昨年末のものも含めて、1月は16作品16冊。
よく読んだ。やっぱ1月は調子がいい。では行ってみましょう!
万城目学「鹿男あをによし」
壮快なファンタジー。読後感が良い。
ドラマ化もされた、直木賞候補作。奈良という土地の雄大さ、歴史深さを表す描写にも気を配っており、不思議おかしい出来になっている。間に剣道の、迫真の試合場面も含み、また夏目漱石「坊っちゃん」風味もありマドンナも出てくるから楽しみどころが多い。
大学研究室での争いに敗れ、関東から奈良の女子校へ、常勤講師として行くことになった「おれ」。赴任早々、遅刻してきた堀田イトという生徒に「マイ鹿に乗ってきたら駐禁を取られました。」と、とんでもない言い訳をされ、イライラして神経を遣い、周囲に心配される。そんなある日「おれ」は、人語を喋る鹿に話しかけられ「お前は鹿の使い番となった。人間界ではサンカクなんとかと言う『目』を持ってこい」と訳の分からない命令をされる。
登場人物にもなかなか工夫が凝らしてあり、好感が持てる作品。個人的には黒塚古墳の上から眺める奈良市街の夕暮れの描写が良く、見に行きたくなった。
直木賞候補作ということで、審査員各氏のご意見も読んでみたが、みな一様に才気は認めているものの、もひとつもふたつな評価だった。まあその、これは良く出来た娯楽作品であって、文学性をうんぬんするものではないかも、ですな。鹿との会話の内容は一考の余地があったかも、とは思った。
ドラマは玉木宏・綾瀬はるか・多部未華子。ちょっと観てみたくなったな。
三上延
「ビブリア古書堂の事件手帖6~栞子さんと巡るさだめ~」
人気シリーズ。この巻では、太宰治にどっぷり浸れる。
去年の1月に読んだから、1年ぶりの新刊。力作である。焦点となるのは太宰治「走れメロス」「晩年」「駈込み訴へ」。古書、文学という世界はここまでミステリーに適しているのか、と改めて思わされる。絵画ミステリーなら色々あるけれど、古書とは値段のレベルが違う。しかし、金額が低いから、熱心な信奉者も多い、という見方もできる。
北鎌倉の古書店、ビブリア古書堂。店主の篠川栞子と店員の五浦大輔のもとには、古書・稀覯本についての難題が持ち込まれ、栞子の知識と鋭敏な頭脳がそれらを解き明かす。以前太宰治の稀覯本を奪おうとして栞子を階段から突き落とし逮捕された田中敏雄が、かつて自分の祖父が持っていた、太宰治「晩年」の初版本を探して欲しい、と接触してくる。太宰本人の、珍しい書き込みがあるらしいのだが・・。危険な相手からの依頼だったが、元の持ち主に警告を発する目的で、栞子と大輔は依頼を受けることにする。
最初から書いちゃった。さて、今回は三世代に渡る古書ミステリーで、太宰治本人の逸話が縦横に展開される。また、若き研究者たちの情熱も垣間見え、その熱さが、熱狂につながるベースとして作用している。踏み込み方には神経が割かれていて、熱が伝わって来るかのようだ。
難を言えば、三世代の物語で、登場人物があまりにも多いために、人間関係が分からなくなるところだ。また、久しぶりの新刊で、覚えていないことも多い。「進撃の巨人」も新刊が出る頃には筋を忘れてしまってるが、似たような感覚である。「みおつくし料理帖」もシリーズだったが、さりげなく丁寧な振り返りが付いているのであまり違和感はなかった。さらには、最初に話を受けた動機が弱いな、と思うし、途中もハテナがある。
なかなかオープンになりにくいテーマでもあるし、いい大人の三世代、はなかなか想像しづらい。また、時間的に遠く離れたことに解決が図られるので現実感に欠けるきらいもあるだろう。物語として動機を見つけにくいネタかも知れない。しかし、今回なにか伝わるものがあるのも確か。どこかワクワクさせられた一巻だった。
パウロ・コエーリョ
「アルケミスト 夢を旅した少年」
世界的作家の、名作と呼ばれる一冊。ふーむと集中して読んだ。アルケミストとは、錬金術師のことである。
スペイン・アンダルシア地方の羊飼いの少年、サンチャゴは、ピラミッドに宝物がある、という夢を見る。そして街中でセイラムの王様と名乗る老人に諭され、エジプトへ旅することを決心する。
ブラジルでベストセラーとなり、世界で愛読されているという作品。児童文学のようでありながら、会話が哲学的で深く、じっくりと読ませる作品。
