週前半は雨の心配。九州はひどく、近畿はそそまで降らない、という予報だったが昨年の西日本豪雨を覚えているからめっちゃ降ったらどうしようと思いつつ寝た。あまり降らなかったようだ。
◼️川端康成「たんぽぽ」
未完の作品。興味深い手法。
川端康成は1964年から1968年、ノーベル文学賞を受賞する直前まで断続的にこの小説を書いていて、未完のまま1972年にガス自殺、絶筆となった。
「人体欠視症」、眼前の人の身体が見えなくなるという奇病に侵された稲子は精神科の病院に入院する。稲子は戦後、軍人だった父との騎馬旅行で父が断崖に落ちる様を見てから不調に陥るようになった。稲子を預けて帰る道すがら、また当地の旅館に泊まることになってからも、稲子の母と、稲子の恋人久野とは長い会話を交わし続ける。
未完ということもあり、その後展開させるつもりだったのだろう。180ページほどの本編はほとんどが久野と母の会話で、稲子のエピソードを語り、議論のようにもなっている。
同じ病院に入院していて、紙に「仏界易入、魔界難入」と書いてばかりいる老人の話、久野が見た白い鼠や歩いているとき出会った妖精のような男の子、稲子が撞いていると思われる病院の近くの寺の鐘の音、などが散りばめられる。
そして父であり母の夫であった木崎との思い出、稲子と父との騎馬旅行、稲子が高校生の時、ピンポンの試合で突然ボールが見えなくなったことから久野と稲子の男女の関係にまで話がおよび、久野と同部屋宿泊の母は自分の女の性をも意識する。
久野と稲子の同衾の場面で物語は未完のまま終わる。
ちょっと変わった病気の設定であり、しかも変則な技の長い会話小説となっている。一文一文には川端らしいしっとりとした色が滲んでいて、男女や狂気といった含むものを感じさせる。
もし書き続けられていたら、このベースでもって、川端はこの先どんなダイナミックな展開を見せてくれたのだろうか。芥川龍之介の「邪宗門」は盛り上げるだけ盛り上げて未完となっていて、行き詰まった説もあるらしいが、川端も詰まったからしばらくほっておいたのだろうか。川端康成研究の一つの焦点であるようだ。
会話だけで主人公の行状を語っていくという形は前にも読んだことがあるような気はするが、川端流はどうだったのか。いずれにしろかなり気にかかる終わり方ではあった。
◼️初野晴「千年ジュリエット」
静岡の高校吹奏楽部・穂村千夏と上条春太が活躍するちょいミステリー入り青春ライトノベル、ハルチカシリーズ第4弾。
前作はあまり評価しなかったのだが、今作は大いに楽しんだ。文調も絶好調。たびたび電車でクスクス笑いをしてしまった。
千夏、ハルタ2年の文化祭でひと巻。2人が通う清水南高校は、はしかの流行により他校が中止に追い込まれる中、カリスマ生徒会長日野原のもと敢然と文化祭を決行、大にぎわいとなる。100ページ以内の4篇。
◇エデンの谷
スナフキンにそっくりな山辺真琴は偉大な音楽家山辺富士彦の孫娘。富士彦の弟子だった吹奏楽部顧問の草壁の呼び出しに応じて学校に現れ、祖父から贈られたピアニカ、グラビエッタの演奏で吹奏楽部員を魅了する。祖父が遺した高額な資産価値を持つピアノ、ベーゼンドルファーの鍵が行方不明で、遺言状には真琴に在り処を伝えた、と書いてあるというが、真琴には覚えがない。ハルタは例によって知恵を巡らす。真琴の秘密が、謎の鍵だったー。
魅力的な楽器とニューキャラ。真琴の秘密が分かったところで読んでておおよその見当がつく。でもカッコ良さげで面白い結末だと思う。
◇失踪ヘビーロッカー
アメリカ民謡クラブの部長・甲田は抜群の秀才にしてハードロックの信奉者。文化祭での発表の日、甲田はギンギンの舞台衣装にライオンのような髪型で学校までタクシーに乗る。ところが、学校に来た甲田は降りずに引き返す。礼儀正しい少年から態度を豹変させた甲田はそのまま街をグルグル廻れと運転手に命令するー。
タクシーの運転手目線と甲田の到着をジリジリしながら待つ学校との場面の往復。なかなか到着しない甲田にアメ民のメンバーの焦りが募る。どうやら甲田には車を開けられない理由が発生したらしい・・。
ネタと成り行きは突飛だなあと思ったけれど、特に甲田の行動が派手でハチャメチャで冷静な視点を忘れさせる。嫌いじゃないよ、いや、好きだよ、こんなの^_^
◇決闘戯曲
打って変わって小説的遊びとでも行ったらいいのか、北村薫が書きそうな謎のストーリー。
西部開拓時代のアメリカに渡った元藩士・大塚宗之進は強盗一家の長ウインドゲートと
第一次世界大戦後のパリ。日本軍人・大塚裕次は愛した娘アンリの父、ジルベール・エヴァン伯爵と
それぞれ決闘をすることに。理由があって、2人は右目が見えず、左手が使えないという絶望的な状況から生き延びる。立会人は日本人が有利になるよう、どんな巧妙なルールを設定したのか。
この戯曲はもうひとつ、宗之進と裕次の子孫大塚修司にまつわる現代の決闘が第三部として組み込まれているが未完のまま上演当日を迎え、脚本担当の1年生は失踪したー。
出来上がった話からあれこれと推理していくのは北村薫「円紫さんと私」シリーズを想起させる。結末は詳細に提示されないところがちょっと消化不良だが、こんなテイストも良いものだ。
◇千年ジュリエット
悲しい前提。うーむ。ロミオとジュリエットの舞台ヴェローナにはジュリエットのモデルとなった女性の生家があり、2人が会話を交わしたバルコニーやジュリエット像が人気だという。そして毎年世界中からジュリエット宛に恋愛相談の手紙が来るとか。返信は「ジュリエットの秘書」と呼ばれるボランティアスタッフが返信しているとか。
重い病気を抱えた年齢層の幅広い女性たちが「ジュリエットの秘書」をやるべく相談を募集する。メンバーの高校生・トモは慰問演奏で病院を訪れた清水南高吹奏楽部員のあるメンバーに恋し、文化祭に訪れる。
これも、2部構成でこちらはなかなかすっきりしない展開。最後に、「失踪ヘビーロッカー」とつながって なぜかホッとする。
ハルチカシリーズは左門豊作に似ているという発明部の萩本兄弟やヘルメットを被った美少女麻生美里のもと。没対外交渉なのにミッションの達人の部員たちがいる地学研究会、またシリーズ第2弾のタイトルにもなっている初恋研究会などなんでやねん、というクラブがたくさん出るから愉快だった。前作は私的イマイチだったけれど、今回はまたこれまでのオールスターキャスト+αでとても楽しめた。
これ千夏が橋本環奈で映画になってたとは知らんかった。見逃したー。次の「惑星カロン」も楽しみだ。
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