2015年2月1日日曜日

1月書評の3




少年少女、動物ものとバラエティある読み方だった。では、どうぞ!

森絵都「カラフル」

読後スッキリするファンタジー。中学生もの。高校生に最も読まれている小説!という書店のキャッチにつられて買ってしまった。

罪を犯して死んだという「ぼく」の魂は、見ず知らずの中学生3年生、小林真という少年の身体を借りて「再修行」することをプラプラという名の天使から命じられる。気がつくと、自殺を図った真が瀕死の状態から生き返ったところだった。

1998年単行本発行の作品と、読んでる途中に気がついてちょっとびっくり。あまり流行り廃りうんぬんの事柄には触れられていないが、社会問題は取り込んでいる。

少年と家族、学校、進学、女の子。それなりに山や谷はあるストーリーだが、あまり難なく、すらすら読める。オチも、期待通りで安心、という本。

森絵都は、直木賞を受賞した「風に舞い上がるビニールシート」を読んだが、正直その際、あまり強い印象は無かった。元々が児童文学の作家さんで、あまり次の作品には手が伸びなかったが、この作品を読んで、次も読もうという気になってきた。

ちょっと前に話題になった、川村元気「世界から猫が消えたなら」に似てるなあ、と思いながら読み終えた。

ジャック・ロンドン「野性の呼び声」

久々に読んだ、動物もの。アラスカも好きだし、浸ってしまった。

カリフォルニアの裕福な家庭で飼われていた大型の雑種犬、バックは、悪い使用人に盗み出され、そり犬として売られる。ゴールドラッシュ期のアラスカで「棍棒と牙の掟」に否応もなくさらされたバックは、過酷なアラスカの原野で重労働をする内に、リーダー犬として頭角を顕わしていく。

犬の間の、苛烈な争い、アラスカでの、様々な危険との戦い、そしてそり犬としての誇り、人間への愛情、野性の本能・・。1903年に書かれたこの作品は、多くの魅力を持つ名作だ。

解説にもあるが、バックが主人として使える、最初の家も含めれば5組の人間模様も描いていて、それぞれがドラマの構成要素を成している。

私はアラスカ在住の写真家、故星野道夫の著作が大好きで、一時期貪り読んだ。手付かずの原野や自然、生物、植生、そして人間にはロマンがあった。しかし、あくまで感覚だが、欧米人の大自然への強い憧憬や、アメリカ人がフロンティア、という言葉に抱く感情にはまた違ったものがあるように思える。それが、この小説が成功したベースとしてあるのだろう。

正直、ちとロマンチック過ぎるな、創作だし、という思いもちらとよぎった。しかし、この作品が持つ迫力と、野性、というものを描ききっている部分の吸引力は、素晴らしく強い。

webで知り合った方は、ユーコン川を単独で下ったという。憧れるけど私には出来ないな。

江戸川乱歩「幽霊塔」

ルパン三世「カリオストロの城」に出てくる時計塔のモデルとなったのが、この幽霊塔だという。興味が湧いていたところ、本屋でたまたま目に入り、読んでみた。

北川光雄は、叔父が手に入れた、長崎の時計塔のある洋館を検分に来たところ、塔の中に居た謎めいた美女、野末秋子と出会い心を奪われる。この館は、以前凄惨な殺人事件が起きた場所だった。

この小説は、明治の頃に活躍した黒岩涙香という作家が外国小説を翻案し、少年の頃その面白さに打たれた乱歩が、さらに手を加えて出版した、1937年発表の作品である。

乱歩らしく、おどろおどろしい雰囲気を出しながら、秋子の正体をめぐり様々な登場人物が暗躍する。連載らしく、ところどころ章立てのようになっている。

乱歩は、かなり読者を意識して書いてるから、サービス精神が旺盛である。また、私は常々小説には挿絵が欲しい、と思っているのだが、この小説にはふんだんに挿絵が使ってあり、なかなか楽しめた。推理小説としては、割り切れなさがかなり残るものの、冒険活劇としてはとても面白い。

私は子供の頃、怪人二十面相ものの大ファンで、大人になってからは、「孤島の鬼」「白髪鬼」などを読んだが、有名な作品はまだ未読なので、今後もおいおい読んでいきたい。

桜庭一樹「少女には向かない職業」

「女には向かない職業」を読んで、どうしても読んでみたくなり、即買い即読み。タイトル以外まるで関係がないことがよく分かった。(笑)でもこちらはこちらで面白かった。

山口県下関市から近い島に住む大西葵は中学2年生。学校ではお調子者キャラだが、家に帰ると、継父はアル中で時に暴力を振るい、母は自分の境遇を嘆き時に葵をなじる。夏休み、葵は同じクラスだが話したことが無かった不思議な少女、宮乃下静香と外で出会い、やがて仲良くなる。

桜庭一樹の作品は、「私の男」、「荒野」「赤朽葉家の伝説」「伏 贋作・里見八犬伝」「赤×ピンク」と読んでいるが、どうやら中学生くらいの女の子の心理描写が上手いようだ。このへんがベースか、と今回は得心した。

特徴としては、読みやすい、名前が変、お茶目な部分が多い、読みやすいが、展開が一筋縄では行かない、などなどがあるが、この作品は、島という環境、家庭環境、ゲーム、マクドナルド、女同志の付き合い、異性への想い、夏、冬、情景、殺人、ゴロスリなどなど様々な要素が満載である。

なんでそうなるの的な展開があったり、13才の1人称にしては言葉には難しいものがあったりするが、この物語は、少女の心象を細かく、また手数が多く、ときに破滅的な表現を用い、オタク的な雰囲気さえ漂わせながら、描いた、文芸的な香りもする、良きエンタテインメント作品だと思う。そして、桜庭一樹の持つ、独自の味をがよく出ていると思う。

劇中や解説に興味深い数冊の本も出てきて、探す気になった。また氏が注目を引いたという作品、「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」も読みたくなってきた。

馳星周「美ら海、血の海」

これが初めての馳星周。迫力がありこれまた一気読みでした。

昭和20年の夏・沖縄。少年で組織される「鉄血勤皇隊」にいた14才の真栄原幸甚は、一緒にいる部隊が南方に転進する際、南部出身として道案内を命じられる。2学年上の金城一郎とともに先遣隊として出発するが、グラマンの機銃掃射により、先遣隊の殆どが戦死する。

このあと幸甚は、金城と行動を共にして、南方まで、なんとか食糧を調達しながら進むが、米軍はすでに沖縄を陥落させていて、あまりに多くの人の死を見ながら、次々と凄まじい困難に直面し、生き抜こうとする。

すぐに殴ったり、横暴で沖縄人を馬鹿にしている兵隊の現実、自分達を守ってくれるはずの日本軍に対する理不尽さ、のっぴきならない状況での行動、などなどか描かれている。

ストーリーは、ずっと悲惨である。食うものにも困るし、米軍の攻撃に息もつかせぬ展開と次へ次へと読み進む。いくつか見た、沖縄戦のドラマ、映画を辿り直しているような感じだ。沖縄の叫び、というものは確かに有るのだろう。

解説にも書いてあるが、戦争ものを読むたび、思ってしまうのは、人々は熱狂しやすい、ということ、現代人の目だけで見ない方がいい、ということだ。

「ウルトラマンを創った男」というルポルタージュで、主人公の脚本家は、沖縄戦を逃げ惑った時に、救ってくれるヒーローがもし居たら、と思ったかも知れない、というニュアンスの文章が確かあった。次元が違うが、この悲惨で、立ち向かえないほどの相手に絶望する気分を読んでいると、その文章を思い出した。
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