そもそも、鉛などから金を作る術、というのが狭義の意味で、賢者の石を用いたりするようだ。ヨーロッパで考えられたものがイスラム世界に輸入され、さらにヨーロッパに逆輸入されたのだとか。錬金術は名だたる論理家やアイザック・ニュートンも研究したらしい。宗教色、神秘思想の様相を強く帯び、研究の過程では多くの化学薬品が生み出されるなど科学史にも貢献しているようだが、日本人にはもうひとつ分かりにくいものがある。
セイラムの王様と少年ほか、重要人物との哲学的な会話が多く出てきて、考えさせられる。物語の成り行きも面白く、錬金術の過程と哲学的要素、さらに北アフリカの砂漠を舞台にした、宗教色を含む劇的な展開が人気の理由なのかな、とも思う。知的好奇心も刺激された一冊だった。
乾ルカ「夏光」
「なつひかり」と読む。ホラー&ファンタジー、たまにグロ。
第二次大戦時、哲彦は大阪から地方の漁村に1人で疎開してきて、学校でもいじめられている。彼の友達は、顔に黒いあざのある喬史で、喬史もまた、母親が不吉な動物スナメリを食べたから、祟られたのだといじめられていた。喬史の目には、時折不思議な青い光が宿ることがあった。
表題作を合わせ6編が収められている短編集である。乾ルカは、「夏光」がオール讀物新人賞を受賞してデビュー。そして、同様の短編集「あの日にかえりたい」が直木賞候補にノミネートされた。
全編にわたり、夏の強い光がテーマとしてある。「夏光」は仕掛けと、季節と舞台、そして意外な結末すべてがテーマを反映してスパッと終わるため、衝撃と感嘆が同時に来る作品。
他はおおむね少年少女が主要な登場人物として出てくる。ホラーを主流としながら話を演出して、まとめていく巧みさが目立つ。設定とストーリー展開、テーマへのアプローチがうまく噛み合っている。中盤の「は」はひとつ異質な物語で、オチは途中から分かっているのだが、怖いもの聞きたさでおばあちゃんにお話をねだるように、「早く話して〜」となってしまう。
直木賞候補作の「あの日にかえりたい」も、テーマへのアプローチという点では一貫したものがあった。選考委員の評価は、おおむね深い掘り下げが感じられない、ということで今ひとつだったが宮城谷昌光氏は「才能は尋常ではない」とコメントしている。
ホラーは趣味だし、グロは私は出来るだけ遠慮願いたいし、あまりうまくまとまり過ぎているのも、ちょっと鼻についたりするし、直木賞選考委員の先生方を言うことも、その通りかと思う。短編に深みを、というのも無理っぽく思えるが、上手さが目立つために余計そう思わせてしまう特徴を持つ、という事かもしれない。
でも、乾ルカの、特に初期作品には、どこか惹かれるものが確かにある。ファンタジーは、いわば全てを可能にする。のびのびやっていい。しかし、ただそこだけに拠らない事は必要かなと個人的には思う。いつか誰しもに評価される作品を生んで欲しいと、期待している。
P•D•ジェイムズ「女には向かない職業」
なんてったって、タイトルが洒落てるよね。
イギリスもの。サスペンス・ミステリーの定番のひとつ。
22才のコーデリア・グレイは、英国警察出身である、探偵事務所の共同経営者が自殺し、依頼を独りで受けることに。ケンブリッジ大学の高名な微生物学者、ロナルド・カレンダーに呼ばれ、彼の息子のマーク・カレンダーが自殺した理由の調査を命じられる。
読もうと思ったきっかけは、友人から、桜庭一樹の「少女には向かない職業」が面白かった、と聞いたから。調べてないが、この作品からヒントを得、オマージュとなっていることが想像できる。いずれ読もうと思う。
こうした定番を意識したであろう作品が最近目につく。ロアルド・ダール「あなたに似た人」→伊坂幸太郎「わたしに似た人」、アガサ・クリスティ「検察側の証人」→雫井脩介「検察側の罪人」などなど。
さて、海外のものらしく、また大学の街ケンブリッジが舞台となっているので多少の理屈はあるが、「女には向かない」部分が強調され過ぎているわけでもなく、快適なサスペンス・ミステリーとして読める。少しづつ手掛かりが明らかになっていき、一気に展開するスリルはなかなかだ。見えない相手に、感情を抑えて独りで戦うコーデリアに肩入れし、また、ケンブリッジの街や自然もさり気なく描写されている。
エピソード的な、最後の数十ページのうまい味付けが面白かった。冷静で論理的で、取り乱すことが少ないのはこの作品の美徳だと思う。
実は、若き頃、途中で挫折した作品の一つ。欧米ものによくある、無機的で表現の長い文章に今回も最初はなかなか進まなかったが、当時もう少しだけ読み進んでいれば眠れなくなったのに、と苦笑してしまった。
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