◼️瀬尾まいこ「強運の持ち主」
直感占い師のルイーズ吉田。世にも稀な強運の恋人と同棲中。ショッピングセンターの一角できょうも客の背中を押してあげる。
瀬尾まいこ氏の名前は本屋で見かけていたが未読だった。本屋大賞作品の前にちょっとテイストをチェック。まあこれ以上ないくらいほのぼのしたライトな連作でした。2冊持っていけば1冊選べるという町の文庫本交換コーナーで入手したもの。
ルイーズ吉田、本名吉田幸子は、就職したものの半年で退職した。人間関係が理由だったため1人でできる仕事を探して、占い師ジュリエ青柳に弟子入り、二日間の研修で占い師に。最初は姓名判断、四柱推命の本を読んでまじめに占いをしていたルイーズは、次第に直感を駆使するようになる。大切なのは相手の背中を押してあげること。きょうも観察力と舌先三寸でルイーズは客に対応するー。
で、彼女に連れられて来た通彦が、どの本を見てもかつてない強運の持ち主だったため、ルイーズはあらゆる手を尽くして彼を手に入れた。通彦は料理を毎日作るが、おとぼけ料理が多く美味いとはとても言えない。
「お父さんとお母さんどっちがいい?」という小学生の質問をまじめに受け止め、調査する。彼を振り向かせたい女子高生は、ありきたりかと思ったら何度も通ってしつこく訊いてくる。「おしまい」が見えるという関西人のおしかけ大学生アシスタントと仕事をする、ついに一人で仕事をすることをやめ、もう1人子持ちの若い女性を雇い、訓練と通彦を占わせてみたら、暗黒の影が覗く。通彦は悩んでいたー。
という70ページほどの作品が4つ。憎めないキャラクターの創り方が上手く、まさにほのぼのと、適当な波があり、恋愛ごともありで進行する連作。ライトで読みやすかった。
ただ、もう少し、プラスワンの意外性が欲しいのと、押しがなさすぎか、という点が物足りなく、そこは次に読むであろう作品に期待したい。「戸村飯店 青春100連発」かやっぱり「そして、バトンは渡された」かな。
◼️川村湊「満州鉄道まぼろし旅行」
昭和十二年八月の、満州旅行。実際に行った人の資料をもとに再構成したもの。夢の世界に、現実を垣間見る。
大連に上陸、当時の鉄道網などを使って、大連→旅順→撫順→奉天→新京→吉林→牡丹江経由で哈爾濱→齊齊哈爾→満州里と旅する。旅は案内人のおじさんと、サツキくん、ヤヨイちゃんという少年少女。
現在からの目線ではなく、当時の建物や祭り、温泉、製鋼所、夜の街、歴史的観光地などを豊富な資料や写真をもとに、かつての時の流れの中で案内人が子どもに案内・紹介していく。建国4年目の満州国、8年後には消えてしまう国の、まさに「まぼろし」旅行。
歴史ある学園都市奉天、炭鉱の町撫順、満州国首都の新京、満州の"京都"である吉林、エキゾチックな都市哈爾濱(ハルビン)そして北満の都会、齊齊哈爾(チチハル)。興味深くはあるけれど、現代の読者である我々への、なんというか説明的なものは薄く、こちらはあまり顧みないでトントン進むイメージである。まぼろし旅行。
あとがきによれば、当時それなりによく売れたらしい。実は軽く目を通す程度で本当に長く積んでいた本。単行本1998年、文庫2002年だからもう18年も(笑)。私的には多分、司馬遼太郎「坂の上の雲」やなかにし礼「赤い月」といった、満州が舞台となった作品を読んでいた頃だったと思う。また世間的には、小林よしのり氏の「戦争論」の影響で満州国のことをよく知りたい熱が巷にあったのかもしれない。
旅行中、「満蒙開拓青少年義勇軍」の過酷な環境や移民団、小作農や自作農の次男三男らがあっさりと整備された農地を持てた実情ー満州人の農地を簒奪していたーや、傀儡国家の仕組とゆがみなども挟まみこまれている。日本にとってはじめての大規模な植民地は、壮大な実験国家だった。
満州国と移民たちは悲惨な末路を辿る。「赤い月」にもその模様が描かれているし、大陸から引き揚げてきた祖母から聞いたことがある。しかし、人口が爆発的に増えていた日本は、当時満州ばかりでなく、南米やカナダ他にも、まるで楽園のようなことを言っては移民を送り出していた。そのひずみと罪は、いかんともしがたい感情を覚えるな。
不思議な作品ではあった。当時の出来たばかりの街並みは壮大で、汽車の速度もあるけれど、本当に大陸が広いのが分かる。狭い日本とは違うといった、根源的な気持ち。しがらみのなさに憧れ、新天地に希望を抱き、時代の先端的な感覚も覚えながら、人々は海を渡り広大な大地を第二の故郷としたのだろうか。
信じられないような過去を見るに、「まぼろし旅行」は最適な手段のような気がした。
余談。よくあることだが巻末の新刊案内。
夏樹静子「幻の男」うわっ読んでみたい。
井上ひさし+こまつ座「太宰治に聞く」
あの世の太宰治に根掘り葉掘り聞くとか。これもマーク。
ようやく読了し、いろんな意味で満足。
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