くるみケーキ。やっぱり美味かった。
過去を懐かしむのは、すでにないものをないと知って、もう2度とまみえることのないそれに想いを馳せること。少しでも知っているもの発見できたら、より想いは強まる。
◼️島本理生「ファーストラヴ」
丁寧に織り成すものがある。島本理生が描きたいものがつながっているようにも感じる。これも「力」か。直木賞受賞作。
10代にして文壇デビューした島本理生の、30代での受賞作品。最初は、見出しに書く言葉が見つからなかった。少なくともどーんと感銘を与える作品ではない。
アナウンサー試験の帰り、女子大生の聖山環菜は、画家の父を包丁で刺殺した。臨床心理士の真壁由紀は、この事件をノンフィクション本にすべく環菜と面会する。カメラマンの夫・我聞の弟でこの事件の弁護士の迦葉(かしょう)と協力しながら調査を進めるー。
性的な問題、親と子の、深刻な闇。環菜の事件の背景と並び、由紀の、そして迦葉の過去、さらに2人の関係が絡む。最初はただの不安定で弱気で子どもに見えた環菜、そして関係者から少しずつ事実が引き出されていく。
さて、私にとって直木賞はよき指標で、「邂逅の森」「恋歌」「対岸の彼女」ほか心の動く作品にいくつも出会ってきた。「宝島」や「蜜蜂と遠雷」など、すごい熱量だった。もちろん、今ひとつなのもふつうにあった。評価高いのかもだけど、私には合わないな、というのも。
おおむね受賞作に共通しているのは、物語を丁寧に、重層的に織り成しているということという感触がある。
今作は上記のようであることは間違いない。さらに人間的、社会的な部分も糸として複雑に、しかし明確に織り込まれている。
ただちょっと粗いな、と思う部分もあった。クライマックスには、劇的に変わりすぎだろう、とか、両親の設定の違和感だとか。
島本理生の初期作品は幼い恋愛感情を鋭く表していて、非常に好ましい。大人になった筆致は、読み手として書き手の昔のイメージにこだわりすぎてもいけない、と自戒しても、好みというわけではない。
でも、著者が恋愛とセックスに関係させたいものを求めているのは分かる気がする。今回もよく取材しているようだ。初期作品は、抑えの効かない初恋の感情へのこだわりも見られた。抗いがたいものと救いだろうか。
また、現実の恋愛と作品の恋愛とはかけ離れている部分、それを細かく散らされる表現でよりリアル感を抱けるようにしている、気がする。
今作が醸し出すもの、これも「力」かと思う。でも、まだ目指すものは昇華していない、のではないかという感触も強い。まだまだ先を見てみたいと、勝手に、思っている。結局ファンなんだなっ。^_^
◼️瀬尾まいこ「図書館の神様」
セオマイコー2冊め。うん、これこれ、という感じ。女性が自然、ナチュラルなのです。
特に会話が、隣で女子ともだちが話している感じがする。いい子で、ナチュラル。ただその自然をまとっている良い女子は、葛藤とストレス、不自然さを隠し持っている。
清(キヨ)は大学出たて、海の近い高校の新任講師。高校時代はバレーボール部、ずば抜けて上手いセッターだったが、試合でヘマをした部員に厳しいことを言い、翌日その子が自殺してしまったという過去を持つ。体育大学進学を取りやめ、バレーもやめた。講師で来てみると、なんと部員が垣内という男子1人の文芸部の顧問にさせられた清。プライベートでは、不倫の恋をしていたー。
恋をする、というのは相手をよく知ることかなと思う。仲良さめの女子でも、恋愛相手となると、素の部分が見えてくることが多いし、それは必ずしも理にかなっていない。そんな事を考えさせるような話だ。
薄いのがまた良い。真面目で、でもストレートで体育会系的資質の清をうまくいなすところは賢くお姉さん持ちなのかなと思わせる垣内君と、長い期間をかけて関係を育んでいくのが爽やかだ。しょっちゅう実家から遊びに来る姉想いの弟・拓海の存在感も抜群。そして優しい不倫相手に溺れる清ー。表面的には穏やか、波はそうない。だけど、胎動しているものは岐路を呼び、シビア。
清に会ったとき、そうそうこれこれ、という感じがした。「強運の持ち主」の主人公によく似ている。人生大してこだわりなく、目の前のことをしのぐ日々、という姿勢。力みがないように見える形。
個人的に、垣内くんが、私も大好きな川端康成を研究してるのがGOOD。山本周五郎「さぶ」も夏目漱石「こころ」もいい。「こころ」の朗読を聴いて卒倒した生徒の体験を聞いた後、清が秘められてきたはずの過去をさらっと主役級でもない子に話してしまうことにもほう、と思った。
ふむふむ。清を見ながら、自己の過去を振り返る。後味が抜群に良い、そんな物語だね!