2022年4月16日土曜日

4月書評の6

◼️Authur  Conan  Doyle 

The Adventure of the Solitary Cyclist

                         (美しき自転車乗り)


映像的に良い印象を残す物語。


ホームズ原文読み、18作め。私的に1つのピークと見ている第3短編集「シャーロック・ホームズの帰還」に収録されている話です。


荒涼としたイギリスの田舎の長い道を2台の自転車が走る、絵画的にも映像的にもイメージしやすく、位置関係もなにやら示唆するような興味深さがあります。


最近だいぶ長くなっているのでコンパクトめに。


1895423日土曜日の夜遅く、背が高く若く美しいヴァイオレット・スミス嬢がベイカー街を訪ねてきます。話を聞いてもらわなければ帰らない、といった決然とした雰囲気があり、多忙を極めていたホームズも話しぶしぶを聴くことにしました。とはいえ観察と推理を愛するホームズはさっそく彼女が自転車を常用しているピアノ教師だと見抜きます。


聡明で落ち着いているヴァイオレットは自分の身の上と奇妙な出来事を話します。


最近帝国劇場のオーケストラ指揮者だった父親が亡くなり、南アフリカに行ったラルフ・スミス叔父も25年間消息不明で、ヴァイオレットは母親とともに困窮します。


4ヶ月前、ヴァイオレットたちに連絡を乞うという弁護士の広告が載り、誰かが遺産を遺してくれたかもと期待して出掛けていった先で、ヴァイオレットは2人の男と出逢います。年配の礼儀正しいカラザースと、若く野卑なウッドレイでした。2人は叔父の南アフリカの友人で、彼が数ヶ月前、ヨハネスブルクで赤貧のうちに亡くなり、その際姪っ子たちが経済的に不自由してないか確認してほしいと頼まれたとのことでした。



自分に絶えず色目を使うウッドレイの汚らわしさを思い出し、ヴァイオレットは思わずもらします。


I was sure that Cyril would not wish me to know such a person.

「きっとシリルはあんな男と知り合いになってほしくなかったと思いますわ」


ホームズは、彼氏なんですね!と突っ込み、ヴァイオレットは電気技師の婚約者がいると赤くなって打ち明けます。


カラザースは紳士的で、お金に困っていることを知ると、自分の娘の音楽教師として年100ポンドで雇うと提案します。こうしてファーナムにあるカラザースの屋敷に平日は住み込み、週末にロンドンの実家へ帰り、月曜日にはまた勤め先に戻る生活が始まりました。


ヴァイオレットはカラザースのチルタン屋敷からファーナムという駅まで6マイルの道を自転車で行き来します。土曜日は駅まで行き、月曜日には駅から屋敷まで帰ります。片側はチャーリントン荒野、もう片側はチャーリントン屋敷を囲む森で、寂しく人気のない、1マイル以上の一本道があります。


ところが2週間前、おかしなことが起こります。駅に向かう途中でふと振り返ると、200ヤードほど後ろに、やはり自転車に乗った中年の、ダークスーツに帽子、黒いあご髭の男が見えました。駅に着いて、見てみるともういません。この時はなにも思わなかったのですが、帰りの月曜日、それから次の土曜日、月曜日、駅への行き帰りに男は同じように現れました。近づくことはなく、遠くから着いてくるだけですが、ちょっと気持ち悪い。カラザースに伝えると、馬と馬車を用意すると言います。しかし今朝土曜日までに馬車は届かず、また自転車で駅に向かうと男が同じように着いてきました。


快活で行動的なヴァイオレット、どういうことなのかという好奇心も手伝って、急いだり、ゆっくり走ったり、止まったりしますが男もペースを合わせ、近づいてきません。カーブで待ち伏せをしますが、男は現れず、道を見てみるとすでにいませんでした。目立った脇道もありません。


ホームズは、たぶんそれはチャーリントン屋敷の方へ向かった、との見方を示します。そして質問が。


Have you had any other admirers?

「あなたには他に求婚者がいますか?」


ヴァイオレットはシリルと知り合う前は何人か、そしてあのウッドレイに迫られました、と。ホームズは他には?とさらに突っ込みます。


困惑しつつも、ヴァイオレットは、雇い主のカラザースさんが自分に好意を持っていると告白します。


He has never said anything. He is a perfect gentleman. But a girl always knows.

「彼は決して何も言いませんでした。完璧な紳士です。でも、女はいつでも見抜くものです」


ホームズは深刻な顔を見せつつ、何か進展があったらお知らせください、とヴァイオレットを帰します。


there are curious and suggestive details about the case, Watson.

「面白く示唆的なところのある事件だよ、ワトスン」


ホームズは言います。チャーリントン屋敷に誰が住んでいるのか、全く違ったタイプのカラザースとウッドレイの関係はなんなのか、2人はどうしてラルフ・スミスの親類をそんなにも熱心に探し出したのか?家庭教師に相場の2倍の給料を支払うのになぜ馬も馬車もないのか。駅から屋敷まで6マイルもあるのに。


Odd, Watson – very odd!


忙しいホームズは、ワトスンに次の月曜日の朝、調べてきてくれと言います。シリーズ中、また長編に何度かワトスンの単独調査は出てきますね。


かくして月曜日の朝、ワトスンはファーナムの田舎に出向きます。


ハリエニシダの茂みに身を隠したワトスン、黒い髭の男が駅から来たヴァイオレットを追うのを目撃します。なんとヴァイオレット、いきなり急転回して男を追い始めます。必死に逃げる男。なんかコミカルです。やがて女は勤め先へ向かい、男はチャーリントン屋敷の方へ消えます。ワトスンは不動産屋に寄り、ウィリアムソンという立派な初老の紳士が借りていることを突き止めて意気揚々と帰ります。


しかし・・報告を聞いたホームズは冷酷でした。


You really have done remarkably badly.

「君は本当に下手なやり方をしたもんだ」


ようはヴァイオレット嬢の話を裏付けただけで、謎の男の顔を近くから見ることもせず、地元のうわさ話も拾わず、途中の屋敷をウィリアムソンって初老の男が借りてるという役に立たん情報を持ってきただけ、というわけでした。


ヴァイオレットからは、カラザースに結婚を申し込まれたが断った、ちょっとヤな空気ですと手紙で言ってきます。


I should be none the worse for a quiet, peaceful day in the country

「静かで平和な田舎の一日も悪くないだろう」


ホームズ今度は自分で出かけます。


が、唇は切れ、変色したこぶを作って夜遅く帰ってきます笑笑。こぶ、はlumpですね。


ホームズは地元のパブに行っておしゃべりな主人に聞き出します。ウィリアムソンは聖職者だったようだが、週末には大抵a warm lot「短気な野郎たち」が屋敷に集まってるようだ。特に赤い口ひげのウッドレイというやつは毎回来る、と。


ところがウッドレイが同じ酒場にいたのです。裏拳を避けそこなったホームズでしたが、そこはボクシングの達人、左ストレートでノックアウト。ウッドレイは荷車で運ばれます。しかしここまで。ホームズも結局たいした収穫はありませんでした。


ヴァイオレットからまた手紙が。カラザースのところを辞めることにしたと。次の土曜にロンドンへ戻ったらファーナムは行くつもりはない。カラザースは馬車を買ったので危険はない、と。加えてカラザースの家にウッドレイがたびたび来るようになったと書かれていました。


There is some deep intrigue going on round that little woman, and it is our duty to see that no one molests her upon that last journey. 

