2月は、9作品9冊。月が短いわりに、ちょいちょい読めない日があったわりに、まずまず読めた、かな?
ピエール・ルメートル「その女アレックス」
日本国内4冠、非常に売れているらしいフランスのサスペンス・ミステリー。手法が面白く、ふむふむと読んだ。
30才の准看護師、アレックスは、ある夜突然暴力的に拉致され、監禁される。目撃者が警察に通報し、離婚数の多いル・グエン部長のもと、妻を殺害され休職から復帰して間もない班長カミーユ、貴公子ルイ、極度の倹約家アルマンといった刑事たちは捜査を始めるが・・。
このミステリーがすごい!2015海外部門第1位、週刊文春ミステリーベスト10 海外部門第1位ほか様々な賞を獲得している作品。
訳者あとがきによれば、ルメートルは55才でデビューした、遅咲きのフランスの作家さんで、著作はまだ多くはないが出す本が多くの賞を受賞しているとのこと。その作風は意外性に溢れているらしい。
今回も、第一部で発生、第二部で1つめの驚き、第二部でも驚くと同時に、事件の真相が明らかになる仕掛けになっている。物語を面白く進める手法として論理的であり、説得力がある。
さらに物語にどんどん深みが加わっていった後、小気味良さ溢れるオチとなる。なるほど、良き作品かなと思う。
細部を見れば納得しかねるところも有り、読み込みが足りないかもとも思うが、この構成の見事さ、アレックス側、刑事側両面の作り込みの上手さは確かに賞賛に値するのだろう。
ただ、私は今回のネタも異常性のある事件も、あまり好きではない。「ミレニアム」もそうだったが、売れるサスペンスものの流行には、もひとつ、着いていけない部分があるな。
伊坂幸太郎「PK」
頭を使って中編3つの繋がりを考える作品。うーん、脱落した(笑)。
ワールドカップアジア最終予選のイラク戦。勝たなければ敗退のアディショナルタイム、おそらくは最後のアタック。日本のエース小津は、ドリブルでキーパーまで抜き、倒され、PKを得る。厳しい表情をしていた小津は、チームメイト宇野が何かをささやいた後、急にリラックスしてPKを決める。
上のあらすじだけではない、様々なシチュエーションが描かれ、そこが結果的に微妙に繋がる、時間ものSFとても言うべき作品だ。
映画的な要素や、あちこちに「味」も散りばめられているのだけれど、寓話的で、感想は少ない。逆にシチュエーションにこだわり過ぎている気もする。もひとつ、だったかな。
綿矢りさ「ひらいて」
お初の綿矢りさ。暴走気味パワフルで、その熱気に当てられて読み入った。
高校3年生で、クラスでも目立つ方の愛は同じクラスの地味な男子、たとえに強い恋心を抱いている。彼には別の彼女がいる事が分かり、愛の行動は暴走し始める。
綿矢りさと言えば、やはり19歳で芥川賞を取り注目されたことが頭に浮かぶ。もう30歳を超えたが、友人が褒めていた事を思い出し、新刊文庫を買ってみた。
最初の方は、あまりにも表現が自由で弾けていて、展開の暴走程度にも、頭を使いすぎ、狙いすぎているんじゃないか、と訝しんだが、物語の最後の3分の1くらいは、惹きつけられて一気に読んだ。
あまりに映画的な展開で、前半の、環境や愛の説明、中盤の、過激で感情的なその行動は、作為的に思わせる。が、どう結論を付けるか、という終盤に、突如スピードアップし、前半と中盤の言わば普通の話が活きてくる感触を味わわせられる。説明されない部分も上手に使い、読了後に熱を感じさせる出来だった。
褒めていた友人によれば、ハルキに通ずる部分があるそうだ。私には今のところそうは思えないけどね。くすぐったい部分もあるが、もういくつか、読んでみようかな。
万城目学「ホルモー六景」
「鴨川ホルモー」のスピンオフ作品。出て来た人、そうでなかった関係者の恋愛譚。意外に面白かった。
まあその、凡ちゃんと安倍との恋は気になってたし、そのへんの健全な展開が本編にはなかったのだが、正直、なんだ、恋物語か、と思って読みだした。
でも、「もっちゃん」「長持の恋」はなかなかで、単体でも充分良かった。「もっちゃん」は決めの場面が出てきて、最後は好みのオチもついて、なにやら「葉桜の季節に誰かを愛するということ」を思い出した。
関西に住んでもうすぐ20年だが、京都巡りはまったくというほどしていない。歴史的にも、大いに魅力的な街。いつか、堪能してやろう。
ディック・フランシス「興奮」
競馬ミステリーの名手、ディック・フランシス。いつかと思いつつ今回がお初。
オーストラリヤの若き牧場主、ダニエル・ロークは、スカウトされて英国競馬界にはびこる不正の証拠を掴むべく、信用ならないチンピラ厩務員に身をやつして粘り強い調査を敢行する。
不正のトリックもそうだが、やはりハイソな生活も知っている、頭が切れて男前のダニエルが、下層の厩務員の扱いを耐え抜く部分がひとつの見どころだろう。美女も出てくるし、脱出願望も織り交ぜた、いいまとまりの、ハードボイルド・エンタテインメント・サスペンスだ。
もと有名騎手のディック・フランシスが1965年にものした、3作目の競馬ミステリーで、日本には1976年に翻訳出版されている。その世界の人でならではの描写の具体性も楽しめる。
そもそも「サウスポー・キラー」というこのミス大賞作品を読んだ時、同じ1人称のハードボイルド・ミステリーということで紹介されていたのが、読もうと思ったきっかけだったが、まずまず面白かった。
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