2020年7月12日日曜日

7月書評の2





野いちごの一種、ナワシロイチゴ。食べられるらしい。子どもの昔は野山を駆け巡って、気にせず食ってたなあ。

◼️川端康成 幸田文ほか「犬」


文豪たちの、犬にまつわる小説・エッセイ。折々に川端康成の動物好きが出てきて、おもしろい。


ふと目について入手した。1954年に刊行された本を、著述・編集ブックデザインを手がけるユニットが文庫にリニューアルしたもの。戦前の話が多く、放し飼いの時代感や犬種の流行が見える。動物を多く飼っていた川端康成のちょっとした奇人ぶりも伺える。漫画入りのものを含めて10篇を収録。


◇阿部知二「赤毛の犬」

愛嬌があって強く、子供たちに可愛がられている赤犬ジュジュ。翻訳などを手がけている主人公は、背の高い、目の大きい謎の女がジュジュをとりわけ可愛がっているのを知る。ジュジュをかばうおばさまたちに、この女は不審がられていた。


人気者の野良犬ジュジュもだんだん周囲の目が変わっていきついに・・。ジュジュは秋田犬とポインターの混血。へええ、という取り合わせ。


◇網野菊「犬たち」


物書きで苦しい暮らしをしているヒロ子は、下宿先の離れにいるテルとポチを気にかけていた。エアデール系統で噛みつきグセのある牡犬テルと雑種で母性愛のないポチ。ヒロ子は2頭に振り回されるが・・


犬の性格はホントにさまざま。丁寧な描き方に好感。噛みつきグセにも脱走にも手を焼いたことのある身としてはシンパシーが湧いた。


◇伊藤整「犬と私」


昭和7年ごろ、著者は川端康成の上野の家を訪ねるたび犬に吠えたてられ、川端のあのマバタキをしない目で見つめられると「この世には隠れ場所がない」と思ったものだとか。それを前段として高貴に育てられたもらい犬ミミィと著者の細やかでコミカルな日々の話。


◇川端康成「わが犬の記述  愛犬家心得」


巨匠川端康成の評論はなにかにつけ、高説をぶつ、とはこんな感じかなあ、という物言い。今回も川端らしいなあと思ったエッセイ。それにしても数が多い。グレイハウンドとワイヤア・ヘエア・フォックス・テリヤ、コリイ、ボルゾイなど一時は十五六頭にも殖えるだらうと書いている。飼いすぎでしょー、とツッコミたくなる。


「犬ばかりでなく、いろいろな動物のために設計した家を建て、動物の群のなかに一人住むことは、私のかねがねからの一つの空想である。」


動物王国構想・・川端は鳥もたくさん飼っていた。上記伊藤整の前段にも出てくる。すごいなあ。


愛犬家の心得もいくつか。愛する犬のうちに人間を見出すべきではなく、愛する犬のうちに犬を見出すべきである、と書いた後、その段落をこう締める。


「忠犬は忠臣よりも遥かに自然である。犬の忠実さには、本能的な生の喜びがいつぱい溢れ、それが動物のありがたさである。」


他にもいろいろ心得はあるが、この一文には得心がいった。犬にしかない忠は確かにあるかも。


◇幸田文「あか」

ちいさなア子ちゃん。どうやら幸田文本人のようだ。ア子ちゃんは赤い大きな犬、アカを飼うことになった。アカは毎朝の学校やおつかいの時、ア子ちゃんを送っていく。けれど可愛がろうとすると逃げてしまう。ある日のおつかいの途中、アカとア子ちゃんは闘犬の雄、ブルのゴンと出会い、激しい戦いが始まったー。


川端の高説の次にかわいらしい話を読むと心がいい具合によろけてしまう。これが幸田文の作品読み始め。言葉の種類が多く、気が利いている印象。


◇志賀直哉「クマ  犬の遠足」


志賀直哉は家族と奈良に住んでいた。東大寺かいわいを散歩しているのを読むと羨ましい気になってくる。その散歩の途中、東大寺の境内で娘が雑種の子犬を見染め、クマと名付けて飼うことになり、東京にも連れて行ったが、鎖を外してやるとほどなく迷子になった。心配する志賀と家族。そして、バスの中から偶然クマを見かけ、志賀直哉、クマを追いかけ爆走ー。


最初は駄犬と思い、東京に連れていく気もなかったがだんだん志賀が心奪われる過程が楽しい。爆走ってもう、ドラマか映画みたい。


◇徳川夢聲「トム公の居候」

トムとクロ、牡犬どうしの不思議な同棲。関係性がなかなか興味深い。


◇長谷川如是閑「『犬の家』の主人と家族」

空想的な作品。犬舎で多くの犬を飼う「私」。家が兵庫・芦屋の高台。風景が分かるだけに、親近感。


◇林芙美子「犬」

林芙美子が大きいポインターの雑種、赤犬を飼い始めた。動物嫌いだったのが「此犬がうちへ来てから、さう厭でもなくなり始めた。」


「犬の神経には、非常にデリカシイがある。」

芝生に寝っ転がる林にチョッカイを出しに来る、夜遅く帰ってくると、この犬だけが起きて待っていて、くんくん鼻を鳴らす。それはもう、

「全く新婚の奥さんよりも甘く優しい。」


弱味噌で猫に負けて帰ってきたり、夜番の提灯のカチカチという音がお気に入りで聞こえると走って出て行く。初めて犬を知った林の溺愛ぶりが伝わる。


ところが!川端康成氏の紹介でみみづくのププを飼うことになった。また出ました川端氏(笑)。興味を持ってかまう林芙美子。するとすぐポインターは家出してしまった。


微笑ましいが、途中からみみづくに心が行ったような書き方で、移り気な林芙美子^_^


ポインター多いな。ハイソ層に人気だったのかな。101匹わんちゃんの犬・・はダルメシアンか。


◇クラフト・エヴィング商會

「ゆっくり犬の冒険  距離を置くの巻」


うん、犬の漫画。なんか黒鉄ヒロシを思い出す。



私は環境的に、物心ついた時から家にはずっと犬がいた。スピッツ、ポメラニアン、チワワに雑種。歌を歌うチワワ、忠実だが噛んだり逃げたり困ったちゃんの雑種。そして今もミニチュアダックスフントを2頭飼っている。筋骨隆々で健康だが車と見ると爆走して追いかけたり、愛嬌抜群だけれどガンコで運動嫌いだったりとそれぞれ手が焼ける。


今回、犬にも共通のかわいげ、独特の忠実さに加えさまざまな性格や癖が細かく描かれていたから実感として分かる部分もあった。


私は猫も飼っていたのでこちらも慣れている。でもトータルではやっぱ犬飼いかな。ちなみにシリーズで「猫」もあるそうです。谷崎とか内田百閒とか、知らないが想像はできる。こちらも出逢ったらまた読もう。



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