「あの女性の周りに何か深刻な悪巧みがうごめいている。そして、彼女の旅立ちを守ることは僕たちの責務だ」


2人は土曜の朝、ファーナムへ出かけます。ワトスンは、この事件を深刻だと受け止めてなかったと告白しています。たしかに現象面だけ見れば、若い美人が関心のある男に遠くから追いかけられた、危害を加えるどころか近寄ろうともしない、とも考えられます。


ところが・・2人が歩いていると無人の馬車がこちらへ向かってきます。しまった!ホームズたちは馬車に乗り込み、道を急ぎます。すると目の前にあの、自転車の男が現れ、ピストルを取り出して止まれ!かなり慌ててます。やがてどちらもヴァイオレットを探してるとわかり、男の先導で3人とも走ります。生垣からチャーリントン屋敷の敷地内、足跡がある方へ。


すると、


a woman's shrill scream – a scream which vibrated with a frenzy of horror – burst from the thick, green clump of bushes in front of us. 

「女性の甲高い叫び声、恐怖に錯乱した絶叫が空気を震わせた。それは我々の前にある密集した低木の向こうから聞こえた」


こっちだ!と走ると前が開け、芝生の空き地に飛び込みました。するとそこには、大きなカシの木陰に、ぐったりとした女性、口にハンカチを巻き付けられたヴァイオレット、残忍な顔の赤ひげのウッドレイ、法衣を着た老人の3人がいて、明らかに結婚式を終えたところだった、と書いてあります。なんちゅーか、とても異様な光景です。


得意そうに近づいてきたウッドレイに変装のあご髭をむしり取ったカラザース。


I told you what I'd do if you molested her

「もし彼女に危害を加えたらどうなるか言ってたな!」


とウッドレイを撃ちます。ウッドレイは倒れ、法衣の老人が逆上してピストルを抜きますがホームズも銃を構え、叫びます。


Enough of this「もうたくさんだ」

Drop that pistol!「拳銃を捨てろ!」

You, Carruthers, give me that revolver. 

「カラザース、拳銃を渡せ」


あんたいったい誰なんだ、

僕は、シャーロック・ホームズだ。

なんだって!


というやりとりがあった後、ホームズはこの場を仕切り、警察を呼びます。偽の?牧師は汚い言葉で悪態をつきます。


カラザースとウッドレイは、実は財産があったヴァイオレットの叔父ラルフの命が長くないこと、読み書きができないため遺言状はないことなどから遺産を継ぐであろう女性と結婚してその富を自分達のものにしようと画策した、トランプで賭けに勝ったウッドレイが結婚することになった。しかし、カラザースはヴァイオレットを愛してしまった。だから計画から離脱した、カラザースはウッドレイがヴァイオレットに危害を加えはいけないと監視していた、のです。偽牧師は帰国後計画に引き込んだのでした。


牧師ウィリアムソンとウッドレイは誘拐と暴行でそれぞれ7年と10年の懲役、カラザースはおそらく情状酌量で軽い量刑を受けた。そしてヴァイオレットは巨額の財産を相続し、彼氏シリルと結婚した、という物語でした。


タイトルは「The Adventure of the Solitary Cyclist」直訳すれば「孤独な自転車乗りに関する冒険」このサイクリスト、がカラザースを指すのか、ヴァイオレットか、は議論があるようです。文中にはカラザースを指すと思われる部分もあります。まあただ私的には「美しき自転車乗り」がやっぱいいかなと思います。人口に膾炙しているか、タイトルとしてイケてるか、を取りたいですね。


さて中身ですが、ちょっと荒っぽく、女性のことを考えない成り行きは印象がよくなく、ホームズの推理力、捜査力が発揮されたりする場面も、あっというトリックもありません。また、こんな結婚式認められるわけないやん、という根本的な疑問もあります。細部も明らかにされないところがあります。


一方で快活で美しく聡明なヴァイオレットが、当時の外出着のドレス、帽子を身につけ自転車に乗る姿は鮮烈な印象を残します。またホームズのボクシングの腕前が発揮されているのはスカッとするところですね。


ホームズものの特徴である、海外の植民地と謎が絡む作品のひとつです。


私的にはやっぱりヴァイオレットの魅力と、自転車の2人の距離感がけっこう好きですね。


ちなみに、すでにこの時代の自転車はチェーン式となり、異常に大きかった前輪も小さく、乗りやすくなっていました。男性も女性も遠乗りするのが流行っていたそうで、女性が1人で寂しいところへ遠出する危険性も指摘されてもいたそうです。時勢に合ってたんですね。


同じ月で2つの話についてアップするのは初めてかと思います。実際は月のアタマに読了し、そこから次を読んだ、という読む期間の巡り合わせが大きいのですが、短編全体の1/3に達するかというとこで、ちょっと読むのが楽になってきた感もあります。


ドイルが使う言葉、単語の意味が分かってきたこと、文法で悩むことが比較的少なくなってきたこと、調べてみたら意外な意味を発見して嬉しかったりすることが増えた、という要因があるかな・・とも思うのですがまだまだ難しく、訳文がなければ迷うであろうことも多い。次に見えてくるものを愉しみに続けようと思います。





4月書評の5

◼️ トーマス・マン「トニオ・クレーガー」

鮮烈な印象を残す自伝的作品。リザヴェーダの一撃がいいね。

マンはですね、某有名作家の某めっちゃ売れた北欧の国名がタイトルにつく小説で主人公が読んでたから気にはなってたけどもここまで手に取る機会がありませんでした。違ったっけ?

さて、マン初読みはコンパクトな代表作。北ドイツのリューベックと思われる港町から話は始まる。

少年のトニオは学友の闊達な美少年、ハンスを愛していた。その後16歳の時、美少女インゲに強く魅了された。どちらも豊かな金髪と碧眼。トニオは黒髪に茶色の目。やがて父が亡くなり、南の国出身の母は再婚してトニオは独りになり作家として身を立てる。

友人の女流画家・リザヴェータに「あなたは単なる一般人よ」とやり込められたトニオはデンマークへ旅行する。デンマークへ入国する前に故郷の街の実家だった建物、現在は公立図書館に立ち寄るが、警官に犯罪者と疑われてしまう。

デンマークで過ごすトニオ。ある日多くの旅行者が集まったパーティーがあり、トニオは少年の時恋焦がれた2人を眼にするー。

場面の描き方が鮮やかだなと思う。最初は金髪碧眼で水平服を着た美少年ハンスにくっつき他の友人からの人気に嫉妬する。いかにもその年代らしい焼きもち、誰もが抱いたことのある気持ちが初々しく、ちょっといたたまれない。また港町をぐるっと歩くのも清々しく、買い食いすら美しい感じがする。

少年は、恋する少女を理想化する。金髪のインゲ。結局最後までまともに話す機会は見られない。

大人になってからはもう。実はドイツの作家が書く小説だから、理屈っぽいんじゃないか、と思っていたらやはりというか、トニオがリザヴェータにくどくどいう話のなんと長いこと。さっぱり分かんないし。笑えてしまう。で、掛け値なしにいいヤツ、のこの女友だちに、この上ない柔らかい言い方で

