7月に続き、8月も好調だった。10冊プラスα!
隆慶一郎「一夢庵風流記」
傾奇もの前田慶次郎の一代記で、漫画「花の慶次」の原作本である。もちろん命がけなのではあるが、こんなに痛快な人生、というのは読んでても気持ちいいものだ。
福本豊「走らんかい!」
世界の盗塁王、福本豊さんの著書。「自分の勲章は、通算208本のホームラン」という通り、決して走るだけの選手ではなかった。あんなに小さいのに、ホントに大したものだ。野村監督が福本対策で、日本で初めて投手にクイックモーションを練習させた、とか、日本シリーズでも堀内からは走れなかった、とか、昔の野球好きが唸るエピソード満載。
村上春樹「ノルウェイの森」
さあこれをどう評価すればいいのか?という感じである。読みやすく、上下巻あっという間に読める。目立たない主人公が、うそのようにモテるし、女性はセックスに異様に積極的だし、どうもリアリティというよりは、ファンタジックな物語、と捉えるのがいいような気がする。
誉田哲也「武士道シックスティーン」
ほぼ1日で読んだ。すぐ映画のDVD借りて観た。まずは原作の方だが、よく対象を研究し、彩り深い作品になっている、と思う。キャラクターは、特に香織は、かなり極端で、展開し易いように設定してある感じ、また、一方早苗は、どこかつかみどころが無いような気もした。読み込みが甘いのかも、だけれど、なぜここで、香織の「大きな歯車が狂った」のかがもう一つ読み取れなかったし、もう少しかみ合わせれば、2人の関係性がより鮮明になったのに、とも思う。
DVDは、原作を読んだ後では、時間の関係でディテールを省いたり変更したりしているので、正直不完全燃焼だった。早苗の、不思議な間合いの理由も分からないし、バイプレーヤーたちも、設定が浅いとしか言いようがない。成海璃子は良かったが、早苗が北乃きいというのがちょっと・・だった。
でも、心象はやはり表情で、後半は惹きつけられて観ていた。心の動きも、不思議と小説より映画の方が分かる気がした。たくさん意見を書くのは、面白かったからである。「セブンティーン」も「エイティーン」もあるとのことで、楽しみにしている。
桜庭一樹「私の男」
近親相姦もの、である。直木賞受賞作品。なぜ、を全て書いてある訳では無い。読みながら考え、またそういったケースもあるのだろうか、と思うしかない。
もちろん発覚する訳だが、主人公よりも、周りの人が言うことの方がよほど真っ当に聞こえる、というのは珍しい事だ。近親相姦、というタブーに踏み込むことで、センセーションを呼ぶ計算、もしくは踏み込む好奇心がほの見える。
最近気にしていることに「筆致」「筆力」というものがある。極端に言えば、理詰めでなくとも、緻密で無くとも、例え訴えるものがはっきりしてなくたって、文章から迫り来る力、迫力、といったものがあれば名作なのではないか、とも思う。
「私の男」は、境界線を超えることで逆になにかを問うている作品かも知れない。当たり前だが読者である私には受け入れられないし、理由も薄弱に見える。ただ、筆力はある作品、なのは間違いない。
江國香織「きらきらひかる」
1991年の作品である。ホモと、精神不安定な女の物語。私には、「ノルウェイの森」の気分はわかんないが、この作品の気分は分かる。バブル末期で満たされた気分の中、世界は激動していた時代。時代は平成に変わり、旧共産圏諸国の独裁政権が次々と倒れ、ソ連は無くなった。
日本の人々は、世相を感じながらも、まだ切羽詰まらずに、新しい価値観を、ぬるく探していた。こんなんがあってもいいんじゃない?的なノリであった。
バブルが崩壊、金融破綻、大災害、大規模テロ、徹底的なリストラを経て、舞台設定として、ひたすら悲しみ、不幸なベースを創り出そうとする現在の文芸界とはエラい違いである。
当時はヨーロッパの映画にもホモセクシャルものは実に多かったが、個人的には、その系統に入る平和な小説だと思う。中身的にも、平和でおしゃれな生活だなあ、という感想だ。
道尾秀介「ソロモンの犬」
最近文芸カフェになりつつある、行きつけのドッグカフェで読み始めてしまい、結局買って帰って一晩で読破した作品。
読みやすいが、正直何とも浅いような気がしている。主人公は愛せる性格をしている。なぜ、がもう一つ解消されない。ミステリー?
貫井徳郎「ミハスの落日」
スペイン、スウェーデン、サンフランシスコ、ジャカルタ、カイロでの物語。それぞれ主人公は現地人だ。どんでん返しに人間模様が絡む短編集である。男が哀しい話が多い。
「ストックホルムの埋み火」が最も親しみ易かっただろうか。救いが有るのは「サンフランシスコの深い闇」だけで、「ジャカルタの黎明」は、先が読めた。
いろいろと工夫が凝らしてあり、退屈はさせないのだが、ミステリー的フェアの観点から言うとちょいと違い、やはり物語だなと思う。短編集、ということもあって軽い感じもする。ただ、どこか独特の、好感が持てる雰囲気はある。「慟哭」や「乱反射」はそのうち読んでみよう。
東野圭吾「ガリレオの苦悩」
ガリレオシリーズはすでに7作目が出ている。「探偵ガリレオ」に始まり「予知夢」、そして直木賞受賞作「容疑者Xの献身」それからこの「ガリレオの苦悩」。文庫になったばかりの「聖女の救済」を経て「真夏の方程式」があり、最近単行本で「虚像の道化師」が出て、第8作「禁断の魔術」が刊行予定だそうだ。
「苦悩」には、ついに、テレビドラマに気を遣ってか女性刑事が登場した。草薙に替わりあっさりガリレオの最も近くにいる役となった。まあ別に良い。私が気になるのは少々パワーダウンしているのが気になる。
前作「容疑者Xの献身」は、設定こそありきたりだったが、トリックはシンプルかつ単純かつ的を得ていた。作業としては古典的ながらも、人物も魅力的で、受賞も納得がいった気がした。ただ、ガリレオならではの、科学実験も、その筋のトリックも出てこないのが異様であった。
それが意識されているのか、今回は、科学的なトリックは必ず出てくるのだが、どうも必然性が無いように思える。設定と、動機が弱い気がしてならない。筆力を感じないのである。以上。「聖女」に期待する。
畠中恵「いっちばん」
「しゃばけ」シリーズの第?弾である。どうにも気楽なものが読みたくて、借りてきた。江戸の商家の若だんなとその周囲に集う様々な妖(あやかし)が巻き起こす騒動。面白おかしく、調子の良い文体で、親近感を抱く物語となっている。
さらさら読めるし、絵が頭に浮かぶ。人気なのも、分かる気がする。
8月は、これに加えて「はじめてのオーケストラ・スコア」や、息子の「ピーターラビット」シリーズも読み、なかなか充実した読書月であった。
ただ、これだけ読むと、ブックオフなどで買っても追いつかない。借りれるものは借りようっと。
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