◼️スティーブン・キング「ミスト」
意外に?面白くて夢中に。予備知識なしで読んだのが吉に転んだ。霧の中に、何かがいるー。
地元に設置された交換用本棚で見つけた本。ここは転売されないよう、カバーを外して置いているから、カバー裏のイントロダクションも読まず、キングだからたぶんイケてるだろうしと内容知らずに読んだら、夢中になってしまった。
面白そうかそうでないか、ふだんはwebの書評やカバー裏を多少は読む。今回は知らないことで、中身が霧に覆い隠されたかのように読み手にも見えず、それが吉と出た。あとはイメージ。キングって読んだのはたしか「11/22/63」だけであとは映画「スタンド・バイ・ミー」の印象が強いからここまでホラー色強い人とは思ってなかった、正直。ああ物知らず。
アメリカ北東部、メイン州の避暑地に住む画家デヴィッド・ドレイトンはひどい嵐の翌日、自宅近くの湖面に濃い霧が漂っているのを見る。息子のビリーとマーケットで買い物をしている時、マーケットが霧に包まれる。男が霧の中で何かにさらわれた、という声が上がる。発電室に行ったデヴィッドは、暗闇の中、霧の漂う外で、何かが這って入ってこようとしているような音を聞く。(霧)
「霧」は映画化されたホラーもので、言ってしまえば、霧の中には異様な生物がたくさん居て、人を襲い、喰う。街の近くの秘密施設の科学実験が原因と匂わせている。
スーパーマーケットには約80人がいて籠城する。シャッターを閉めに外に出た店員が悲惨な最期を遂げ、事態を信じられないグループが霧の中に出て、悲鳴とともに消える。主人公も、いつまでもここにいるわけにはいかないと脱出を計画するが、店内には不気味な宗教のようなグループが出来ていて・・という流れだ。
恐怖に支配されたさまざまな個人と集団心理の描写が興味深い。好ましいキャラがあっという間に犠牲になっていく。巨大ザリガニが暴れる有川浩の傑作「海の底」を思い出す。こちらは何種類ものデカい、コワーイ生物たちで、人間が食物連鎖の恐ろしい輪の中に入ってしまった気までする。誰もかれも容赦なく殺される、ってところには、王が臣民親族を信じず殺しまくるシェイクスピア「リチャード三世」をなぜか思い浮かべた。
1980年の作で、たしかにその時代っぽく、これは映画化に向いてる、っていう感じだった。もっと不気味さと、SF的科学現象が主かと思ったらそっちへ来たか、と。でも途中から忘我で、夜遅くまでかかって読了した。
この物語には完全解決がなく、ジョン・ウインダム「トリフィド時代」を思い起こさせる。ディストピア化してしまった世界。当世のコロナ化になぞらえて不吉な感を抱きつつ、でも楽しくて夢中になって完読した。
勇敢な老女教師、ミセス・レプラーに乾杯。
「霧」の他にいくつかの短編が収録されている。これまたはちゃめちゃに暴力願望を爆発させてしまう「ノーナ」がまあまずかな。
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