2022年4月3日日曜日

4月書評の1

ホームズ短編をひたすら読んでいる。スキマ時間で読むのがだいたい20日間、書評というか、英語のフレーズを取り混ぜた全編紹介文を書いていると2日くらいかかる。会社なら非効率として改善対象だけども・・


シャーロッキアンとしての目線で読むと、英語を読んで初めて気づくこともあり、知ってたことを改めて感じることあり、また知識の整理もできる。なにより趣味なので何かに支障が出ない限り時間をかけてもぜんぜんOK。


楽しみは、思い切り楽しむべし。長さも気にしないし、効率なんてサヨウナラ、だ。


◼️Authur  Conan  Doyle 

The 'Gloria Scott'(グロリア・スコット号)


ホームズが探偵を志すきっかけとなった事件。


ホームズが大学時代、友人の家でバケーションを過ごしていた時に起きた事案です。ホームズシリーズ中、ホームズの1人称作品は「白面の兵士」「ライオンのたてがみ」の2編ですが、この作品も最初の方と、折々にワトスンのつなぎのような文言は入るもののほとんど独り語りの回想となっています。


よく知られているように、イギリスで有名な大学といえばオックスフォードとケンブリッジ、いわゆるオックスブリッジです。シリーズ中にホームズが所属した大学は明示してありませんが、ほのめかす作品はあり、オックスフォードかケンブリッジかはシャーロッキアンたちの楽しい話題のひとつとなっています。


さて、ある冬の夜、ホームズはワトスンに手紙を見せます。


The supply of game for London is going steadily up [it ran].

Head-keeper Hudson, we believe, has been now told to receive all orders for fly-paper and for preservation of your hen-pheasant's life.


「ロンドンの狩猟対象への供給は着実に増加している。

管理人長のハドソンは、我々の信じるところでは、ハエ取り紙とあなたのメスの雉の生命の維持とをたしかに受け取ったと語った」


なんじゃこりゃ、ですね。ホームズものではgameとかsportは狩猟を指すことが多いなと英文読み初心者。それにしても意味が分からない。これは昔起きた事件に関係する重要な手紙でした。ホームズは暖炉の前でパイプに火をつけ、ワトスンに語り始めますー。


大学時代の2年間、ホームズはある意味引きこもりでした。自宅でひたすら思考方法の訓練をしていました。フェンシングとボクシングは熱心にやっていたものの、他の学生とは研究対象が違い、友人など1人もいなかったそうです。


そこに現れたのがビクター・トレバーでした。彼が連れていたブルテリアがなんとホームズの足に喰らいつき、踵に怪我を負って10日間も横になって過ごさなければなりませんでした。トレバーは何度も見舞いに訪問してくれ、2人は仲良くなりました。


ビクターは活力が漲った元気な男、しかしホームズと同じように友人はいなかったようです。トレバーの誘いを受け、ホームズはノーフォークにあるビクターの父親の館で1か月間のバケーションを過ごすことになりました。



あたりは湖沼地帯で、野生のカモのすばらしい猟場がありました。館は


The house was an old-fashioned, widespread, oak-beamed brick building, with a fine lime-lined avenue leading up to it. 

「古い形式で広く、オーク材の梁のあるレンガ造りの建物で、立派なライムの並木道が家まで続いていた」


最近「シャーロック・ホームズの建築」という本を読んだのでこのへんも気になったりして笑。


ホームズはパパ・トレバーに関心を惹かれました。

Old Trevor was evidently a man of some wealth and consideration, a J. P., and a landed proprietor. 

「トレバーの父は見たところ財産と思いやりのある、治安判事の地主のようだった」


J.P・って治安判事のことなんですね。


He knew hardly any books, but he had travelled far, had seen much of the world, and had remembered all that he had learned. 

「ほとんど本は読んでいなかったが、世界のあちこちを旅して、見聞きしたことは全て覚えていた」


In person he was a thick-set, burly man with a shock of grizzled hair, a brown, weather-beaten face, and blue eyes which were keen to the verge of fierceness. 

「がっしりして、もじゃもじゃの白髪混じりの髪、陽に灼けた褐色の肌、そしてともすれば獰猛ともいえる鋭く青い目をしていた」


そして、寛大な判決をするとして、思いやり深いとの評判でした。


しばらく経ったある夜、夕食後ポートワインを飲んでいる席で、ビクターが、ホームズの観察と推理のことを話し出しました。たぶんすごいんだぜ!とか言ったんでしょう。若い頃から目を見張るような推理をしてみせたんでしょうね。ワトスンくんがたびたびビックリしてるように。


パパ・トレバーはまた息子がおおげさに言って、なんて思ったのでしょう。自分を観察してみなさい、と笑いながら言いました。ホームズはこう答えます。


I fear there is not very much,' I answered. 'I might suggest that you have gone about in fear of some personal attack within the last twelvemonth.


