◼️ 三上延「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅲ
〜扉子と虚ろな夢〜」
キャラ多め。ドグラ・マグラ読もうか・・ちょっとビビるワタシ。
栞子の母親・智恵子とも親しかったという愛書家の杉尾康明が亡くなった。離婚した元妻・佳穂のところに高校1年の息子・恭一郎がいて、康明の蔵書に関して相続権がある。しかし康明の父、恭一郎の祖父で古書店店主の杉尾は、恭一郎に相続させず、蔵書をすべて売るという。恭一郎に相続させたい佳穂が、ビブリア古書堂店主・篠川栞子に相談に来る。
杉尾はデパートの催事場で行われる古本市に康明の本を出品し、アルバイトとして当の恭一郎に手伝わせる。恭一郎は栞子と夫・大輔の1人娘で同じ高校に通う扉子と仲良くなるー。
ビブリアシーズン2の2作め。しかしこのナンバーの付け方は誤解を招くな。すでに2の3巻が出たかと思って危うく既読のⅡを買うとこだった。
出てきた主な書籍は「怪獣島の決戦 ゴジラの息子」などゴジラ映画のパンフレット、山田風太郎「人間臨終図鑑」、樋口一葉「たけくらべ」「十三夜」「通俗書簡文」など、そしてメインは夢野久作「ドグラ・マグラ」。
微笑ましい高校生の付き合い。扉子もまた母、祖母に似て本が好きすぎる性格で、学校に友だちはいないらしいが栞子よりも社交的。推理力も鋭く、事件を見事解決する。
親子、家族で謎の解決にあたる新パターン、篠川智恵子さんもご登場。気になっていた本の魅力も盛り込んでいて相変わらずスラスラ興味深く読める。
ただまあその、登場人物が多くなったせいか、推理の道筋がやや散漫なような気もするし、ワトスン役の五浦の伝聞体基本、というのが薄くなってるな、ちょっと紛らわしいかなと思う。動機、結末も今回はうーんと。
「ビブリア」は古書業界、古本が中心、ということもあっていつも何やら江戸川乱歩の小説や横溝正史もの映画のような、近世日本的な良い雰囲気を漂わせている。いわばモノクロームの内容に、カラーの映像、といった感じだろうか。怪しさと古書の魅力は表裏一体で、登場人物にやや過剰気味に影があるのも特徴か。
キャラ多めのところは、髙田郁「みをつくし料理帳」のようににぎにぎしくそれぞれのキャラを立てつつ、というのもありのような気がするが、まあ上述の雰囲気を持つミステリというベースだから無理かも、なんて余計なことも考える。
「ドグラ・マグラ」の舞台、九州大学医学部はなじみがありその点ちと惹かれはするが、どうも暗くややこしそうだなと。ちょっとビビって手が出ないかな。
◼️ 田辺青蛙「大阪怪談」
不思議な話、怪異は歴史に行き着く。単純におもしろい。
タイトルの通り、大阪、市内やその近郊から日本猿と高級住宅街で有名な箕面市や八尾市、星降る街交野市など府内の怪談や不思議な話を集めたもの。取材した聞き書きが多く、1篇が数ページのライトな作り。まあ大半の由来は後付けだと思うけども、大なり小なりその土地の歴史に行き着くことが多いので興味深い。
大阪への空襲、死者79名を出した天六ガス爆発、明治期のペスト大流行、織田信長や豊臣秀吉も出てくる。
茨木市の鬼伝説は特に好きで、京都・大江山の鬼、酒呑童子の一の子分である茨木童子は源頼光の四天王の1人、渡辺綱に襲いかかり腕を切り落とされるが、取り戻しにくる、という話はいまでもお気に入りだ。さらに茨木にはキリシタン伝説もある。
花博、国際花と緑の博覧会あとの鶴見緑地が有名な幽霊スポットとは知らなかった。当時いちょう館というパビリオンでコンパニオンが髪を引っ張られたり、いきなり大勢の拍手が聴こえたり、落武者を見た人もいたという。テレビや雑誌でずいぶんと取り上げられたそうだ。
軽いやつで心に残ったものを1つ。現在日本一高いビルは大阪のあべのハルカス。そこに入っていた子供服売り場。店員さんが、誰もいないのにクイっと後ろに、髪の毛や服を下の方向に引っ張られる。
座って作業しているタイミングが多いから子供ちゃうか、という話になって、ある時髪を引っ張られた人が、振り向かないまま「ママを探してるの?」と訊いたら、小さい子の声で
「うん・・」
と聴こえてきて、店員さん、売り場中に響き渡る声で悲鳴を上げたとか。いまはその売り場もなくなったらしい。
体験者、伝聞を言う人の語りがなかなかリアルナニワっぽくてくふっと微笑ましい。梅田や大阪城かいわいのスポットにはちょっと興味あったりして。それなりに楽しい読み物でした。
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