2017年8月13日日曜日

7月書評の3

7月は、13作品13冊。ここのところペースが上がっている。その一方であまり感動できる作品に出会わないのが正直。うーん。7月は「がんばっていきまっしょい」が良かったかな。

土曜日は、私の歯医者が午前中で、午後はママ髪チョキチョキ。高校野球は連日の満員通知。

夕方、久しぶりに涼しくなって、冷房入らず。風もあって気持ち良かった。

で、きょうから妻は息子とともに実家のお盆。私は昨年は行ったが、今年はワンコとともにお留守番。独り暮らしはね、なにかと忙しいのです。さあ動こう。写真は妻手づくりのみたらしだんご。


椹野(ふしの)道流
「最後の晩ごはん ふるさととだし巻き卵」

ラノベ、なんだろう。しかし、美味しい方向のものはやはり面白い。架空の店の所在地もなじみ深いところだ。

若手イケメン俳優の五十嵐カイリは、大手事務所の若手女優との写真を掲載され、力関係から芸能界を追放同然の身となる。故郷の神戸に帰って来たものの実家の兄に追い出され、偶然出会った夏神の料理屋兼住宅に住み込みで働くことになる。夏神の店は時折幽霊が出没するのだったー。

すでに何冊か出ているシリーズもの。作者は兵庫県出身で、夏神の関西弁が地元っぽい。タイトルのだし巻きのほか、生姜焼き、ハンバーグなど定食が出てくるがどれも美味そうで食欲をそそる。

会話は若い、ラノベ風。店の周辺の土地もほぼよく分かる。芦屋川沿いはそれなりに風光明媚で季節柄のいいころの散歩には最適だ。地元商工会が登場人物と記念撮影が出来るアプリも出してたのだとか。

さてこの先どうなるか。料理も楽しみだしもう少し読もうかな。

上橋菜穂子「鹿の王1」

広い。雄大。上橋菜穂子の作品はいつもそんな感じがする。本屋大賞受賞作。ワクワクしながら読み進めている。

東の帝国、東乎瑠(ツオル)と戦い捕らわれた、戦士集団「独角」のヴァンは、岩塩鉱に繋がれ奴隷として働いていた。ある夜、黒い狼が岩塩鉱を襲い、噛まれた労働者は全滅する。噛まれた後の死の苦しみを生き延びたヴァンは、ただ1人生き残った幼子ユナを連れて逃亡するー。

ヴァンともう1人の主役級、医術師のホッサルの場面がメイン。ヴァンは逃亡先で落ち着き、ホッサルは労働者全滅の病気の謎を追う。まださほど物語は動かず、1は全体の説明の巻という気がする。

「守り人」シリーズも、文化人類学者の上橋菜穂子が中央アジアを念頭に構成したというが、今回も山岳を含む雄大な背景で、民族の習性や関係性、感情を細やかに設定しさらにファンタジックな要素を取り入れている。基本は人々の暮らしであり、そのベースをしっかりと描いている。

単行本と違い、文庫は4まであるらしい。

動きがあるはずの2が楽しみ。「鹿の王」のタイトルの意味もそろそろ分かるかな。

上橋菜穂子「鹿の王 2」

日本医療小説大賞でもある本作。多様な考え方が物語を深化している。なんか手塚治虫を思い出すな。

黒い狼のような獣の群れが王家主催の鷹狩りの会場を襲う。噛まれたものは発症し、王子迂多瑠(ウタル)を含む者たちが死に至る。ホッサルたちは懸命の治療の中で新薬を試すなど一定の成果を得る。巷には、帝国東乎瑠(ツオル)に屈した「アカファの呪い」という噂が立っていた。一方、身体に異変を感じていたヴァンは、突然「谺主」の呼び出しを受ける。

意外に本格派の医療小説として黒狼病との闘いを描きながら、そこに多様な価値観が盛り込まれている。科学的な医療と、宗教に基づく東乎瑠(ツオル)の医療は、江戸末期の、蘭方医と漢方医の確執を連想させ、手塚治虫「陽だまりの樹」を思い出した。

上橋菜穂子が描く世界は、もはやホッとするものになっているが、常に瑞々しさを感じさせる仕掛けは細かく展開されていると思う。

この小説は日本医療小説大賞をも受賞したらしいが、ホッサルたちの医療を見ていると、この時代はいつで、どこまで科学が進んでいるのかが読めないという迷いが、珍しくある。

4巻中の2巻め、黒狼病事件が人為的なものだという確信が深まり、少しずつ真相に迫る巻。後半はまた後日読もうと思う。

水島宏明「内側から見たテレビ」

テレビジャーナリズム、テレビドキュメンタリーについて、日本テレビ出身の著者が論を述べる硬質な本。ガツン、という系もたまには読まないとね。

テレビは劣化しているー。兵庫県議号泣など取り挙げやすいニュースの陰で、重要なニュースが流される時間が減っているという現状、また誤報、ミスの原因、取材者のスタンスの問題、社会的弱者への配慮が足りない点などを著者の豊富な経験を元に俎上に上げ、強く意見を述べている。

経験というものはやはり強い、と思う。また、社会的弱者への対応は、風潮については共感するところもあり、勉強になる。著者は大学教授で、学生にはテレビを見ずにマスコミを判断するのはやめて欲しい、とも書いている。

白石一文の佳作「この胸に深々と突き刺さった矢を抜け」では、格差社会の矛盾が大きく取り挙げられていた。石田衣良「コンカツ!」でも大学院を出た男が工場の派遣労働職場をリストラされそうで、親会社に勤める主人公に、男の彼女が詰め寄る場面がある。こういったことが現代のニュース報道で見過ごされがちな風潮には、私も確かに大きな流れとして違和感がある。

正直、冷静な根拠が少なくて思う様を述べている部分もあると感じた。でも、やはり硬質な意見にも、余裕を持った上で読むべきだな、つくづくと思う。

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