2020年6月26日金曜日

6月書評の2






6月の満月はストロベリー・ムーン。おまけに今年いちばんのスーパームーンだったとか。

オルハン・パムク、川端康成。両ノーベル賞作家の作品はずっと読み続けていたいなあ。


◼️森野正子「昔話 北海道  1集」


地名、人名、神様の名前などの、なんとも言えないエキゾチックな響きに惹かれる。


ほんの薄い冊子で第5集まである。1つめは北海道の内浦湾あたり、北海道の、人に例えれば「首」の内側の部分付近で取材した話を童話作家の森野氏が書いたものとのこと。


サクーコタンの酋長の三番めの息子は、身体は大きいのにヤリ投げも弓も、クマとの格闘も鹿の生捕りもみんなへたくそ。酋長の一族には、出来の悪い者は狼や熊がうようよいる谷へ投げ込む、というオキテがあった。酋長に遠いところへ逃げろ、と通告された三番息子は旅立ち、大きな川に辿り着く。すると川の向こう岸に同じような若者がいて、「(ここまで)とんでおいでよう」と呼びかけてきたー。(洞爺湖の中島)


この冒頭作は微笑みを浮かべて終わる話。以下、


「登別温泉の神」

「伊達市の館山ぎつね」

「伊達市有珠のチャランケ岩」

「北湯沢の天狗岩」

「豊浦町の波かむり岩」

「豊浦町礼文華の岩屋観音」

「カエルにされた酋長」

「噴火湾のアッコロカムイ(大ダコ)」

「大岸の金敷岩」

「室蘭のイタンキ浜」


という11篇が収録されている。岩が多いかな(笑)。


悲しい話あり、ロミオとジュリエット話あり。アッコロカムイは、ある意味壮大なSF話である。サマイクルカムイ(天地創造の神)、暁の明星、また当時深刻な脅威であったろう疱瘡、天然痘の神アブカシカムイ、アイヌ人の英雄ポイヤウンペ、象徴的な白い兎エペトケ、さらにコロポックルも活躍するフェアリーテイルズ。


キムントー(洞爺湖)、サクーコタン(積丹)、モルーラン(室蘭)・・北海道、沖縄、はたまたアラスカ、トルコなどの地名人名の人間くさくて不思議な響き。文化が混ざり合う場所には魅惑的なエキゾチックさを感じてしまう。



妻と2人の頃あちこち巡った北海道、当地で買い求めてから本当に長いこと積んでいた。3度の引っ越しにも捨て去られず、私の本棚に座っていた冊子はまだ新品同様。第2集が楽しみだ。



◼️オルハン・パムク「白い城」


パムクの国際的知名度を一気に高めた作品。オスマン帝国の奴婢と学者、分身との相克。

・・辛抱強く読むべし。


先に読んだ著者の「新しい人生」はトルコ史上最速の売行きを記録した、それは「白い城」がアメリカ紙の外国語小説賞を取り、パムクの小説を読むのがインテリの証、という空気が生まれたためだとか。パムクはデビュー作「ジュヴデット・ベイと息子たち」でトルコで最高権威の文学賞を受賞、3年後に発表されたこの作品は多くの国で翻訳出版された。モノが違う、という流れですな。


トルコの西欧化を前衛的な作風で描く・・「新しい人生」の解説には続きがあって、流行りに乗ってこの作品を買った人には読むのを断念したり「よくわからなかった」という人が多かった、らしい。今作「白い城」も訳者あとがきに「・・読み終えた『辛抱強い読者』は・・」というくだりがある(苦笑)。そう、時間がかかった。


17世紀、イタリア人の「わたし」はヴェネツィアからナポリに向かう途中、オスマン・トルコの海賊船に襲われ、捕らわれの身となる。学のある「わたし」の行く先は容貌が酷似したトルコ人学者の奴隷だった。師、と呼ばれるトルコ人学者とともに、「わたし」は新しい花火の開発や天文学などに精を出すが、癇癪持ちでプライドの高い師との生活に嫌気がさし逃亡、数ヶ月のち見つかって連れ戻される。折しもイスタンブールでは、ペストが発生・流行していたー。


オスマン帝国とイタリアの都市らキリスト教勢力との戦いは塩野七生氏の著作などで興味深く読んだ。イスラム側をベースに、双方のいわば代表が密着した暮らしや社会活動。学問の道でも人間としても、宗教的にも、微妙で人間的なものが錯綜する。両者を双子のように設定するのはまるで寓話のような分かりやすい表象だ。実在したメフメト四世や王宮の性質も興味深い。


と解題風に書くとなにやら理解した気になる(笑)。ペストだったり、後に出てくる、なにやら巨神兵的新兵器などトピックがあるときはさらさらと読み進むのだが、師と「わたし」との関係性や、戦地での審問シーンなどはしつこくて哲学的、宗教的で難渋した。


パムクは著作のボトムに惹かれるし、うまく仕掛けを編み出すし、ドラマの流れはあるし、オチもきちんとつける人、という印象がある。その職人的構成がとても好ましい。


ただ、「新しい人生」など初期の作品はちと小難しいようだ。思索的なのが先行している。「私の名は赤」「雪」、そして最新作の「赤い髪の女」などはそのへんもう少しこなれているように見える。


まあ、まだまだ読んだ数も少ないし。パムク作品を追究するのもまた楽し。次は何を読もうかな。


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