2020年4月13日月曜日

4月書評の1






先週の書き付けには東京都の新たな感染者は89人とある。おとといは190人台、200人近くになった。かなり危機的な状況。ただ一気に180人台まで増えてからここ数日では極端な増加はない。きのうは166人だった。雨の土曜日だから油断はならないが。大阪も先週の東京くらいになった。わが兵庫はきのうは17人、その前は40人台。日によって増減があるがベースは上がっている。

めまぐるしい1週間。先週火曜日、4月7日に緊急事態宣言が出され、会社は出勤停止になった。自宅に引きこもるようになって感染者が倍増し、帰ってもう外に出たくなくなっているが、3日に1回は買い物その他に行かなければならない。

人の往来が減らない、まだ出社している人が多いから、政府も強めの表現をするようだ。しかしスーパーを始め出なければいけない方も多く、自分で実感したが、テレワークの設備が整っていない会社もある。画一的にもっとテレワークしろ、と言われても、と思う。

いま心がけているのは、生活のペースを出来るだけ崩さないこと。早起きして3食食べる。長丁場だし。あと、イライラしないこと、だ。

自宅にいるのも悪くないって感じかな。心に余裕を。

◼️原田マハ「デトロイト美術館の奇跡」


予想通り過ぎる短い話。でもやっぱり泣かされる。マダム・セザンヌ!



セザンヌ、マティス、ゴッホ・・デトロイト美術館、通称DIAは有名な、しかも市民の暮らしに溶け込んだ美術館で、その収蔵品は美術館を愛する人々の「友だち」でした。しかし、デトロイト市は財政破綻、公務員の年金の財源に充てるため、市はDIAの芸術作品を売りに出そうとします。


美術館を救い、なおかつ年金の財源が出せるのか・・?


構図としては複雑ではないですが、特にアフリカン・アメリカンの溶接工夫婦の、素朴な行動が泣かせます。


私、クラシック音楽で、ムラヴィンスキー指揮レニングラードフィルのチャイコフスキー交響曲5番の手持ちCDが大好きで、オーケストラスコアを買って研究したりしました。きょう久々に聴いてみると、世相や生活からのストレスがすーっと溶けて行き、あまりの癒され度に、少々こころが緩んでるタイミングでこれ読んだもんですから涙ホロホロ鳥になってしまいました。


マダム・セザンヌは美しい肖像画を取り上げた書籍で読んだことがありますが、決して美人の描き方をしてるわけでもなく、服装は派手でなく、どこかムスッとした表情をしています。しかしよく見ていると親しみが湧いてくるような味わいを持っているとされています。マダム・セザンヌは「友だち」。単純にいいな、と思います。私も最近京都や奈良によく出かけていますが、友だちと言えるものを何か持ちたいな、などと感じました。


ラストについている対談、まあ原田マハさんはともかく鈴木京香さんも海外で美術館めぐりに出かけ、しかもアートを購入しているとのことで、興味深くる読みました。原田さんおすすめの北海道・中札内美術村に行ってみたくなりました。


◼️オルハン・パムク「新しい人生」 


新年度ですね。「新しい人生」で、迷宮にハマってみませんか?(笑)


1994年にトルコで出版され、またたく間に同国史上「最速」の売行きとなったらしい。解説で背景に触れられている。当時パムクの「白い城」がアメリカで賞を取ってから人気が出て、パムクを読むのはインテリの証、といった位置付けだったとか。


パムクは1998年の「私の名は赤」、2002年の「雪」が評価されて2006年にノーベル文学賞を受賞する。最新作「赤い髪の女」、先日調べたら私の地元図書館では15人待ちだった。


イスタンブールの大学生「ぼく」はある日、女子学生ジャーナンが持っているのを見かけた本を古本市で買い求め、読む。全人生が変わったと思うほどの衝撃を受けたぼくはジャーナンに強く恋するようになる。ある日、ぼくはジャーナンの恋人メフメットが銃で撃たれたのを目撃する。メフメットもジャーナンもその日から行方不明に。ぼくはやがて、新しい世界を求めて長いバスの旅に出るー。


解説には、流行りに乗ってこの作品を買った人には読むのを断念したり「よくわからなかった」という人が多かったそうだ(笑)。そう、気持ちが分かる。


というのが、非常に散文詩的な書き方となっていて、幻想味は出ているが一文がどこへ向かっているか、前の文、後の文とどう繋がるのか分からない。確かに、確かに読みやすいとは言えず、読了まで時間がかかった。


しかしながら、何がポイントで、大きな出来事はどれか、ははっきり分かるようになっていて、大まかな筋は外す事なく理解できる。


小道具をいくつも効かせた物語で、ポイントには必ずバス事故が起きているのも面白い。トルコでの当時の暮らしや街の風俗もつぶさに描かれていて興味深い。


若者は強く影響を受け、激しく恋し、突っ走る。ジャーナンと再会してからはさらに燃え上がる。やがて組織の影と陰謀に行き当たる。終盤は過ぎ去ってしまった若い時代に想いを馳せる。そして、自分が辿った道を理解し認め、泣くー。散文詩的な色合いは中盤まで若さゆえの過剰な表現にも見え、終盤では落ち着いて心に浸みる。


パムクには近世のトルコが直面した東西文明衝突の構図が必ず入る。また劇的要素と恋と、束の間の成就、喪失というパターンが、読了4作目にして見えてきた。「髪結いの亭主」「仕立て屋の恋」などで日本でも人気を博したフランスのパトリス・ルコント監督の映画では必ず女を愛する男が痛い目を見ていた。しかしルコント作品は面白い。同じように、パムク作品も、大まかな流れはよく似ていても、設定・構成が作品ごとに違って印象的、さらにはテーマが明瞭で、読んで感じるものがお気に入りである。



 今回も「沈黙が彼と話し始めた」とか「秘密のささやきを発見した」、「人生の呼びかけを聴きたくなって」、「チョーク色の光」、

「蜂蜜色の瞳」というたくさんの表現たちを楽しみながら、ストーリーの大きな呻きを腹に受け止めた。やべ、影響されちったかな。


読みやすくはなかったが、いやではなかった。パムクはやっぱり好み。次はどれを読もうかな。

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