2015年2月28日土曜日

2月書評の2




高知に3回行った2月。太平洋に面した高知、水平線が見えて、朝晩の寒暖差が激しくて、日差しが強くて、灼けた。楽しかった。

太宰治「晩年」

「ビブリア」の栞子さんに勧められて読んだ。理解には、ちょっと時間がかかるかも。

多くの研究者、文学愛好の士の注目に、いまだに浴している、太宰治の初めての作品集。最初期作品「列車」や芥川賞候補となった「逆行」そしてカフェの女給と心中、女が死に自分は助かったという体験を描いた「道化の華」などが収録されている。

これ自体が歴史に残る芸術かも、とか意気込んだりしたが、あまり馴染めなかった。思うに、もう少し太宰作品を読んでから触れた方が良かったかも知れない。

初めから、主語と場面が入れ替わり立ち替わりしたり、小説家としての自分、というのが頻繁に登場したりするので、もうひとつ乗り切れない。やっぱきれいごとじゃなくてそこまで考えるよなあ、という人間くさい心象の表現、太宰特有のだらしなさ、物語性と言葉の創造性の、意外な巧みさなどは感じたが、うーん、と言ったところか。よくもまあデビュー作品集でこんな思い切ったことが出来たもんだ、という感慨もある。

一つ上げろ、と言われたら「ロマネスク」かな。「ビブリア」では、この作品の稀覯本を巡り傷害事件も起きているし、文学青年が熱く研究する描写もある。そこまではさすがに分からない。まだまだ、太宰を理解するには読み込みが必要なのかな。

井箟重慶
「プロ野球もうひとつの攻防
『選手vsフロント』の現場」

以前から読みたかった一冊。独特のアプローチにふむふむ。

オリックスの球団代表を長く務めた井箟氏。現コスモ石油のアメリカ現地法人副社長から、球団の公募でプロ野球のフロント幹部へ転職した。

1989年から2001年、激動もあった。野茂の指名、その野茂の渡米、イチローの大ブレイク、長谷川、田口の渡米、ポスティングシステムの確立等々。それらを乗り切ってきた経験は読んでいて面白い。
 
オリックスは元気な球団、というイメージで、当時次々と面白い集客のイベント企画をやっていた覚えがある。氏は独特のアプローチで、推進力のある印象だった。

他にも契約更改、外国人選手の獲得、ドラフトの現場、舞台裏など踏み込んだ部分もあって興味深い。氏はアイディアマンで、いずれも実現はしなかったが、パ・リーグの開幕戦をアメリカでやろうとしたり、ファーム独立採算を目論んで、本拠地を鹿児島へ置こうとした行動力も素晴らしい。

新書は薄く、せっかくの面白いテーマなのに、ちょっと消化不良だったか。また、これも必要なのだろうが、氏の考えにはちょっとドライな印象も受ける。

自由枠などといった実質逆指名によるドラフト会議の形骸化の元はやはり巨人だったこと、セ・リーグへの対抗意識も書かれている。プロ球界のこの15年の動きは激しかったけれども、実質進歩しているかというとどうだろうか、という気にもさせられる。

個人的には、西宮を出て行くのではなく、なんとかスタジアムの推進力を使った西宮北口駅付近の再開発をして欲しかったが、まあムリか(笑)。また、阪急時代は、「強くても、客が入らない」と言われたものだったが、氏が、強ければ客は入る、との結論に達しているのも面白かった。

福田俊司「シベリア動物誌」

私的には、北方の自然は、ロマンだね。行ってみたいけど、さすがに無理だな。(笑)

ロシア北東部、というと漠然としているが、山形県の向かい、大陸側の自然保護地区でのシベリアトラ、千島列島とサハリンでの海獣、カムチャツカのヒグマ、大陸の北方海沿いのヤクートの鳥、そして北の果ての島、ヴランゲリ島でのホッキョクグマを、ふんだんな写真入りで紹介している。

カメラマンの著者が描く動物や渡り鳥の生態は面白く、さらにそこここに挟まれる、千島やカムチャツカの風景が素晴らしい。火山地帯、というのは、地形に独特の彩りがあるものだ。やっぱ火山の多い九州育ちだからかな。なんというか、理屈じゃなくて、心のボトムに響く感覚である。最後の、ヴランゲリ島のあるチュコト海になると、北の果て、最果て感が十分に出ているな。

もともと北への憧れはあり、かつてアラスカ在住の写真家、故星野道夫氏の著作にはかなり影響され、またロシアの探検家の体験記で、黒澤映画にもなった「デルース・ウザーラ」や新田次郎「アラスカ物語」など関連書籍も読んだ。その延長線上で買った一冊で15年ぶりの再読。諸外国では沿海州や北極圏も含めてシベリア、というが、ロシアでは実は内陸のバイカル湖までをシベリアというんだとか。ちょっとびっくりした。

まあ高知での滞在中は本読めないから、写真が多いのを、という考え方だったが、楽しめた。「デルース・ウザーラ」も再読しようかな。

西加奈子「白いしるし」

西加奈子はやっぱり、西加奈子だな、と読了後すぐに思った。けっこう好きな部類に入る、恋愛小説。

売れない画家、32才の夏目香織は、友人に連れて行ってもらった展覧会で白い富士山の絵に衝撃を受ける。その作品を描いた間島昭史に惹かれる自分を止められなかった。

西加奈子はやっぱり、というのは、例えば、全然違う絵を描いても、根底にあるタッチは変わらない、という意味だ。気取って言えばね。

主人公なり他の登場人物が、暴走気味の行動をすることがそのひとつ。また、目に見えない、独特の感性によるエピソードの構成も特徴。評判になったという「さくら」にはこの両方が顕著で、あまり好きにはなれなかった。

かつて中島みゆきは、1回の失恋で50曲は書ける、と豪語したが、女子が恋愛小説を書くと、その表現の多さ多彩さに驚く。安達千夏の傑作「モルヒネ」もそうだった。とにかく表現の嵐。この「白いしるし」にも同様のテイストが見える。

ただ、設定が単純なようでそうではなく、発想に、やられた、と思ったし、恋愛的に響く表現もあった。こうしたものが、女子の共感を呼ぶのかな。またちょっと男を美化しすぎている部分があるな、とも思ったが、それも興味深かった。

全体的に、面白かった。なかなか一歩踏み込んだ表現の世界がよく、また飽きさせない。らしくないところと言えば、今回笑いがほとんど無いところかな。

2月書評




2月は、9作品9冊。月が短いわりに、ちょいちょい読めない日があったわりに、まずまず読めた、かな?

