2020年5月9日土曜日

5月書評の2







「7日間ブックカバーチャレンジ」が回ってきて、星野道夫の紹介をしたら猛烈に再読したくなり、読んだらもう再感動。だいぶ久しぶりだけど、いまの目で読んでもやっぱり遠大で深くてロマンのそそられまくり、よかったー!自然書評も長くなった。

やっぱ星野道夫、いいぜー。

◼️星野道夫「イニュイック」


やべー、やっぱり星野道夫△、かっけえ!アラスカの大地を疑似体験した再読。今回長いです。


DBさんからバトンを受けた「7日間ブックカバーチャレンジ」で紹介したら再読したくなり、かつての感情を思い出した。やっぱすごい、星野道夫。その冒険、写真も文も最高だ。アラスカの大地や海や川、グリズリーやカリブー、ムース、森の風景などがわーっと脳裏に広がる。それを目の前に、星野が感じていることがまた憎いくらいロマンティックで哲学的で、心に食い込んでくる。やカリブー、ムース、森の風景などがわーっと脳裏に広がる。それを目の前に、星野が感じていることがまた憎いくらいロマンティックで哲学的で、心に食い込んでくる。やべ、やっぱすげえいい。叫びたくなる。



「イニュイック」という本自体は写真が多いとは言えずモノクロなので「アークティック・オデッセイ」という写真集ブックを開きながら読んだ。このブックがまたイニュイックに沿ってるような感じで文章の抜粋もある。


どうしても前置きが長くなったが内容を。「イニュイック」というのはエスキモー語で"生命"という意味。読みながらマークしたページ、気になった部分をもとに短く。いやすみません長くなります^_^


I 家を建て、薪を集める】


友人のカレンに「いい森があるから買って家を建てなさい」と言われた星野はフェアバンクス郊外の森を買う。借りた小屋に帰るのでは旅行者の域を出ず、もっとアラスカに根を下ろしたいと考えていた星野が想いをめぐらすくだりがまた爽やか。


「風の感触は、なぜか、移ろいゆく人の一生の不確かさをほのめかす。思いわずらうな、心のままに進め、と耳もとでささやくかのように・・・・・・。」


【Ⅱ 雪、たくさんの言葉】


エスキモーにはたくさんの、雪を表す言葉がある。アニュイは降りしきる雪、クウェリは木の枝に積もる雪、それぞれの言葉について思い出を綴る。フェアバンクスの新居で冬を過ごす星野。


「マイナス四十度の日々が続いていた。薪ストーブは一日中燃えている。しかし冬至はもう過ぎた。この土地に暮らす人々にとって、冬至は気持ちの分岐点。なぜなら、この日を境に日照時間が少しずつ伸びてくるからだ。本当の寒さはまだ先なのに、人々は一日一日春をたぐりよせる実感をもつ。」


この話や、冬至を祝う行事はほかの著作でもたびたび出てくる。ものの見方を変えてくれた捉え方だった。


【Ⅲ  カリブーの夏、海に帰るもの】


北極圏ターナ川の河口で星野は、カリブーの大移動を撮影すべく、当たりをつけて待つ。


2:45pm 川向こうのツンドラの彼方に砂ぼこりが見えた。・・

4:00pm  あたりはもうカリブーの海だった。ほとんどの雌のカリブーが春に産まれた子どもを連れている。またうぶ毛に覆われたような子どもは、川を渡り終えると、まるで踊るように飛び上がりながら真すぐこちらへ走ってくる。一体何がそんなに嬉しいのだ・・

7:00pm  すべての群れが通り過ぎ、視界には一頭のカリブーもいない。アラスカの自然が見せてくれるこの動と静の世界にただ圧倒されていた。」


写真が多く残されている。夥しいカリブーの数。伝説でもあったカリブーの大移動。人がいようがいまいが何百年も繰り返されたであろう迫力の営みの渦中にいる気持ちは計り知れない。