「あなたは単なる一般人よ」

とやられてしまい、傷つくわけです。リザヴェータはトニオを好意的に見ており、オトナになってつきあってる感じ。トニオもくどくどしく自分の芸術家としての高みを論じつつ、誰かに、リザヴェータが口にしたような言葉を投げて欲しかったのではないかと思える。


故郷を訪問するくだりは共感する。かつて属していたあのシーンも友人・知り合いたちも、自分のものだった住まいもなにもなくなってしまった、土地はあって、当時の匂いはある、というのは、一旦出て行ってそれなりに長い時間が経った後の帰省では誰もが感じることかも知れない。ちょっとコミカルに落としているのもいい。このエピソードは実体験に基づいているとか。

そしてクライマックスは、2人が再び現れる、まさに幻想と思えるような場面。9月、デンマークの海岸にある保養地。いきなりのにぎにぎしさに夜のダンスパーティ、きらきらしく映える金髪碧眼に蘇る過去のイメージ。

この長くない小説にはさまざまな要素が絡んでいるなと思わせる。でもストーリーの表層に表れている流れを追うだけでも充分魅力的ではある。

思春期と大人の心のうちで、庶民というよりは上流階級の、特権意識が少し突き出ているベース。そこに裂け目がある。

長くなく読みやすく、エロティシズムや主張が強くないからか、日本でも大変愛されている本で、途切れることなく邦訳が出ているとか。私が読んだのも2018年の出版。ドイツでマンの作品は常に映像化、関連書籍化の対象となっているとか。日本の夏目漱石のようなものなのかなと思ふ。

主人公の「トニオ」、このファーストネームはドイツでは外国風の名前と作中に出てくる。自我を形成する大事な要素。ブラック・ジャックに出てくるイタリア人少年と同じ名前。手塚治虫はたぶん「トニオ・クレーガー」から取ったんだろうなあと思いが飛んだ。



◼️ ヘンリク・イプセン「幽霊」

何が「幽霊」なのか。時代の、ゴースト。

ムンクの画集を見ていて、「幽霊」の一場面を描いた作品があったから読んでみたくなった。同じノルウェー出身のイプセンとムンク、作品どうしのなんらかの繋がりが見えればいいな、と借りてきた。

ノルウェーのフィヨルドの港町。アルヴィング夫人は屋敷で、牧師のマンデルスと、翌日の故アルヴィング大尉の事業を記念した孤児院の開所式について話していた。大尉は放蕩者で、夫人は一時家を出てマンデルスのところへ駆け込んだ時、牧師に正道を説かれ家に戻った経緯があった。

その後大尉も立ち直り、立派な事業がうまく行ったかに見えていた。しかし夫人は、大尉は変わらずだらしのない性格で事業は自分がすべて手掛けていたこと、女中に手を出して子を産ませたこと、性病に罹っていたことを露わにする。

パリでの画家修行から帰省していた夫人の一人息子・オスヴァルは、女中のレギーネと結婚したいと突然言い出す、そして、火事がー。


人生というのは、様々なものを含み込んで流れた後に振り返るもの、なのだろうか。

アルヴィング夫人は自分の人生に感じてきた矛盾をマンデルスにぶつける。世間体、因襲、宗教上絶対の常識とされていることへの根本的な疑問ー。その幽霊は溺愛する息子のオスヴァルにも決定的な影響を及ぼすー。損得勘定にさといレギーネもまた身の上を知り、出奔する。

「人形の家」はあらすじしか知らないけども、正直ゾッとした覚えがある。自分にもそんなところはあるのだろうかと。他の小説の下敷きになっているのを感じたこともある。

何もかもが灰色のこの戯曲は当時の美徳に激しく斬り込むものであったため、強い忌避感を巻き起こしたそうだ。

「イプセン『幽霊』からの一場面」は、1906年に「幽霊」をベルリンで上演する際、芸術監督が依頼した舞台美術のムードスケッチらしい。既成道徳、市民社会への反抗心を持ち、人間内部の世界を描こうとしたムンクはどう向き合ったのか。赤みを帯びた部屋に、アルヴィング夫人、オスヴァルor牧師、レギーネ?と窓際にも女性がいるようだ。後ろ姿のアルヴィング夫人はそうだと思うけども奥の人々はもうひとつはっきりしない。愛知県美術館所蔵だそうだ。

ドラマとしては救いがなく、暗い。1881年という時代に、男性のイプセンが投げかけた本質は鋭かったのだろう。

私の場合、シャーロック・ホームズの時期とも重なっていると考えてしまう。ホームズものにも当時の社会・家庭規範が読み取れる。19世紀末は特に様々な考え方が多方面に出てきた時代だと改めて思ってしまう。

「ブリキの太鼓」でカンヌ映画祭最高賞パルム・ドールを取ったフォルカー・シュレンドルフ監督の「魔王」という映画を観たときに、「何が魔王なのか」と考えたことがあった。まじめな男が、ナチスのいう正義の方針に従い子供たちを集める話。

この「幽霊」という言葉も深く広く考えられるかも知れないなと感じた。

「人形の家」も読んでみようかな。

4月書評の4

◼️ 三上延「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅲ
〜扉子と虚ろな夢〜」

キャラ多め。ドグラ・マグラ読もうか・・ちょっとビビるワタシ。

栞子の母親・智恵子とも親しかったという愛書家の杉尾康明が亡くなった。離婚した元妻・佳穂のところに高校1年の息子・恭一郎がいて、康明の蔵書に関して相続権がある。しかし康明の父、恭一郎の祖父で古書店店主の杉尾は、恭一郎に相続させず、蔵書をすべて売るという。恭一郎に相続させたい佳穂が、ビブリア古書堂店主・篠川栞子に相談に来る。

杉尾はデパートの催事場で行われる古本市に康明の本を出品し、アルバイトとして当の恭一郎に手伝わせる。恭一郎は栞子と夫・大輔の1人娘で同じ高校に通う扉子と仲良くなるー。

ビブリアシーズン2の2作め。しかしこのナンバーの付け方は誤解を招くな。すでに2の3巻が出たかと思って危うく既読のⅡを買うとこだった。

出てきた主な書籍は「怪獣島の決戦 ゴジラの息子」などゴジラ映画のパンフレット、山田風太郎「人間臨終図鑑」、樋口一葉「たけくらべ」「十三夜」「通俗書簡文」など、そしてメインは夢野久作「ドグラ・マグラ」。

微笑ましい高校生の付き合い。扉子もまた母、祖母に似て本が好きすぎる性格で、学校に友だちはいないらしいが栞子よりも社交的。推理力も鋭く、事件を見事解決する。

親子、家族で謎の解決にあたる新パターン、篠川智恵子さんもご登場。気になっていた本の魅力も盛り込んでいて相変わらずスラスラ興味深く読める。

ただまあその、登場人物が多くなったせいか、推理の道筋がやや散漫なような気もするし、ワトスン役の五浦の伝聞体基本、というのが薄くなってるな、ちょっと紛らわしいかなと思う。動機、結末も今回はうーんと。

