◼️ 仁木悦子「私の大好きな探偵」
良き時代感と、独特のかわいらしさ。
書評を見かけて興味を持った。1957年、「猫は知っていた」で第3回江戸川乱歩賞を取り、日本のクリスティと言われた女流ミステリ作家の草分け的存在の仁木悦子。
仁木雄太郎と悦子の兄妹が活躍するシリーズから作品を抜粋した短編集。
「みどりの香炉」
「黄色い花」
「灰色の手袋」
「赤い痕」
「ただ一つの物語」
が収録されている。最後の一篇を除いては1957年、昭和32年から1961年、昭和36年までの作品。「みどりの香炉」では兄雄太郎が中学3年生、妹悦子は中学1年生。他も子どもの設定になっている。
江戸川乱歩賞を取ったのは仁木兄妹が出演する長編「猫は知っていた」。そのラストで、富裕な商人であるサボテン(文中では「シャボテン」)コレクターが外遊するため、雄太郎がシャボテンコレクションの世話を依頼され、豪邸に兄妹して住み込む。おおむねその設定を踏襲しているようだ。
兄・雄太郎のキャラがいい。かもいを超えるほどののっぽ。異様な植物好き。やがては植物学者への道を歩むらしい、クールな頭脳派。その植物オタクな知識が事件解決の糸口となる。
著者と同姓同名の妹・悦子は背が低くぽっちゃり型。おきゃんで行動派。
事件は離れに平和そうな設定とは裏腹に、事件の多くには殺人が絡む。現実的な金銭の動機、身内、近しい者が犯人という構成、図面を使い、謎を散らした展開と、ホームドラマ的な展開に本格のテイストが見え隠れする。
びっくりするようなトリックはなく、たたみかけが早すぎる気もするかな。
「灰色の手袋」は洗濯屋という呼び方がしっくりくるクリーニング店での殺人事件。住み込みの店員には傷痍軍人もいる。やりとりや服、小物などに時代の匂いがして良い雰囲気だなと心に残る。
最後の「たった一つの物語」は1971年、昭和46年の作品ですでに悦子は結婚して幼い息子と娘がいる。亡くなった、友人の童話作家が生前息子に描いた手作りの話と絵本、その主人公のぬいぐるみがトリックに絡む。それなりに大きい館、病に臥した女性童話作家、宝石とミステリっぽい匂いがプンプンする。悦子は新聞社に勤める夫の知恵も借りて、子どもを連れて車を運転し行動的に調査する。兄は出てこない。
この物語は、悲惨な事件ではあるが、解説にある実際のエピソードとともに温かなものを心に残す。仁木悦子の聡明そうな写真を最後に見て、いい読書だったと思った一冊だった。
◼️ 田口壮「プロ野球・二軍の謎」
少し前の本。自分のやり方、の変革。
メジャーリーグでも活躍した田口壮・現在オリックス1軍外野守備走塁コーチの著書。2軍監督として、初めて指導者側に入った時の体験、気づきについて書いたもの。
スポーツ選手が書いたものはけっこう読む。その中でもこれってまさに新任管理職や、40代50代のヒトの思考に近いかも、なんて思ってしまった。
田口壮といえばイチローとともに前回優勝時の外野を守り、のちにメジャーリーグで3回もワールドシリーズ優勝を経験した選手。その田口が2軍監督1年めに経験したこと、考えたことなどを述べている。
2軍のあらまし、アメリカのマイナーとの違い、監督の仕事や悩み、現代の若い選手の特徴、自らの立場が生み出すもの、などなどだ。
最初の方で本人がまさに2軍監督は中間管理職のようなもの、と例えている通り、チームの目的に従う者であり、その無意識の行動がコーチや選手に影響を及ぼす。
選手として成功した方だけに、日常生活から自分のやり方が確固としてあって、その点が与える影響についても、関西人らしくおもしろおかしく自らひもといている。例は結構プリミティブだけれども、ああ、あるなぁー、と思わせる。
プロ野球は体育会系気質、それは今でもあるだろう。プロの世界だから、も、でも指導が行き過ぎたり、理不尽な怒りをぶつけられたり、というのは通らなくなってきている。そのあんばいは思った以上に難しいかもしれない。自分が入ったころは・・と思い、いまはそれじゃアカン、というのも世代特有かなと思う。2軍選手は仕事の指示を飛ばす若手社員ではなくて、常に教えられる、進歩させる対象というのがまた特殊ではある。
地元が近いし、関西の球団だしとちょっと思い入れ深く読んだかな。
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