 ピエール・ルメートル「その女アレックス」

日本国内4冠、非常に売れているらしいフランスのサスペンス・ミステリー。手法が面白く、ふむふむと読んだ。

30才の准看護師、アレックスは、ある夜突然暴力的に拉致され、監禁される。目撃者が警察に通報し、離婚数の多いル・グエン部長のもと、妻を殺害され休職から復帰して間もない班長カミーユ、貴公子ルイ、極度の倹約家アルマンといった刑事たちは捜査を始めるが・・。

このミステリーがすごい!2015海外部門第1位、週刊文春ミステリーベスト10 海外部門第1位ほか様々な賞を獲得している作品。

訳者あとがきによれば、ルメートルは55才でデビューした、遅咲きのフランスの作家さんで、著作はまだ多くはないが出す本が多くの賞を受賞しているとのこと。その作風は意外性に溢れているらしい。

今回も、第一部で発生、第二部で1つめの驚き、第二部でも驚くと同時に、事件の真相が明らかになる仕掛けになっている。物語を面白く進める手法として論理的であり、説得力がある。

さらに物語にどんどん深みが加わっていった後、小気味良さ溢れるオチとなる。なるほど、良き作品かなと思う。

細部を見れば納得しかねるところも有り、読み込みが足りないかもとも思うが、この構成の見事さ、アレックス側、刑事側両面の作り込みの上手さは確かに賞賛に値するのだろう。

ただ、私は今回のネタも異常性のある事件も、あまり好きではない。「ミレニアム」もそうだったが、売れるサスペンスものの流行には、もひとつ、着いていけない部分があるな。

伊坂幸太郎「PK」

頭を使って中編3つの繋がりを考える作品。うーん、脱落した(笑)。

ワールドカップアジア最終予選のイラク戦。勝たなければ敗退のアディショナルタイム、おそらくは最後のアタック。日本のエース小津は、ドリブルでキーパーまで抜き、倒され、PKを得る。厳しい表情をしていた小津は、チームメイト宇野が何かをささやいた後、急にリラックスしてPKを決める。

上のあらすじだけではない、様々なシチュエーションが描かれ、そこが結果的に微妙に繋がる、時間ものSFとても言うべき作品だ。

映画的な要素や、あちこちに「味」も散りばめられているのだけれど、寓話的で、感想は少ない。逆にシチュエーションにこだわり過ぎている気もする。もひとつ、だったかな。

綿矢りさ「ひらいて」

お初の綿矢りさ。暴走気味パワフルで、その熱気に当てられて読み入った。

高校3年生で、クラスでも目立つ方の愛は同じクラスの地味な男子、たとえに強い恋心を抱いている。彼には別の彼女がいる事が分かり、愛の行動は暴走し始める。

綿矢りさと言えば、やはり19歳で芥川賞を取り注目されたことが頭に浮かぶ。もう30歳を超えたが、友人が褒めていた事を思い出し、新刊文庫を買ってみた。

最初の方は、あまりにも表現が自由で弾けていて、展開の暴走程度にも、頭を使いすぎ、狙いすぎているんじゃないか、と訝しんだが、物語の最後の3分の1くらいは、惹きつけられて一気に読んだ。

あまりに映画的な展開で、前半の、環境や愛の説明、中盤の、過激で感情的なその行動は、作為的に思わせる。が、どう結論を付けるか、という終盤に、突如スピードアップし、前半と中盤の言わば普通の話が活きてくる感触を味わわせられる。説明されない部分も上手に使い、読了後に熱を感じさせる出来だった。

褒めていた友人によれば、ハルキに通ずる部分があるそうだ。私には今のところそうは思えないけどね。くすぐったい部分もあるが、もういくつか、読んでみようかな。

万城目学「ホルモー六景」

「鴨川ホルモー」のスピンオフ作品。出て来た人、そうでなかった関係者の恋愛譚。意外に面白かった。

まあその、凡ちゃんと安倍との恋は気になってたし、そのへんの健全な展開が本編にはなかったのだが、正直、なんだ、恋物語か、と思って読みだした。

でも、「もっちゃん」「長持の恋」はなかなかで、単体でも充分良かった。「もっちゃん」は決めの場面が出てきて、最後は好みのオチもついて、なにやら「葉桜の季節に誰かを愛するということ」を思い出した。

関西に住んでもうすぐ20年だが、京都巡りはまったくというほどしていない。歴史的にも、大いに魅力的な街。いつか、堪能してやろう。

ディック・フランシス「興奮」

競馬ミステリーの名手、ディック・フランシス。いつかと思いつつ今回がお初。

オーストラリヤの若き牧場主、ダニエル・ロークは、スカウトされて英国競馬界にはびこる不正の証拠を掴むべく、信用ならないチンピラ厩務員に身をやつして粘り強い調査を敢行する。

不正のトリックもそうだが、やはりハイソな生活も知っている、頭が切れて男前のダニエルが、下層の厩務員の扱いを耐え抜く部分がひとつの見どころだろう。美女も出てくるし、脱出願望も織り交ぜた、いいまとまりの、ハードボイルド・エンタテインメント・サスペンスだ。

もと有名騎手のディック・フランシスが1965年にものした、3作目の競馬ミステリーで、日本には1976年に翻訳出版されている。その世界の人でならではの描写の具体性も楽しめる。

そもそも「サウスポー・キラー」というこのミス大賞作品を読んだ時、同じ1人称のハードボイルド・ミステリーということで紹介されていたのが、読もうと思ったきっかけだったが、まずまず面白かった。

2015年2月23日月曜日

土佐の高知の塩たたき




先日鼻歌特集をやっちゃったら、やたらと渡辺美里、原田知世が聴きたくなり、YouTubeを漁ってしまった。(笑)

渡辺美里は「10years」という曲が好き、「My Revorution」「Teenage Walk」が好き。それだけじゃないんだけどね。泣けるね〜。

原田知世は、「時をかける少女」「愛情物語」「天国にいちばん近い島」。「守ってあげたい」「ダンデライオン」といったユーミンのカバーもいい。ファーストアルバムに入っていたいくつかの曲は聴きたいんだけど、もはやないようだ。「地下鉄のザジ」とかいいんだけどね。でもすごく良かった。

今月2度目の高知出張で鳥を撮影。ジョウビタキか?ネットで図鑑を引いてみれども判断つかず。詳しい人に聞いたら正解。高知は自然豊かな所なので、これ以外にもたくさん野鳥がいて、鳴き声にも耳が行くようになった。この時は晴れて暖かだったが、日曜日は春の嵐の中外仕事。一時飛行機飛ばないか?と心配したほどの雨風。帰りの空港になぜかSPがいっぱいいた。