「ビブリア」は古書業界、古本が中心、ということもあっていつも何やら江戸川乱歩の小説や横溝正史もの映画のような、近世日本的な良い雰囲気を漂わせている。いわばモノクロームの内容に、カラーの映像、といった感じだろうか。怪しさと古書の魅力は表裏一体で、登場人物にやや過剰気味に影があるのも特徴か。

キャラ多めのところは、髙田郁「みをつくし料理帳」のようににぎにぎしくそれぞれのキャラを立てつつ、というのもありのような気がするが、まあ上述の雰囲気を持つミステリというベースだから無理かも、なんて余計なことも考える。

「ドグラ・マグラ」の舞台、九州大学医学部はなじみがありその点ちと惹かれはするが、どうも暗くややこしそうだなと。ちょっとビビって手が出ないかな。

◼️ 田辺青蛙「大阪怪談」

不思議な話、怪異は歴史に行き着く。単純におもしろい。

タイトルの通り、大阪、市内やその近郊から日本猿と高級住宅街で有名な箕面市や八尾市、星降る街交野市など府内の怪談や不思議な話を集めたもの。取材した聞き書きが多く、1篇が数ページのライトな作り。まあ大半の由来は後付けだと思うけども、大なり小なりその土地の歴史に行き着くことが多いので興味深い。

大阪への空襲、死者79名を出した天六ガス爆発、明治期のペスト大流行、織田信長や豊臣秀吉も出てくる。

茨木市の鬼伝説は特に好きで、京都・大江山の鬼、酒呑童子の一の子分である茨木童子は源頼光の四天王の1人、渡辺綱に襲いかかり腕を切り落とされるが、取り戻しにくる、という話はいまでもお気に入りだ。さらに茨木にはキリシタン伝説もある。

花博、国際花と緑の博覧会あとの鶴見緑地が有名な幽霊スポットとは知らなかった。当時いちょう館というパビリオンでコンパニオンが髪を引っ張られたり、いきなり大勢の拍手が聴こえたり、落武者を見た人もいたという。テレビや雑誌でずいぶんと取り上げられたそうだ。

軽いやつで心に残ったものを1つ。現在日本一高いビルは大阪のあべのハルカス。そこに入っていた子供服売り場。店員さんが、誰もいないのにクイっと後ろに、髪の毛や服を下の方向に引っ張られる。

座って作業しているタイミングが多いから子供ちゃうか、という話になって、ある時髪を引っ張られた人が、振り向かないまま「ママを探してるの?」と訊いたら、小さい子の声で

「うん・・」

と聴こえてきて、店員さん、売り場中に響き渡る声で悲鳴を上げたとか。いまはその売り場もなくなったらしい。

体験者、伝聞を言う人の語りがなかなかリアルナニワっぽくてくふっと微笑ましい。梅田や大阪城かいわいのスポットにはちょっと興味あったりして。それなりに楽しい読み物でした。

4月書評の3

◼️ 日経ポケットギャラリー「ムンク」

「叫び」「マドンナ」それに・・うずまく暗さがムンクかな。

新刊で原田マハ訳のエドヴァルド・ムンク「愛のぬけがら」という本が出てるのを書店で目にして、ムンクってそういえばよく観たことなかったなと借りてきたポケット画集。

「叫び」は若い頃にブームがあって、CMで取り上げられ、叫びビニール人形がよく売れていた。

「僕は、2人の友人と散歩していた。日が沈んだ。突然空が血のように赤く染まり、僕は憂鬱な気配に襲われた。立ち止まり、欄干に寄りかかった。青黒いフィヨルドと市街の上空に、血のような、炎を吐く舌のような空が広がっていた。僕は一人不安に震えながら立ちすくんでいた。自然を貫く、ひどく大きな、終わりのない叫びを、僕はその時感じたのだ」ムンク

赤黒い空と青黒に黄の海はぐねった線、対して人のいる橋はまっすぐな線。そして独特の表情。やっぱり怪しく不安でいいですねー。2012年に約96億円で落札されたとか。

そして表紙絵でもあるマドンナ。

「世界の流れが絶たれる、静止の時
きみの顔にはこの世の美のすべてが宿る
熟した果実のようなきみの深紅の唇は
苦しげにゆるゆると開く
しかばねの微笑み
いま生が死に手を延べる
死せる幾千もの世代がやがて来る幾千もの世代と結ばれる
連鎖の輪が繋がれる」ムンク

これは聖母マリアのことだが、若く官能的なものは珍しいとか。色彩のパワーが強く、世界観を表すような不気味な色に光と赤い色が活き活きと表され、マドンナの顔や長い髪は魅惑的、そして人間味がにじみ出る。いやー惹かれる絵ではありますね。

ムンクはノルウェーに生まれ、パリへ出て印象派などの影響も受け、またベルリン分離派にも属した、いわゆる世紀末の画家。人間の心の見えない部分を具体化しようとした。

いまでこそ「叫び」が超有名で、晩年には高い評価を得たが、若い頃はなかなか認められず、酷評、非難も浴び、個展が1週間で打ち切りになったり、ムンクの絵は狂人のもの、と言われたりもした。

うーん、このぐねりと、どうしようもなく不穏な感じと変わった顔がムンクという気もするが、なかなか受容されなかったんだね。

ムンク自身は生と死、闇と光といった二元論を自己内に設定していたとか。


冒頭はもし「叫び」とマドンナ」以外で1枚だけ手に入るとしたらなにがいい?という自分への問いかけ。そうだなあ、赤毛を振り乱した女が男の頭部を抱き血を吸うようなポーズをしているリトグラフの「ヴァンパイア」もいいし、ちょっとデフォルメがキュビズムっぽくもある木版画「接吻」も好きですね。

構図と色彩がきれいな「橋の上の少女たち」、シュールな「酒びんのある自画像」、線がジャンセンみたいなリトグラフ「新陳代謝、生と死と、妊娠している女」もなかなか好み。ジャンセン好きだし。

ただやはり、ムンクらしさといえば不安感やあの変わった顔と思えば、「不安」とか「生命のダンス」のような作品かなと。

それにしても絵画解説がなかなか難解めだった。ムンク本人の言葉のみならず評論家の書く紹介文もやっぱりすごく想像的、ことばの装飾が多い。

いつかムンク展ないかなと。「愛のぬけがら」も読みたいかな。面白かった。

◼️ リチャード・ブローディガン
「アメリカの鱒釣り」

うーん、幻想、不条理、わけわかんない笑
のびやかなことは感じる。

先日再読した「ビブリア古書堂の事件手帖」にブローディガン「愛のゆくえ」の紹介があって、図書館で気になっていた本書を読んでみようかなという気になった。

なぜ興味を持ったかというといまではすっかり遠ざかったが、一時期鱒釣りに憧れてたから。山の渓流魚、湖のトラウトはなにかしら気持ちを突つくものがある。

さて、当時のベストセラーだし、鱒釣りだしと軽い気持ちで読み始めたら、これがなかなか、いやー自由な散文詩のような短編の山。

おそらくブローディガン自身の主人公は鱒釣りが好きで、クリークで、湖で、電話ボックスで?笑トラウトを釣ろうとする。物語中には「アメリカの鱒釣り」という意志と言葉を持っている生き物?がいて時折主人公とやりとりする。鱒に脚を食いちぎられたという「アメリカの鱒釣りちんちくりん」も登場する。

