雨風が去って晴れた平日、5日に1度の足腰強化で山を下ってまた登る。桜並木の道は花がいま散らんとするところできれいだった。地元は桜の名所なので、ことさら花見に行こうというのが気はまったくない。ただ桜は盛りより散るのが美しいと思う。
◼️森絵都「永遠の出口」
コミカルでどこか平板な中、いろいろ思い出したり。小学生から高校卒業まで。著者が自分の時代をなぞった小説と思われる作品。
森絵都はけっこう読んでいる。やはり児童小説が好きで「宇宙のみなしご」はなかなかいい。これは1968年生まれの著者が自分の時代にドラマをつけていく。大げさな話はないが、なんというか、自分の学校時代をほんのりと振り返ることができる。
全体は九章の連作短編で三章で小学校卒業、続く四章五章はなんか変な展開でぐれて外泊、万引きまでする。六章の家族旅行はまた意外な展開でコミカル。ここで潮目が変わり高校時代で最後まで。落ち着いた高校時代は七章でアルバイト、八章で初恋、九章で卒業。全体として可愛らしいがエピローグでもどうもまっすぐに道を歩いてなくてだらしなさめだ。うーむ。
この小説の良さは、コミカルな中にあの頃、を思い出す表現が多いことだろう。
中学はその時代の地方に例に漏れずツッパリが幅を効かせていてそれなりに緊張感のある日々だった。
隣の女子バスケ部によく声をかけてくれるせキャプテンの先輩がいた。私がバスケ部と掛け持ちしていた書道部の文化祭展示で座っていると押しかけてきて一つの椅子に一緒に座ろうとする。ツッパリたちと体育祭の応援団なんかやってて、頼もし系みんなに気さくな姉御っぽかったのが、高校の試合で見かけた時はかわいらしい系になっててなんとなくマイナスめの意外に思った、とかいうほんのりした思い出もこの物語のテイストに合うなと思ったり。
小学生の時の冒険もなんかあの頃の青いワクワク感を思い出す。
ぐれる過程がどうも突飛だったりするが、繊細ながらも幼くかわいらしい主人公・紀子の姿を丹念に描いている。ただなんか顔が見えないような気もしたかな。
◼️垣谷美雨「七十歳死亡法案、可決」
過激なタイトル、柔らかな着地。ifものでラノベ風味だが、塩梅が上手だな、と。
極端な設定は著者の得意技で、ドラマにもなった「結婚相手は抽選で」は読んだ。設定により訪れる社会状況を現出し、ミクロなサンプルを柔らかく掘り下げていくのは好ましいと思う。
今回は寝たきりの老人介護と、いわゆる「嫁」の解放がテーマだ。法案は軸になっているが、本質はそこではない、と思った。
東洋子(とよこ)は55歳の主婦で、寝たきりの姑の世話をしている。家庭の仕事は自分とは関係ないと思い込んでいる夫、いつまでも再就職しない息子、家を出て働いている娘、あれこれ言って親の面倒を見ようとしない夫のきょうだい。そして我が儘で不遜な当の姑。世の中では与党が、人は70歳になったら安楽死、という法案を強行採決で通し、実施まであと2年に迫っていたー。
いささか古いと思える家庭が出て、きまじめで我慢を強いられ受け入れている東洋子の姿が描かれる。やがてキレて家出するのだが、そこで、東洋子を含めて皆の意識が変わっていくのが面白み。また現代の介護の知識が散らされているのもよい啓発だな、と思わせる。
ライトノベルの流れなのだが、特に最初の方は姑のシモの世話、などもリアルに描かれていて重い。終盤はトントコトントコ、いい方に話が進む。
社会問題を題材に、突飛な設定をして、柔らかく落としていく手法は嫌いではない。上手く展開してるなと思う。
ちょっと東洋子の受け身すぎるところに違和感を覚えるし、話がよく転がりすぎるのには考えてしまう。
しかし、東洋子、息子の元エリート正樹、娘の桃佳、時に姑の菊乃、それぞれの目線で物語が進む、その振り分け方は上手で物語のつなぎ部分はかなり気を遣っているようにも見受けられる。介護の最前線の知識にはへえ、と感じさせるものかあった。
長い間積んでた本。面白く読めた。
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