妻がスコーンを買ってきたので深い色のマーマレードで食す。スコーン大好き。
◼️北村薫「遠い唇」
ミニ・ミステリ、オマージュ、コミカルな話。軽くも深くも味わえる本。
北村薫のよさは、なんだろう。日常の謎解き、味のあるトリック、文学への造詣の深さ、軽妙でかつ心の柔らかい部分に染み込んでくるような会話やストーリーの流れ・・。
この本には独立の短編と、江戸川乱歩「二銭銅貨」へのオマージュ、「八月の六日間」、「冬のオペラ」といった自作のスピンオフなどといった小篇が盛り込まれている。
冒頭の表題作はほんの短い作品だが、暗号解読とほのかな恋情、郷愁が含んであってよく発酵したワインのように滋味深い。可愛らしい恋愛の残滓、断片があったかと思うと、宇宙人が出来して「吾輩は猫である」とか「走れメロス」で遊びだすコントのような話があり、「冬のオペラ」の名探偵・巫(かんなぎ)弓彦が登場するラストの殺人事件「ビスケット」は、謎解きがまたかなり文学的。どこかキュートがあるところも小憎らしい。
大雑把にいうと、作品というのはネタ勝負みたいなところがあって、時々ハッとはさせられるけれど、ダイナミックで読み手の目を惹く仕掛けは不可欠だ。北村薫にももちろんそういった作品はある。ただしっとりとした文章で、料理飲み物が織り成す美味しさのハーモニーのようなものを出していける人ではないかなと思う。
まあその、「八月の六日間」も「冬のオペラ」もだいぶ前に読んだんで、波長の同期というのは感じることができなかったが、軽くも楽しめる作品集だ。
未読のものもまだまだある北村作品は折にふれ読んでいきたい。またそのこっくりとした物語を舌で転がすように味わいたい。
◼️京極夏彦「今昔百鬼拾遺 天狗」
近代から現代へ移行期、若い女2人の死体とさらに2人の不明者、衣服の謎も2つ。一気の解決は読みどころ。
京極夏彦は「姑獲鳥の夏」で感嘆し、「笑う伊右衛門」を愉しみ、先日は「遠野物語remix」を興味深く読んだ。今回「鬼」と「河童」の連作なのかな。
戦後しばらくの頃、女子高校生の呉美由紀は、探偵事務所で出会ったお嬢さま中のお嬢さま、二十歳の篠村美弥子と懇意になる。美弥子の友人、是枝美智栄が高尾山に出掛けたまま行方不明となり、数ヶ月後、別の山で美弥子が美智栄にあげた服を着た別の女、葛城コウの白骨死体が見つかったというー。
さらに物語には高尾山で首つり自殺した女性、2ヶ月前失踪した教師の女性が出てくる。高尾山では葛城のものと思われる、寺社参りに着用するような菅笠や白衣が見つかった。
4人の女、2つの死体。そして衣装。ややこしい事態。探偵役は美由紀の知人で新聞記者の中禅寺敦子。さて、どういうトリックなのか?
技術を凝らした創作ミステリー、という感想である。
まだ世情騒然としていたころ、幕末期の祖先と繋がりが見えていた時代、華族などの身分制度が廃止されたが社会的意識は残っていた社会がベース。そこに現代にも通ずる恋愛関係があり、男尊女卑の根強い風潮とそれに反発する感情エネルギーが媒体となっている。天狗伝説を基にするおどろおどろしさの演出も著者らしい。
終盤一気の謎解きには惹きつけられたし、こんがらがった糸をほぐすのはなるほど感がいや増した。美由紀の高校生らしいタンカも面白い。
高尾山に行って穴に落ちた美弥子と美由紀の会話シーンがたるいかな、と、感じたのと、まあやっぱ、少しややこしすぎるかな、というのはあった。
川端康成は処女作を超えるのは難しい、と書いたし、過去名作を残している人の作品はハードル高めになってしまうものだな、ともちょっと思う。シリーズ他作品の状況や登場人物のことがだいぶ語られているので、他の2作も読もうかという気になる。そのへん、綾辻行人の館シリーズっぽいかも。
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