3月は、自己判断で(河井寛次郎は短いのを4篇読んだから)18作品15冊。
ひさびさに多かった。漫画や小品も多かったんだけど、自由に好きな順で読めてるから楽しい。
◼️ 三上延「ビブリア古書堂の事件手帖5
栞子さんと繋がりの時」
「ブラックジャック」の謎バンザーイ!
先日「ばるぼら」を読み、そういえば栞子さんに手塚治虫あったなと引っ張り出して再読。相変わらず小沼丹「黒いハンカチ」にも寺山修司「われに五月を」にもブローディガンの「愛のゆくえ」にも惹かれて図書館検索してしまった。
ともかくブラックジャック。いやー専門的知識と天才的な外科手腕をベースにピカレスク風味と誠実な心を併せ持つ稀有な作品だと思う。
手塚治虫は単行本に入れる話を自分で決めていて、カットされる話もあったという。手塚治虫は医師免許を持っていたが、患者を治療したことはなく、誤解したまま描いてしまった回もあったようだ。ビブリア古書堂シリーズを読んでいると、この版にだけ特別なものがある、という価値付けがたびたびあるのでピンと来る。
ワーカーホリック的な仕事の仕方も「ブラックジャック創作秘話」という関連マンガで触れられていた。さもありなんと思ってしまう。
ちょっと時代的にオチの本屋の形態はどうかとも思っちゃうけども、懐かしいテイストのエピソードではあった。挙げられているタイトルにはワクワクする。「医者はどこだ!」「海のストレンジャー」「人間鳥」「鬼子母神の息子」「ナダレ」「畸形嚢腫」ピノコ登場のエピソード言及もいいですねー。
手塚治虫はそれなりに読んでいるが、栞子さんがつらつらと上げた手塚治虫の作品名で、「シュマリ」「MW」読まなきゃな、とまた火がつく。長めに続いた作品では唯一読んでない「三つ目が通る」も。まだまだ楽しめそうだ。
我が家は週刊少年チャンピオンを毎週姉弟4人と母親で読み込む家庭で、末の弟は今も買ってるらしい。その中で手塚治虫作品の盛衰、「プライム・ローズ」「七色いんこ」「ミッドナイト」など人気があったとは言いがたい作品も見てきた。巨匠にしてこの厳しい現実、と違和感をも覚えた記憶がある。作中の触れられている部分で思い出す。
BJはこないだ手塚治虫記念館でマグカップ買って、等身大人形と記念撮影もしてきた。どの話も何回も読んでる。それでもタイトルを見るとまた読みたくなる。再読を始めようか、な?という気になるな。
◼️ 「河井寛次郎の宇宙」
絵柄、色彩とバチッと合うものを感じる。
陶芸作家・河井寛次郎の作品紹介・解説書。
河井寛次郎を知ったのは原田マハの
「20 CONTACTS 消えない星々との短い接触」で取り上げられていたから。陶芸方面は暗く、それまで知らなかった。調べてみると、作品のデザイン、絵柄、色彩になかなか心がくすぐられる。しかも揺るぎない落ち着きが感じられる。京都の清水五条に記念館があると知って俄然興味が加速した。
早くから陶芸の道に進むと決めていた聡明な寛次郎は、東京高等工業学校(後の東工大)窯業科を経て京都市立陶磁器試験場に入り各種釉薬を研究する。早くから優れた技術と多彩な表現力で高い評価を受けたが自らの作陶に悩む。やがて学校、試験場の後輩・濱田庄司や研究家の柳宗悦らと民藝運動を推進した。後年より簡素な作風となり、晩年は木彫り、真鍮煙管のデザインのほか、より自由な創作活動にいそしんだ。また、文筆家でもあり、数冊の本を上梓している。
京都清水五条の窯を譲られたことで家を移り、以後ずっと当地に在住した。
とにかく初期の雲龍、草花から絵柄に惹かれるものがある。花、手で持っている花、魚、兎、両手などだまし絵のようなものもあり、工夫しておもしろい描き方だったりする。
また釉薬は赤の辰砂(しんしゃ)釉、海鼠(なまこ)釉の青、藍、鉄釉の茶色ほかが綺麗で、しかも組み合わせが自由自在、上品に、器の地肌も絵柄も際立っていて素晴らしい。
