2014年4月1日火曜日

3月書評の2

仙台の食はそれなりに楽しかったが、普通の居酒屋さんだったので特段写真は撮らず。トイレの貼り紙が、上手だった。では後半!

奥田英朗「空中ブランコ」

笑えて、微笑む連作短編集。楽しくてあっという間に読み終わった。

精神科医伊良部一郎シリーズで3まで出ている。これは2作目で、直木賞受賞作品。

うまく空中ブランコが出来なくなったサーカスのスター、先端恐怖症のヤクザ、等々の悩みを抱えた患者がハチャメチャなドクター、伊良部のもとを訪れる。

ひとつひとつのストーリーは、重松清風で恥ずかしあったかなのだが、そこに絶妙の調味料として伊良部が噛んでいる感じだ。

それぞれ設定は非日常。だからか、笑える。「義父のヅラ」は傑作だった。爽快に、笑えた。こういった、一見極端な、軽い作品にこそ、描写の妙って必要なのかなあと思わせるものがある。

奥田英朗は、これもハチャメチャで笑える「サウスバウンド」しか読んだことがなかったが、改めてこの流行作家の持ち味って?と考えた。伊良部シリーズはまた読もう。

小関順二 「2014年版 プロ野球 問題だらけの12球団」

2000年から毎年出ているシリーズで、今年で15冊めだそうだ。

スポーツニュースは基本的には断片的な情報で、それも12球団全て、となるとなかなか追い切れないものだ。

この本には、おなじみの、ストップウォッチで計測した、打者の一塁への到達タイムや捕手の送球タイムなど独自のデータも駆使し、小関さんの代名詞である、ドラフト戦略と指名選手の分析を交えて各球団ごとの特徴や問題点がまとめてある。

まさに12球団の「現在地」を示すものだ。野球好きがフツーに考えて、マー君が抜けた楽天は、大谷二刀流の日ハムは、ドラフトに成功したオリックスは、落合GMが激しくコストカットした中日は、傍目にも捕手余りの阪神は、そして大型補強の巨人、ソフトバンクは、と興味は尽きない。その年限りしか通じないとはいえ、シーズン前にこのような作品は、需要もあるかと思う。

分析された意外な球団の思想、習慣、また、それに対する時に辛辣な著者の意見も新鮮。なかなか楽しめた。

モーリス・ルブラン
「8・1・3の謎」

息子が「8・1・3の謎」あった!と借りてきてくれた。これこそルパンの最高傑作だ。芯となる謎のタネも覚えていた。

国際的大陰謀の秘密を知る、南アフリカのダイヤモンド王ケスルバッハが殺された。陰謀の果実を狙い暗躍するルパンを、黒いマントの殺人魔が悉く邪魔立てする。

初っぱなから息をつかせぬ展開で、陰謀あり、血も涙もない連続殺人あり、美少女あり、変装あり、絶体絶命のピンチあり、そして手がかりの少ない、大きな謎あり、さらには姿を見せない謎の殺人魔あり、で大いに楽しめる。大人用もいつか読もう。「カリオストロ伯爵夫人」も興味あるな。

北森鴻・浅野里沙子
「邪馬台 蓮丈那智フィールドファイル�」

神代ものは好きで、半年に一度くらい読む。ひと月に一度はお好み焼などソース辛いものが食べたくなるようなものだ。説得力ない例えで恐縮。

美貌で異端の民俗学者、蓮杖那智の下へ、「阿久仁村異聞」という和綴じ本が届く。明治期にいったん島根県に吸収された鳥取再配置の際、消滅した阿久仁村。邪馬台国、出雲、大和政権と、明治期の陰謀が絡む大きな謎へ蓮杖那智が挑む。

民俗学者蓮杖那智シリーズ初の長編となったこの作品を執筆中に、北森鴻は亡くなり、3分の1ほどを、公私共にパートナーだった作家の浅野里沙子が補完して出版されたものだ。

