2017年8月28日月曜日

夏の終わり

写真は三日月と木星。

朝晩少しだけ涼しくなって、昼間の陽射しも一時期ほど強烈さがなくなった気がする土日。まだ日中は十分暑いけどね。^_^

土曜日はママ午前から出かけるということで息子と犬とお留守番。私は遅くとも8時半には起き出すから、朝ごはん食べて見送る。息子は昼まで起きてこない。曇りがちで、涼しめの気候。

お昼ご飯はママ買ってきたモスバーガー。でもお持ち帰り用小さいな。こんなに迫力なかったっけ、違うでしょ。いつからこうなったのかな、モス。世の中変わってるのか。

この日は外出なしで夕暮れ時に犬の散歩。開けたところから大阪の街を見下ろす。この薄暮の時間帯が好きである。少しずつ街の明かりが点いていくのが風情があって良いと思う。夜は、伊丹市の花火大会の日で、屋上テラスから意外に近くに見えた。

日曜日は午前から図書館へ。朝の1時間ほどなんだけど、集中してよく読めるんだよね、涼しいし。多少検索もして帰る。

お昼はナポリタン。巨人ー阪神を見る。復活にかける藤浪は、6回まで無失点。しかし7回、村田にデッドボールを当てて崩れ、亀井に先制タイムリー2ベースを浴びて降板。リリーフもジャイアンツにつかまってしまい6-0の完封負け。あれあれ。

藤浪は前回に比べればかなり良かった。フォームがまとまっていて、それなりの力感があった。次からはローテーションに入れるだろう。投げながら、自信を戻していって欲しいものだ。

ピエール・ルメートル「悲しみのイレーヌ」読了。

ルメートルは「その女アレックス」がかなりテクニカルで、構成として大変良い佳作だった。しかしながら殺人はむごく、グロかった。

今回はいわゆる見立て殺人もので、やはりテクニカル。なるほど、なんらかの技術を駆使して構成していく人なのね、でも残虐さはエスカレート。グロの極みである。この技巧と陰惨さの両立がルメートルなのかも知れない。

まだ本はあるけれど、8月のミステリー月間はこれにて終了。毎年思うが、ミステリーばかり読んでると気が滅入る。だいたい良くないことばっかりだし(笑)。文芸作品が読みたくなるんだよね。シェイクスピアと太宰とマルケスと稲垣足穂が私を待っている。

今年のミステリは海外の古典が多かったから来年は日本のものを当たろうかね〜。海外も「ホッグ連続殺人」とか「つなわたり」とか「ビッグ・ボウの殺人」とか「赤い館の秘密」とか「Yの悲劇」の再読とかまだ残ってるけど、まあそれは折々に。

夏の終わり。9月に入ったら最高気温が30度を下回るとか。ホントかなあ。

2017年8月21日月曜日

聖地

土曜日は午前中、中央図書館に行った。川沿いの、風光明媚な遊歩道を歩いていく。木陰と風とが気持ちいい。


借りていた本「霧の殺人鬼」を返して1時間ちょっと「トレント最後の事件」を読んで帰る。このパターン多い、最近。借りなくても、涼しいところで集中して読めるんだよね。クラシックCDコーナーで、あなたのお気に入りをここに飾ってみましょう、というのを張り切ってやってみたり(笑)。


8月はミステリー強化月間。今年は古典の名作を3つ完読。比較すれば落ちるが、ボアロー&ナルスジャックも合わせ、海外ものに偏っている感じだ。来年は日本ものを多少固めようかな。


帰りにいつも気になっていた封筒や便せん、ポチ袋の店で気に入ったものを見かけて買った。


帰ると妻が、第1試合の、盛岡大付属の子すごかったー!と力説。2本ホームランを打ったらしい。昼ごはんから高校野球を見る。聖光学院vs広陵は、広陵の主軸中村奨成が外角高めのボール球を左中間スタンドへ勝ち越しホームランで勝利。落ちるスライダーを空振りした後の釣り球で、しかも力でレフトへ持って行ったのにびっくりした。打ってすぐガッツポーズが出たのも印象的だった。いやーまいった。


