2013年4月2日火曜日

3月書評の2

後半は、不思議小説もあり、今月は、バラエティに富んでいた。ではSTART!

夏川草介「神様のカルテ2」

2011年の読書中、最も涙した作品の続編。勤務医栗原一止が、愛する妻と変な友人、温かでクセの有る病院の仲間たちに囲まれて、過酷な地域医療の現場で奮闘する。

前回は、少々変なシチュエーションの物語であったが、今回は、純粋な医療物語である。過酷な現場、医師に向けられる目、死と自然、といった事に敢然と斬り込んでいる。また、長野・松本という土地柄ゆえ、自然の描写とそのタイミングが、美しい。内向的か、ギラギラした外向けの感性の本が目立つ中、表現力と構成、登場人物の妙とが折り合っている。決してライトノベルではなく、傑物な作品だと思う。

桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」

戦後から現代まで、山陰地方都市の赤朽葉家の女たちを主軸に、社会の移り変わりに翻弄される人間たちを描く。日本推理作家協会賞受賞作である。

不思議な、大河ドラマ風の物語である。最初は不思議ものか、と身構えたが、その実、時代時代の世相と若者たちの変遷を描いており、われわれ世代には、読ませる話となっている。

誰もが戦後、昭和、平成、という時代は追い掛けてみたいものであろう。そこにどう味付けをするか、そんなことを考えさせられた。ラストの台詞といい、不可思議な構成といい、細かな設定といい、桜庭一樹は、やはり只者ではない。不思議ちゃんな話であることに変わりは無いが。

乾ルカ「蜜姫村」

「あの日にかえりたい」が直木賞候補にノミネートされた乾ルカ。直感的に読みたい、と思ったのがきっかけだが、この作品に限れば、ちょっと厳しかった。

新種のアリを求めて、学者と医師の夫婦が奥地の村に逗留するが、村には医療を寄せ付けまいとする空気があり、謎を探るうちに、奇怪な出来事に巻き込まれる。

不思議で、グロで、意味が掴めない。緻密さも感じられないような気がする。異ジャンルに挑戦したのならば、それだけ、だと思う。

三浦しをん「風が強く吹いている」

不思議ものを挟み、スポーツは箱根駅伝もの。今月スポーツ多いな(笑)。

名も無い大学に通う、ボロアパートに集まっている住人達が、陸上競技部の部員となり、箱根駅伝の頂点を狙う、というお話。

スポーツ物語は、ノンフィクションででもない限り、「そんなにうまくいくわけないだろ」と思われてしまうストーリーが多いものだ。私もそう思う。そういう意味でいくと、この作品は、王道を行っている。

管理された陸上強豪校が嫌で、走りに理想を求め実力もある2人が出会い、ランナーとしては素人どころか、運動も苦手な者もいる住人達を、箱根駅伝に導く。指導者は完璧にも見える人物で、故障を抱えている。結果を出すことによって周囲の人々の応援も得ることが出来るようになり、そして・・だ。

執筆に6年間かけたというが、それだけ綿密に調べたということ、のめり込んだということで、さすがに、このレベルの作家となると非常に綿密だ。上であんな事は書いたが、実は私はスポーツものが好きである。その競技を詳しく知る事ができるし、熱くなれるからだ。あまりに出来すぎていて、ファンタジーみたい、という声もあったと聞くが、折り込み済みだろう。

キャラクターも愛せるし、面白い仕上がりになっていて、一気に読んでしまう。惜しむらくは、敵キャラまでもが漫画的過ぎてしまうことか。強豪校には強豪校の理屈もあるのではと思う。

藤原伊織「ひまわりの祝祭」

デビュー作「テロリストのパラソル」で江戸川乱歩賞と直木賞を受賞した藤原伊織の第2作。ゴッホの「ひまわり」を巡る陰謀や思惑の数々を描くパワフルサスペンス。

いわゆる「テロパラ」には私も大いに楽しませてもらった。第2作も力作だ。題材は好きな方である。ちょっと理屈が多過ぎ、また主人公がスーパー過ぎるところも目立ち、であった。

ただ感じたのは、行間に漂う雰囲気、けだるくどこかコミカルなところ、また息をつかせずエピソードが展開していく特徴が、いい意味で継続していることだ。ファンが多いのも分かる気がする。

3ヶ月で、36作品、45冊。4月以降も、がんばろう!

0 件のコメント:

コメントを投稿