660ページの大作。邪馬台国、出雲、大和朝廷、古事記、日本書紀と、興味有るところを衝いてくれているので、じっくり読めて大変楽しかった。

北森作品は、これが初めて。蓮杖那智は、美貌という割には、性別を超越したキャラクターなので、女性的な魅力は無い。また、助手の内藤三國は極度に那智を怖れているが、この作品にはその原因が感じられない。病室だろうとお構いなしにメンソールの煙草をくゆらし、ドライマティーニや美味いコーヒーを愛する部分は愛せるとは思うのだが。いまいちキャラが訴えかけて来ないのは、シリーズを読んでないからか。

陰謀とそれに絡む関係者の動きにもう一つ納得出来ず、さほど入り込めないのだが、この扱いづらいテーマを網羅し、面白く掘り下げ、大胆な説に繋げたことには、北森、浅野両氏に拍手を送りたい。他作品も読んでみようかな。

青山潤「アフリカにょろり旅」

東大海洋研究所に所属する2人のウナギ研究員たちが、世界にいる18種類のウナギのうちまだ採集していない「ラビアータ」を求め、アフリカの奥地を、這いずり回る旅、旅したご本人が書いたエッセイだ。

舞台はアフリカ西南部マダガスカル島に近いマラウイ、モザンビーク、ジンバブエ。中には高層ビルの建つ都市もあるが、もちろん大半はインフラなどとても望めない地域での冒険。

ほとんど情報が無く言葉も通じない地域で、地元民に幻のウナギのことを手描きの絵で説明し、酷暑で治安や衛生状態が悪い中をウナギを探し求めて当たりまくる、行き当たりばったりと言っても差し支えない調査行。予算を使わないために、移動は激しく混み合うバス。宿は水も出ない安宿である。

まさにドタバタかつ過酷を極める旅で、自分は絶対無理(笑)。紀行もの、アフリカものはそれなりに読んで来たが、ミッションに従い、猛烈な勢いで過酷な旅を続けるこのコンビには、笑えて、惹きつけられる。また、締めの方向性もいい。

千葉のリサイクル書店でたまたま見かけて、たまには好きな紀行ものでも、と購入したもの。いい時期にいいもの読んだな、という気になった。

井村君江「アーサー王ロマンス」

魔法使いマーリン、アーサー、名剣エクスキャリバー、円卓の騎士、ラーンスロット、聖杯探求・・言葉は断片的に知っていても、そういえば、アーサー王物語はちゃんと知らないな、とwebで検索したところ、入門書として最適、と紹介されていた一冊。1992年に、専門の研究者が書いた本である。

噂通りというか、登場人物が多いので、最初は作者もこなしきれていない学者感があったが、少し読み進むと、おおむね把握出来るようになっていて、面白い、核になる話だけを持ってきているので、けっこう夢中になった。

ケルトの神話をベースに、キリスト教的価値観を取り入れたある意味俗っぽい騎士道物語、といったところか。無邪気なパーシヴァルもなかなか愛せる。悲恋が多く、残酷な面もあり、現象的にも綺麗なばかりではないが、そこが逆に、日本や世界の民話に似ている気もする。

最後は、国は崩壊し、主な登場人物は皆死んでしまい、アーサー王は、三人の王妃とともに小舟でアブァロンの島に消える。今でもアーサー王と騎士達は生きている、という説まで有るくらいだ。ある意味イギリスの背骨ともなる国産みの物語の一種でもあるのだろうか。違うかな。(笑)

児童書「マジックツリーハウスシリーズ」にもマーリンという魔法使いが出てくるし、サッカーアニメ「イナズマイレブン」にもランスロットという化身が出てくる。アーサー王ではないが、寝かし付けのお話の時に登場させた、八岐大蛇や九尾の狐、金角銀角はいま「妖怪ウォッチ」に出てきている。

子供の物語、アニメなどにはこのような民話、神話から取られたネーミングのキャラが多いんだなあ、と今さらながら思うこの頃でした。

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