大阪桐蔭vs仙台育英は、クロスゲーム。無得点が続いて大阪桐蔭が1点を8回表に取りリードした9回ウラツーアウト、ヒット、フォアボールで1塁2塁、次の打者はショートゴロ。ショートからファーストへ渡り、誰もが試合終了と思ったその時、ファーストがベースタッチしておらずセーフで1アウト満塁。次打者は左中間へ逆転サヨナラ2点タイムリー2ベース。


ドラマにも無いようなサヨナラ劇で、大阪桐蔭は史上初、2度目の春夏連覇の夢が破れた。誰も責められないが、1点をリードしたところ、もしくはピンチを迎えたところでエース徳山を投入する手はあったと思う。


夜、熱闘甲子園を堪能。サヨナラ負けの時に、キャプテンのキャッチャーの顔で押していたのが印象的だった。


翌朝は息子を起こして、7時のバスで甲子園へ。電車はすいている。三本松(香川)vs東海大菅生という、人気があるとは言えないカード。意外に人いないかなと期待するも、球場ではもう3塁側アルプスが少しだけしか残ってないようで売り切れの可能性があるとか、やはり人多い。きょうが大会中最後の土日で盆休み期間の最終日。


実は息子は中継や熱闘甲子園を見て三本松高校が気に入っていた。三本松の1塁アルプスなら入ったもしれないが、では外野に行こう、とレフト席へ入る。もう半分以上埋まっている。ポール側の中段やや前の方、8時の試合開始10分前に座った。


試合は序盤から東海大菅生の猛打が爆発する。初回に右中間へホームラン、3回にもホームラン、レフト側にホームランが飛んできて、息子は大興奮。三本松は10ケタ安打を放つもののもう1本が出ずに完敗。


途中ジリジリと暑く、あらかじめ買って行ったスポーツ飲料は飲んでしまい、かち割り買ってタオルで包んで息子の首や頭に当て、冷凍アクエリで喉を潤す。いやー暑い。4試合全部観るツワモノもたくさんいそうだね。


ぐるっと外周を回ってグッズショップ。息子は東海大菅生の記念球を買っていた。日大三、早稲田実の本命2校に勝って出て来たのに好感があるらしい。ま、ホームラン見たしな。初めての甲子園で。私はうまく踊らされてると思いつつ準々決勝対戦入りシャープペンと大会記念タオルとを買う。99回だから目立つ。


帰っていると、眠い、暑いと言ってた息子がどこかへ寄りたいと言う。なんだ、バッティングセンターとか?と言ったらビンゴだったようで、駅から15分炎天下を歩いて行く。ストラックアウトとバッティング、少しずつましになっている、をして帰る。これだけ遊んで12時のバスに乗れるから、早起きは得。


帰って昼ごはん食べて、午後、広陵vs仙台育英をエアコンかけた部屋で観ながら、親子ともに爆睡。暑さに当てられると眠たくなるのだ。私は早めに起きて活動したが、息子は暗くなるまで寝ていた。やれやれ。


東海大菅生、天理、広陵、花咲徳栄が勝ち、関東2、近畿1、中国1が残った。2校の東北勢が消えたのは残念。さあ、休養日をはさんでいよいよファイナル4。99の優勝は、どこだろう。





2017年8月13日日曜日

7月書評の3

7月は、13作品13冊。ここのところペースが上がっている。その一方であまり感動できる作品に出会わないのが正直。うーん。7月は「がんばっていきまっしょい」が良かったかな。

土曜日は、私の歯医者が午前中で、午後はママ髪チョキチョキ。高校野球は連日の満員通知。

夕方、久しぶりに涼しくなって、冷房入らず。風もあって気持ち良かった。

で、きょうから妻は息子とともに実家のお盆。私は昨年は行ったが、今年はワンコとともにお留守番。独り暮らしはね、なにかと忙しいのです。さあ動こう。写真は妻手づくりのみたらしだんご。


椹野(ふしの)道流
「最後の晩ごはん ふるさととだし巻き卵」

ラノベ、なんだろう。しかし、美味しい方向のものはやはり面白い。架空の店の所在地もなじみ深いところだ。

若手イケメン俳優の五十嵐カイリは、大手事務所の若手女優との写真を掲載され、力関係から芸能界を追放同然の身となる。故郷の神戸に帰って来たものの実家の兄に追い出され、偶然出会った夏神の料理屋兼住宅に住み込みで働くことになる。夏神の店は時折幽霊が出没するのだったー。

