2015年2月1日日曜日

2015年1月書評の1




ガイ・アダムス
「シャーロック・ホームズ 神の息吹殺人事件」

クリスマスには、ホームズを。

だいたい年間の読書を12月23日の休日で締めるので、それ以降は翌年への算入となる。冬休みには、ホームズ。今回の年末年始も、再読を含め3冊くらい読んだ。まずはそちらからアップ。

社交界の名士、ヒラリー・ド・モンフォールの死体が、全身の骨が粉砕される、という異常な状態で見つかった。目撃者は、巨大な渦巻きから、彼が逃げ惑っているように見えたという。この直後、ホームズとワトスンは、心霊医師として名を馳せている、サイレンス博士の訪問を受け、悪魔に取り憑かれた娘が、ヒラリーともう一人、そしてホームズの名前を口走ったという話を聞く。

2014年10月に出たパロディである。心霊医師、幽霊狩人、魔術士が出てきて、盛り沢山の心霊現象が展開される。今回は壮大だが、ドイルが晩年心霊術を熱心に信奉したためか、パロディなりパスティーシュで心霊術、降霊術のネタのものはすでにある。

今回も不可能犯罪、「バスカヴィル家の犬」を彷彿とさせる、ホームズの離脱とワトスンの手紙、などのシチュエーションが出て来たりして、好きな人には楽しく読ませる。

そもそもパロディは細かい点には目を瞑って楽しく読まなきゃね、というものである。が・・事件と登場人物たちの言動が、出て来たときからどこかうさんくさいし、つまりホームズが全てを明かすところで面白みが半減するし、最後まで説明されないところが多過ぎる。収まりどころ、読後感も良くない。

訳も数カ所首をひねるところがあった。しかし、作者は、ドイルの物真似をせず、自分のホームズを描いた、とあとがきで述べているが、その意気は今回勝っていたと思う。

さあ次もホームズだ。^_^

島田荘司「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」

ホームズと夏目漱石の邂逅。コケティッシュに、推理小説としても、面白く。そして、ホームズにも、愛情深く。

1900年のロンドン。留学していた夏目金之助は夜ごと寝室の窓外でする不思議な声に悩まされ、ホームズに相談する。ホームズの元には、財産家の未亡人から、長年生き別れになっていた弟と一緒に住み始めたが様子がおかしい、という相談が持ち込まれていた。やがて、その弟は、ミイラと化した死体で見つかり、その喉には、日本の平仮名のような文字が書かれた紙切れが入っていた。

1984年の作品。日本推理小説界大御所の一人、島田荘司の、ホームズ・パロディ。かねてから、島田荘司は、例えば「まだらのひも」事件について、蛇は音には反応しない、とか、ヘビはミルクを飲まない、とか、他にも老婆に変装したホームズについて、男性としても身長の高いホームズがおばあさんに変装しても滑稽なだけだ、とかその稚拙さを批判していたかのように記憶している。

でもその批判は、辛辣なようでいて、私のような者の目からも、愛情深いものに見え高いものである。まあそんな作者の思いが込められた作品、といえようか。

物語の途中までは、漱石の1人称と、ワトスンの1人称の、両方で同じストーリーが進行する。ワトスンの方はいつものホームズ譚だが、漱石の方のホームズは、かなりおかしい。一般的なシャーロッキアンとしては、「ホームズなどコカインで頭がおかしくなった幻想家」という評価や、それをベースにした物語があることも知っているが、まあ今回は、微笑ましい部類だと思う。そしてこのような特殊な進行は面白み、楽しみ両方を増してくれる。

事件のタネそのものは、手をかけ過ぎているが、まあよく分かるし、それが後々の感動につながっている。漱石をめぐる背景も深みを与えるし、最後の一言は痛快だ。

ホームズのパスティーシュ、パロディは数は出るが、どうももうひとつだ、という意見はよく聞くし、私自身もそう思っている。これが、日本人作家が書くと、かゆいところに手が届く感じはする。今回は傑作だしうまくまとめていると思う。柳広司の「吾輩はシャーロック・ホームズである」とタイプの違う双璧だろう。

ルネ・レウヴァン
「シャーロック・ホームズの気晴らし」

年末はシャーロック・ホームズ。けっこう本格ヨーロッパ的で、読むのに時間かかった。

いわゆる「語られざる事件」、つまり原作であんな事件があった、こんな事件もあった、どだけワトスンが触れている事件を創作するパターンで、けっこう本格的なパスティーシュ集である。

今回は他のパスティーシュでも読んだことのある「アドルトンの悲劇」、「トスカ枢機卿の急死事件」、「煙草王ハーデンの脅迫事件」、「政治家と灯台と、訓練された鵜にまつわる話」、「スマトラの大ネズミ」事件、「有名なジャーナリストイザドラ・ペルサーノと奇妙な虫」事件の6編が入っている。

内容は、シェイクスピアほか文壇や、歴史的なユダヤ人差別の話が展開され、やや難解で複雑だ。後半の鵜と大ネズミと奇妙な虫の話は、前半とは別のパスティーシュの出典らしく、共通の黒幕がいる、という構成。「最後の挨拶」後にホームズとワトスンが再び出会い、振り返るという設定で、最終話は「バスカヴィル家の犬」の後日談という意味合いも含み、また別の語られざる事件の登場人物も出てきたり、シャーロッキアンには堪えられない、しかし複雑なストーリーとなっている。

作者はフランス人で、テレビドラマ「シャーロック」が流れたのに合わせ人気が再燃、多くのパスティーシュ、パロディが出てきているそうで、まだまだ続きが出そうなことが書いてある。

なんたって「語られざる事件」は100もあるそうで、私的には「シャーロック・ホームズのクロニクル」他ジューン・トムスンの一連のシリーズと、ディクスン・カーとドイルの子孫アドリアン・ドイルの共著「シャーロックホームズの功績」が双璧をなすが、最近は本格パスティーシュ集は出てなかった。先々が楽しみだ。も少し難解さを緩めてくれてもいいんだけど。まあ楽しみだ。

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