妻の誕生日ケーキ。
◼️中川越
「名文に学ぶ こころに響く手紙の書き方」
文豪たちの書く手紙とは・・?それっぽいな〜と感じ入る。
手紙を書くことは独りの作業だけれど、実は二人で書いている。(著者)たしかに宛先に大きく左右されるよね。さて、文豪たちはどんな手紙の書き方をしたのか?
まずは芥川龍之介。これがまた、らしい、と思ったり。
「冠省 君の手紙を見て驚いた。そんな病気になっていようとは夢にも知らなかったのだから。・・・・・僕は胃を患い腸を患い、悪い所だらけで暮らしている。生きて面白い世の中とも思わないが、死んで面白い世の中とも思わない。僕も生きられるだけ生きる。君も一日も長く生きろ。・・・・・何か東京に用はないか。あったらいつでも言ってよこさないか。もっと早く知らせてくれれば何かと便利だったかも知れないと思っている。この手紙は夜書いている。」
真ん中のフレーズだけにしようと思ったが、クールな作品からは窺い知れない、芥川の人間味あふれる言葉が新鮮で好ましく、そのまま引用した。
病に苦しむ相手を礼儀正しく慰め、励まし、援助を申し出ている。模範的な見舞状の構造だそうだ。最後の「夜書いている」は気持ちの昂りを詫びる一言らしい。
この手紙に関しては、くどくどしい言葉は不要と思う。カッコいいなあ、芥川、である。
次は梶井基次郎。
「山の便(たより)をお知らせいたします
桜は八重がまだ咲き残ってゐます。
つゝぢが火がついたやうに咲いて来ました。」
伊豆湯ヶ島で療養生活を送っていた梶井基次郎が川端康成に宛てて書いた手紙。外見ゴツくていかつい梶井は、小説では繊細な描き方をするが、ここでも感性派な優しいタッチだ。
島崎藤村、トーソン先生のお礼状。
「何よりの梅干お送り下されありがたく存じます。
朝茶に添えて梅干をいたゞくのは私の習慣のようになっていますから、これからは当分お送り下すったものを毎朝の友として、その度に御地のことを思い出すでしょう。」
礼状など今では書かないが、というか、手紙自体書くことが希少な機会だけども、メールやLINE、メッセンジャーでは普通に書いて伝える。意外にお礼は難しいなと思う。トーソン先生、さらりと短いフレーズで、届けた相手が満足してかつ心に残るような手紙となっている。まあ毎朝の友、その度に思い出すかまで書くかは?だが、実際にそんなことはあるし見習いたい。
私は異動後の年賀状に、タバコ友達だった後輩が「煙草を吸うたびに思い出します。」と書いて来たことをいまだに覚えていて本人をからかったりするが、策略にハマっちゃったのかも知れない。
次もお礼状。松尾芭蕉。
「紅のやうなる桑の実一籠、雪のやうなる塩、一斤ばかり御こし下され、忝じけなく存じ候。」
紅のよう、雪のよう。想像力に鮮やか。筆短情長、簡潔な表現により深い情意を尽くすのお手本。
さて、太宰治の有名な手紙。抜粋しながら。
「『晩年』一冊 第二回の芥川賞苦しからず
・・労作 生涯いちど 報いられてよしと 客観的数字なる正確さ 一点うたがい申しませぬ
何卒 私に与えてください
・・困難の 一年でございました
死なずに 生きとおして来たことだけでも ほめて下さい」
第三回芥川賞の選考委員、川端康成への手紙である。私は現物を展覧会で見たことがある。申し訳ないが達筆でもなくヘタウマの味もなかった。ヘタレである。第二回のときも佐藤春夫に同様の手紙を送っている。理由は様々に推測されていて、みっともないという見方になぜか著者は感情的になり不自然に太宰をかばっている。好きなんだね。
私的には太宰治のイメージを強調するのに大いに役立ってるから、らしくていいんじゃない?と思うな^_^
われらが朔ちゃん、萩原朔太郎から北原白秋への書状。
「わずかな時日の間に、あなたはすっかり私をとりこにされてしまった。どれだけ私があなたのために薫育され感慨されたかということをあなたには御推察が出来ますか。朝から晩まで、あなたからはなれることが出来なかった私を御考え下さい。」
室生犀星も加わっての愛情。いやホンマ文芸的ボーイズラブ。もう少し分かっていれば「月に吠えらんねえ」への理解も違っていたものを、と思った。
竹久夢二。
「何より、私はいま、安静に深く眠ることが必要らしいのです。・・私を知った人達へどうかそれそれによろしくお伝え下さい。
ゆき子さん、私は
八月二日」
小説家山田順子(ゆきこ)。多分に漏れず恋仲だった。ゆき子は夢二の描く女の絵のテイストにそっくりだったという。この余情、未練の伝え方ってシンプルにしてすごいなぁ。
最後は登場回数が多い、わが川端康成先生。
「東京へ帰ったら、たぶんもうご交際できませんから、よろしく。
私は忘れますけど、あなたは覚えていてください。」
これは「父母」という書簡体小説に出てくる手紙。妻子ある中年の小説家がかつて恋仲だったゆき子が元夫との間に設けた18才の娘・慶子と懇意となる。ゆき子の青春の姿を慶子で再生する。引用は、慶子から男への手紙で伝えたとする言葉。
若く青い気持ち、プライド?と直感、迷いと未練が覗く。なんか設定が川端らしすぎて笑ってしまうが、この、すべてを言わないあわれさえ含んだ言い回しもまた、らしい、と感じる。
それぞれの個性が興味深い読み物だった。夏目漱石のとぼけた味もいくつか取り上げてあるけどすんません割愛。
最近、もう少し綺麗な字を書きたく意識してて、吉永小百合が万年筆のCMで書いてるような字になりたいと見る度に思うけども、手紙の内容もやはり大事。表現の幅を広げる助けにもなるかも。今度手書きの手紙にチャレンジしてみようかな。
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