【Ⅳ  ブルーベリーの枝を折ってはいけない】


星野はアラスカの古老の話を好んで聞く。アサバスカン・インディアンの世界を持つ土地最後のシャーマン、キャサリンの家族とムースの狩猟に出かける。


「過ぎ去った時代に思いを馳せる時、人間の歴史がもつ短さに僕は圧倒される。今一緒に旅をしているキャサリンや(夫の)スティーブンのわずか数代前の人々は、まちがいなく神話の時代に生きていた・・親からスタートして自分の分身が一列にずっと並んだなら、例えば二千年前の弥生時代の分身はわずか七、八十年先なのだ。振り返り、少し目をこらせばその男の顔をかすかに読みとることだってできるだろう。」


【Ⅴ  マッキンレーの思い出、生命のめぐりあい】


アラスカの原野で狩猟のみで生きる暮らしを続けたキース・ジョーンズ一家。マッキンレー国立公園で星野は彼らと久しぶりに再会、小さい娘だったウイローは17歳になり、キャンプ・デナリのロッジで働いていた。一家はウイローに新しい世界を見せるため、カリフォルニアに引っ越したが、精神的にエスキモーのウイローは、物質的な富を求めテレビに浸る人々が理解できず自分の意思でアラスカに戻ってきた。そのセリフがいい。


「ロッジの近くを時々カリブーの群れが通り過ぎてゆくでしょう。観光客の人々が何て美しいのでしょうと見ている時、私はどうしても銃に弾を込めて撃ちたくなってしまうの。だって秋のカリブーは本当においしそうなんだから・・それを言うと、みんなが目を丸くして黙ってしまうの。」


17歳の美しい娘さんです。


【Ⅵ 満天の星、サケが森をつくる】は割愛。だいぶ長くなってるがまだ書きまっす。


【Ⅶ  ベーリング海の風】


氷河期、ユーラシア大陸とアメリカ大陸、シベリアとアラスカの間の海、ベーリング海は水面低下によりベーリンジアという平原になっていた。紀元前一万八千年から同八千年ごろ、この草原を渡り、モンゴロイドはアジアからアメリカにやってきた。インディアンやエスキモーの祖先たち。星野はベーリンジアにロマンを感じ、過ぎ去った時代に耳をすますー。


「カリブーの秋の季節移動を追って、西部アラスカ北極圏を流れるコバック川を何度となく下ったとき、大きく蛇行したある土手にさしかかると、僕はボートを岸のぎりぎりに沿って走らせたものだった。土手に白いものが突き出ていれば、それは多くの場合マンモスの牙か骨だった。」


たしかに滅多に人は近寄らない土地だけれど、マンモスの骨や牙が転がってるなんてすごいロマン。


【Ⅷ  ハント・リバーを上って】


アラスカ北方、東西に横たわるブルックス山脈。前に出てきたコバック川流域は、人跡未踏の地が多く残っている。支流のハント川を遡る星野ら。川でグレイリング(カワヒメマス)を釣って炙って食べる。時は晩秋の九月。山は地衣類まで紅葉してワイン色の絨毯。この写真には憧れたものだ。夜の闇の中でコーヒーを啜りながら相棒のニックと動物についてとりとめのない話をする。


「ブルックス山脈の夜の谷は、タイムトンネルをくぐり抜けるのに苦労はいらなかった。今が一万年前だと思えば、私たちはそのまま洪積世の中にいた。」


もうたまりませんね。体験してみたいけど勇気がない。web友だちには、ユーコン川を単独でカヤックで降った人がいて、日本人のチャレンジャーは増えてるらしいですが、私はとても。2週間くらいかかるらしいです。


星野道夫は大好きで、出てる単行本は当時全て買ったと思う。断片的なエッセイが、違う本で繋がることも多い。例えば本書に少しずつ出てきているアラスカパイオニア時代の女性パイロット、シリアとジニーは別の作品で詳しく紹介されている。本書の、カリブーを見ると食欲が湧く少女ウイローが働いているのも、シリアとジニーが建てた営むロッジだ。


彼はアラスカに生き、カムチャツカで熊に襲われて亡くなった。没後に作られたドキュメンタリー映画も観に行った。遺したものは、あまりに美しい。

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