11月は毎週飲み会が入る異常事態・笑。ここ最近は規則正しい生活好きでたまにしか入らなかったのに。年末に近づくとこうなんだな。若い頃は週3とか普通だったんだけど。えらいさんと恒例カラオケで、いつものアニソンや熱唱歌に加え、フォークを歌ってたら、アニソンよりしっとり系のほうが上手い、と言われる。まあ歌い込んだ年月が違うかな、さだまさし。
自分は万葉風の和歌が好きだな、と思う。
「良寛 旅と人生」
市井の僧、良寛の和歌、俳句、漢詩にあふれた本。有名な書の流麗さも楽しめる。
良寛は1758年、越後の出雲崎に生まれ由緒正しい廻船問屋・町名主の長男として学を授けられた。しかし町名主の仕事がうまく出来ず昼行灯と呼ばれ、親の許しを得て家督を弟に譲り禅寺に入る。12年の修行ののち寺を出、托鉢行脚を続けながらやがて故郷の近くの庵・五合庵に住みついた。
よく聞くイメージ通り良寛は手毬の名手で村で子どもと遊び、貧しい暮らしをしながら和歌や漢詩を書いたが、やがて優れた詩歌が評判を呼び、また筆で書いた墨跡、書もすばらしく、良寛の書ということで奪い合いとなるほどだったという。長岡藩主が訪れて長岡へ招くほどだったが良寛はすげなく断った。
晩年にはやはり文芸に秀でた若い尼僧、貞心尼と親しくし、貞心尼選の歌集には良寛の多数の作品が収録されている。
時代は松尾芭蕉が俳諧に新風を吹き込んだ後の、太平の世。西行に憧れ、また万葉集の歌を愛した良寛の作品をいくつか。特に語感に惹かれたのがいくつか。
ちょっと長いが、長歌から。
ももづたふ 弥彦山を いや登り
登りて見れば 高嶺には
八雲たなびき ふもとには
木立神さび 落ちたぎつ
水音さやけし 越路には
山はあれども 越路には
水はあれども ここをしも
うべし 宮居と 定めけらしも
越後の弥彦山にたびたび登って見ると
高い山の頂には幾重もの雲が横に長くたなびき、ふもとには林の木々が厳かに茂り、激しく落ちる水の音は清らかに冴えて聞こえる。
越後の国には多くの山があり、多くの水の流れがあるが、まさしくここをもっともなお社の場所と決められたことよ。
しばしば参詣した弥彦山の神社の辺りを詠んだ長歌。万葉もそうだが、長歌ってテンポが良くて好きである。
むらぎもの心楽しも春の日に
鳥の群れつつ遊ぶを見れば
梅の花いま盛りなりぬばたまの
今宵の夜半の過ぐらくも惜し
むらぎものは心、ぬばたまのは夜にかかる枕詞。良寛は枕詞を多用している。響きも含めて心惹かれる。
秋萩の枝もとををに置く露を
けたずにあれや見む人のため
とををには、たわみしなっている様子。万葉集の用例を踏まえたもの。良き言葉で心のどこかの弦を弾き鳴らされた感じがする。
俳句2題。
水の面にあや織りみだる春の雨
語感により情景描写が鮮明となる。あやおりみだる、という言葉が美しい。
焚くほどは風がもて来る落葉かな
これは、自分の庵で燃やして煮炊きするくるいは風が吹くたび運んでくれる落ち葉で十分間に合う。物に乏しくともこの山中の暮らしは満ち足りているよ、というほどの意味で、長岡藩主が庵を訪れ招いた際、この句を示して断ったという。
他にも、良寛を慕う貞心尼と山がらすと子がらすにそれぞれを例えたやり取りなども微笑ましい。
良寛は、川端康成「美しい日本の私」でも取り挙げられていた。また書家武田双雲氏の著書で、現在でも大変人気のある書だ、と紹介されていた。この本には良寛の手が写真で多く紹介されている。シロートにはさすがに分からないが、一度その魅力を勉強してみたいものだ。
庵に行き子どもと遊んだ才子、詩歌墨跡に優れた言葉が書芸を楽しめた。
芥川龍之介「或る阿呆の一生・河童」
自分を見つめ、死の予感に怯える芥川。
1927年に35歳で自ら命を絶った芥川最晩年の作品集。冒頭の「大導寺信輔の半生」は「私」を主人公とした自伝的なものとして
その作風に一点機を劃した作品らしい。
主人公信輔の、少年時代から20才の青年までの話である。
続く「玄鶴山房」は3人称。奥床しい門構えを持つ家に集う人々のひねくれた面のある人間模様。看護婦の甲野がニヒルである。
「蜃気楼」は鵠沼に暮らした芥川自身をモデルにした短い作品。そして「河童」へと続く。
穂高岳に登山しようとした「僕」は深い霧が晴れるまで休もうと降りた渓谷で一匹の河童を見かける。河童を追いかけた僕は穴に落ちて気を失い、気がつくと河童の国にいたー。
河童の国の人間の世界と違うところ、出産、遺伝、家族制度から政党、ジャーナリズム、宗教にまで及んだその描写は当時大きな反響を呼び批評も多く出たそうだ。ちょっとだけ「ガリヴァー旅行記」も思い出した。「カエルの楽園」も。
そして死の予感が充満した「或阿呆の一生」「歯車」へと続いていく。
私は実は芥川のこの作風の転換について行けず、もうひとつ入り込むことが出来なかった。やはりイメージには王朝もの、寓話風のものが強くあるからだと思う。それらに比べるとキレの弱さがある気がした。
