◼️朝井リョウ「世にも奇妙な君物語」
意外性に毒を添えて。という短編集。
テレビの「世にも奇妙な物語」を小説版にした、という作品。5つの篇で構成されている。
*「シェアハウさない」
フリーライターの浩子はシェアハウス特集の企画が通ったおり、酔いつぶれ介抱のため運び込まれたのがとあるシェアハウスだった。男2人、女2人、誰もが裕福そうで明るく、取材対象として興味を抱いた浩子は1人空きが出来ると聞き住みたいと申し出、認められる。さっそく引越しの準備をするがー。
できすぎた話にはウラがある。仕掛けと怖さがあるけれど。感想はまとめて後で。
*「リア充裁判」
コミュニケーション能力促進法が施行された日本。18歳以上就労前の無作為に選ばれた若者には「リア充裁判」と呼ばれるテストが課され、不合格となった場合は事務局から出される課題を遂行しなければならない。憧れた姉が不合格となり、課題の実行によりおかしくなってしまった過去を持つ知子は、姉と同じようにフェイスブックもツイッターもインスタグラムもせず、友人も作らずに司法試験のための勉強に明け暮れていた。そして、「リア充裁判」のハガキが知子にも届いたー。
世相を反映した極端な世界。でも、裁判、なんかおかしい、と思うところからオチにつながる。
*「立て!金次郎」
熱血漢の金山孝次郎は幼稚園のクラス担任。学年主任の須永から、年間の行事ですべての子どもへ平等にスポットライトを当てるやり方でないことを注意されている。モンスターペアレントの多いPTAからの強い圧力を恐れ、副担任への降格までチラつかせる主任に対して、孝次郎は本人がやりたくないことを無理矢理やらせることはないという考えを変えない。いよいよ卒園式前の最後の行事、運動会で、人前で目立つことの嫌いな子に、孝次郎はある役割を与えるー。
学年主任と孝次郎の関係は、なんか社会の縮図のようにも見える。幼稚園の行事は親のため・・それも一面の真実だな。熱血孝次郎が知恵を使った結果・・いい流れで終わりそうなところへ、最後に毒が。
*「13・5字しか集中して読めな」
私の書き間違いではなく、こういうタイトルなのです。念のため。
ネットのニュース配信ページ「サーフィンNEWS」は13.5文字のタイトル、3行の要約文を経てニュース本文にたどり着くシステム。その手軽さで人気のニュースサイトとなっている。ニュースを書かれた芸能人には意味のなさそうなネタや誤解を招きかねない要約文を嫌う者もいたが、芸能ニュースなどを書いているニュースライターの香織は13.5文字のタイトル作りに誇りを持っていた。香織の仕事を尊敬しているという小学生の息子・直喜の参観日の発表に駆け込んだ香織は、黒板に信じられないものを見るー。
まあ、間にダンナ浮気疑惑とか仕事で尊敬する人からのショックな一言などなどドラマはある。痛快といえば痛快か。
*「脇役バトルロワイアル」
世界的に有名な演出家・野田秀子の舞台、主演俳優の最終選考会場に来た溝淵淳平は、八嶋智彦、桟見れいな、勝池涼、渡辺いっぺい、板谷夕夏という、脇役の仕事が多い俳優陣が最終候補だと知る。溝淵自身もバラエティ番組で活躍するようになっていて鬱屈をかかえていた。やがて、いかにも脇役らしい言動をしてしまった者は床板が外れ奈落に落ちる、という生き残り型オーディションが始まったー。
「脇役らしい」動きやセリフをよく研究してあるなと苦笑。実際の俳優女優を窺わせるネーミングも相まって遊び心がある。オチもシュール。
さて、様々に知恵を巡らせた5篇。正直必ずしも感嘆したわけではなかった。最初と2番めは他作家でもありそうな設定で目新しさはあまりない。3つめは不覚にも多少感動したが、孝次郎の熱血漢すぎるようにも見える部分から予想された毒は、ちょっと小さかったかなという印象。4つめは小学校3年生にはムリだろうという展開。事前にセンセも見てるでしょ。まあ痛快はそうなんだろうけど。5は面白いけれど、やはり新しい感はない。
えー、朝井リョウは「桐島、部活やめるってよ」「もういちど生まれる」「少女は卒業しない」と読み、直木賞を取った「何者」には心から感嘆し、その底知れない、尽きないプロット力に感心した。
その後「星やどりの声」「世界地図の下書き」「武道館」まで読んでもうしばらくいいかな、となった。食傷気味になったのである。
朝井リョウだからハードルを上げる部分もある。読んでいてどうしても辛い点をつけてしまう。今回あとがきを読むと、著者が世間の評価に辟易しているきらいもあるようだ。
今作は面白い試みだが、少し足りないかな、と思ってしまう。まあ作品の性質にもよるが。
すべて乗り越えて、また感嘆できる、朝井リョウらしい新しい魅力の作品を、楽しみに待っている。
◼️ミスター高橋
「プロレス 至近距離の真実」
い、いかん、ツボに入った・・。悪徳マネージャー・若松のセリフに爆笑。
