2014年4月1日火曜日

3月書評の1

仙台に2泊3日の出張。気温の上下が激しく、23度の翌日は日中でも10度を切って雨。次は半年後かな。空港には、ダンボールアートのモビルスーツが聳え立っていた。

さて、3月は11作品13冊。児童書のルパンも仲間入り。懐かしかった。ではレディゴー♪レッツゴー仙台〜

高村薫「レディ・ジョーカー」(3)

ハードだった。いや〜スーパーハード。高村薫は作品をよく改訂する、クラシック音楽でいえばブルックナーのような人らしい。今回も新しく文庫化するのにあたり、全面的に改訂し、単行本では上下巻だったのが、上中下巻になっている。

自分の兄が、業界最大手の日之出ビールからかつて不当解雇された物井は、それぞれの事情を抱えた競馬仲間たちとともに、日之出から現金を奪うことを考える。やがて、日之出ビールの社長・城山が行方不明となったー。

大企業を相手の犯行、裏取引、さらに絡む総会屋、闇の金融世界、新聞社の最前線の記者たち。そして未曾有の犯罪の捜査に当たる警察。

舞台は犯行グループ、警察、企業、新聞社の間をグルグル回る。上巻は暗いが、事件が動いてからは面白い。特に、ストーリーを側面から盛り上げる、新聞、取材する側の描写は綿密だ。事件発生からしばらくは、犯行グループの章は無く、そこがまた上手い。さらに、金融の大規模事件も絡む、重層的な構成ともなっている。

それぞれの立場の、何人かの主役級の人たちの生き様の物語でもあり、非常に丹念に、詳細に描いている。また、何かに、破滅に向かって動かされているような狂気を描くカミュのような感覚も、ずっとある。ただの事件小説だけ、という訳ではなくやや文学的要素も盛り込んである。

初高村薫は、なかなかハードな世界だった。これだけ長ければ丹念に描けるだろうが、ちょっと心象の部分の描きこみが冗長とも思える。また、謎が充分に解明される訳ではないので、あれ、どうなった?と思う部分もあった。でも、面白かった。また気が向いたらまた別作品も読むことにしよう。とりあえず次は、短くて軽くて楽しめるのを読みたい(笑)。

高橋克彦「空中鬼・妄執鬼」

ハマってしまったこのシリーズ。時は平安時代、陰陽寮の頭である弓削是雄は、弟子の紀温史、使用人の甲子丸、未来を見る能力を持った少年淡麻呂、しゃれこうべだけの姿の髑髏鬼、さらに元山賊の女棟梁で美貌の芙蓉らと人に巣食う鬼を暴いていく。夜中に自分の周りを生首が飛ぶ怪現象に見舞われた是雄のもとに、首を残して身体が破裂した死体の検分要請が来る。

弓削是雄と愉快な仲間たちの、陰陽師時代活劇だ。元は1997年に、数人の陰陽師の活躍を描いた「鬼」という短編集が出て、以降弓削是雄シリーズの「白妖鬼」、「長人鬼」、この「空中鬼」と続いて、時代も主人公も別の「紅蓮鬼」という作品もある。いま同じ出版社から続けて復刻刊行されている。

「妄執鬼」はこの新刊のための新たな書き下ろしだが、作者は弓削是雄ファミリーを気に入っていて、「妄執鬼」では新たなキャラを出現させて、続編の執筆を宣言しているのが嬉しい。

ちょっと理屈っぽいが、酒呑童子、茨木童子、髭切の太刀、源頼光、渡辺綱、金太郎こと坂田金時なんかにワクワクする鬼好きの私には、好きなシリーズだ。復刻するということは、売れているのだろう。確かに、面白い。

モーリス・ルブラン
「七つの秘密」

アルセーヌ・ルパンもので7つの短編から成っている。児童用の書籍だ。息子に借りてきてもらったものだが、私が読んでいた頃と同じものなのでびっくりした。

小学校も中学年となり、趣味が仮面ライダーなどから、アニメチャンネルでやっているコナンやルパン三世に移って来た息子は、パパがシャーロック・ホームズが好きだということもすでに認識している。

私は、いまでこそシャーロッキンだが、小学生の頃は怪人二十面相とルパンの大ファンで、図書館にあるものはあらかた読んでしまった。その話をしたところ、図書係の息子が

「ルパン、あるよ。」と言ったので「借りてきてー!『8・1・3』か『奇巌城』!」

と頼んだところどちらも無かったとかでこれになった。訳者は南洋一郎だった、そうだった。

内容は、シャーロック・ホームズにモリアーティ教授あらば、怪人二十面相に明智小五郎あれば、ルパンにはガニマール警部という宿敵あり、というガニマールをルパンが引っ掛けたり出し抜いたりするものや、ルパンが推理力を発揮するもの、はたまた女盗賊に捕まって危機一髪となってしまうものまである。

文章や言葉遣いは思ったよりも荒っぽいが、豪胆で、スーパーで、時に女性や貧しい人たちに優しいルパンは40年近く前のイメージそのままで、楽しめた。大人用の「8・1・3」でも買ってみようか、という気になった。

浅田次郎「鉄道員」

先行きは分かっていたけど、泣かされてしまった。短編で泣いたのは、おそらく初めてだろう。舞台もすべて、出来過ぎなくらい、整えられた最初の表題作。

直木賞受賞の短編集である。
「悪魔」には引き込まれたが、最後があっけなかった。他の短編も、なかなか心に残る。小さな奇蹟が起きる作品集である。明るくはないが、暗すぎもせず、ほっとする部分を備え、無邪気ささえ感じる。

前にも書いたが、短編集は、苦手であった。最初から設定が極端で、余韻が有るのか無いのか分からないものも多いし、こんなに出来すぎてていいのか、と思うから。

今年に入って、桜木紫乃「氷平線」、朱川湊人「花まんま」、木内昇「茗荷谷の猫」、そしてこの「鉄道員」と読み、おおかた短編集の特徴は変わらないが、少しこれまでと違ってきているのも確か。心を「齧られている」ような感じがしている。なあんてね。

読了深夜。いま外は、小雨混じりの大風が吹いている。ちょっと早い、春の嵐、だろうか。

ロバート・A・ハインライン
「夏への扉」

唸るような仕掛けがあるSFではないが、不思議と本当に夢中になれる感覚。宮下奈都「スコーレNo.4」など他の作品でも味わったことがあるが、久々に熱中した。

1970年、猫のピートとともに暮らしているダンは家事ロボットなどを製作できる天才発明家。しかし、共同経営者に発明を騙し取られ、裏切りの片棒を担いだ婚約者には薬を打たれ、ピートとも引き離されて、冷凍睡眠で2000年へと送られる。

海外ものの傑作を検索していたところ、色々なところで紹介されていた、文庫が1979年に発行された作品。SFの名作ということだが、前述のように宇宙人とスペース・シップで戦ったり、地球上に突然変異の恐竜生物が現れたり、といったものではない。ただ、アメリカに核爆弾が落ちたことが物語中の過去にあったり、大アジア帝国という国が出てきたりと、本筋と関係のないところでビミョーに現代を変えてあったりする。

序盤は退屈で、後半も、さして目新しいことのある物語の内容では無いのだが、まさに怒濤のごとくクライマックスへ突っ走るからか、ズンズン読み進んでしまう。

2000年は子供の頃、遠い未来だった。30年後を創作・描写してあるところも興味深いが、それは読んでの楽しみということで。

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