◼️宮本輝「草花たちの静かな誓い」
井井たる小説。なにがポイントなのかが明確。著者初のミステリーとか。
巨匠宮本輝は「螢川」「葡萄と郷愁」しか多分読んでいない。以前は舞台装置と主人公の境遇など、画面を灰色や黒に塗りつぶし、そこに一点の光を見せる人というイメージだった。
久々に読むと、宮本輝もこんなん書くのか、という感じの、大衆ミステリーっぽいテイスト。
小畑弦矢は、日本滞在中に急逝した叔母の菊枝・オルコットの遺骨とともに叔母の家があるロサンゼルスに飛ぶ。弦矢は叔母夫婦の世話で、当地の大学に留学していた。顧問弁護士に会った弦矢は、自分が叔母の死により巨額の遺産を得たことを知らされる。ただ、遺言書には、叔母の娘・レイラがもし見つかったら、遺産を分け与えてほしいと記されていた。弦矢は、レイラは6歳になってすぐ、白血病で死んだと聞かされていたが、真実は違っていたー。
手がかりの手紙も、なかなか開かないからくり箱の中から見つかった。レイラは実際はスーパーで行方不明となり27年間見つかっていなかった。弦矢は、巨漢の探偵、ニコライ・ベロセルスキーにレイラの捜索を依頼する。
まあ、これでレイラが出て来なきゃあ、もしくはそれなりに説得力のある行く末がなければ嘘でしょう、となる。
最初はなかなか見えてこなかったものが、意外に早く明らかになる。だから先が見える。あまり残酷、とか悲惨、とかではないが、最後の方は予想できたとはいえ読むのに苦痛を伴った。納得できるようにか、うまい噛み合わせは感じられる。
先は読める、そうなると理由は一つしかない、という状況。読んだ感想で先に来るのは「整然とした」というもの。
当地のまあ、超セレブたちが住む豪邸、住宅街の様子を落ち着きの感じられる調子で描写している。また出てくる人がみな善人だ。菊枝と、その夫で弦矢にとっての恩人でもある故人のイアン。叔母の弁護士スーザン、日系の庭師ダニエル、掃除婦のロザンヌに探偵のニコ。そして全ての真相を明かすモントリオールの夫妻。しかしほんの少しの歪みが人生を大きく狂わせていく。
遺産の受取人となり、オルコット家の豪邸で過ごす弦矢の独り言はやや荒っぽく、ニコの口調とともに、のんびりとした街の中で良い異質さを感じさせる。豪邸、異国、理解しがたい状況の中での不安も漂ってくる。
ミステリーとしての満足感は薄まっているかな?とも思うけれど、良く整えられた話ではあるな、とは思った。
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