スペイン戦争の話あり、子どもは下級生全員の背中に「アメリカの鱒釣り」とチョークで書いて問題となり、鱒のいる小川は切り売りされている。

多くは意味を理解できない掌編ではあるが、どれにも鱒釣りが絡んでいて、サラサラ無理せず読んで、どうにも微笑ましくなってくる。なあんか、てやんでえ、べらんめえ、これでどうだい、というのをアメリカ流にしたテイストもあるというか、果てしない連想を創作的に繋げたというか。妻とまだ赤ん坊の娘と共に鱒釣りを求めて旅する主人公にほっこりしたものを感じるし、ギルガメシュ叙事詩のような神話的広がりさえ覚えてしまう。反知性の文学、幻想、不条理、などと評価されるこの作品は翻訳を含め400万部以上売れており、アメリカで人気が去った後も日本やフランスで好まれているとのこと。

ブローディガンをほとんど邦訳している藤本和子さんの日本語訳は名訳とされ、村上春樹らも影響を受けているとか。

まあ意味は取れなかった。私は分かんないーと言いながら幻想文学に惹かれてしまうM的な属性があるようで、「西瓜糖の日々」もタイトルが面白そうだなと思ってしまう。が、気が向くまで待とうかな。きっとアメリカの鱒釣りもそう言う気がする。

4月書評の2

◼️ 仁木悦子「私の大好きな探偵」

良き時代感と、独特のかわいらしさ。

書評を見かけて興味を持った。1957年、「猫は知っていた」で第3回江戸川乱歩賞を取り、日本のクリスティと言われた女流ミステリ作家の草分け的存在の仁木悦子。

仁木雄太郎と悦子の兄妹が活躍するシリーズから作品を抜粋した短編集。

「みどりの香炉」
「黄色い花」
「灰色の手袋」
「赤い痕」
「ただ一つの物語」

が収録されている。最後の一篇を除いては1957年、昭和32年から1961年、昭和36年までの作品。「みどりの香炉」では兄雄太郎が中学3年生、妹悦子は中学1年生。他も子どもの設定になっている。

江戸川乱歩賞を取ったのは仁木兄妹が出演する長編「猫は知っていた」。そのラストで、富裕な商人であるサボテン(文中では「シャボテン」)コレクターが外遊するため、雄太郎がシャボテンコレクションの世話を依頼され、豪邸に兄妹して住み込む。おおむねその設定を踏襲しているようだ。

兄・雄太郎のキャラがいい。かもいを超えるほどののっぽ。異様な植物好き。やがては植物学者への道を歩むらしい、クールな頭脳派。その植物オタクな知識が事件解決の糸口となる。

著者と同姓同名の妹・悦子は背が低くぽっちゃり型。おきゃんで行動派。

事件は離れに平和そうな設定とは裏腹に、事件の多くには殺人が絡む。現実的な金銭の動機、身内、近しい者が犯人という構成、図面を使い、謎を散らした展開と、ホームドラマ的な展開に本格のテイストが見え隠れする。

びっくりするようなトリックはなく、たたみかけが早すぎる気もするかな。

「灰色の手袋」は洗濯屋という呼び方がしっくりくるクリーニング店での殺人事件。住み込みの店員には傷痍軍人もいる。やりとりや服、小物などに時代の匂いがして良い雰囲気だなと心に残る。

最後の「たった一つの物語」は1971年、昭和46年の作品ですでに悦子は結婚して幼い息子と娘がいる。亡くなった、友人の童話作家が生前息子に描いた手作りの話と絵本、その主人公のぬいぐるみがトリックに絡む。それなりに大きい館、病に臥した女性童話作家、宝石とミステリっぽい匂いがプンプンする。悦子は新聞社に勤める夫の知恵も借りて、子どもを連れて車を運転し行動的に調査する。兄は出てこない。

この物語は、悲惨な事件ではあるが、解説にある実際のエピソードとともに温かなものを心に残す。仁木悦子の聡明そうな写真を最後に見て、いい読書だったと思った一冊だった。


◼️ 田口壮「プロ野球・二軍の謎」

少し前の本。自分のやり方、の変革。

メジャーリーグでも活躍した田口壮・現在オリックス1軍外野守備走塁コーチの著書。2軍監督として、初めて指導者側に入った時の体験、気づきについて書いたもの。

スポーツ選手が書いたものはけっこう読む。その中でもこれってまさに新任管理職や、40代50代のヒトの思考に近いかも、なんて思ってしまった。

田口壮といえばイチローとともに前回優勝時の外野を守り、のちにメジャーリーグで3回もワールドシリーズ優勝を経験した選手。その田口が2軍監督1年めに経験したこと、考えたことなどを述べている。

2軍のあらまし、アメリカのマイナーとの違い、監督の仕事や悩み、現代の若い選手の特徴、自らの立場が生み出すもの、などなどだ。

最初の方で本人がまさに2軍監督は中間管理職のようなもの、と例えている通り、チームの目的に従う者であり、その無意識の行動がコーチや選手に影響を及ぼす。

選手として成功した方だけに、日常生活から自分のやり方が確固としてあって、その点が与える影響についても、関西人らしくおもしろおかしく自らひもといている。例は結構プリミティブだけれども、ああ、あるなぁー、と思わせる。

プロ野球は体育会系気質、それは今でもあるだろう。プロの世界だから、も、でも指導が行き過ぎたり、理不尽な怒りをぶつけられたり、というのは通らなくなってきている。そのあんばいは思った以上に難しいかもしれない。自分が入ったころは・・と思い、いまはそれじゃアカン、というのも世代特有かなと思う。2軍選手は仕事の指示を飛ばす若手社員ではなくて、常に教えられる、進歩させる対象というのがまた特殊ではある。

地元が近いし、関西の球団だしとちょっと思い入れ深く読んだかな。

2022年4月3日日曜日

4月書評の1

ホームズ短編をひたすら読んでいる。スキマ時間で読むのがだいたい20日間、書評というか、英語のフレーズを取り混ぜた全編紹介文を書いていると2日くらいかかる。会社なら非効率として改善対象だけども・・


シャーロッキアンとしての目線で読むと、英語を読んで初めて気づくこともあり、知ってたことを改めて感じることあり、また知識の整理もできる。なにより趣味なので何かに支障が出ない限り時間をかけてもぜんぜんOK。


楽しみは、思い切り楽しむべし。長さも気にしないし、効率なんてサヨウナラ、だ。


◼️Authur  Conan  Doyle 

The 'Gloria Scott'(グロリア・スコット号)


ホームズが探偵を志すきっかけとなった事件。


ホームズが大学時代、友人の家でバケーションを過ごしていた時に起きた事案です。ホームズシリーズ中、ホームズの1人称作品は「白面の兵士」「ライオンのたてがみ」の2編ですが、この作品も最初の方と、折々にワトスンのつなぎのような文言は入るもののほとんど独り語りの回想となっています。


よく知られているように、イギリスで有名な大学といえばオックスフォードとケンブリッジ、いわゆるオックスブリッジです。シリーズ中にホームズが所属した大学は明示してありませんが、ほのめかす作品はあり、オックスフォードかケンブリッジかはシャーロッキアンたちの楽しい話題のひとつとなっています。


さて、ある冬の夜、ホームズはワトスンに手紙を見せます。


The supply of game for London is going steadily up [it ran].