今回の出張中には本が読めなかった。明日からは復帰しよう。週末には、今月3度目の高知である。思い残しのないよう食べるぜよ。(笑)
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2015年2月16日月曜日

お気楽なネタ




鼻歌ってみなさんありますでしょうか。そう、無意識に口ずさんでしまう、心の中で歌ってしまうあれです。ちょっと記録してみようという、お気楽かつヒマなアイディアが浮かんだのでやってみます。

2/9(月)シンディ・ローパー「She-Bop」

なぜか朝から口をついて出た。あの低音の特徴的なメロディ。高校生の時に買ったCDでよく聴いた。「ハイスクールはダンステリア」懐かしい。

2/10(火)オフコース「さよなら」

懐メロシリーズか。(笑)これは小学6年くらい。後にフォークギターで、途中の印象的なフレーズを練習、間奏の、鈴木康博のエレキギターの部分はめっちゃ練習したなあ。何かを訴えかけるようなメロディラインには影響された。

2/11(水祝)渡辺美里「センチメンタル・カンガルー」

大学生の時のヒットアルバム「misato-ribbon」の1曲目。コンサートに行って、翌日最初に会った友人に話したら、俺も行ってた、ほら、と彼はカバンのすき間に入っていた紙吹雪を散らせて見せた。きょう散髪して、犬の散歩行ってる時、気がついたらイントロが心の中で鳴ってた。。午後息子と出掛けた際、風はやや冷たかったが陽射しは明るく暖かく、春の気配がした。

2/12(木)「キューティーハニー」

休み明けにわわわっと仕事をしたらすぐスタミナ切れ。これは明治神宮大会で関西大がブラバンでやってたので、それが心に残っていた。また寒くなってきた。

2/13(金)チャイコフスキー「交響曲第五番」

ひどく寒い。籠り仕事で鼻歌?という感じ。この曲は、常時出るなあ。ムラヴィンスキー指揮、レニングラード交響楽団のアルバムは宝物だね。世界一早く、凛とした五番。ムラヴィンスキーはかつて記者?の、良かったですね、という問いかけにこう言った。
「だめだ。ロマンティックだった。」

2/14(土)さだまさし「檸檬」

今の仕事はしばしば御茶ノ水への出張がある。んで、聖橋を見るたびにこの歌を思い出す。ある意味さだまさしらしくなく、若く、破滅的なものも感じさせる、昭和初期の作家の小説のような歌詞だ。'78年のソロ3枚目のアルバム「私花集(アンソロジー)」に入っていた曲。ベストアルバムにも入っていたからシングルかと思っていたが、そうではないらしい。小学生だな。

この日は一日中家に居て、外出といえば犬の散歩だけだった。公園で遊ばせていた時、ココ、ココ、という音がした。最初は、ワンコがドングリでも口に入れて噛み砕こうとしているかと、思わず「こら!」と言ったら、犬たちは不思議な顔をした。音は、公園にあるカシナラ系の木、上方から聞こえてくる。これはひょっとして・・。

つがいの小さな鳥が枝から枝へ飛び移っていた。合間に口の動きとココココ、カカカカ、の音。背に鹿の子模様が見える。キツツキだ!なんとか写真を撮ってやろうかと思ったが、バードウォッチングなんてやったことの無い身、鳥は素早い動きで、とても無理だった。ココココ、という音だけをしばらく聞いていた。

帰ってきて調べたら、コゲラらしい。赤い色は見えなかった。スズメと同じくらいの大きさ、腹と頭の上の赤い体毛は見えにくい、春に木をつついて音を出す「ドラミング」をする・・。ちょっと賢くなったな。写真を撮りに、山にでも行こうかな。近いし。

もちろん妻よりのチョコレートはありましたよ。

2/15(日)原田知世「時をかける少女」
マーラー「交響曲第五番」

福岡では、角川映画は薬師丸ひろ子ものとの2本立てでやっていた。「時かけ」はテレビで観て、次の「愛情物語」は中2の時、映画館に観に行った。その次の「天国に一番近い島」も。そう、私は知世ファンだったのである。ずっと。同い年である。大学生の時にベストアルバムを買って、今も持っている。

マーラーはここ数年だが、やはり第1楽章だね。ビリビリ来る。

朝早く起きて、エディオン。午後から妻が髪チョキチョキで不在のため、留守番するために早出動。開店と同時にゲームコーナー。一番!30分もすると2人は普通に並んでいたが、いつもは3回するのに1時間半とか待つ。きょうは大サービスの5回でそれでも1時間弱で終了。翌日誕生日だから、である。この日は妖怪ウォッチ2の攻略本も買ってあげる。となりのブックオフで中古の妖怪メダルを売っているのを発見、これもサービス。ただ2つめを買うなら自分で、と言った。パパも本買いたくなってブックオフでは奥田英朗「ガール」、新刊文庫で西加奈子「白いしるし」島田荘司「御手洗潔と進々堂珈琲」坂東眞砂子「朱鳥の陵」購入。筒井康隆「旅のラゴス」も欲しかったな。

帰ってお昼ご飯食べて留守番。パパ阪神のキャンプ中継見ながら寝てしまう。息子攻略本読みながらDS。気がつくとおやつも大量に食べている。学校の宿題させ、パパは犬の散歩。夜は四大陸選手権女子フリー。本郷理華の演技はまずまず良かった。しかし、個性も容貌も実力実績も併せ持つ前世代に比べると、やはり物足りないな。外国勢にも古くはカタリナ・ビット、クリスティ・ヤマグチ、ミシェル・クワンにスルツカヤ、そしてキム・ヨナと、北の湖じゃないが、憎らしいほど強い選手が居たものだ。そこも期待したいところだ。

土日2日休みは当分なし。さあ、明日からしばらく頑張る期間だ。

2015年2月9日月曜日

負けた後





残念だ。アギーレが代表監督を解任された。私はアジアカッブを検証、批判せよ、と書いたが、前のチームよりスキがだんだん無くなってきていた実感はあっただけに、大変残念。アギーレの言う「したたかなサッカー」は、日本が極端に苦手な部分で、ぜひとも身につけたかった。うまく行かないなあ・・。

後任だが、時間も無いことは分かっているが、その中でワールドカップ予選を勝ち抜いていかなければならないからこそ、いくつか考えなければ条件がある。

ひとつは、代表監督歴が無い人はいらない、ということ。失敗の歴史もハッキリとそれを物語っている。育てる余裕は無いし、外国人監督の場合、日本の環境と、代表監督の仕事両方に慣れなければならないからである。