先に読んだルーシー・リーと作風は違うが、同じバーナード・リーチの薫陶を受けたためかそのデザインや色味には共通のものをかんじてしまった。
記念館は、寛次郎がかつて設計、構成した自宅を改装したもの。作品はまた、大阪と京都の間の美術館、記念館に近い京都国立近代美術館に所蔵・展示されているという。これは観に行かなきゃ、ですね。
河井寛次郎の娘さんが描いた父親像ほか、エピソード、生い立ち経歴などを収録。
面白かった。
◼️ 手塚治虫「ばるぼら」
バルボラ、それは新宿駅の片隅に呑んだくれてうずくまる、うす汚れた、魔性の女ー。
家から遠くない宝塚の手塚治虫記念館で昨秋手塚治虫のバイプレーヤー企画展をやっていたので観に行った。ヒゲオヤジ、アセチレン・ランプ、スカンク、ハムエッグなと手塚作品には繰り返し出てくるキャラが楽しく愛おしかった。手塚治虫記念館はそうたびたび行く所ではないけども、行ったらワクワクする手塚ファン。
グッズショップでまだ読んでなかったやつ、と買ったのが「ばるぼら」。手塚治虫の本格読み物は大好きである。「陽だまりの樹」「アドルフに告ぐ」「火の鳥 太陽編」などなど。とはいえ、なかなか読まず積読していて、今日新刊のマンガ本を複数買ってマンガ読みデーとなったこともあり、通読した。
流行作家の美倉は新宿でフーテンのような、呑んだくれで言葉遣いも悪いバルボラを拾い連れ帰る。家の中でも外でもずっと酒を飲んでいるバルボラが来てから、美倉は怪しく不思議な現象に遭うようになる。やがてバルボラは容姿、身だしなみを整えて、美倉と結婚しようとするが、全裸でマリファナを吸うデモーニッシュな儀式が警察にバレて雑誌に大スキャンダルとして書き立てられる。
その日以来美倉の仕事は激減した。バルボラにも会わなかった。生活に困窮していく美倉は次第に、魔女のバルボラがいないと書けない、との強迫観念に取り憑かれるようになるー。
もとになったのはE・T・ホフマンの幻想小説を下敷きにしたオッフェンバックのオペラ「ホフマン物語」で、1973年からマンガ誌に連載された。
バルボラは美倉の友人の黒人作家の運命を狂わせるなど、やたらと芸術家の前に現れ、彼らを結果的に虜にする魔女らしい。ギリシャ神話に出てくる記憶の神ムネーモシュネーの名を持つ不思議な母親の娘だ。
もてる美倉に最初はやたらと激しく嫉妬していたバルボラは他に男を作る。美倉は彼女が出入りしていたSM演劇クラブに行ったり、死んだファンの女性から手紙を受け取ったり、占い師にしつこく小説の筋を変えるよう迫られたりする。やがて人間関係に疲れた美倉は不条理な狂気の世界を礼賛するようになり、そのタイミングでバルボラはきれいに着飾って結婚を求めるようになる。やがて美倉の方が熱烈に、おかしくなるほどバルボラを求めるようになっていく。
この作品は手塚治虫の息子さんの映画監督によって一昨年映画化された。バルボラは二階堂ふみ、美倉は稲垣吾郎。なるほど。読んだ者としては観たかったかな。
手塚治虫には珍しく?デカダン、退廃を描いた作品とのことで、確かにいろいろ考えたことが台詞やカット割りから伺える。
段々と壊れていく美倉。最後の方はあまりすっきりするようなストーリー展開ではなかったが、前半の話の進め方はさすが上手いな、なんて思ってしまった。新宿駅の片隅にうす汚れてヒザを抱いているバルボラの姿は象徴的だ。ちょっとYOASOBIの歌が似合うような気もする。
ヴェルレエヌの詩を口ずさむバルボラ。手塚治虫のエッセイでその学識の深さに感嘆したことがあったけども、少し前の青年が好きだったんだろうという芸術の知識も織り込まれる。まあまずおもしろかったかな。
ビブリア古書堂の手塚治虫編でも読もうと先ほど栞子さんを引っ張り出したところ。
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