「それほどたくさんはありませんが、あなたはこの12か月というもの、誰かに攻撃されることを恐れていた、と言えそうです」


パパトレバーの口から笑みが消えました。壊滅させた狩猟団の復讐に備えていた、どうして分かったのか知らんが、と口にします。


ホームズはステッキに鉛を溶かし入れてあることを指摘します。促すオールドトレバーに応じて、ボクシングをしていたこと、かなりの採掘を経験したこと、ニュージーランド、日本への旅行、といったことを言い当てます。そしてーJ. Aというイニシャルの人物と親しかったが忘れたいと強く思うようになった、と告げた次の瞬間、なんと父トレバーは失神して前のめりに倒れてしまいます。


幸いにもすぐに気が付き、心臓が弱っていることを打ち明けた父トレバーはホームズにこう言います。


That's your line of life, sir, and you may take the word of a man who has seen something of the world.

「それが君の人生の方向だ。世の中の物事を見てきた男の言葉として信じて構わないよ」


the very first thing which ever made me feel that a profession might be made out of what had up to that time been the merest hobby.

「それが、単なる趣味だったものから、専門的な職業が生まれるかもしれないと感じさせた、まさに最初のできごとだ」


ホームズの運命に大きな影響を与えたトレバー氏はしかし、その後ホームズへの態度を変化させます。まあ、こいつ何を知ってるんだ、ということでしょうね、気まずさで滞在を切り上げようとした日に、ある男が尋ねてきます。


萎びたような老人で、ボロボロの恰好をした船員の男の・ハドソンでした。ハドソンは「あんたかベドウズのどちらかに世話になろうと思って」とずるそうに笑います。


父トレバーは喉をしゃっくりのように鳴らすと、ハドソンの機嫌を取るように、食事をすすめ、仕事も探してやる、と言うのでした。


ホームズはロンドンに戻ります。7週間後、ビクターから助力を必要としている、という電報が届き、急いで北部ノーフォークへ向かいました。


The governor is dying

「親父は死にかけている」


小型の馬車、ドッグカートで迎えに来たビクターはホームズに告げます。


Apoplexy、卒中だ、とのこと。驚いて訊くホームズにビクターは説明します。ハドソンだ、と。


it was the devil himself

「あれは悪魔そのものだった」


ハドソンは庭師としてトレバー家に雇われたが不平を言ってすぐに執事に格上げされた。汚い言葉遣い、飲酒癖、また勝手に父トレバーの上等の銃で狩猟をするなど好き勝手をしていた。父親は毅然としたところがなくなってしまい、ハドソンを止めることはなかった。そして、父に横柄な口の利き方をしたのに怒ったビクターは両肩を掴んでハドソンを部屋から追い出した。


父は取りなそうとしましたが、ハドソン出て行ってベドウズのところへ行く、と言いました。


I've not had my 'pology,

「謝罪の言葉は聞いてないな」


とげとげしいハドソンの言葉、謝るよう促した父に、


I think that we have both shown extraordinary patience towards him

「我々は彼にとても我慢強かったと思う」


とビクターは言い放ちます。


Oh, you do, do you?

Very good, mate. We'll see about that!

「おお、そうか、そうかい。

いいだろう、坊や。いまに分かるさ!」


ハドソンは出ていきました。そして昨日、一通の手紙、冒頭の手紙が届き、目を通したトレバー氏は、脳梗塞で倒れてしまったのです。


家に着いた時、すでにトレバー氏は亡くなっていました。そしてビクターがこの手紙を持ってきたのでした。


The supply of game for London is going steadily up [it ran].

Head-keeper Hudson, we believe, has been now told to receive all orders for fly-paper and for preservation of your hen-pheasant's life.


ホームズは考え、最初のTheから3つめごとの言葉を拾っていくと意味が通ることを突き止めます。


The game is up. Hudson has told all. Fly for your life.

「終わった。ハドソンはすべてを話した。命が惜しければ逃げろ」


ビクターは、日本の戸棚に父の書いた文書を見つけていました。彼の頼みでホームズは読み上げます。


Some particulars of the voyage of the bark Gloria Scott

「バーク船グロリア・スコット号の顛末」


1855年の話でした。文中に三十年前、という言葉があるのでそのままとれば、1885年のことだと思えますね。


トレバー氏の名前は本名ではなく、James  Armitageでした。J. Aという刺青を消そうとした、とホームズに指摘されて失神してましたね。元の名前だったというわけです。こうなるとどう呼ぶか迷いますが、トレバー氏のままでいきます。


若きトレバー氏は銀行に入り、私的流用が露見して逮捕されます。そして国外追放となりオーストラリア行きの囚人船グロリア・スコット号に乗せられます。


船には38人の囚人が乗っていました。トレバー氏の隣の独房にはプレンダーガストという、195センチはありそうな、かなり背の高く活力のありそうな男が入っていました。彼はロンドンの商人たちから大金を集めた詐欺で逮捕されて、結局金は見つかリませんでした。プレンダーガストが巧妙に隠していたのです。


