2013年4月2日火曜日

3月書評の1

忙しい割りには、移動時間などによく読んだ。11作品12冊。2回に分けて、お送りします。

高田郁「小夜しぐれ みおつくし料理帖」

シリーズ第5弾。澪は吉原の大店の主に、吉原で店を持たないかと持ちかけられる。悩んでいる最中、失踪中の天満吉兆庵の若旦那、佐兵衛を偶然見つけるが・・。

シリーズも残り3巻、だんだんクライマックスに近づいてきた。

悩み深いこの巻は、珍しくあまり料理の印象が強くなかった。物語激変の巻、ということもあるだろう。あと2巻が楽しみだ。

天童荒太「悼む人」(2)

「永遠の仔」の天童荒太、2008年下半期直木賞受賞作。異色の物語である。

亡くなった人を「悼む」ために、全国各地を旅している男。彼は問う。亡くなった方は愛されていたか、誰かを愛していたのか、人に感謝されたことがあったのかー。

読後の感想は「密度が濃い」であった。「悼む人」の旅と、彼と向き合う人々を通して、愛とは、死とは、というテーマを深く掘り下げている。それが目的だ、と思うが明確な答えは無く、小説内でテーマを求めて七転八倒していて、実験的小説の匂いまでする。

こんなに人の死が出て来る小説も珍しいだろう。女のエピソードは正直少しく突飛だと思うし、うまくまとまっているとも思えない。しかし挑戦し続ける、厚みと重みのある筆致を持った作品だと思う。

北村薫「朝霧」

円紫さんシリーズ最終話。「空飛ぶ馬」に始まり、「夜の蝉」そしてシリーズ中唯一活動的で事件のある「秋の花」、さらに文学と文壇の歴史にどっぷり浸かる「六の宮の姫君」と続く。

「朝霧」は、出版社に就職した「私」にとって、主に仕事の関係から、俳句や落語、リドルストーリー、和歌を題材にマニアックで緻密で、小説として実に収まりの良い謎の世界が展開される。そして、全編が恋の予感に満ちて居る。そこに向かってゆく最終章「走り来るもの」は見事だと思う。

しかしまあ、いつも思うが、このような形の本は、他の誰にも、おそらく書けない、特殊で、少しく敬愛されるシリーズだと思う。

伊坂幸太郎「フィッシュストーリー」
解説の言葉を借りれば、軽妙洒脱。表題作他、「動物園のエンジン」「サクリファイス」「ポテチ」が収録されている、短編集である。

私は、なにか意味があるのか、というエピソードや会話を重ねることで、全体的にぼんやりと好意的ものが浮かび上がる。という風に伊坂ワールドを捉えている。作家としては計算があるのだろう。

ストーリーは、正直あまり練られていない感触もある。だからか、あまり好きになれなかったのだが、この作品では、あまりに緻密な計算をするよりは、これくらい自由に書いた方が面白いな、と思えた。

アルフレード・ガティウス
ホセ・マリア・ウック
「なぜレアルとバルサだけが儲かるのか? サッカークラブ経営に魔法は存在しない」

世界の2大サッカークラブ、その経営を、ビジネスの専門家が深く分析した本。経営の話で、何回も読まないとおそらくきちんと理解は出来ない。あんなに高額な移籍を繰り返しながらなぜ破産しないのか、レアルとバルサの微妙な経営手法の違いなども分析してある。

個人的には、高額な選手を獲得した場合の減価償却、1年でダメだった時のことやレンタル移籍に隠されている意味などが面白かった。イブラヒモビッチやカカーの例が挙げてあって興味をそそられた。有名選手のサラリーの一覧表もある。

江橋よしのり「世界一のあきらめない心」

サッカーシリーズ、なでしこジャパンのワールドカップ初優勝を追い掛けたドキュメントである。私も含め、日本中がフィーバーした戦いのプレイバックと、分厚い取材による舞台裏の物語。

掛け値なしに、感動して落涙してしまった。準々決勝、強豪ドイツに勝ち、祝福を受けた情景、心から興奮し、しびれた決勝アメリカ戦。当時の興奮が蘇った。いまもなおこう思うほど、なでしこの優勝は素晴らしかった、ということだ。

何よりいいのは、長い期間取材をして、書きたいこともたくさん有るだろうに、出来るだけ平易な言葉と表現で、情報量も抑えてあることだ。万感の想いも記されているが、まったく過剰ではなく感情移入できる。久々に、泣いたな。

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