Head-keeper Hudson, we believe, has been now told to receive all orders for fly-paper and for preservation of your hen-pheasant's life.


「ロンドンの狩猟対象への供給は着実に増加している。

管理人長のハドソンは、我々の信じるところでは、ハエ取り紙とあなたのメスの雉の生命の維持とをたしかに受け取ったと語った」


なんじゃこりゃ、ですね。ホームズものではgameとかsportは狩猟を指すことが多いなと英文読み初心者。それにしても意味が分からない。これは昔起きた事件に関係する重要な手紙でした。ホームズは暖炉の前でパイプに火をつけ、ワトスンに語り始めますー。


大学時代の2年間、ホームズはある意味引きこもりでした。自宅でひたすら思考方法の訓練をしていました。フェンシングとボクシングは熱心にやっていたものの、他の学生とは研究対象が違い、友人など1人もいなかったそうです。


そこに現れたのがビクター・トレバーでした。彼が連れていたブルテリアがなんとホームズの足に喰らいつき、踵に怪我を負って10日間も横になって過ごさなければなりませんでした。トレバーは何度も見舞いに訪問してくれ、2人は仲良くなりました。


ビクターは活力が漲った元気な男、しかしホームズと同じように友人はいなかったようです。トレバーの誘いを受け、ホームズはノーフォークにあるビクターの父親の館で1か月間のバケーションを過ごすことになりました。



あたりは湖沼地帯で、野生のカモのすばらしい猟場がありました。館は


The house was an old-fashioned, widespread, oak-beamed brick building, with a fine lime-lined avenue leading up to it. 

「古い形式で広く、オーク材の梁のあるレンガ造りの建物で、立派なライムの並木道が家まで続いていた」


最近「シャーロック・ホームズの建築」という本を読んだのでこのへんも気になったりして笑。


ホームズはパパ・トレバーに関心を惹かれました。

Old Trevor was evidently a man of some wealth and consideration, a J. P., and a landed proprietor. 

「トレバーの父は見たところ財産と思いやりのある、治安判事の地主のようだった」


J.P・って治安判事のことなんですね。


He knew hardly any books, but he had travelled far, had seen much of the world, and had remembered all that he had learned. 

「ほとんど本は読んでいなかったが、世界のあちこちを旅して、見聞きしたことは全て覚えていた」


In person he was a thick-set, burly man with a shock of grizzled hair, a brown, weather-beaten face, and blue eyes which were keen to the verge of fierceness. 

「がっしりして、もじゃもじゃの白髪混じりの髪、陽に灼けた褐色の肌、そしてともすれば獰猛ともいえる鋭く青い目をしていた」


そして、寛大な判決をするとして、思いやり深いとの評判でした。


しばらく経ったある夜、夕食後ポートワインを飲んでいる席で、ビクターが、ホームズの観察と推理のことを話し出しました。たぶんすごいんだぜ!とか言ったんでしょう。若い頃から目を見張るような推理をしてみせたんでしょうね。ワトスンくんがたびたびビックリしてるように。


パパ・トレバーはまた息子がおおげさに言って、なんて思ったのでしょう。自分を観察してみなさい、と笑いながら言いました。ホームズはこう答えます。


I fear there is not very much,' I answered. 'I might suggest that you have gone about in fear of some personal attack within the last twelvemonth.


「それほどたくさんはありませんが、あなたはこの12か月というもの、誰かに攻撃されることを恐れていた、と言えそうです」


パパトレバーの口から笑みが消えました。壊滅させた狩猟団の復讐に備えていた、どうして分かったのか知らんが、と口にします。


ホームズはステッキに鉛を溶かし入れてあることを指摘します。促すオールドトレバーに応じて、ボクシングをしていたこと、かなりの採掘を経験したこと、ニュージーランド、日本への旅行、といったことを言い当てます。そしてーJ. Aというイニシャルの人物と親しかったが忘れたいと強く思うようになった、と告げた次の瞬間、なんと父トレバーは失神して前のめりに倒れてしまいます。


幸いにもすぐに気が付き、心臓が弱っていることを打ち明けた父トレバーはホームズにこう言います。


That's your line of life, sir, and you may take the word of a man who has seen something of the world.

「それが君の人生の方向だ。世の中の物事を見てきた男の言葉として信じて構わないよ」


the very first thing which ever made me feel that a profession might be made out of what had up to that time been the merest hobby.

「それが、単なる趣味だったものから、専門的な職業が生まれるかもしれないと感じさせた、まさに最初のできごとだ」


ホームズの運命に大きな影響を与えたトレバー氏はしかし、その後ホームズへの態度を変化させます。まあ、こいつ何を知ってるんだ、ということでしょうね、気まずさで滞在を切り上げようとした日に、ある男が尋ねてきます。


萎びたような老人で、ボロボロの恰好をした船員の男の・ハドソンでした。ハドソンは「あんたかベドウズのどちらかに世話になろうと思って」とずるそうに笑います。


父トレバーは喉をしゃっくりのように鳴らすと、ハドソンの機嫌を取るように、食事をすすめ、仕事も探してやる、と言うのでした。


ホームズはロンドンに戻ります。7週間後、ビクターから助力を必要としている、という電報が届き、急いで北部ノーフォークへ向かいました。


The governor is dying

「親父は死にかけている」


小型の馬車、ドッグカートで迎えに来たビクターはホームズに告げます。


Apoplexy、卒中だ、とのこと。驚いて訊くホームズにビクターは説明します。ハドソンだ、と。


it was the devil himself

「あれは悪魔そのものだった」


ハドソンは庭師としてトレバー家に雇われたが不平を言ってすぐに執事に格上げされた。汚い言葉遣い、飲酒癖、また勝手に父トレバーの上等の銃で狩猟をするなど好き勝手をしていた。父親は毅然としたところがなくなってしまい、ハドソンを止めることはなかった。そして、父に横柄な口の利き方をしたのに怒ったビクターは両肩を掴んでハドソンを部屋から追い出した。


父は取りなそうとしましたが、ハドソン出て行ってベドウズのところへ行く、と言いました。


I've not had my 'pology,

「謝罪の言葉は聞いてないな」


とげとげしいハドソンの言葉、謝るよう促した父に、


I think that we have both shown extraordinary patience towards him

「我々は彼にとても我慢強かったと思う」


とビクターは言い放ちます。


Oh, you do, do you?

Very good, mate. We'll see about that!

「おお、そうか、そうかい。

いいだろう、坊や。いまに分かるさ!」


ハドソンは出ていきました。そして昨日、一通の手紙、冒頭の手紙が届き、目を通したトレバー氏は、脳梗塞で倒れてしまったのです。


家に着いた時、すでにトレバー氏は亡くなっていました。そしてビクターがこの手紙を持ってきたのでした。


The supply of game for London is going steadily up [it ran].

Head-keeper Hudson, we believe, has been now told to receive all orders for fly-paper and for preservation of your hen-pheasant's life.