彼はその金を船に乗り込んでいる教誨師に握らせ、囚人の仲間と船員、二等航海士、囚人の看守をも抱き込み、出発前から船の乗っ取り計画を立てていたのです。1人につき拳銃2丁持ちかけられたトレバー氏も仲間に加わりました。


この話は長いので特に取り上げませんが、プレンダーガストの言葉はなかなかまともに訳しにくい。読みやすい文語と違って、荒くれ者の口語?はこんなんなんだろうな、と思わせますね。


トレバー氏のもう一方の隣の囚人はエバンスと言いました。トレバー氏が仲間に引き入れたこの男は後のベドウズ氏と思われます。さて、ほとんどの囚人が参加した蜂起は、医師が診察に来て拳銃を見つけたことで突然始まりました。


囚人たちは一斉に飛び出して兵士を撃ち殺し、船長は教誨師が殺し、サロンを乗っ取りました。兵士たちに天窓から一斉に攻撃されて一時は危うくなりましたが、プレンダーガストが暴れ回り、蜂起は囚人たちの勝利に終わりました。


捕虜たちをどうするかで意見が分かれます。自由をつかむまではしょうがないけれども、もう凄惨な殺人はしないでいいではないか、という派、トレバー氏はこちらでした。もう一方はプレンダーガストを中心とした、証言台で余計なことをしゃべらないように全員処刑する、という派でした。


It nearly came to our sharing the fate of the prisoners, but at last he said that if we wished we might take a boat and go. We jumped at the offer


「我々は危うく捕虜たちと運命を共に仕掛けたが、しまいにプレンダーガストはもし望むならボートに乗って去ってもいいと言った。我々はこの申し出に飛びついた」


プレンダーガストは難破船の船員を装え、どこで沈んだと言え、と指示します。トレバー氏、そしてのちにベドウズとなるエヴァンスほかの囚人たちは水と食糧を積込み母船を離れます。


しばらくして、グロリア・スコット号の船影が水平線の彼方に消えようとした時でした。


Suddenly as we looked at her we saw a dense black cloud of smoke shoot up from her, which hung like a monstrous tree upon the sky-line. A few seconds later a roar like thunder burst upon our ears, and as the smoke thinned away there was no sign left of the Gloria Scott. 

「我々が船の方を見ていると、突然真っ黒い煙が噴き上がった。怪物のような木が水平線に浮かんだかのようだった。数秒後、雷鳴のような音が轟いた。煙が薄れた時、グロリア・スコット号は影も形もなかった」


トレバー氏らは、慌ててボートを漕いでその地点へ向かいます。無数の木箱、マストの破片といった残骸が波間に揺れていました。助けを呼ぶ声が聞こえ、ハドソンという若い船員が破片に横たわっていました。


救助したハドソンが言うには、プレンダーガストたちは次々と捕虜を処刑した。残るは一等航海士のみとなった時、一等航海士は縛めを解いて逃れ、船倉にある火薬の樽を盾にマッチを持って、危害を加えたら全部フッ飛ばすと息巻いた。誰かが誤って発砲し、次の瞬間大爆発が起きた、ということでした。


その後トレバー氏らはオーストラリア行きの帆船に救助され、弁明に疑義を挟まれることなくシドニーに届けられました。それぞれ名前を変えたトレバー氏とベドウズは採掘で大儲けをし、裕福な植民地人として母国に帰り、20年以上平和な生活を享受してきました。


そこへ現れたのが、トレバー氏らがもと囚人で護送船の乗組員を殺害して脱走した過去を知るハドソンだったというわけです。


後日談として、トレバー氏らの過去が暴露された形跡はなく、ベドウズとハドソンはどちらも行方不明、ハドソンはベドウズの地所付近をうろついているのを目撃されていました。ホームズは事が露見したと勘違いしたベドウズがハドソンの口を封じ、有り金を持って逃亡したと推理しています。


打ちのめされたビクターはネパールのタライ高原で茶の農園を経営している、とのことー。ホームズはこう締めくくります。


if they are of any use to your collection, I am sure that they are very heartily at your service.

「もしこれが君の事件簿に役立つなら、自由に使ってもらって構わないよ」


さて、エピソードの奥にエピソードが隠れており、感触的には長めの短編、といった感じですね。ホームズものとしては珍しく、血で血を洗う的な凄惨な場面が描かれます。


ホームズ作品には、大英帝国時代の世相を反映して、新大陸アメリカ、また今回のようなオーストラリアやインドなど植民地での過去の因縁が犯罪に絡む、といった事件がよく見られます。特徴をよく表している作品のひとつであり、何より若きホームズが手がけた最初の事件、ということでシャーロッキアンには記念碑的な物語です。


この作品に続いてやはりホームズの学生時代に関係のある「マスグレイブ家の儀式書」が書かれているのも面白いところですね。ご紹介はまたの機会に。






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