気楽なものを読みたくて、積んでいたプロレスものを引っ張り出した。1998年の著書。再読かもしんない。わかんない。^_^
私はプロレスファンだった。小さい頃から金曜の新日本プロレス、土曜の全日本プロレスの中継を欠かさず観ていた。演出的だが熱気があり、猪木というカリスマの新日本、ジャイアント馬場という大物のつてで有名で実力ある外国人レスラーが多く来日していた全日本。どちらかというと全日本が好きだったかな。週プロではなくゴング誌を愛読していた。
この本は新日本プロレスのトップレフリーだった著者が外国人レスラーや有名な対決の裏側を綴ったもの。著者と仲が良かったのがサーベルを持って極悪ヒールを演じたタイガー・ジェット・シンとか、かつての噛みつきキャラで老いては名マネージャーのフレッド・ブラッシーというのが時代を表している。
"大巨人"、歩くだけで"一人民族大移動"と言われたアンドレ・ザ・ジャイアントが実は神経質で自分の演出、見え方にこだわり、人種差別主義者のきらいもあったことなども興味深い。公称は2m23cmだったが、背は伸び続けていて、宿舎の2m40cmの高さに吊った電球に頭をぶつけて壊したとか。前田日明とのノーコンテストとなったセメントマッチの情報もある。
他にもわがままな外国人選手が制裁を受けたこと、車両を無理やり膂力で引っ張ろうとして市電をストップさせてしまったことなど外国人係ならではのネタも満載。その時代の人らしく、いわゆる「掟」を大事にして演出的な面を考えたレフェリングをしていたことが浮かび上がっている。
私は自分でお金を稼げるようになってからしばしばプロレスを生観戦に行った。メインイベントで選手入場に群がり、猪木の身体をたたいて激励。さあ外人の方だと移動した瞬間に扉が開き、巨漢のビッグバンベイダーがこちらに向かって猛然と突っ込んできた時には、人生これ以上ないくらい必死で走って逃げた^_^いい思い出だ。
社会人になってからも大小さまざま、大阪城ホールから屋外広場での興行まで行った。有刺鉄線電流爆破地雷ダブルヘルデスマッチを最前列で観たりした。ちなみにこの時は女子ベビーフェイスの工藤めぐみが入場衣装のウェディングドレスのまま、ヒール紅夜叉にダイブしたこと、ザ・シークと至近距離で目が合って怖かったことなど想い出満載。
前田日明のリングスもよく観に行って元KGB武術教官というヴォルグ・ハンなんか大好きだった。書き出すと止まらないのでこの辺で。
さて、冒頭の若松である。新日本プロレスは演出的であった。同じ覆面をつけたヒールのマシン軍団というのが登場、悪徳マネージャーとして拡声器とムチを使ったパフォーマンスで悪の雰囲気を盛り上げていたのが自身もレスラーの若松。もちろんよく覚えている。しまいにアンドレに覆面被せてジャイアントマシーンとか言ってたし。
著者もこの仕掛けは試合展開の幅が広がって好きだったらしいが、時々珍妙なことを言い出すので笑いをこらえるのが大変だったという。
「おい猪木!てめぇの首をヘシ折るのに3分もいらねえ、5分もあれば十分だぁ!」
「レフリー、5分延長させろ!テン・ミニッツだー!」
これは本ではないが、ハゲ!と野次られた時に「お前もいつかはハゲるんだ!」と言い返したとか。
ファンの間では有名らしいが、私は知らなかった。ひとつめのがツボに入って大笑いし、時間が経ってもぶふ、とか思い出し笑いをしてしまう。息子もウケて、そのネタ持っとこ、と言っていた。いつもテレビでガーガー喚くのを観ていたが、いやーワカマツそんなこと言ってたのか。それもめっちゃプロレスらしい。
巻末の方に著者は書いている。プロレスは進化すべきだが、今の力任せで見栄えのいい技ではレスラーに深刻なケガの危険が付きまとい、レスラー生命も短くなってしまう、という感想には共感。相手にケガをさせずに一流の技を見せるのもプロの技量。
プロレスはショーなんでしょ、と言われたらそうです、と答える。それでいい。
それでも私は迫力があってレスリングも演出も上手かった昔のレスラーたちが好きだ。アンドレはシンボリックな存在で、ハリー・レイス、リック・フレアー、ミル・マスカラス、本にたびたび出てくるウィリエム・ルスカ、ディック・マードック、スタン・ハンセン、ブルーザー・ブロディ、そして恰好良かったダイナマイト・キッドなどなど。ブラッシーやディック・ザ・ブルーザー・アフィルス、フリッツ・フォン・エリックの全盛期を観てみたかった。彼らは確固とした得意技、フィニッシュホールドを持っていた。それがまた奥深そうでカッコいい。タイガーマスクとブラックタイガーも好きだったな〜。
今のプロレスとはまったく違うもの。いつしかプロレスには興味が無くなった。たまにこうして、本で昔を懐かしむ。
もはや昔の風情を残しているのはメキシコか?いまどうなってんのかな。ルチャの興行あったら観に行きたいな。
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