もうひとつ。「勝者のサッカー」はいらない、ということ。苦戦してワールドカップのグループリーグを突破したことのあるアギーレだから評価していた部分があった。

しかし、時間的な余裕もなく、結局のところそんな贅沢は言っていられないのだろう。もはや余談の類だが、日本の選手を知らず、予断なく新しい代表選手を選ぶことが出来る監督、というのにも魅力はあった。また、いまでも、南アフリカワールドカップ以後にメディアを賑わせた、ペジェグリーニとか、ペケルマンとか、ビエルサにも惹かれてしまう。

オリヴェイラか?どうだろう。信じられないことに、ラニエリに振られたとか。私はあまり好きではないのでこれは良かったと思う。

それにしても、敗戦に混乱。どうにもやり切れないが、ワクワクしている部分もあるのは、なぜだろう。

先週末は高知へ出張。寒いと聞いて防寒対策をして行ったが、朝晩は冷えるものの、日中は陽差しが強くて気温が上がる。風が吹いたり、夕夜になるとひどく寒い。ようは寒暖差があり過ぎて、過ごしにくかった。顔も陽に焼けてしまって、唇の皮がむけた。

ツマラナイ。気分がそっちモードである。まあ色々あるのさ、細かい事まで。どうも、嫌だね。

今週末は香川の丸亀。四国ばかりである。こちらは瀬戸内側で近いので関西との気温差はさほどでもないが、やはり海に近く寒かった。行き帰りで綿矢りさ「ひらいて」完読。こういう時は妙な達成感がある。

家に帰って、よく読んだ作家さんを数える。
1位はやはり、恩田陸の25作品。2位は綾辻行人で22作品。3位は東野圭吾で19作品。一時期赤川次郎の三姉妹探偵団シリーズをかなり読んだが、数は判然とせず。北村薫が15作品、村上春樹が9作品、てなところ。こういうの、面白いなあ。あ、高田郁は「みおつくし料理帖」が10巻だから、それだけで10作品か。たぶん5〜7作品が一番多いと思う。

息子の国語の問題に「窓際のトットちゃん」がよく出るとか。家族でよく行った、自由が丘のピーコックのところにあったんだよ、黒柳徹子が書いたんだよ、と言うと、

「その人はなんでピーコックのところにあったって知ってるの?」
「いや、黒柳徹子がトットちゃんだから。」
「えーっホント?」

どうやら息子はフィクションと思っていたらしい。それに別に本人でなくても、調べれば分かるのだが。まあ無理もないか。

夜の寝かしつけ話は、ジャック・ロンドン「野性の呼び声」いやあ、名作だなあ。男のロマンですな。1903年の作品。これをご覧の親御さんたちもぜひ読んでみてください。でも息子はやっぱり「続・桃太郎」が好きなんだとか。

すでに、息子世代の、栗から生まれた双子、戦術と勇猛果敢さに恵まれた栗太郎、気象に詳しく文才も併せ持つ栗次郎、梨から生まれた動物使いであり、未来を感じる能力を持つ梨姫、柿から生まれた超能力者にして未来過去の偉人と話のできる甘樫(あまかし)、さらにその下の世代には、戦闘能力の高い蜜柑(みかん)とびわ太郎など、桃太郎一族は三世代になっている。さらに、もとは兵庫の山の蛙だが、人の姿になったハジ、さらに沢ガニが転じたカニーシャ、さらにヤタガラスのシュバインシュタイガーなど新キャラをたくさん出している。

お話も、大江山の生き残り、茨木童子やいくしま童子のいる鬼ヶ島に象やサイ、ゴリラを引き連れて乗り込んだり、敵が九尾の狐だったり金閣銀閣、牛魔王だったり、はては西洋の悪魔達と戦ったりもした。宇宙にも行ったことがあるし、桃太郎一族の生まれた秘密編もやった。ずっと同じキャラで、だいぶ前から話しているので息子も思い入れがあるようだ。

確かいまガリヴァー旅行記の世界を冒険中だが、敵ならびにどうオチをつけるかは全くのこれから。ストーリーテラーはつらい。ちょっとじっくり考えようかね。

2015年2月1日日曜日

1月書評の4




ついに4まで来ました。史上初。年初はいつも外書が多いけど、今年は通年読めれば、と思ったりしている。ではラスト!

エレナ・ポーター  
「スウ姉さん」村岡花子訳

1920年、アメリカの女流作家の小説。ドタバタコメディの中に、深さがほの見える。

スザンナ・ギルモアはアメリカの裕福な家庭で「スウ姉さん」として、父親や妹弟に頼りにされている存在。ピアニスト志望で、小説家の恋人が居る。しかし、銀行総裁を務める父親の事業が破綻、父の脳は正常な機能を失う。一家は土地家屋や持ち物を売り払い、田舎の別荘で貧乏暮らしをすることになるが・・。

エレナ・ポーターという女流作家は、1913年に書いたコメディ調家族小説の「少女ポリアンナ」が大ヒット、ディズニーが実写化映画化し、日本でも多くの出版社が翻訳、アニメ化もされたという。この「スウ姉さん」は1920年の作品で、ポーターの遺作となった。私が読んだのは、村岡花子訳で、1965年初版発行の一冊。

昔、アメリカのホームドラマ小説で見たようなドタバタ喜劇を見ているようで、なるほど、逆にこのような風潮は、ポーターの著作からも来ているのかな、思ってしまう。スウ姉さんの気も変わりやすいし、弟妹その他の人々がとんだわがままなのも、喜劇的な風味をいや増している。

でもいろんな場面の移り変わりがあっていいところに落ち着くのも、教訓的で、また人生の変転を上手に表していて好感が持てる。渡鬼じゃないが、初歩的な感情で世の中成り立っているのかな、と思わせる作品だった。

星新一「クリスマスイブの出来事」

あまり読まなかったけど、星新一はけっこう面白いね。

ショート・ショート集「エヌ氏の遊園地」「妖精配給会社」「午後の恐竜」を底本としたと書いてあるが、ようはセレクションだということかな。

いくつかは、単純なだましもある。でも、発想と、流れと、オチの味はやっぱり上手だと思う。「欲望の城」「沈滞の時代」「ある戦い」あたりは大人っぽくて、面白かったかな。