そんな気分で読んでたら「歯車」である。まさに芥川が主人公でホテルで作品を書き、知人友人に会い、街に出て、当時通っていた精神病院にも通う、という成り行き。この本の流れでフツーに読み進めたのだが、途中からぐっと集中力が上がって惹きつけられた。物語は幻覚を見たり、妙な暗合があったりして息苦しさが増し、坂を下るようにどんどん死に近づいていく、闇が濃くなるような雰囲気に鋭い冴えを感じた。
解説によれば「歯車」は名作とする派ともうひとつ派に分かれるようだ。私の好きな川端康成は名作派だそうで、嬉しかったりした(笑)。
柚木麻子「3時のアッコちゃん」
髪をおかっぱに切り揃えた大女、黒川敦子。 神出鬼没のお世話屋さんー。
「ランチのアッコちやん」の続編。アッコさんは東京ポトフ&スムージーの社長。イギリスへ1ヶ月旅行していたということアッコさんはかつての部下・三智子が契約社員として勤めている商社の会議にティーサーバーとして乗り込む。
凝り固まった会議の場を、美味しい紅茶に、ショートブレッドやサンドイッチなど軽食を出し、活性化させる。そして部署の問題が明らかになる。
やっぱり美味しそう。第1話はイギリス風のハイティーがしたくなる。お茶をきっかけに状況が転がり始め、上手くいくのはもちろん出来過ぎの感がないでもないが、現代の会社で普通にありそうな問題を取り上げていて意外にいいなと思ってしまった。
第2話は地下鉄でスムージーを売っているアッコさんが通り掛かりのOLにスムージーを押し付け、おせっかいを焼く。ブラックな状況としつこくて優しいアッコさんが対になって社会問題にも斬り込む。
第3話、第4話にはアッコさんは表立って出てこない。これが関西の話だった。第3話は阪神間、大阪と神戸の間をこう言うが、のオシャレな地域、阪急岡本駅近辺が舞台。東京から来た主人公の女性が関西人の馴れ馴れしさや出没するイノシシに苦しめられる。これ岡本では暮らしたことないけど、イノシシは阪神間では実際に出るんだよね。私の生活圏にも出るし。
第4話は就職活動に失敗し続けている女子大生が大阪の地下街で迷ってしまい、という話。
けっこうその、関西人をステレオタイプに描いていて、話は主人公の過去に及び、落ち込んだ後明るく終わる。ストーリーにそこまで感じるものはなかった。
「ランチ」は強引で上から目線ででも頼りがいのある先輩、アッコさんがランチに関してやはりアドバイスしていき、食生活の変化が原因で物事が好転しだす、という感じだったと思う。ほのぼのとした、でも力のある雰囲気と、なんといっても東京の街の描写が活き活きとしていて新鮮だった。中盤以降はアッコさん出てこないのも今回と同じ。出てこなくとも意外性のあるストーリーだったと思う。
今回はまあ、描写という点では関西の描き方、珍しい岡本の見方にはやはりポジティブな感はあった。
柚木麻子は「終点のあの子」が良くて、「ランチのアッコちゃん」「あまからカルテット」と読み、直木賞候補になった「ナイルパーチの女子会」でちょっと合わないなと思って読んでなかった。
「3時の」は正直さほどインパクトがあるわけではなかったが、期待させるものを感じた。またいくつか読んでみようかな。
川端康成「千羽鶴」
揺れ動く心、女、志野茶碗。戦後の名作。
菊治は亡父と関係のあったちか子主催のお茶会で、令嬢ゆき子の美しさが印象に残る。菊治は帰途、娘・文子と来ていた父の愛人、太田未亡人と2人になり、肌を重ねるー。
ちか子にとって太田未亡人の存在は面白くなく、菊治の父の生前に厳しいことを言ったこともあり菊治とゆき子をくっつけようとする。優柔不断にも見える菊治と煩わしい憎まれ役的存在のちか子。
愛と想い出に溺れた未亡人は急死し、娘の文子もまた菊治に魅かれる。いっぽう、裕福で明るい女所帯に育ち、冷静で女性らしいゆき子の存在感も強い。
菊治も未亡人も文子も罪深さと運命の成り行きに悩む。間に茶の湯と長い年月を経た価値ある茶器が彩りを与え同時に鍵となる。
男女の情、何に魅かれるか、どう感じるかは微妙で、もろく儚い。その表現をじっくりと繰り広げ、いつものごとくいくつもヤマ場が作ってあって飽きさせない。
「千羽鶴」は170ページくらいで一旦閉じ、続千羽鶴となる「波千鳥」が続けて収録してあるが、冒頭の展開に驚く。
「波千鳥」は大分の久住、滝廉太郎の故郷豊後竹田に多くの舞台を割いている。学生時代、列車でも車でも行ったエリアで懐かしかった。
さて、男女のひとかたならぬ俗世の情、女の美しさに日本の美を絡め、もろさ、儚さ、嫋やかさなどを刹那的に醸し出すのが川端康成の手法かなと思う。ただ今回は、罪の感じ方、悩み方がやや過剰にも見えたかな。
独特の美しさはこの作品でも生きていた。でも少しお腹が膨れ気味。川端は間を置いてまた読むとしよう。
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