2019年7月13日土曜日

7月書評の3




バス停からの帰り道、畑へ続く舗装していない道に群生する待宵草の花を見るのが好きで楽しみだった。ところが、金曜見てみると道全体が草刈りされていた。私の楽しみは無残になくなったのでした。

頸椎ヘルニアによる痛みは、激痛も無くなったし、70%治った。でも残りの30%は一進一退。首牽引のリハビリをして痛み止めを飲む日々。
きょうは髭剃りシェーバーの振動があまり響かなくなったとか、寝起きの痛みが少し小さくなったとかに良い兆候を実感するが、まだ寝てて強めの痛みで目がさめることもあるし、ちょっと荷物を持つと痛む。いまは痛みというか痺れのような感じで、痛むのも肩甲骨ではなくてほぼ左上腕。たぶん薄紙をはぐように1%ずつ治っていくんだろうなと。ちょっと長期戦となるかも。

◼️青山七恵「すみれ」


 表紙のきれいさに目を惹かれて読んだ本。

あー、主人公・藍子は等身大だなと思ったが・・。


中学2年生の藍子の家に、両親の大学時代の同級生、レミちゃんが住み着いた。母に言わせるとレミちゃんはかつて何度も小説の新人賞候補になったことがあるらしいが、心の病を持っているという。学校から帰って、レミちゃんとお茶の時間を過ごすようになった藍子はある日、レミちゃんに「小説を書く人になりたい」と打ち明ける。


藍子のモノローグで話は進む。藍子自身のエピソードはあまり詳しくは描かれず、今回はそこにリアリティを感じたりした。


自分の中学時代はたしかに色々あったし多感な時期というのも否定はしないが、あんまり万能にあれを感じてこれを考えてリクツ通りにして・・といった世界からは程遠かったと思う。故に小・中学生を主人公とした小説で、メインの事件が起きて、主人公が様々なことを感じて、常識的な行動をし、成長する、というストーリーには違和感を感じていた。


まあそれがなければ小説にならないし、小説は非日常でもあるし、成長物語は時に人を感動させるんだと分かってはいるんですけどね。


だから、藍子を好きな男の子のこと、推薦入試に落ちた時の友人との温度差、努力しても成績が伸びない焦燥感などは、久しぶりにフィット感があったような気がした。


小説の主人公は藍子と、謎の美女レミちゃん。レミちゃんは同じ服を着て化粧はせず、ブランケットに丸まってタバコを吸う、どこか魅力と危うさのある人で、周りの大人にはない言葉で藍子に影響を与える。


そこまでは成功だと思うし、結末は衝撃的に唐突に、という流れはあるが、どうにも内容が・・薄いなと。もう少し書き込めるのかなとも思ったり。


まあ、久々に児童小説チックなものを読んで感じるところがあったのは収穫だったかな。



◼️永井路子「炎環」


鎌倉幕府草創期の複雑な情勢。その中で男たち女たちが腹黒く泳ぐ。昭和39年度下半期直木賞受賞作。


調べてみると、「炎環」は初めての本らしい。その後の長いキャリアからしたらかなり初期の作品。一方私がなじんできた古代・平安のものは1980年代から90年代の著書である。


さて、源頼朝は平家追討の挙兵を決意、異母弟源範頼を総大将に九郎義経の活躍で木曽義仲を破り平家を滅ぼした。頼朝は征夷大将軍に任じられ鎌倉幕府を開いた、という流れは俯瞰で見ればノンストップで輝かしい歴史だと見える。



しかしもとは流人の身で自らの勢力基盤を持たない頼朝は、坂東の豪族たちを頼らざるを得ず、棟梁という立場ではあれ、彼らの顔色を伺いながらの采配でもあった。頼朝の妻政子の父・北条時政をはじめ畠山重忠、梶原景時、土肥実平他多くの武門たちは平家追討の前後、頼朝が亡くなった後も駆け引きと衝突を繰り返す。


それぞれ80ページ以内の4篇。


◇「悪禅師

異母兄の頼朝の元へ馳せつけた阿野全成の話。幼少のころは今若といい、常盤を母とする牛若の兄で京の醍醐寺に預けられていた。

北条政子の妹、おしゃべり好きな保子を妻とするが、義仲・平家追討軍からは外される。政子の次男(後の実朝)の乳母を希望し、目立たず時期を待つ。しかし・・


この章で挙兵から平家追討、義経の運命まで紹介してある。キーウーマンの保子の印象付けも巧み。


◇「黒雪賦


頼朝に重く用いられた御家人、梶原景時は、はっきりと物言わぬ、また時勢によって言動を使い分ける頼朝の意を汲み、陰の動きを続ける。平家追討にも帯同しながら後に義経を誅す主張をしたり、頼朝の代わりに有力者排斥の陰謀を実行し地位を築くが、二代め頼家とは確執が・・


「悪禅師」と似たような流れではある。この二篇で頼朝の性質の大部分を浮かび上がらせている。陰の活動をしているつもりでも、周囲の御家人は見ないようで見ていて、不評を買う。頼家の性質と行状なども描いているのが次の篇以降で効いてくる。


◇「いもうと」


北条政子とその妹保子の関係が中心である。政子やその兄弟と違い、色が白くふくよかでおしゃべり好き、大人子ども問わず誰にでも好かれる、おバカキャラの保子。政子にはなかなか男子が出来なかったのと比べ次々と男児を出産する。


ここは公暁の実朝暗殺、後鳥羽上皇の北条氏追討の院宣まで話が進む。おしゃべりで歴史を動かした狡猾な保子が得たものはー。女性を主役にするとやはり永井氏らしい良さが見える気がする。


◇覇樹


北条時政の息子、四郎義時が主人公。父の時政からみると、いつもそこにいるようで居ない四郎は頼りない存在。平家追討に出しても手柄話は伝わってこない。しかし頼朝の死後は頭角を現し、二代目執権として最高実力者までのぼりつめる。


物語はまず、そこにいそうでいない義時、というイメージをつけて必要最小限の物言いで武家との勢力争い、後鳥羽上皇の承久の乱で勝利を収めていく四郎の姿を描いている。実朝や北条政子を前面に出してその陰から政治を執り行った。


史実としては鶴岡八幡宮で実朝が公暁に暗殺されたその時も席を外しその場におらず難を逃れたらしい。いそうで居ない義時、である。


この本は、全体として歴史の流れを扱い、読むほどに当時の鎌倉幕府の事情が分かるようになっている。時政の妻・牧の方や政子、保子と女性たちの思惑も絡み彩りを出している。


たしかに重厚で本格派ではあった。思い入れも強いのが伝わった。しかし・・私にはちょっと読みにくく、時間がかかった。


私には8090年代の作品の方が合ってるかな、と。重いものも含ませながら大人の色気と軽やかさを同時に持つ感じ。


もちろんこちらも嫌いではないし、読んで良かったと思っているが、まあそんな風に感じた次第でした。

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