息子が最近はまっているらしく、本屋で星新一買うー!と自分から言ってきた。ちょっと感慨深いものがあったりして。で、先に読ませて貰った。また彼が読んだ後再読しよう。では、今回書評もショート・ショートで。(笑)

高橋克彦「北斎殺人事件」

前作「写楽殺人事件」が面白かったのでこちらも購入。もちろん浮世絵ミステリーで、もの凄い力作だ。

「写楽殺人事件」で恩師2人と、同学の先輩国府を亡くした津田は、国府の妹冴子と結婚し、大学の研究職を辞して故郷の盛岡で日本史の教職に就いていた。そんな折、東京の有名画廊である執印画廊が、国府の遺稿にある「北斎隠密説」について調査し、出来れば新発見の肉筆画とともに本を出版しないか、と持ちかける。

1986年の作品。高橋克彦は、「写楽殺人事件」で江戸川乱歩賞を、この「北斎殺人事件」で日本推理作家協会賞を受賞している。

以前「写楽」でも触れたが、高橋克彦は浮世絵が大好きで、その好きさ加減がよく出ている。ミステリー・サスペンスドラマでありながらまるで学究の徒が、研究の成果を披露しているかの如き内容である。北斎の生涯や生活を、微に入り細を穿ち、当時の日本史に沿って解き明かしていっている。この「北斎隠密説」のアイディアを自分で思いついた、というのに感心した。

もちろん浮世絵の知識に関しても細かい部分まで散りばめられている。調査に出向いた長野・小布施の寺、岩松院の天井絵は是非見てみたくなった。

謎は少々複雑に過ぎる気はするが、どっぷりその世界に浸れる、魅力的、本格派な作品だと思う。次の「広重殺人事件」も読んでみようかな。

執印画廊の女社長・摩衣子と、藤原伊織「シリウスの道」に出てくる代理店の女性部長がミョーに似ているな、などと読後に思ってしまった。

北村薫「1950年のバックトス」

超短編集。23編のストーリーを集めたもの。なかなかバラエティに富んでいる。

ホラーっぽい話もけっこうあり、落語調のお話で、宮部みゆきの名前が出てくるものあり、重松清ばりのツンツンものあり、同じ話を視点を変えて見た連作あり。ページ数もたった3ページのものから最高でも表題作の27ページである。

最近星新一を読んだせいか、この短編集を読むと、「で、オチは?」とか「で、余韻は?」とか最初は思ってしまう。いろんな形で、おふざけも交えながら、北村薫の味を楽しむ作品かと思う。

解説で桜庭一樹氏はナンバーワンを「眼」としている。うーん、一つ挙げろと言われたら、表題作「1950年のバックトス」かな、やっぱり。ストレートだが、いいスパイスが効いている。正しくは「グラブトス」のような気もするが。「包丁」「真夜中のダッフルコート」「洒落小町」「百合子姫・怪奇毒吐き女」「石段・大きな木の下で」も心に残った。

最終話は、「月の砂漠をさばさばと」「ひとがた流し」に出演する牧子と娘、猫のギンジローらの後日談。北村氏はこの2人が好きなんだなあ、と思う。「ひとがた流し」も独特のテイストを持った哀しい女子人生ものだったので、なかなか滲みた。


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1月書評の3




少年少女、動物ものとバラエティある読み方だった。では、どうぞ!

森絵都「カラフル」

読後スッキリするファンタジー。中学生もの。高校生に最も読まれている小説!という書店のキャッチにつられて買ってしまった。

罪を犯して死んだという「ぼく」の魂は、見ず知らずの中学生3年生、小林真という少年の身体を借りて「再修行」することをプラプラという名の天使から命じられる。気がつくと、自殺を図った真が瀕死の状態から生き返ったところだった。

1998年単行本発行の作品と、読んでる途中に気がついてちょっとびっくり。あまり流行り廃りうんぬんの事柄には触れられていないが、社会問題は取り込んでいる。

少年と家族、学校、進学、女の子。それなりに山や谷はあるストーリーだが、あまり難なく、すらすら読める。オチも、期待通りで安心、という本。

森絵都は、直木賞を受賞した「風に舞い上がるビニールシート」を読んだが、正直その際、あまり強い印象は無かった。元々が児童文学の作家さんで、あまり次の作品には手が伸びなかったが、この作品を読んで、次も読もうという気になってきた。

ちょっと前に話題になった、川村元気「世界から猫が消えたなら」に似てるなあ、と思いながら読み終えた。

ジャック・ロンドン「野性の呼び声」

久々に読んだ、動物もの。アラスカも好きだし、浸ってしまった。

カリフォルニアの裕福な家庭で飼われていた大型の雑種犬、バックは、悪い使用人に盗み出され、そり犬として売られる。ゴールドラッシュ期のアラスカで「棍棒と牙の掟」に否応もなくさらされたバックは、過酷なアラスカの原野で重労働をする内に、リーダー犬として頭角を顕わしていく。

犬の間の、苛烈な争い、アラスカでの、様々な危険との戦い、そしてそり犬としての誇り、人間への愛情、野性の本能・・。1903年に書かれたこの作品は、多くの魅力を持つ名作だ。

解説にもあるが、バックが主人として使える、最初の家も含めれば5組の人間模様も描いていて、それぞれがドラマの構成要素を成している。

私はアラスカ在住の写真家、故星野道夫の著作が大好きで、一時期貪り読んだ。手付かずの原野や自然、生物、植生、そして人間にはロマンがあった。しかし、あくまで感覚だが、欧米人の大自然への強い憧憬や、アメリカ人がフロンティア、という言葉に抱く感情にはまた違ったものがあるように思える。それが、この小説が成功したベースとしてあるのだろう。

正直、ちとロマンチック過ぎるな、創作だし、という思いもちらとよぎった。しかし、この作品が持つ迫力と、野性、というものを描ききっている部分の吸引力は、素晴らしく強い。

webで知り合った方は、ユーコン川を単独で下ったという。憧れるけど私には出来ないな。

江戸川乱歩「幽霊塔」

ルパン三世「カリオストロの城」に出てくる時計塔のモデルとなったのが、この幽霊塔だという。興味が湧いていたところ、本屋でたまたま目に入り、読んでみた。

北川光雄は、叔父が手に入れた、長崎の時計塔のある洋館を検分に来たところ、塔の中に居た謎めいた美女、野末秋子と出会い心を奪われる。この館は、以前凄惨な殺人事件が起きた場所だった。

