10月は12作品13冊。年間計100を突破した。まあこんなもんかな〜。ホームズもの2つも読んだな。寝やすい季節。
島本理生「シルエット」
18歳で書いたデビュー作。にしては、だから?表現が凝っている。独特のみずみずしさが胸にしみる恋愛小説。
高校生の「私」は同級生の冠くんと付き合っていたが、別れてしまった。今は大学生の恋人、大人のせっちゃんがいるが、冠くんとの恋がどんな成り行きだったか、私はたびたび思い出すー。冠くんには、一つだけ、秘密があった。
島本理生は、表題作が群像新人賞の優秀作となり、初の単行本化となった。彼女は、15歳の時に書き、文芸雑誌の年間MVPを取った「ヨル」という短編も収録されている。なにが評価されたのか、その煌めきを見たくて、読んでみた。
生の実感、心での捉え方、大人になりつつある時期の、身体での掴み方、周囲にまとう、季節感と環境の移り変わり・・表現が難しいが、そういったものが、みずみずしい、実感のある透明感のようなもの、を目の前に醸し出す。
本読みで、早くから小説を書いていただけあって、表現も凝っていて、小説らしいな、と思う。上で書いたような要素をバランスよく配していることが最大の特徴で、全体として好感が持てる。恋愛や家庭環境のパターンが似ているな、とはいつも思うけど。
島本理生は、「リトル・バイ・リトル」「ナラタージュ」「生まれる森」、そしてこの作品と読んだ。「ナラタージュ」以外は200ページくらいの薄めの本だが、私は中身もさることながら、このくらいで完結して、読み足らなさも読み飽き感もないまとめ方が気に入っている。
あとがきの「主人公と同年代の読者に届けば嬉しい」におっさんでごめんね、とかすねちゃったが、評価できる、と勝手に思ってる作家さんだ。
森見登美彦「太陽の塔」
いやま、森見登美彦らしいというか・・。日本ファンタジーノベル大賞受賞のデビュー作。
京大生の「私」はかつて付き合っていた水尾さんの行動を研究レポートにまとめるべく、彼女の住むマンション脇で帰りを待ち受けていた。するとある男が歩み寄って来て私の行動を非難する。
なんだかストーカーもののように始まった話は、京都のイケてない男子大学生たちを、その街の生活者として描写しながら、ファンタジー風味を漂わせる。主人公があくまで強気で、古風で、知的で、おもろかしい。
私は、森見登美彦は「夜は短し歩けよ乙女」「四畳半神話体系」「ペンギン・ハイウェイ」くらいしか読んでないが、「ペンギン」を除き、森見のテイストだなあ、というどこかしら特徴らしきものは感じていて、本作もそれに当てはまっている。
形としては。すぐ前に読んだ「シルエット」に似ていなくもない。なんだか、カズオ・イシグロの「日の名残り」をも彷彿させるような、物悲しい雰囲気のするラストだ。水尾さん、の扱いがまたテクニカルだ。
いやいや、ストーカーでしょ、から、最後はなんだかホロッとしてしまう不思議な一冊だった。本上まなみの解説が、かわいい。
窪美澄「よるのふくらみ」
今回、この形にした。
さて、久々の窪美澄。相変わらず息苦しさ満載の(笑)連作短編集。
保育士のみひろは、同じ商店街で育った2つ上の圭祐と暮らしている。仕事が忙しい圭祐は、みひろとなかなかセックスをしようとしない。みひろの母親は、かつて若い男と出奔し、出戻った過去があった。(「なすすべもない」)
みひろ、圭祐、そして圭祐の弟の裕太、3人の視点が次々と移り変わる6つの物語。セックスにまつわるエピソードが生々しく、また主人公たちが関わる外的な要因が、不思議な透明感で強く刺しこんでくる。今回は、幼なじみたちのラブ・アフェア。息苦しさが特徴(私はそう思っている)の作者は、やはり息苦しさで惹きつけてみせている。
エロ衝動的に始まった作品は、進むにつれて混迷し、切なくなっていく。うーん、今回世界が小さいが、村山由佳「星々の舟」と、タッチは窪美澄独特なんだけど、朝井リョウ「星やどりの声」を思い出したな。なんか。
窪美澄は「ふがいない僕は空を見た」が本屋大賞2位に入り話題を呼んだ。実際この作品は入りに驚くが、最後はジーンとさせられる。オススメである。山本周五郎賞をも受賞している。で、「晴天の迷いクジラ」で山田風太郎賞を取った。今回時間をおいて読んだが、らしさは健在で、テーマと成り行きをどこか醒めて見ながらも、なかなか夢中になって読んだ。
んー、いつも思うけど、窪美澄は、女のセックス、男の純情、だな。
ブリタニー・カヴァッラーロ
「女子高生シャーロット・ホームズの冒険」上下
いやー、子孫もしくは親族が女子、というのはこれまでもあったけど、かなりシンボリックな形ですな。日本のラノベぽいが、中身はシャーロッキアン的にもけっこう楽しめる。土日で読んでしまった。
アメリカ・コネチカット州のシェリングフォード高校には、ラグビー部の特待生で、シャーロック・ホームズの伝記を著したジョン・H・ワトスンの子孫、ジェームズ・ワトスンが在籍していた。ロンドンから転校してきた彼は、同校にいるホームズの子孫、シャーロットとの知遇を得ようとするが、彼女に付きまとっていたラグビー部員のリー・ドブソンと喧嘩になる。その数日後、ドブソンが死体となって見つかった。
物語は、あまり単純ではなく、第2第3の事件が起き、しかも、ホームズの短編3つの犯罪が模されていて、16才のシャーロットと兄のマイロのホームズ家、ワトスン家、そしてモリアーティ家が絡み合うような展開を見せる。こう描くとシャーロッキアンには夢のような展開である。
シャーロットは、もちろんシャーロックの推理法や基礎となる犯罪学を学んでいるが、その一方で麻薬に溺れ、読んでいても信用できるのかどうか分からない部分もあり、またやはりティーンエイジャーとして不安定なところもあり、ちょっと複雑だ。
シャーロットとワトスンの揺れ動く心が物語の中心にあって、丁寧に扱ってある、女子ならではのシャーロットの変わり身もいいスパイスだ。
作者はアメリカの若き研究者で女子である。やはり、イギリスやアメリカのホームズものは、独特の文化がストーリーに取り込まれていて、それは時に難解だったりするのだが、けっこう好きである。シリーズものになりそうらしく、楽しみだ。
今年は(も?)ホームズもの多いなあ。
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