上記展覧会に行ってきた。神戸・摩耶埠頭沿いの美術館へ、山側から海へ向かって歩いていくのが好きである。蒸し暑くて、ちょっと身体痛かった。総花的な展示。でもピカソのサインをカッコいいなと思ったり、マティスの絵を観て絵はがき買ったり楽しめた。
◼️椹野道流
「最後の晩ごはん 海の花火とかき氷」
シリーズ9作め。より地域の描写が細やかだったが、ストーリーは途中からシオシオとなる?
芸能界をスキャンダルで追放された元イケメン俳優。五十嵐海里。いまは芦屋の「晩めし屋」に住み込みで料理の修行をしている。最近!誰かの視線を感じていた海里は酒を飲んだ帰り道、何者かに道路に押し出される。「シネ」という言葉が聞こえ、視界を長い髪が横切ったー。
前々作「黒猫と揚げたてドーナツ」、前作「忘れた夢とマカロニサラダ」がなかなか良いと思った。幽霊との意思疎通の困難さがあって解決に導くものだったから。「黒猫」では生まれてから犬が身近にいて、その死を経験しているから、その幽霊が近くにいるような気がしたし。
今回は、途中まではミステリじみてて大いに盛り上げるが、ネタばらしの後は、うーん、けっこうしょうもない恋愛事情でわがままも入りうーん、と思った。でも幽霊が消えた時は寂しさを感じた。夏は、祭りと花火とかき氷とあの娘、ってか。うつくしい花火のように一瞬美しく輝きを放つものはまた瞬時になくなってしまう。儚さをかけているようだ。
芦屋のサマーカーニバルとかもろもろ細かいご当地地名も出てくる。橋の上や河川敷での鑑賞もリアル。若い頃はよく行ったもんだ。
眼鏡の付喪神ロイドと海里の友情物語は、読んでいて楽しい。まだまだ先々楽しみだ。
◼️周防柳「蘇我の娘の古事記」
ていねいさと探求。翻弄される庶民。
本読みの先輩と話をしていて、古代が好きならこれ面白かったよ、とお薦めいただいた作品。蘇我氏側から乙巳の変を見た本だよ、と言われていたのでもっと激しい復讐物語もしくは虚しい運命物語かと思ったら、違った。
渡来百済人の末裔、船恵沢(えさか)は文書を作ったり徴税に関わる役で、蘇我氏から国史編纂の命を受け大王にまつわる話を集めて木簡などに文書化していた。オオタカ、ヤマドリという男の子供と、コダマという目の見えない娘がいた。仲睦まじいヤマドリとコダマ。家族は乙巳の変、度重なる遷都、韓半島の不穏な情勢、そして壬申の乱と激動の時代の中翻弄される。実はコダマの出生には、重大な秘密があったー。
章の最後に、昔語りの、大王にまつわるお話がはさまれる。イザナキ・イザナミ・スサノオ・オオクニヌシから後代まで。後代の、あまり有名ではない話も永井路子氏の著作だったか、他の古事記の本だったかで読んだことがありほとんど覚えがあった。
河内に近い百済人の里で暮らす船恵沢の家族、使用人たち。一族の絆は固く仲が良い。ヤマドリはコダマを愛する。コダマに、一族を脅かす出生の事情があったとしてもー。
ほのぼのとした里の暮らしと険しすぎる政治の動乱。蘇我蝦夷、入鹿、中大兄皇子、中臣鎌足、斉明女帝に大友皇子と船家は重要人物に接触し続ける。
最初は、もっと直接的なストーリーかと思った。だから思った以上に政治の中心から離れている風情に、また別の感想を持った。
「初恋のきた道」「あの子を探して」などを作った映画監督チャン・イーモウは、中国の政策に翻弄される庶民の姿を描いた。顕著な作品として「活きる」がある。また上橋菜穂子の「守り人シリーズ」にも戦に巻き込まれる庶民の姿があった。そんな感じ。
船家は一介の役人であり、まさに政治の成り行きに影響され揺さぶられる。そこにコダマの秘密がファンタジックに絡む。入鹿の亡霊も、刺激としてとてもいい。
全体としては非常に丁寧に作り込んでいる印象だ。児童小説のような気配がないでもないが、かちっとした章立てばかりでなく、会話や物語の言葉にもこだわっていると思う。気概を込めました、という雰囲気が伝わってくる力作。
読み物として面白く、短い作品ではないが集中して読めた。
一連の出来事がやがて古事記に繋がる。ラストもきれいにまとめている。
この本を読みながら、「応天の門」を読み、応天の門を貸した同僚の娘さんから借りたマンガ「とりかえばや物語」を読み、古代と平安がごっちゃになりながら読み終えた。
オトナの小説が好きな方にはちょっとかもだが、やっぱこの内外動乱の時代は好きだな。
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