この小説は、明治の頃に活躍した黒岩涙香という作家が外国小説を翻案し、少年の頃その面白さに打たれた乱歩が、さらに手を加えて出版した、1937年発表の作品である。

乱歩らしく、おどろおどろしい雰囲気を出しながら、秋子の正体をめぐり様々な登場人物が暗躍する。連載らしく、ところどころ章立てのようになっている。

乱歩は、かなり読者を意識して書いてるから、サービス精神が旺盛である。また、私は常々小説には挿絵が欲しい、と思っているのだが、この小説にはふんだんに挿絵が使ってあり、なかなか楽しめた。推理小説としては、割り切れなさがかなり残るものの、冒険活劇としてはとても面白い。

私は子供の頃、怪人二十面相ものの大ファンで、大人になってからは、「孤島の鬼」「白髪鬼」などを読んだが、有名な作品はまだ未読なので、今後もおいおい読んでいきたい。

桜庭一樹「少女には向かない職業」

「女には向かない職業」を読んで、どうしても読んでみたくなり、即買い即読み。タイトル以外まるで関係がないことがよく分かった。(笑)でもこちらはこちらで面白かった。

山口県下関市から近い島に住む大西葵は中学2年生。学校ではお調子者キャラだが、家に帰ると、継父はアル中で時に暴力を振るい、母は自分の境遇を嘆き時に葵をなじる。夏休み、葵は同じクラスだが話したことが無かった不思議な少女、宮乃下静香と外で出会い、やがて仲良くなる。

桜庭一樹の作品は、「私の男」、「荒野」「赤朽葉家の伝説」「伏 贋作・里見八犬伝」「赤×ピンク」と読んでいるが、どうやら中学生くらいの女の子の心理描写が上手いようだ。このへんがベースか、と今回は得心した。

特徴としては、読みやすい、名前が変、お茶目な部分が多い、読みやすいが、展開が一筋縄では行かない、などなどがあるが、この作品は、島という環境、家庭環境、ゲーム、マクドナルド、女同志の付き合い、異性への想い、夏、冬、情景、殺人、ゴロスリなどなど様々な要素が満載である。

なんでそうなるの的な展開があったり、13才の1人称にしては言葉には難しいものがあったりするが、この物語は、少女の心象を細かく、また手数が多く、ときに破滅的な表現を用い、オタク的な雰囲気さえ漂わせながら、描いた、文芸的な香りもする、良きエンタテインメント作品だと思う。そして、桜庭一樹の持つ、独自の味をがよく出ていると思う。

劇中や解説に興味深い数冊の本も出てきて、探す気になった。また氏が注目を引いたという作品、「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」も読みたくなってきた。

馳星周「美ら海、血の海」

これが初めての馳星周。迫力がありこれまた一気読みでした。

昭和20年の夏・沖縄。少年で組織される「鉄血勤皇隊」にいた14才の真栄原幸甚は、一緒にいる部隊が南方に転進する際、南部出身として道案内を命じられる。2学年上の金城一郎とともに先遣隊として出発するが、グラマンの機銃掃射により、先遣隊の殆どが戦死する。

このあと幸甚は、金城と行動を共にして、南方まで、なんとか食糧を調達しながら進むが、米軍はすでに沖縄を陥落させていて、あまりに多くの人の死を見ながら、次々と凄まじい困難に直面し、生き抜こうとする。

すぐに殴ったり、横暴で沖縄人を馬鹿にしている兵隊の現実、自分達を守ってくれるはずの日本軍に対する理不尽さ、のっぴきならない状況での行動、などなどか描かれている。

ストーリーは、ずっと悲惨である。食うものにも困るし、米軍の攻撃に息もつかせぬ展開と次へ次へと読み進む。いくつか見た、沖縄戦のドラマ、映画を辿り直しているような感じだ。沖縄の叫び、というものは確かに有るのだろう。

解説にも書いてあるが、戦争ものを読むたび、思ってしまうのは、人々は熱狂しやすい、ということ、現代人の目だけで見ない方がいい、ということだ。

「ウルトラマンを創った男」というルポルタージュで、主人公の脚本家は、沖縄戦を逃げ惑った時に、救ってくれるヒーローがもし居たら、と思ったかも知れない、というニュアンスの文章が確かあった。次元が違うが、この悲惨で、立ち向かえないほどの相手に絶望する気分を読んでいると、その文章を思い出した。
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1月書評の2




昨年末のものも含めて、1月は16作品16冊。
よく読んだ。やっぱ1月は調子がいい。では行ってみましょう!

万城目学「鹿男あをによし」

壮快なファンタジー。読後感が良い。

ドラマ化もされた、直木賞候補作。奈良という土地の雄大さ、歴史深さを表す描写にも気を配っており、不思議おかしい出来になっている。間に剣道の、迫真の試合場面も含み、また夏目漱石「坊っちゃん」風味もありマドンナも出てくるから楽しみどころが多い。

大学研究室での争いに敗れ、関東から奈良の女子校へ、常勤講師として行くことになった「おれ」。赴任早々、遅刻してきた堀田イトという生徒に「マイ鹿に乗ってきたら駐禁を取られました。」と、とんでもない言い訳をされ、イライラして神経を遣い、周囲に心配される。そんなある日「おれ」は、人語を喋る鹿に話しかけられ「お前は鹿の使い番となった。人間界ではサンカクなんとかと言う『目』を持ってこい」と訳の分からない命令をされる。

登場人物にもなかなか工夫が凝らしてあり、好感が持てる作品。個人的には黒塚古墳の上から眺める奈良市街の夕暮れの描写が良く、見に行きたくなった。

直木賞候補作ということで、審査員各氏のご意見も読んでみたが、みな一様に才気は認めているものの、もひとつもふたつな評価だった。まあその、これは良く出来た娯楽作品であって、文学性をうんぬんするものではないかも、ですな。鹿との会話の内容は一考の余地があったかも、とは思った。

ドラマは玉木宏・綾瀬はるか・多部未華子。ちょっと観てみたくなったな。

三上延
「ビブリア古書堂の事件手帖6~栞子さんと巡るさだめ~」

人気シリーズ。この巻では、太宰治にどっぷり浸れる。

去年の1月に読んだから、1年ぶりの新刊。力作である。焦点となるのは太宰治「走れメロス」「晩年」「駈込み訴へ」。古書、文学という世界はここまでミステリーに適しているのか、と改めて思わされる。絵画ミステリーなら色々あるけれど、古書とは値段のレベルが違う。しかし、金額が低いから、熱心な信奉者も多い、という見方もできる。