ホームズは考え、最初のTheから3つめごとの言葉を拾っていくと意味が通ることを突き止めます。


The game is up. Hudson has told all. Fly for your life.

「終わった。ハドソンはすべてを話した。命が惜しければ逃げろ」


ビクターは、日本の戸棚に父の書いた文書を見つけていました。彼の頼みでホームズは読み上げます。


Some particulars of the voyage of the bark Gloria Scott

「バーク船グロリア・スコット号の顛末」


1855年の話でした。文中に三十年前、という言葉があるのでそのままとれば、1885年のことだと思えますね。


トレバー氏の名前は本名ではなく、James  Armitageでした。J. Aという刺青を消そうとした、とホームズに指摘されて失神してましたね。元の名前だったというわけです。こうなるとどう呼ぶか迷いますが、トレバー氏のままでいきます。


若きトレバー氏は銀行に入り、私的流用が露見して逮捕されます。そして国外追放となりオーストラリア行きの囚人船グロリア・スコット号に乗せられます。


船には38人の囚人が乗っていました。トレバー氏の隣の独房にはプレンダーガストという、195センチはありそうな、かなり背の高く活力のありそうな男が入っていました。彼はロンドンの商人たちから大金を集めた詐欺で逮捕されて、結局金は見つかリませんでした。プレンダーガストが巧妙に隠していたのです。


彼はその金を船に乗り込んでいる教誨師に握らせ、囚人の仲間と船員、二等航海士、囚人の看守をも抱き込み、出発前から船の乗っ取り計画を立てていたのです。1人につき拳銃2丁持ちかけられたトレバー氏も仲間に加わりました。


この話は長いので特に取り上げませんが、プレンダーガストの言葉はなかなかまともに訳しにくい。読みやすい文語と違って、荒くれ者の口語?はこんなんなんだろうな、と思わせますね。


トレバー氏のもう一方の隣の囚人はエバンスと言いました。トレバー氏が仲間に引き入れたこの男は後のベドウズ氏と思われます。さて、ほとんどの囚人が参加した蜂起は、医師が診察に来て拳銃を見つけたことで突然始まりました。


囚人たちは一斉に飛び出して兵士を撃ち殺し、船長は教誨師が殺し、サロンを乗っ取りました。兵士たちに天窓から一斉に攻撃されて一時は危うくなりましたが、プレンダーガストが暴れ回り、蜂起は囚人たちの勝利に終わりました。


捕虜たちをどうするかで意見が分かれます。自由をつかむまではしょうがないけれども、もう凄惨な殺人はしないでいいではないか、という派、トレバー氏はこちらでした。もう一方はプレンダーガストを中心とした、証言台で余計なことをしゃべらないように全員処刑する、という派でした。


It nearly came to our sharing the fate of the prisoners, but at last he said that if we wished we might take a boat and go. We jumped at the offer


「我々は危うく捕虜たちと運命を共に仕掛けたが、しまいにプレンダーガストはもし望むならボートに乗って去ってもいいと言った。我々はこの申し出に飛びついた」


プレンダーガストは難破船の船員を装え、どこで沈んだと言え、と指示します。トレバー氏、そしてのちにベドウズとなるエヴァンスほかの囚人たちは水と食糧を積込み母船を離れます。


しばらくして、グロリア・スコット号の船影が水平線の彼方に消えようとした時でした。


Suddenly as we looked at her we saw a dense black cloud of smoke shoot up from her, which hung like a monstrous tree upon the sky-line. A few seconds later a roar like thunder burst upon our ears, and as the smoke thinned away there was no sign left of the Gloria Scott. 

「我々が船の方を見ていると、突然真っ黒い煙が噴き上がった。怪物のような木が水平線に浮かんだかのようだった。数秒後、雷鳴のような音が轟いた。煙が薄れた時、グロリア・スコット号は影も形もなかった」


トレバー氏らは、慌ててボートを漕いでその地点へ向かいます。無数の木箱、マストの破片といった残骸が波間に揺れていました。助けを呼ぶ声が聞こえ、ハドソンという若い船員が破片に横たわっていました。


救助したハドソンが言うには、プレンダーガストたちは次々と捕虜を処刑した。残るは一等航海士のみとなった時、一等航海士は縛めを解いて逃れ、船倉にある火薬の樽を盾にマッチを持って、危害を加えたら全部フッ飛ばすと息巻いた。誰かが誤って発砲し、次の瞬間大爆発が起きた、ということでした。


その後トレバー氏らはオーストラリア行きの帆船に救助され、弁明に疑義を挟まれることなくシドニーに届けられました。それぞれ名前を変えたトレバー氏とベドウズは採掘で大儲けをし、裕福な植民地人として母国に帰り、20年以上平和な生活を享受してきました。


そこへ現れたのが、トレバー氏らがもと囚人で護送船の乗組員を殺害して脱走した過去を知るハドソンだったというわけです。


後日談として、トレバー氏らの過去が暴露された形跡はなく、ベドウズとハドソンはどちらも行方不明、ハドソンはベドウズの地所付近をうろついているのを目撃されていました。ホームズは事が露見したと勘違いしたベドウズがハドソンの口を封じ、有り金を持って逃亡したと推理しています。


打ちのめされたビクターはネパールのタライ高原で茶の農園を経営している、とのことー。ホームズはこう締めくくります。


if they are of any use to your collection, I am sure that they are very heartily at your service.

「もしこれが君の事件簿に役立つなら、自由に使ってもらって構わないよ」


さて、エピソードの奥にエピソードが隠れており、感触的には長めの短編、といった感じですね。ホームズものとしては珍しく、血で血を洗う的な凄惨な場面が描かれます。


ホームズ作品には、大英帝国時代の世相を反映して、新大陸アメリカ、また今回のようなオーストラリアやインドなど植民地での過去の因縁が犯罪に絡む、といった事件がよく見られます。特徴をよく表している作品のひとつであり、何より若きホームズが手がけた最初の事件、ということでシャーロッキアンには記念碑的な物語です。


この作品に続いてやはりホームズの学生時代に関係のある「マスグレイブ家の儀式書」が書かれているのも面白いところですね。ご紹介はまたの機会に。






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3月書評の9

3月は、自己判断で(河井寛次郎は短いのを4篇読んだから)18作品15冊。

ひさびさに多かった。漫画や小品も多かったんだけど、自由に好きな順で読めてるから楽しい。


◼️ 三上延「ビブリア古書堂の事件手帖5
      栞子さんと繋がりの時」

「ブラックジャック」の謎バンザーイ!

