今週、思いがけず雨が降った日に、ぐっと涼しくなった。毎年今ごろ、朝晩に涼を感じるが、けっこう最高気温は下がらないから、日中は残暑なんだよね。昨年は雨が全然降らなかったが、今年はよく降った。台風直撃もあったし。
では、行ってみましょう。夏のミステリー特集を含む10作品10冊。まあ、本格ミステリーというよりは、サスペンスとかパズルっぽいものが多かったんだけど。
サン・テグジュペリ 堀口大学訳
「夜間飛行」
上空から見る地上は、裸で、死んでいた。機体が下降する、地上は着衣する。森や林がまたしても地上に蒲団を着せ、谷や小山が地上にうねりを刻む。つまり地上は呼吸しだす。
こんな、いやこれ以上の表現が続く「夜間飛行」「南方郵便機」の2編が収録された一冊。上の文章はよく分かるんだけどねー。
フランス名門貴族の出で、自らもパイロットであったサン・テグジュペリ。1920年代後半から1930年代の話である。フランスから、アフリカを経由して、南米までを飛ぶ郵便飛行機がテーマ。
「夜間飛行」ではパイロットもそうだが、リスクの高い夜間飛行にビジネスとして踏み切った支配人を描いている。デビュー作だという「南方郵便機」は、パイロットの人生と運命について描いていて、堀口大学いわく、読者に精読を要求する作品である。もちろん、飛行の場面の描写は、経験者ならではで、当時の状況もよく分かる。
正直、文章は読めてもワンブロックの意味と前後のつながりを理解するのに時間がかかるので、ページが進まない作品だった。主語はコロコロ変わるし。まあ、いつか「星の王子様」も読んでみよう。
高橋克彦「写楽殺人事件」
夏のミステリー特集第1段。美術ものも好きである。
1983年の江戸川乱歩賞。勢力が二分している浮世絵学界。その一方の雄、嵯峨が亡くなった。対立する大学教授、西島の弟子である津田は、謎の画家、東洲斎写楽の正体のヒントとなる画集を手にし、調査に乗り出す。調査は実を結び、証拠も固められるが、津田は西島に手柄をさらわれる。しかしほどなく、西島が焼死するー。
中途に、津田が、これまでの「写楽別人説」10個ほどを次々と説明、批判していく部分があるが、ここが前半のクライマックスだろう。写楽の評価の歴史なども分かって面白い。
好きな人が書いてるな、と思う流れで、途中、学説中の登場する人の多さに、わけがわからなくなる。得てして知識が多くなりすぎるとこういうものだ。写楽は確かに魅力あるネタだが、仕掛けはどうも俗っぽくも感じる。また、犯罪の、生な匂いが漂って来ない。
調査行と理論が多かった前半から、後半は次々と事件が起きて畳み掛けて来る。ネタも含め、楽しめた作品ではあった。日本推理作家協会賞「北斎殺人事件」、直木賞「緋い記憶」も読んでみよう。
原 「私が殺した少女」
夏のミステリー第2弾。いろんなところに名作として挙げてあるので、前々から読みたかった作品。
1989年刊行で、この長編第2作で直木賞を受賞している。ハードボイルドで、次々と何かが起きるところは藤原伊織の「テロリストのパラソル」にちょっと似ている。
探偵・沢崎は、少女誘拐事件の現金の運び役として犯人に指名され、六千万円を届けようとするが、その途中暴漢に襲われ気絶、現金は持ち去られる。程なくまた犯人とおぼしき者からの連絡を受け出向いた廃墟で、沢崎は少女の死体を発見する。
表現は、欧米のハードボイルド的なものによくある、使い捨て、その場限りの冗談のような比喩を軽く用いている。しつこくないのがいいところだ。謎が深まり、不自然なところがいくつもあり、一気に解決する。
ちょっと解決が、なんか一気過ぎる気もした。ただ、期待に違わぬ雰囲気を持った小説である。沢崎シリーズだから、シリーズものに特有の単発では分からないくだりもあるが、それも含めて惹きつけられる魅力を持っているのは確か。不思議な佳作ハードボイルドミステリー、だろう。
稲見一良「ダック・コール」
夏のミステリー第3弾、と考えて買ったのだが、これはミステリーではなかった。どこかの日本の名作ミステリー特集に載っていたから買ったんだけれども、ハードボイルド&メルヘン、とでもいうか、変わった短編集だった。山本周五郎賞を受賞している、1991年の作品である。
会社を辞めて旅に出た若者は河原で石に鳥の絵を書く男に出会い、若者のキャンピングカーでともに過ごす。その夜、若者は6つの夢を見る。
そしてその夢が、鳥と男に関わる様々なストーリーだ。仕事より鳥の撮影を選んだ若者、前時代のアメリカで、リョコウバトの大群と虐殺の現場に居合わせた男、密漁志願の初老の男と少年の心温まる親交、これまたアメリカで脱獄囚を追ってのマンハント、鳥の楽園を作った男が漂流する話に、なんと最後は、鴨のデコイが主人公の話。
作者は、一時期狩猟に没頭した時期が有るらしく、自然の観察やおそらく体験したのではというエピソード、また銃器に関しての実際的な知識が豊富に描かれている。
それにしても不思議な本。文学作品、という捉え方が正しいのかも知れない。面白くないことはないかな、という感じだ。なんというか、ゲージツ的にわけわからん話ではなく、ひとつひとつの話は普通、というか、いい話が多い。暑い中たまにトリップするにはひょっとして最適だったかも。
椋鳩十「黒物語」ほか
ちょっとブレイク。毎年息子が借りて来る夏休み読書本。
黒い飼い犬話の表題作や、猫、スズメ、コサメビタキの夫婦、タンチョウヅル、アリの話。
猫も切なくて、微笑ましくていいけれど、やはり片足スズメのママには感動するな。
大昔、実家で子供達が初めて飼ったのはポメラニアン。その時買った、犬のすべて、的な本の末尾に収録されていたのが、「高安犬(こうやすいぬ)物語」。かつて戸川幸夫が直木賞を受賞した作品を漫画化したものだった。シートンは読んでないが、この手の話は好きである。椋鳩十も小学校の教科書以来で、なかなか楽しめた。
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