北鎌倉の古書店、ビブリア古書堂。店主の篠川栞子と店員の五浦大輔のもとには、古書・稀覯本についての難題が持ち込まれ、栞子の知識と鋭敏な頭脳がそれらを解き明かす。以前太宰治の稀覯本を奪おうとして栞子を階段から突き落とし逮捕された田中敏雄が、かつて自分の祖父が持っていた、太宰治「晩年」の初版本を探して欲しい、と接触してくる。太宰本人の、珍しい書き込みがあるらしいのだが・・。危険な相手からの依頼だったが、元の持ち主に警告を発する目的で、栞子と大輔は依頼を受けることにする。

最初から書いちゃった。さて、今回は三世代に渡る古書ミステリーで、太宰治本人の逸話が縦横に展開される。また、若き研究者たちの情熱も垣間見え、その熱さが、熱狂につながるベースとして作用している。踏み込み方には神経が割かれていて、熱が伝わって来るかのようだ。

難を言えば、三世代の物語で、登場人物があまりにも多いために、人間関係が分からなくなるところだ。また、久しぶりの新刊で、覚えていないことも多い。「進撃の巨人」も新刊が出る頃には筋を忘れてしまってるが、似たような感覚である。「みおつくし料理帖」もシリーズだったが、さりげなく丁寧な振り返りが付いているのであまり違和感はなかった。さらには、最初に話を受けた動機が弱いな、と思うし、途中もハテナがある。

なかなかオープンになりにくいテーマでもあるし、いい大人の三世代、はなかなか想像しづらい。また、時間的に遠く離れたことに解決が図られるので現実感に欠けるきらいもあるだろう。物語として動機を見つけにくいネタかも知れない。しかし、今回なにか伝わるものがあるのも確か。どこかワクワクさせられた一巻だった。

パウロ・コエーリョ
「アルケミスト  夢を旅した少年」

世界的作家の、名作と呼ばれる一冊。ふーむと集中して読んだ。アルケミストとは、錬金術師のことである。

スペイン・アンダルシア地方の羊飼いの少年、サンチャゴは、ピラミッドに宝物がある、という夢を見る。そして街中でセイラムの王様と名乗る老人に諭され、エジプトへ旅することを決心する。

ブラジルでベストセラーとなり、世界で愛読されているという作品。児童文学のようでありながら、会話が哲学的で深く、じっくりと読ませる作品。

そもそも、鉛などから金を作る術、というのが狭義の意味で、賢者の石を用いたりするようだ。ヨーロッパで考えられたものがイスラム世界に輸入され、さらにヨーロッパに逆輸入されたのだとか。錬金術は名だたる論理家やアイザック・ニュートンも研究したらしい。宗教色、神秘思想の様相を強く帯び、研究の過程では多くの化学薬品が生み出されるなど科学史にも貢献しているようだが、日本人にはもうひとつ分かりにくいものがある。

セイラムの王様と少年ほか、重要人物との哲学的な会話が多く出てきて、考えさせられる。物語の成り行きも面白く、錬金術の過程と哲学的要素、さらに北アフリカの砂漠を舞台にした、宗教色を含む劇的な展開が人気の理由なのかな、とも思う。知的好奇心も刺激された一冊だった。

乾ルカ「夏光」

「なつひかり」と読む。ホラー&ファンタジー、たまにグロ。

第二次大戦時、哲彦は大阪から地方の漁村に1人で疎開してきて、学校でもいじめられている。彼の友達は、顔に黒いあざのある喬史で、喬史もまた、母親が不吉な動物スナメリを食べたから、祟られたのだといじめられていた。喬史の目には、時折不思議な青い光が宿ることがあった。

表題作を合わせ6編が収められている短編集である。乾ルカは、「夏光」がオール讀物新人賞を受賞してデビュー。そして、同様の短編集「あの日にかえりたい」が直木賞候補にノミネートされた。

全編にわたり、夏の強い光がテーマとしてある。「夏光」は仕掛けと、季節と舞台、そして意外な結末すべてがテーマを反映してスパッと終わるため、衝撃と感嘆が同時に来る作品。

他はおおむね少年少女が主要な登場人物として出てくる。ホラーを主流としながら話を演出して、まとめていく巧みさが目立つ。設定とストーリー展開、テーマへのアプローチがうまく噛み合っている。中盤の「は」はひとつ異質な物語で、オチは途中から分かっているのだが、怖いもの聞きたさでおばあちゃんにお話をねだるように、「早く話して〜」となってしまう。

直木賞候補作の「あの日にかえりたい」も、テーマへのアプローチという点では一貫したものがあった。選考委員の評価は、おおむね深い掘り下げが感じられない、ということで今ひとつだったが宮城谷昌光氏は「才能は尋常ではない」とコメントしている。

ホラーは趣味だし、グロは私は出来るだけ遠慮願いたいし、あまりうまくまとまり過ぎているのも、ちょっと鼻についたりするし、直木賞選考委員の先生方を言うことも、その通りかと思う。短編に深みを、というのも無理っぽく思えるが、上手さが目立つために余計そう思わせてしまう特徴を持つ、という事かもしれない。

でも、乾ルカの、特に初期作品には、どこか惹かれるものが確かにある。ファンタジーは、いわば全てを可能にする。のびのびやっていい。しかし、ただそこだけに拠らない事は必要かなと個人的には思う。いつか誰しもに評価される作品を生んで欲しいと、期待している。

P•D•ジェイムズ「女には向かない職業」

なんてったって、タイトルが洒落てるよね。
イギリスもの。サスペンス・ミステリーの定番のひとつ。

22才のコーデリア・グレイは、英国警察出身である、探偵事務所の共同経営者が自殺し、依頼を独りで受けることに。ケンブリッジ大学の高名な微生物学者、ロナルド・カレンダーに呼ばれ、彼の息子のマーク・カレンダーが自殺した理由の調査を命じられる。

読もうと思ったきっかけは、友人から、桜庭一樹の「少女には向かない職業」が面白かった、と聞いたから。調べてないが、この作品からヒントを得、オマージュとなっていることが想像できる。いずれ読もうと思う。

こうした定番を意識したであろう作品が最近目につく。ロアルド・ダール「あなたに似た人」→伊坂幸太郎「わたしに似た人」、アガサ・クリスティ「検察側の証人」→雫井脩介「検察側の罪人」などなど。

さて、海外のものらしく、また大学の街ケンブリッジが舞台となっているので多少の理屈はあるが、「女には向かない」部分が強調され過ぎているわけでもなく、快適なサスペンス・ミステリーとして読める。少しづつ手掛かりが明らかになっていき、一気に展開するスリルはなかなかだ。見えない相手に、感情を抑えて独りで戦うコーデリアに肩入れし、また、ケンブリッジの街や自然もさり気なく描写されている。

