上からシャガにボケ。寒い日もあるけれど、だんだん気温は上がってきて、春の花がどんどん咲いている。一方まだ桜も残っていたりする。
◼️菊池寛「父帰る」
極上の原酒、かも知れないなと。話そのものはかなりシンプル。
1917年の戯曲。セットが指定され、台詞で進んでいく脚本となっている。発表当時は目立たなかったが、芝居か演じられると大評判となったらしい。
長兄の賢一郎、弟の新二郎、そして末っ子のおたねはそれぞれ成人して仕事を持ち、母のおたかと暮らしている。そこへ、20年前家庭を捨てて女と出奔した父が落ちぶれて帰ってくる。それまで父の悪口を言っていた母や、ほとんど父の記憶がない弟妹は喜ぶが、貧困の中苦労した長兄は父を許さず、父は出て行く。しかし・・
私はこの話の父帰るは芝居も映画も観たことがない。でも考えるところはあった。そこかしこに味はあるが、話としてはシンプルでかなり短い。これを台本通りになぞっているだけでは興行芝居や映画としては成り立たない。必ず創作部分が入る、それはすなわち父が出て行った後、この家族や父に何があったかを自由に想像でき、原作にないその味つけが成否を握っているということだ。つまり後は腕で勝負、の原作として光を放った作品なんだろうな、と思った。
エッセンスだけを取り出し、それが真っ当な反応、と思わせるものがある。妻おたかの悦びだったり、弟や妹の、まだ見ぬ父性への憧れだったり、老いに対する想いであったりする。
私の文芸師匠が、愛というものをバラバラにした時、破片どうしが呼び合うのはやはり血縁のつながりではないか、と書評で書いたのを読んだことがある。「父帰る」はそんな物語だ。
ここからは余談です。
昔、ベネチア国際映画祭で金獅子賞を取ったロシア映画の「父、帰る」というのを観に行った。現代の家庭の妻と2人の息子のところへ、精悍な父が帰ってくる。中学生くらいの息子たちは父の記憶がなく、さまざまな想像を巡らす。なぜか母は悲しんでいる。父は2人をドライブ旅行に連れ出す。父はすごく強い上になぜか銃まで持っている。
しかし、謎が全く解けないうちに父は死んでしまう。そのまま終。えーっ。私も少なくない外国映画を観ているが、興味深い要素はありながら、わけわかんなかった。パンフの監督インタビューでは、「これは芸術だ」と言い切ってらした。なんかベネチアってちょっと変わってるという印象。
んで、それを観たらしい現代文壇のトップランナーの1人である作家さんが「そうか、全部説明しなくともいいんだ」と思った、というようなことを書いていたので、それはそうだが、エウレカを得る材料と手本が間違ってるかも、と心中で激しく突っ込んだ覚えがある。
日本の「父帰る」を参考にしたのかどうかは忘れた。パンフ創作してみよう。この設定上ミステリアスな部分が魅力のひとつ、という点で共通しているかなと。原作に含むものが多ければ、展開の方法は多いということ、かと思う。
◼️三島由紀夫「美しい星」
親子4人の家族は太陽系惑星人だった?
画期的なディスカッション小説、だそうだ。読むのホネだったな本。
フルシチョフが水爆実験を行った。遠からずアメリカもまた核実験に踏み切るだろう、という世界情勢の中、人類について考えた作品。三島は頭が良すぎて、わけわからん状態も多いが、まあ最たるものかもしれない。
大杉重一郎は、ある日飛来した円盤に遭遇し、自分は火星人だと確信を得る。同様の体験をした重一郎の妻・伊余子は木星人、息子の一雄は水星人、娘の暁子は金星人として自覚、覚醒する。重一郎一家はフルシチョフに核の放棄を願う手紙を出し、宇宙友朋会を結成、講演活動は大盛況となる。一方、仙台には、人類を滅亡させるために白鳥座六十一番星あたりの未知の惑星から来たと信じる大学助教授、羽黒らがいたー。
一雄は比較的冷静で、政治家の黒木に近づき、秘書となって家を出る。暁子は金沢へ同じ金星人と思しき竹宮と会いに行き、やがて妊娠する。黒木が羽黒と結びついたり、重一郎の身辺を警察がかぎまわったり、羽黒一派にそれぞれ鬱屈したりものがあったりと社会的、それと戯曲的な趣がある。
人類を救いたいという希望を抱く重一郎の活動を苦々しく思っていた羽黒らは直談判する。ここがかなり長くてとても観念的というか、ディスカッション小説と言われる所以であろうが・・てな感じだった。
三島の作品の中でも異色とのこと。星系は好きだし、時代状況も終末思想が出てもおかしくないかも知れず、小説の中で思索を深める試みは例がないわけではなく、一つの形かも知れない。学生の間では行われた論争に似てるのかも。でも三島がこれやると「くどいなあ」とちょっとばかり辟易したのもまた確かだった。
姉が書店のフェアで川端康成「眠れる美女」を買って「小説の方もわけわかめだったけど、三島由紀夫の解説がまたいっちょんわからんっちゃん!」と言ってたのを思い出した。
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