れた」

ふむ。スマートなミステリー。設定も知的好奇心をくすぐる。探偵役はナイスガイ&美女2人。

天文学者サラ・ローウェル博士が所有するボストン港近くの小島ー星読島は、数年に一度、隕石が落ちてくるという不思議な島。毎年数人を招待し、もし隕石が落ちたら参加者の1人にプレゼントされる催しが行われる。招待を受けたアメリカ国籍の医師、加藤盤は同じ招待客の、隕石を売買するプロ、マッカーシーや、18歳にして博士号を得ている天才少女・美宙と出会う。

評判の良い推理小説ということで、文庫化を待っていた。読み終わった感は、まあ、一読面白く気持ち良い物語、というものだ。

隕石、宇宙、星、天文学者という材料がまず興味を惹く。また、島とくればミステリー好きにはやはり、孤立した状況での連続殺人、が自然と思い描かれる。ここは期待を裏切らない。

物語の仕立ては、探偵役のナイスガイを中心に、それぞれ役割を与えられた、薄すぎもせず濃すぎない個性的なキャラたちが気持ちよく物語を織り成す感じで、総体としてやはりスマートだ。

推理小説としては、最近はやりの形である。ゲームでもよくあるボスキャラ系はあまりにもよく目にするから食傷気味ではある。またネタは、理解はできるのだが、表現的になんか想像力がついていかなかった。

久住四季は34歳。この本が初めての単行本だとか。果たして、加藤盤はシリーズ化されるのか、今回のキャラたちはまた活躍するのか、ちょっと楽しみかな。

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