写真は柳川の三柱神社。
◼️村上春樹
「騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編」
ちょいホラーも入ったサスペンス・ミステリみたいだが、ハルキらしい飛躍ぶりも見られる。
愛する妻に離婚を切り出された画家の新生活。高名な画家の留守宅に住み、裕福で怪しげな人物と関係ができ、夜中に不気味な現象が起きる。また画家のパーソナリティと仕事を掘り下げる。
ハルキらしく、いやいつもよりセックス描写が綿密。また捨てられた男の心象もセンシティブに描いている。音楽については今回、オペラとクラシック。
妻に離婚を切り出された画家の男は、その日に家を出て長い旅の末、友人雨田政彦の父で高名な日本画家の雨田具彦の留守宅に住むようになり、屋根裏部屋で雨田具彦の未公開の絵を発見する。谷を隔てた豪奢な家に住む、裕福な独身男、免色(めんしき)渉から肖像画の依頼を受けた画家は、ある夜、不思議な鈴の音で目を覚まし、免色に相談する。
免色は少しずつ身の上を話す。彼は自分の娘かもしれない少女の肖像画を描いて欲しいと画家に依頼する。
謎の絵、巨匠の身の上に起きたこと、鈴の怪奇、少女まりえと、読ませる要素が多い。もちろんいつものように妻に捨てられた男の心象が画家という媒体を経て興味深く丹念に綴られる。
物語の成り行きに心惹かれて、ポンポンと読み進めてしまう。美術好きだし。ただ、いつものツールというか、あまり日常的ではない会話の構成、いわゆる「騎士団長」、日常生活の事細かでおしゃれな描写やユーモラスな直喩、そのへん。
ハルキらしさに浸るというよりは、マンネリだなというのが正直な心の声だった。
全てが明らかになる、のか?第2部へー。
◼️村上春樹
「騎士団長殺し 第2部 遷ろうメタファー編」
第1部とは打って変わってイデアでメタファー炸裂の巻。
前巻は、不思議なところとか過去の因縁もあれど、まだ普通めの流れという感じで受け取ったが今巻のクライマックスは理解が難しかったな。ネタバレで書いちゃいます。
振り返りから。妻のユズに離婚を切り出された画家の「私」は高名な日本画家雨田具彦の留守宅に住むことになり、屋根裏部屋から未公開の「騎士団長殺し」という絵を発見する。日本の飛鳥時代の風俗で、騎士団長が刺し殺されている光景。そばには女、従者、そして四角い穴から顔を出しのぞいている「顔なが」が描かれていた。モーツァルトのオペラ「ドン・ジョバンニ(ドンファン)」を模したものでもあった。
谷を挟んで向こうにある邸宅に住む裕福な男・免色(めんしき)に肖像画を頼まれた画家。雑木林から響く夜中の鈴の音に悩まされた「私」は免色に相談、免色は重機を手配し音のする場所を掘り返すと、大きく深い穴が出てくる。
やがて「私」の前に雨田具彦の「騎士団長」そっくりの小人が現れ、自分はイデアだと名乗る。鈴を鳴らしていたのは、穴に閉じ込められていた、この「騎士団長」だった。
免色は「私」に、娘かもしれない少女の肖像画を依頼する。その少女、中学1年生の秋川まりえは「私」が講師を務める絵画教室の生徒だった。
そしてこの巻では、学校帰りに秋川まりえが失踪する。騎士団長に彼女を救う方法を乞い詰め寄る「私」。施設にいる雨田具彦の見舞いに行った「私」のもとに騎士団長が現れ、自分を殺せという。そして刺殺した時、「顔なが」が現れたー。
失踪から「顔なが」出現までのプロセスは面白いし見事だと思った。疾走感も申し分ない。
一つ断っておくと、私はハルキストではない。そして、アンチでもない。村上春樹は確かにその高名さに見合う世界を確立しているのかも知れないなと思っている。私にとっては読書の1ジャンルであって好きな作品もそうでないのもある。なぜこういうかと言うと、今回あまり良くない感想を抱いたから。
主人公は「顔なが」の穴に入って行くのだが、ここからがどうもよく分からないし、「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」の焼き直しのような感じもした。まあ分からないのはいいとして、スケール感や強い印象に欠けたのも確かだと思う。
で、まりえの失踪の真相って、逆にこれでいいのかいな、と思うタネだったりした。謎の部分もあった秋川まりえがかなり普通っぽくなっていた。回想部分やたら長いし、「私」の1人称がちょっと揺らぐような書き方だった。
で、最初の方に説明されてはいたが、ユズと久しぶりに会う「私」。結局ここまでの長い旅路は「私」の自己を見つめ直すためにあったのか、という部分がスッキリしないな。大山鳴動してネズミ一匹感が強い。うーん。
全部は要素で説明し尽くす必要はないと思うが、免色の過去や謎の部分とか戦争に絡む雨田具彦の過去ほかどうもバラけている。
第1部でも書いたが、今回も読ませる力は充分にあったし、美術とか古代とかまりえの謎さ加減とか、なにやら面白そうなネタがたくさんあった。仕掛けも面白かった。しかしたたみ損ねたようにも見えたし、マンネリ感からは結局逃れられなかったかな。