土曜の晩はなでしこのドイツ戦を見た。ハイペースで真っ向勝負も、気合いの入りまくったホーム、ドイツに押し込まれての負け。でも、1年ぶりの3連戦としては悪くないと思った。リーグではキレキレの宮間がもひとつ、なのはちょっと気になったが。
さて、6月は出張が多かったせいか、11作品11冊読めた。ではスタート!
舞城王太郎「世界は密室でできている。」
英語のサブタイトルを入れるとすごく長くなるのでごかんべんを。これって初めてですな。ウワサの覆面作家、舞城王太郎も初めて。石原慎太郎や宮本輝に酷評されるという名誉に浴している(笑)方である。
これはミステリである。既存の本格ミステリに対して意図的に挑発的な。
これまで何度も書いて来たが、設定、キャラクターが面白く、興味深い謎があり、その手法を取らなければならなかったというのっぴきならない理由付きでの奇想天外なトリックがあり、引くに引けない言い訳なしの動機があり、なおかつ個性的で魅力的な探偵が鮮やかに謎を解いてみせる、推理の材料は出来るだけフェアに読者に示されなければならない、というのがミステリの理想と、目されているだろう(予想)。いやー厳しいですな。
この作品は、福井を舞台とし、方言を駆使した、アップテンポな会話風文章が大きな特徴。どことなく森見登美彦を思い出す。密室の謎はそれなりに面白いが、物語の流れに必然性がなく、犯罪の理由も、最終的な謎解きも・・。こりゃベテランは怒るかな(笑)。
でも、いまのところは、ハチャメチャに突っ走って欲しい。世間には常識があるから、きっと存在価値はある。「阿修羅ガール」も読みたいな。
辻村深月「太陽の坐る場所」
高校生たちの、生々しく、幼く、どす黒く独善的な感情と、振る舞い。10年後の現在にもつながっているものを描く。
一章ずつ主人公が変わり、それぞれの、高校時代の隠されたエピソードを紐解きながら物語が進行していく、という流行りの形である。特に女子にどろどろした感情が多く出てくる。
自分自身の高校時代は、もううすぼんやりとしたもので、部活の仲間とつるんでいた記憶があるばかり。物事を深く考えているわけではなく、田舎からちょっと都会の高校へ行った不安もあり、周囲にうまくなじめない焦りも、確かにあった。ただ多くの高校生の物語に出てくるように、多感でもなかった。
ただ、確かに女子同士の行き過ぎた確執はあったようだ。後から聞いたりしたが、女は、けっこう激しい争いをやっている。自分的には、高校の時は人気者だった男子が、就職して、いまだに、どうしてあの頃のようにうまくいかないのか、と思っているところ、また、詳細は省くが、貴恵の「殴ってやった」の下りは心に残った。
宮下奈都氏が解説で激賞しているが、人の自尊心が高いのもまた確かで説得力はあるような気がする。ただ、まあそこまで考えるか?というのもあり、最後の会話もちと背負い過ぎだな、と思う。「冷たい校舎の時はとまる」の鮮烈さから、私の感性的には、少し停滞期に入っているか。恩田陸のようでもある。しばらく間を置こう。
貫井徳郎「乱反射」
誰しも持っている、少しづつの身勝手さが積み重なって人の命が奪われる。2歳の子供が倒れた街路樹の下敷きになって亡くなった。
推理作家協会賞受賞作。アガサ・クリスティーの「オリエント急行殺人事件」の日本版、という紹介がされていたが、うーん、かなり違うと思う(笑)。
取り組みは斬新で、読む方も身につまされる事が多い、内省を求める小説である。細かな罪だけでなく、それぞれの登場人物について、家庭環境での葛藤も仔細に描きこんであり、濃厚だ。たんたんとした文章が、宮部みゆきにも似ている。事故が起こるまでが長く最初は読む速度が上がらなかった。
正直を言うと、もう少し精巧な推理小説かと思ったが、やはり設定的にフィクションだなと思えてしまう。直接の原因となった理由が・・と感じる。
後半は、前半現れた人に、新聞記者の父親が一人一人当たっていく。そこが迫真の感じを増していて、どんどん読める。微妙なものが、どうなって行くのだろうという期待を持たせて、面白かった。
西加奈子「さくら」
