2012年7月2日月曜日

6月書評

6月は児童書も入っているので4.5冊といったところか(笑)。では行ってみましょう!

人生初の伊坂幸太郎「砂漠」

どこか昭和文芸的な香りもする。大学生活もの。最近は生々しい描写の作品が流行りなせいか、どこか牧歌的で、キャラの違う、そしてそれぞれ立っている登場人物達が仲良く過ごす。エピソードも、どっから考えたの?という感じの、何かしっくり来ない出来事が多く、さして現実感の無い青春群像劇である。さらっと読めて、キャラも愛せるが、うーんといったところ。

宮下奈都「スコーレNo.4」

最初のほうの印象は、だらだら書いてるし、だらだら感は、安達千夏に勝るとも劣らないどころか、心の飛び跳ね様が、サガンを意識してるな、と思ったりもしたのだが、ともかく、またあまりにお姉ちゃんぽいし、とあまりいいものでは無かった。しかし特に後半就職してからは、テーマに興味も有るせいか、はたまた社会人になってからの「こりゃ大変なことになった」と思って努力を重ねた感覚を懐かしく思い出すからか、ぐいぐい引き込まれてすらすら読んだ。夢中になる余り電車乗り過ごして遅刻した(笑)。

何かが順調だと、どこかで終わりが来る。そういう女の子の頃は終わり、女性になっていく姿が良く分かるような気がしている。設定も、登場人物も何気なく、何の必要性と戦略を持ってこのようなベースでこのようなエピソードを書き重ねたのかと思ったりするが、全体としてしっくり来るから不思議である。うーん。やっぱりこのテのは好きなのかな。目立たない女の子がおそらく、一般的には普通の、上向きの道を歩む。都合よ過ぎ感というか、出来過ぎ感が無いでもないが、丁寧に書き込んでいるので新鮮さが有るのも事実。この方は前に読んだ「宇宙小説」にも寄稿していて、独特の世界を持っている。上半期の上位には入って来るだろう。

そして帰りに夢中になって電車ひと駅乗り過ごした(笑)、

北村薫「スキップ」

いや、短い期間にこんなに乗り過ごすのも珍しい。「リセット」「ターン」と並ぶ、時と人3部作最後の1冊。結局逆に辿ってしまった。書かれたのは3部作で最も先である。幅広い女性層に受け、大変売れ行きが良かった作品である。

この人はとかく、女性的な、というよりは女性の心を捉えそうな表現に力がある。突飛なシチュエーションでありながら、話はトントン、と進んで行く。隅々にまで気を配った、計算されたような感覚が冴えを見せる。主人公の女性は、なんとも憎めない、清潔で、才気煥発な設定で、はみ出したところが無い。穿った見方をすれば、その部分にリアル感の無さを覚えないこともないが、総じて愛せる、知的なキャラクターと言えるだろう。安心して読める、誤解を怖れず言えば知的読者層には受ける物語ではないだろうか。ラストは、私的には有る意味ショッキングだったが、そこは読んでみての楽しみとしたい。

メアリー・ポープ・オズボーン「マジック・ツリーハウス 第32巻 救助犬バリー」

これ、知ってますか?小学校低学年の子供達に、大人気のマジック・ツリーハウスシリーズ。ジャックとアニーの兄妹が、不思議なマジック・ツリーハウスに入り、過去のいろんな土地に行く、冒険シリーズである。前に読んだエルマーシリーズのようなものだ。恐竜時代に始まり、古代エジプトのピラミッド、古代ローマのポンペイ、ムガール帝国のインドや南極やロンドン、パリ、アフリカのサバンナなどなどでの大冒険。今年初めには映画も公開された。最新刊「救助犬バリー」は、南極で石にされてしまったペンギンの魔法を解くために、ナポレオンの時代、スイスアルプスのベルナール峠へ出掛ける、というもの。ナポレオンも登場する。ベルナール峠の修道院は救助犬発祥の地で、そこで交配された大型犬を、サン・ベルナール、英語読みでセント・バーナードと呼ぶようになったそうである。

冒険も楽しいが、出てくる言葉が少し難しくなっているのに気付く。漢字も習い始めて、いま息子のボキャブラリーは飛躍的に伸びているのだが、なるほど、小学校低学年というのはそういう年頃なのだと思う。紹介でお分かりの通り、世界地理と歴史文化、そしてファンタジーを学べるようにもなっている。本屋に行った際、興味深そうに見ていたので買ってあげたが、私の方が先に読んだ。面白かった。ははっ。その時買ったのは、葉室麟「風渡る」と三上延「ビブリア古書堂の事件簿」だ。やはりたまには流行りも追わないとね。ブックオフ近くに無いし。

さて、6月最後は
「シャーロックホームズの復活」

である。ジュリアン・シモンズ、という有名なシャーロッキアンが書いたものだ。私はこの人の「コナン・ドイル」も持っているし、「知られざる名探偵物語」も持っている。さて、中身の方は、というとコアなシャーロッキアンならでは、なのかどうか、だいぶ回りくどい物語だった。ホームズ役を当てたが視聴率の低迷のため、シリーズを打ち切られそうな役者が、ふって湧いた事件の解決に乗り出すが・・という感じのもの。時は移り、馬車と電報から自動車と電話の時代、というのが妙にスパイスだし、女性が強くなった、というのも顕著。しかしまあ、あまり面白くはなかった。パスティーシュ、パロディにはこんなものも多いので気にしないが。神田神保町で買い求めたのが懐かしい。そんな感じの6月でした。

上半期ベスト5は別稿で!

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