先日「ばるぼら」を読み、そういえば栞子さんに手塚治虫あったなと引っ張り出して再読。相変わらず小沼丹「黒いハンカチ」にも寺山修司「われに五月を」にもブローディガンの「愛のゆくえ」にも惹かれて図書館検索してしまった。

ともかくブラックジャック。いやー専門的知識と天才的な外科手腕をベースにピカレスク風味と誠実な心を併せ持つ稀有な作品だと思う。

手塚治虫は単行本に入れる話を自分で決めていて、カットされる話もあったという。手塚治虫は医師免許を持っていたが、患者を治療したことはなく、誤解したまま描いてしまった回もあったようだ。ビブリア古書堂シリーズを読んでいると、この版にだけ特別なものがある、という価値付けがたびたびあるのでピンと来る。

ワーカーホリック的な仕事の仕方も「ブラックジャック創作秘話」という関連マンガで触れられていた。さもありなんと思ってしまう。


ちょっと時代的にオチの本屋の形態はどうかとも思っちゃうけども、懐かしいテイストのエピソードではあった。挙げられているタイトルにはワクワクする。「医者はどこだ!」「海のストレンジャー」「人間鳥」「鬼子母神の息子」「ナダレ」「畸形嚢腫」ピノコ登場のエピソード言及もいいですねー。

手塚治虫はそれなりに読んでいるが、栞子さんがつらつらと上げた手塚治虫の作品名で、「シュマリ」「MW」読まなきゃな、とまた火がつく。長めに続いた作品では唯一読んでない「三つ目が通る」も。まだまだ楽しめそうだ。

我が家は週刊少年チャンピオンを毎週姉弟4人と母親で読み込む家庭で、末の弟は今も買ってるらしい。その中で手塚治虫作品の盛衰、「プライム・ローズ」「七色いんこ」「ミッドナイト」など人気があったとは言いがたい作品も見てきた。巨匠にしてこの厳しい現実、と違和感をも覚えた記憶がある。作中の触れられている部分で思い出す。


BJはこないだ手塚治虫記念館でマグカップ買って、等身大人形と記念撮影もしてきた。どの話も何回も読んでる。それでもタイトルを見るとまた読みたくなる。再読を始めようか、な?という気になるな。


◼️ 「河井寛次郎の宇宙」

絵柄、色彩とバチッと合うものを感じる。
陶芸作家・河井寛次郎の作品紹介・解説書。

河井寛次郎を知ったのは原田マハの
「20 CONTACTS 消えない星々との短い接触」で取り上げられていたから。陶芸方面は暗く、それまで知らなかった。調べてみると、作品のデザイン、絵柄、色彩になかなか心がくすぐられる。しかも揺るぎない落ち着きが感じられる。京都の清水五条に記念館があると知って俄然興味が加速した。

早くから陶芸の道に進むと決めていた聡明な寛次郎は、東京高等工業学校(後の東工大)窯業科を経て京都市立陶磁器試験場に入り各種釉薬を研究する。早くから優れた技術と多彩な表現力で高い評価を受けたが自らの作陶に悩む。やがて学校、試験場の後輩・濱田庄司や研究家の柳宗悦らと民藝運動を推進した。後年より簡素な作風となり、晩年は木彫り、真鍮煙管のデザインのほか、より自由な創作活動にいそしんだ。また、文筆家でもあり、数冊の本を上梓している。

京都清水五条の窯を譲られたことで家を移り、以後ずっと当地に在住した。

とにかく初期の雲龍、草花から絵柄に惹かれるものがある。花、手で持っている花、魚、兎、両手などだまし絵のようなものもあり、工夫しておもしろい描き方だったりする。

また釉薬は赤の辰砂(しんしゃ)釉、海鼠(なまこ)釉の青、藍、鉄釉の茶色ほかが綺麗で、しかも組み合わせが自由自在、上品に、器の地肌も絵柄も際立っていて素晴らしい。

先に読んだルーシー・リーと作風は違うが、同じバーナード・リーチの薫陶を受けたためかそのデザインや色味には共通のものをかんじてしまった。

記念館は、寛次郎がかつて設計、構成した自宅を改装したもの。作品はまた、大阪と京都の間の美術館、記念館に近い京都国立近代美術館に所蔵・展示されているという。これは観に行かなきゃ、ですね。

河井寛次郎の娘さんが描いた父親像ほか、エピソード、生い立ち経歴などを収録。

面白かった。



◼️ 手塚治虫「ばるぼら」

バルボラ、それは新宿駅の片隅に呑んだくれてうずくまる、うす汚れた、魔性の女ー。

家から遠くない宝塚の手塚治虫記念館で昨秋手塚治虫のバイプレーヤー企画展をやっていたので観に行った。ヒゲオヤジ、アセチレン・ランプ、スカンク、ハムエッグなと手塚作品には繰り返し出てくるキャラが楽しく愛おしかった。手塚治虫記念館はそうたびたび行く所ではないけども、行ったらワクワクする手塚ファン。

グッズショップでまだ読んでなかったやつ、と買ったのが「ばるぼら」。手塚治虫の本格読み物は大好きである。「陽だまりの樹」「アドルフに告ぐ」「火の鳥 太陽編」などなど。とはいえ、なかなか読まず積読していて、今日新刊のマンガ本を複数買ってマンガ読みデーとなったこともあり、通読した。

流行作家の美倉は新宿でフーテンのような、呑んだくれで言葉遣いも悪いバルボラを拾い連れ帰る。家の中でも外でもずっと酒を飲んでいるバルボラが来てから、美倉は怪しく不思議な現象に遭うようになる。やがてバルボラは容姿、身だしなみを整えて、美倉と結婚しようとするが、全裸でマリファナを吸うデモーニッシュな儀式が警察にバレて雑誌に大スキャンダルとして書き立てられる。

その日以来美倉の仕事は激減した。バルボラにも会わなかった。生活に困窮していく美倉は次第に、魔女のバルボラがいないと書けない、との強迫観念に取り憑かれるようになるー。

もとになったのはE・T・ホフマンの幻想小説を下敷きにしたオッフェンバックのオペラ「ホフマン物語」で、1973年からマンガ誌に連載された。

バルボラは美倉の友人の黒人作家の運命を狂わせるなど、やたらと芸術家の前に現れ、彼らを結果的に虜にする魔女らしい。ギリシャ神話に出てくる記憶の神ムネーモシュネーの名を持つ不思議な母親の娘だ。

もてる美倉に最初はやたらと激しく嫉妬していたバルボラは他に男を作る。美倉は彼女が出入りしていたSM演劇クラブに行ったり、死んだファンの女性から手紙を受け取ったり、占い師にしつこく小説の筋を変えるよう迫られたりする。やがて人間関係に疲れた美倉は不条理な狂気の世界を礼賛するようになり、そのタイミングでバルボラはきれいに着飾って結婚を求めるようになる。やがて美倉の方が熱烈に、おかしくなるほどバルボラを求めるようになっていく。

この作品は手塚治虫の息子さんの映画監督によって一昨年映画化された。バルボラは二階堂ふみ、美倉は稲垣吾郎。なるほど。読んだ者としては観たかったかな。

手塚治虫には珍しく?デカダン、退廃を描いた作品とのことで、確かにいろいろ考えたことが台詞やカット割りから伺える。

段々と壊れていく美倉。最後の方はあまりすっきりするようなストーリー展開ではなかったが、前半の話の進め方はさすが上手いな、なんて思ってしまった。新宿駅の片隅にうす汚れてヒザを抱いているバルボラの姿は象徴的だ。ちょっとYOASOBIの歌が似合うような気もする。

ヴェルレエヌの詩を口ずさむバルボラ。手塚治虫のエッセイでその学識の深さに感嘆したことがあったけども、少し前の青年が好きだったんだろうという芸術の知識も織り込まれる。まあまずおもしろかったかな。

ビブリア古書堂の手塚治虫編でも読もうと先ほど栞子さんを引っ張り出したところ。