年が改まり初の月書評。ちょっと忙しい週だった。寒さはそこそこ。1月31日の皆既月食は、半分欠けたところで雲が出て見れなくなった。7月に期待だな。写真はチョコレートタルト手作り。
馬場あき子「鬼の研究」
鬼は好きだ。この著者もまた、違う意味で深く好んでいるようだ。それにしても、時間のかかる書物だった。
出雲国風土記、堤中納言物語ほかの各種文献を引きながら、歴史的な鬼の誕生、鬼の完成系のイメージ、時代背景、また、盗賊、土蜘蛛、雷電、天狗、般若、山姥までを網羅した鬼の研究書である。源頼光四天王の1人、渡辺綱と茨木童子の有名な話から、牛方と山姥まで、さらに知らなかった鬼関連の話がたくさん盛り込んである。
底流を流れるのは、鬼は人であるという考え方のもと、時代と立場、どんな人たちのことをそう言ったか、鬼と呼ばれた人たちの心情を汲み取ろうとする姿勢である。抵抗勢力、女性、その他の面からアプローチを試みている。
著者の馬場あき子さんは歌人であり、能も造詣が深く、秩序立てて、多方面からの考察をなされている。は、いいのだが、ちょっと書き方が、多くの要素をいっぺんに考えるせいか、ポンポン飛ぶイメージで、ここ何について読んでたっけ、というのがよく混乱した。またちょっと人の情に肩入れし過ぎのような感も覚えた。トータルでは面白かったが、こんなに時間がかかったのは久しぶりである。
ただ、鬼については興味が出てきたところだったので、本格的な書を読んで、色々考えることが出来た。読みたかった本読了、だ。
子供が幼少の頃、よく寝る前の話をねだられた。そこで編み出したのが「桃太郎外伝シリーズ」である(笑)。桃太郎に続く者たちを創造し、渡辺綱と絡ませたり、西遊記の魔物や西洋の悪魔と戦わせたりした。
その中でもちろん、茨木童子を中心に鬼もたくさん登場させたが、鬼とはなにか、と考えた時、人の世に怨みや歪みがある限り、無限に生まれてくるもの、しかし、部分的には害をなすものの、人間に決定的なダメージは与えず、敗れていくもの、滅びていくもの、ではないか、などと想像が至ったりしていた。
高橋克彦氏の鬼シリーズも、多くは人が関係している。私は、どちらかというと鬼や天狗は手塚治虫氏が「火の鳥 太陽編」で描いているような、化外の存在、特殊な能力を持ち、人間とは異世界に住みながら共存しているような関係の描き方が好きだ。
しかし、この「鬼の研究」にも描かれているように、菅原道真の左遷や藤原氏の栄華への反発、また高橋氏の小説にあるように平将門の乱など荒れた世相の中、寂れた、どこか不安要素が膨れあがったような京の都に現れる鬼、といった風情も好きである。
次はこれをテキストとして鬼については体系的にまとめてみたい気もするな。
ウィリアム・L・デアンドリア
「ホッグ連続殺人」
楽しみに読みました。ほう、そう来たか、でした。
ニューヨーク州スパータの冬。新聞記者のビューアルは、前を走っていた車に標示板が落下した事故に遭遇、乗っていた女の子たちの救助に当たる。警察の調査で標示板の留め具に、人為的に切ったあとが見つかり、ビューアルに「ホッグ」と名乗る犯人から犯行声明が届く。さらに人が死に、犯行声明が連続するにあたってイタリアから名探偵、ベイネデイッティが捜査に乗りだす。
まずは醸し出される不可解さに◯マル。情況が混沌としている中で謎自体は分かりやすい。事件、捜査の進展の過程もストレートだと思う。
キャラクター造形も好感が持てる。名探偵はそれなりにクセを持ちキャラが立っていて信じられる。
長編の推理小説は、捜査が難航する場面がありものだが、その外れ方とか、やがて明らかになる、ちょっとした要素とか細かいところもなかなか興味深かった。トリックは意外かつシンプル。理はまったくすっと通る。そう来たか、という感じだった。
よく出来た推理小説だなあ、という感じである。「HOG」の定義も最後にキマる。
推理小説は、ストーリーの進展とともに謎の解決をするものだが、物語という点では、2つのカップルの微妙な対称のかげんや垣間見られる時代社会の様子が面白かったかな。
謎の解決、というところでは、名探偵が最後の結論に至った過程がいささか不明だが、動機付けがしっかりしてて好感。
1979年の作品で、日本では1981年に翻訳・出版されている。デアンドリアに関しては極端に情報が少ないそうだ。このキャストのシリーズでもういくつか読みたいところだけどね。
やっと読めて満足。図書館で借りたものは、すっごいボロボロだった。これも思い出だね。
朽木ゆり子
「ゴッホのひまわり 全点謎解きの旅」
映画を観たことで興味が出たゴッホ。面白かったし、ひまわりをよく観察することができた。
次はボストン美術館展と、巡回待ちの京都ゴッホ展かな。
ゴッホの「ひまわり」は、花瓶に入っていない4点と、花瓶に入った7点。花瓶のもののうち、1点は個人蔵とだけ分かり、65年以上も人前に出て来ていない。また1点は「芦屋のひまわり」と呼ばれ、日本にあった。そして日本の損保企業が購入したひまわりには贋作疑惑がー。
タイトルの通り、ゴッホの11のひまわりについて、現在と所蔵歴、いわく、ゴッホが描いた背景と意味合いなどについて解き明かしていく本である。世界で最も有名で人気のある作品の一つ、ひまわりについて周辺知識も含めてまとめてある。
私は、東京のひまわりを、損保企業が落札した数年後に、新宿で観たことがある。鮮烈だった。ゴッホは、「星月夜」などの表現は素晴らしいと思うが、全体にどぎつく、あまり観に行く気が起きないでいた。
しかし、年末に「ゴッホ~最期の手紙」という、俳優の演技を撮影してそれをもとに多くの画家がゴッホ風にアニメーション化、背景も全てゴッホの作品のモチーフから描いてアニメ化した映画を観て、いまちょうど興味が湧いているところ。
神戸で開催中のボストン美術館展ではヒゲの郵便配達人の絵が来ているし、今月から京都国立博物館でゴッホ展がある。ちょっとハマってみようかな、と思っている。
柴崎友香「ビリジアン」
記憶を辿る、散文的な作品。大阪のリアル、って感じかな。
京都の大学を受験した帰り、電車の中で女子高生の山田解はキリスト教会で働くカナダ人、ピーター・ジャクソンに話しかけられる。名刺には日本のともだちに考えてもらったという名前が載っていた。「美ー多ー弱損」(ピーターとジャニス)
10才から高校3年生までの記憶が散りばめられている作品。ところどころ文芸的な表現やイメージの発露、コミカルな出来事が見られるが、ストーリー立てやオチはあまりない。アメリカの映画スターや歌手が脈絡なく登場する。大阪(関西)あるある、の類いも含まれている。ビリジアン、深緑色というタイトルは、それだけではないだろうが大阪中心部を流れる川の印象が強いかな。
柴崎友香は「その街の今は」を読み、この作品を京都のセレクトブックショップで見かけて、著名な作家さんが激賞している、という宣伝文句が踊っていたのでいずれはと思っていた。
「その街」は若いストーリーがあったがこちらにはない。すぐに読めるしほんのりと浸れるような作品ではあるがまあ私的におススメというほどではなかったかな。
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