エピソード的な、最後の数十ページのうまい味付けが面白かった。冷静で論理的で、取り乱すことが少ないのはこの作品の美徳だと思う。

実は、若き頃、途中で挫折した作品の一つ。欧米ものによくある、無機的で表現の長い文章に今回も最初はなかなか進まなかったが、当時もう少しだけ読み進んでいれば眠れなくなったのに、と苦笑してしまった。
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2015年1月書評の1




ガイ・アダムス
「シャーロック・ホームズ 神の息吹殺人事件」

クリスマスには、ホームズを。

だいたい年間の読書を12月23日の休日で締めるので、それ以降は翌年への算入となる。冬休みには、ホームズ。今回の年末年始も、再読を含め3冊くらい読んだ。まずはそちらからアップ。

社交界の名士、ヒラリー・ド・モンフォールの死体が、全身の骨が粉砕される、という異常な状態で見つかった。目撃者は、巨大な渦巻きから、彼が逃げ惑っているように見えたという。この直後、ホームズとワトスンは、心霊医師として名を馳せている、サイレンス博士の訪問を受け、悪魔に取り憑かれた娘が、ヒラリーともう一人、そしてホームズの名前を口走ったという話を聞く。

2014年10月に出たパロディである。心霊医師、幽霊狩人、魔術士が出てきて、盛り沢山の心霊現象が展開される。今回は壮大だが、ドイルが晩年心霊術を熱心に信奉したためか、パロディなりパスティーシュで心霊術、降霊術のネタのものはすでにある。

今回も不可能犯罪、「バスカヴィル家の犬」を彷彿とさせる、ホームズの離脱とワトスンの手紙、などのシチュエーションが出て来たりして、好きな人には楽しく読ませる。

そもそもパロディは細かい点には目を瞑って楽しく読まなきゃね、というものである。が・・事件と登場人物たちの言動が、出て来たときからどこかうさんくさいし、つまりホームズが全てを明かすところで面白みが半減するし、最後まで説明されないところが多過ぎる。収まりどころ、読後感も良くない。

訳も数カ所首をひねるところがあった。しかし、作者は、ドイルの物真似をせず、自分のホームズを描いた、とあとがきで述べているが、その意気は今回勝っていたと思う。

さあ次もホームズだ。^_^

島田荘司「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」

ホームズと夏目漱石の邂逅。コケティッシュに、推理小説としても、面白く。そして、ホームズにも、愛情深く。

1900年のロンドン。留学していた夏目金之助は夜ごと寝室の窓外でする不思議な声に悩まされ、ホームズに相談する。ホームズの元には、財産家の未亡人から、長年生き別れになっていた弟と一緒に住み始めたが様子がおかしい、という相談が持ち込まれていた。やがて、その弟は、ミイラと化した死体で見つかり、その喉には、日本の平仮名のような文字が書かれた紙切れが入っていた。

1984年の作品。日本推理小説界大御所の一人、島田荘司の、ホームズ・パロディ。かねてから、島田荘司は、例えば「まだらのひも」事件について、蛇は音には反応しない、とか、ヘビはミルクを飲まない、とか、他にも老婆に変装したホームズについて、男性としても身長の高いホームズがおばあさんに変装しても滑稽なだけだ、とかその稚拙さを批判していたかのように記憶している。

でもその批判は、辛辣なようでいて、私のような者の目からも、愛情深いものに見え高いものである。まあそんな作者の思いが込められた作品、といえようか。

物語の途中までは、漱石の1人称と、ワトスンの1人称の、両方で同じストーリーが進行する。ワトスンの方はいつものホームズ譚だが、漱石の方のホームズは、かなりおかしい。一般的なシャーロッキアンとしては、「ホームズなどコカインで頭がおかしくなった幻想家」という評価や、それをベースにした物語があることも知っているが、まあ今回は、微笑ましい部類だと思う。そしてこのような特殊な進行は面白み、楽しみ両方を増してくれる。

事件のタネそのものは、手をかけ過ぎているが、まあよく分かるし、それが後々の感動につながっている。漱石をめぐる背景も深みを与えるし、最後の一言は痛快だ。

ホームズのパスティーシュ、パロディは数は出るが、どうももうひとつだ、という意見はよく聞くし、私自身もそう思っている。これが、日本人作家が書くと、かゆいところに手が届く感じはする。今回は傑作だしうまくまとめていると思う。柳広司の「吾輩はシャーロック・ホームズである」とタイプの違う双璧だろう。

ルネ・レウヴァン
「シャーロック・ホームズの気晴らし」

年末はシャーロック・ホームズ。けっこう本格ヨーロッパ的で、読むのに時間かかった。

いわゆる「語られざる事件」、つまり原作であんな事件があった、こんな事件もあった、どだけワトスンが触れている事件を創作するパターンで、けっこう本格的なパスティーシュ集である。

今回は他のパスティーシュでも読んだことのある「アドルトンの悲劇」、「トスカ枢機卿の急死事件」、「煙草王ハーデンの脅迫事件」、「政治家と灯台と、訓練された鵜にまつわる話」、「スマトラの大ネズミ」事件、「有名なジャーナリストイザドラ・ペルサーノと奇妙な虫」事件の6編が入っている。

内容は、シェイクスピアほか文壇や、歴史的なユダヤ人差別の話が展開され、やや難解で複雑だ。後半の鵜と大ネズミと奇妙な虫の話は、前半とは別のパスティーシュの出典らしく、共通の黒幕がいる、という構成。「最後の挨拶」後にホームズとワトスンが再び出会い、振り返るという設定で、最終話は「バスカヴィル家の犬」の後日談という意味合いも含み、また別の語られざる事件の登場人物も出てきたり、シャーロッキアンには堪えられない、しかし複雑なストーリーとなっている。

作者はフランス人で、テレビドラマ「シャーロック」が流れたのに合わせ人気が再燃、多くのパスティーシュ、パロディが出てきているそうで、まだまだ続きが出そうなことが書いてある。

なんたって「語られざる事件」は100もあるそうで、私的には「シャーロック・ホームズのクロニクル」他ジューン・トムスンの一連のシリーズと、ディクスン・カーとドイルの子孫アドリアン・ドイルの共著「シャーロックホームズの功績」が双璧をなすが、最近は本格パスティーシュ集は出てなかった。先々が楽しみだ。も少し難解さを緩めてくれてもいいんだけど。まあ楽しみだ。

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