光り輝いていた兄ちゃん、美しくハチャメチャな妹とともに成長する次男・薫。明るかった我が家に、絶望が訪れて・・
西加奈子の出世作、である。「円卓」とはまた違った、感性の作品だ。まず会話や例えが現代口語風である。極端に言えば、今月読んだ舞城王太郎を思い起こさせる。
また、はっきりわかる特徴は、明らかに色彩を意識していること。それはまるでチャン・イーモウや北野武の映画のようでもある。表現、表現、という手法はこれまで何人かの作家に見て来たが、例えば宮下奈都に比べればそれはより口語体で思い切った、それでいて暖かいところへ着地する。
全体的に、口語を使用しているので隠れがちかも知れないが、純文学風だ。例えば村上春樹のように、関係性のあるような無いような事柄が、メインの物語を引っ張る。一つの家に起きる様々な苦難に対し愛犬さくらがその象徴として、救いをもたらす作りとなっている。ラストなどまるで芝居のようなセリフ回しである。
斬新で、より大阪チックで、ちょっとした笑いから狂気までさまざまなものをミックスしていて興味深いが、芯のところがもひとつ訴えかけて来ないような気もする。
ウイリアム・アイリッシュ
「幻の女」
アメリカの作家、ウイリアム・アイリッシュの代表作。1991年、入社したて、大阪で暮らし始めたばかりの若い私は、身の回りが落ち着くと、好きなミステリーをたくさん読もう!と心に決め、折良く出版されたハヤカワの「ミステリー・ハンドブック」を読み込んだ。その中の「読者が選ぶ海外ミステリー・ベスト100」で1位を獲得していたのが、「幻の女」だった。ランクには、「偽のデュー警部」「深夜プラス1」なども入っていて、聞いたことも無い未知のミステリーたちに出会ってワクワクしたものである。
日本では江戸川乱歩が原書を読み、「ぜひ日本でも出版すべき」と言った話は有名らしい。また、書き出しの「夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった」という粋な文章が、後の日本の作家たちに影響を与えたと言われている。
さて、20ウン年ぶりの再読、中身は、やはりほとんど忘れていた。最後はついに現れた幻の女を、車のヘッドライトがパッと照らして、的な感じだったと確信していたが、全く違ったので笑った。(笑)
スコット・ヘンダーソンがある夜の外出から帰って来てみると、妻が絞殺されていた。現場には彼のネクタイがあり、まずいことに、彼と妻は離婚話でもめていて、当夜も喧嘩していた。さらには彼には愛人がいた。絞殺時刻のアリバイを証明出来るのは、たまたまバーで出会い、食事してショーを一緒に観た、名も知らぬ女だけだったー。
焦れる展開、ヘンダーソンの死刑執行日が迫る!見えない魔の手、そしてきれいなドンデン返し。なるほど、古典的名作なのも分かる気がする。ま、ネタが割れてみれば、というのは有るんだけどね。
再読も、グイグイ進んだ。面白かった。読むべし!
朝井リョウ
「桐島、部活やめるってよ」
朝井リョウ、今年でまだ24歳。男性としては、史上最年少の直木賞受賞者。早稲田大学在学中、弱冠20歳の年にこの作品でデビュー、小説すばる新人賞を獲得した。
もちろん、話題性でチョイスした。前から狙っていて、先日ブックオフに出ていたので即買いしてきた。高校生の話である。
舞城王太郎、西加奈子らと同じく、生々しい面白さを感じさせる会話を織り込んでいるスタイル。しかし、その表現は、両者とはまったく違う、純文学にも近いのではないかと思える美しさ、だということだ。どれかというと宮下奈都とか安達千夏とかが好きそうな世界。彼はもっとピュアに、ストレートに衝いてくる。映画部の章は秀逸だと思う。
ちなみに、同じ高校内のタッチするかしないかの一人ずつが主人公の章立て。手法はよくあるが、ここまで関係性が薄いのも珍しいか。桐島は、各章に噂として出てくるが、桐島本人は一切登場しない。味がありますねえ。評価の高い一冊だ。
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