両親の離婚で離別、それぞれ成長した姉弟は進路と恋愛に悩む。そして不安定な季節に起きる小さな事件。小説すばる新人賞受賞作。淡々としていて、読後感がとてもいい。
男子高校生の行(ゆき)は、自分の部屋で愛犬の介護をする毎日。両親の離婚で別々に暮らす社会人の姉、園(その)とは今でも仲が良い。ある日の深夜、高熱で意識を失った行はしばらく入院することになる。
心を強く動かされる話ではなく、いくつか出て来る小さなエピソードもどれくらいの必然性があるのか、という部分もある。でも、やや多いキャラクターの設定分け、季節、キーポイントとなる犬、エンドと、全体として上手く噛み合って、テーマを鮮明にしている。ミステリ風味もあってなかなか興味深い。
飛鳥井千砂は、「タイニー・タイニー・ハッピー」が直木賞候補になって気になっていた作家さんだが、もっとフェミニンな、ベタッと恋愛を書く方だと思っていた。これくらい淡々としているなら、また読みたいと思う。
でもやっぱ、女子系作家さんは、ひとつひとつファッションを詳しく書くという特徴があるな。
今沢真「東芝不正会計 底なしの闇」
分かりやすくとても面白かった。うーん。今の目で読むと、見方が違ったりして、考える部分もある。
長く毎日新聞の経済記者だった筆者が、東芝不正会計について、経過をドキュメント風に追いながら、問題点をまとめ、解説したものである。ビジネス情報中心のニュースサイトの編集長として取材、コラムをだいぶ執筆したそうだ。
経済用語も分かりやすく説明されていて、何が問題なのかよくわかる。そもそも、最初に発覚した不正会計は、構造的にはあまり難しくない。
しかし、経営陣主導の不正で、監査法人もスルーで、監査委員会、社外取締役も形式で、第三者委員会の報告も良くなくて、広報に丸投げの部分もあってと泥沼である。単純に、こんな簡単に不正していいもんだろうかと思う。選択と集中、というのも、聞こえはいいが、しくじればダメージが大きいのでやっぱり怖い言葉だな。
コーポレート・ガバナンス上よろしくない例としても、おそらく語り継がれるだろう。第2弾も出ている読もうかどうしよか、と思っている。
初野晴「退出ゲーム」
学園ミステリの連作短編集。よくある設定・テイストではあるが、設定、ネタ、経過、キャラがかなり練られている。ふむふむ。
高校1年生の穂村千夏(チカ)は、幼なじみの上条春太(ハルタ)と同じ吹奏楽部員だが、彼との三角関係に悩んでいる。文化祭を前に脅迫状が届き、猛毒の物質がなくなった事で、実行委員の千夏は頭脳明晰な春太に助けを乞う。
「ハルチカ」シリーズとして人気の出た、第1作。ハルタが探偵役である。学園生活を描きながら、身の回りの謎を解決していく。日常的というよりは、謎のネタは重い。周りを固める登場キャラクターと、経過の鮮やかさでバランスを取っている印象だ。
チカとハルタはどつき漫才のような関係だし、出てくる高校生は愛すべき変人が多く、マンガのようにドタバタする。連作の中でそれらの登場人物たちは再登場し、それぞれの役割を果たしていく。
設定の方も、ルービックキューブだったり、演劇だったり、色の名前だったり、どこかひと昔色を感じさせながら、非常に斬新なものを感じさせる。
まあその、学園ミステリが巷に溢れているせいもあるが、知識で勝負し過ぎる部分があり、また謎の重さとのバランスも微妙にしっくり来ない面もある。また、特にハルタについては色々描かれてはいるが、ハルチカら軸となるキャラの顔がもうひとつ見えて来ないきらいがある。でもアイディアの斬新さは買いな気がする。
もともと最近出た文庫「惑星カロン」というタイトルに宇宙好きの私は惹かれて調べたところ、ハルチカシリーズだというのでとりあえず第1作を読んでみた。これで本命に進めるというものだ。今調べたら、間に3作もあるのか、どうしよっかなあ〜。
高橋克彦「ジャーニー・ボーイ」
明治維新からまもなく日本を旅行し、「日本奥地紀行」を著したイギリス人女性、イザベラ・バード。その通訳兼ガイド、伊藤鶴吉をモチーフにした活劇。
明治11年、大久保利通刺殺事件からほどない頃。東京・上野の西洋料理店に勤め、英語が堪能、腕っぷしも強い伊藤鶴吉は、高名な文化人、岸田吟香から、イギリス人女性、イザベラ・バードの旅への同行を勧められる。外務省からの依頼だった。危険な旅となるのは間違いなかったが、伊藤は承諾し、バードとの面接に出掛ける。
もともと幕末明治は好きなのと、触れ込みに惹かれた。どんな展開かと思っていたら、バードとの厚い会話、謎の刺客、この時期の武士の想い、友情などが盛り込まれていて、多重な構造の話だった。
東京を出立してから、日光、そこから新潟へと、困難な旅路が描かれている。バードは最終的に北海道が目的地だったから、ちょっと楽しみにしてたが、新潟で終わってしまった。(笑)
謎の刺客に立ち向かう伊藤とやはり政府に雇われたボディーガード達とがひとつストーリーの中心だ。気ままに振舞い、道の険しさ、宿の汚さ、好奇心を丸出しにする日本人に辟易し、時に伊藤に文句たらたらのバードと、その裏で忙しく警護する日本人たちの好対照さが浮かび上がる。
なんてか、美化しない、という意味で、バードの描き方には好感が持てた。ただ、ちょっと活劇に寄りすぎかな、というのもあり、多重な構造にも、ハマってないところがあるな、という感じがした。
まあ題材が興味深く、活劇のおかげもあって、すらすら読み進んだ。バードと伊藤については中島京子も小説を書いてるらしいので、気にしてみよう。
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