ついに4まで来ました。史上初。年初はいつも外書が多いけど、今年は通年読めれば、と思ったりしている。ではラスト!
エレナ・ポーター
「スウ姉さん」村岡花子訳
1920年、アメリカの女流作家の小説。ドタバタコメディの中に、深さがほの見える。
スザンナ・ギルモアはアメリカの裕福な家庭で「スウ姉さん」として、父親や妹弟に頼りにされている存在。ピアニスト志望で、小説家の恋人が居る。しかし、銀行総裁を務める父親の事業が破綻、父の脳は正常な機能を失う。一家は土地家屋や持ち物を売り払い、田舎の別荘で貧乏暮らしをすることになるが・・。
エレナ・ポーターという女流作家は、1913年に書いたコメディ調家族小説の「少女ポリアンナ」が大ヒット、ディズニーが実写化映画化し、日本でも多くの出版社が翻訳、アニメ化もされたという。この「スウ姉さん」は1920年の作品で、ポーターの遺作となった。私が読んだのは、村岡花子訳で、1965年初版発行の一冊。
昔、アメリカのホームドラマ小説で見たようなドタバタ喜劇を見ているようで、なるほど、逆にこのような風潮は、ポーターの著作からも来ているのかな、思ってしまう。スウ姉さんの気も変わりやすいし、弟妹その他の人々がとんだわがままなのも、喜劇的な風味をいや増している。
でもいろんな場面の移り変わりがあっていいところに落ち着くのも、教訓的で、また人生の変転を上手に表していて好感が持てる。渡鬼じゃないが、初歩的な感情で世の中成り立っているのかな、と思わせる作品だった。
星新一「クリスマスイブの出来事」
あまり読まなかったけど、星新一はけっこう面白いね。
ショート・ショート集「エヌ氏の遊園地」「妖精配給会社」「午後の恐竜」を底本としたと書いてあるが、ようはセレクションだということかな。
いくつかは、単純なだましもある。でも、発想と、流れと、オチの味はやっぱり上手だと思う。「欲望の城」「沈滞の時代」「ある戦い」あたりは大人っぽくて、面白かったかな。
息子が最近はまっているらしく、本屋で星新一買うー!と自分から言ってきた。ちょっと感慨深いものがあったりして。で、先に読ませて貰った。また彼が読んだ後再読しよう。では、今回書評もショート・ショートで。(笑)
高橋克彦「北斎殺人事件」
前作「写楽殺人事件」が面白かったのでこちらも購入。もちろん浮世絵ミステリーで、もの凄い力作だ。
「写楽殺人事件」で恩師2人と、同学の先輩国府を亡くした津田は、国府の妹冴子と結婚し、大学の研究職を辞して故郷の盛岡で日本史の教職に就いていた。そんな折、東京の有名画廊である執印画廊が、国府の遺稿にある「北斎隠密説」について調査し、出来れば新発見の肉筆画とともに本を出版しないか、と持ちかける。
1986年の作品。高橋克彦は、「写楽殺人事件」で江戸川乱歩賞を、この「北斎殺人事件」で日本推理作家協会賞を受賞している。
以前「写楽」でも触れたが、高橋克彦は浮世絵が大好きで、その好きさ加減がよく出ている。ミステリー・サスペンスドラマでありながらまるで学究の徒が、研究の成果を披露しているかの如き内容である。北斎の生涯や生活を、微に入り細を穿ち、当時の日本史に沿って解き明かしていっている。この「北斎隠密説」のアイディアを自分で思いついた、というのに感心した。
もちろん浮世絵の知識に関しても細かい部分まで散りばめられている。調査に出向いた長野・小布施の寺、岩松院の天井絵は是非見てみたくなった。
謎は少々複雑に過ぎる気はするが、どっぷりその世界に浸れる、魅力的、本格派な作品だと思う。次の「広重殺人事件」も読んでみようかな。
執印画廊の女社長・摩衣子と、藤原伊織「シリウスの道」に出てくる代理店の女性部長がミョーに似ているな、などと読後に思ってしまった。
北村薫「1950年のバックトス」
超短編集。23編のストーリーを集めたもの。なかなかバラエティに富んでいる。
ホラーっぽい話もけっこうあり、落語調のお話で、宮部みゆきの名前が出てくるものあり、重松清ばりのツンツンものあり、同じ話を視点を変えて見た連作あり。ページ数もたった3ページのものから最高でも表題作の27ページである。
最近星新一を読んだせいか、この短編集を読むと、「で、オチは?」とか「で、余韻は?」とか最初は思ってしまう。いろんな形で、おふざけも交えながら、北村薫の味を楽しむ作品かと思う。
解説で桜庭一樹氏はナンバーワンを「眼」としている。うーん、一つ挙げろと言われたら、表題作「1950年のバックトス」かな、やっぱり。ストレートだが、いいスパイスが効いている。正しくは「グラブトス」のような気もするが。「包丁」「真夜中のダッフルコート」「洒落小町」「百合子姫・怪奇毒吐き女」「石段・大きな木の下で」も心に残った。
最終話は、「月の砂漠をさばさばと」「ひとがた流し」に出演する牧子と娘、猫のギンジローらの後日談。北村氏はこの2人が好きなんだなあ、と思う。「ひとがた流し」も独特のテイストを持った哀しい女子人生ものだったので、なかなか滲みた。
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