すでに何冊か出ているシリーズもの。作者は兵庫県出身で、夏神の関西弁が地元っぽい。タイトルのだし巻きのほか、生姜焼き、ハンバーグなど定食が出てくるがどれも美味そうで食欲をそそる。

会話は若い、ラノベ風。店の周辺の土地もほぼよく分かる。芦屋川沿いはそれなりに風光明媚で季節柄のいいころの散歩には最適だ。地元商工会が登場人物と記念撮影が出来るアプリも出してたのだとか。

さてこの先どうなるか。料理も楽しみだしもう少し読もうかな。

上橋菜穂子「鹿の王1」

広い。雄大。上橋菜穂子の作品はいつもそんな感じがする。本屋大賞受賞作。ワクワクしながら読み進めている。

東の帝国、東乎瑠(ツオル)と戦い捕らわれた、戦士集団「独角」のヴァンは、岩塩鉱に繋がれ奴隷として働いていた。ある夜、黒い狼が岩塩鉱を襲い、噛まれた労働者は全滅する。噛まれた後の死の苦しみを生き延びたヴァンは、ただ1人生き残った幼子ユナを連れて逃亡するー。

ヴァンともう1人の主役級、医術師のホッサルの場面がメイン。ヴァンは逃亡先で落ち着き、ホッサルは労働者全滅の病気の謎を追う。まださほど物語は動かず、1は全体の説明の巻という気がする。

「守り人」シリーズも、文化人類学者の上橋菜穂子が中央アジアを念頭に構成したというが、今回も山岳を含む雄大な背景で、民族の習性や関係性、感情を細やかに設定しさらにファンタジックな要素を取り入れている。基本は人々の暮らしであり、そのベースをしっかりと描いている。

単行本と違い、文庫は4まであるらしい。

動きがあるはずの2が楽しみ。「鹿の王」のタイトルの意味もそろそろ分かるかな。

上橋菜穂子「鹿の王 2」

日本医療小説大賞でもある本作。多様な考え方が物語を深化している。なんか手塚治虫を思い出すな。

黒い狼のような獣の群れが王家主催の鷹狩りの会場を襲う。噛まれたものは発症し、王子迂多瑠(ウタル)を含む者たちが死に至る。ホッサルたちは懸命の治療の中で新薬を試すなど一定の成果を得る。巷には、帝国東乎瑠(ツオル)に屈した「アカファの呪い」という噂が立っていた。一方、身体に異変を感じていたヴァンは、突然「谺主」の呼び出しを受ける。

意外に本格派の医療小説として黒狼病との闘いを描きながら、そこに多様な価値観が盛り込まれている。科学的な医療と、宗教に基づく東乎瑠(ツオル)の医療は、江戸末期の、蘭方医と漢方医の確執を連想させ、手塚治虫「陽だまりの樹」を思い出した。

上橋菜穂子が描く世界は、もはやホッとするものになっているが、常に瑞々しさを感じさせる仕掛けは細かく展開されていると思う。

この小説は日本医療小説大賞をも受賞したらしいが、ホッサルたちの医療を見ていると、この時代はいつで、どこまで科学が進んでいるのかが読めないという迷いが、珍しくある。

4巻中の2巻め、黒狼病事件が人為的なものだという確信が深まり、少しずつ真相に迫る巻。後半はまた後日読もうと思う。

水島宏明「内側から見たテレビ」

テレビジャーナリズム、テレビドキュメンタリーについて、日本テレビ出身の著者が論を述べる硬質な本。ガツン、という系もたまには読まないとね。

テレビは劣化しているー。兵庫県議号泣など取り挙げやすいニュースの陰で、重要なニュースが流される時間が減っているという現状、また誤報、ミスの原因、取材者のスタンスの問題、社会的弱者への配慮が足りない点などを著者の豊富な経験を元に俎上に上げ、強く意見を述べている。

経験というものはやはり強い、と思う。また、社会的弱者への対応は、風潮については共感するところもあり、勉強になる。著者は大学教授で、学生にはテレビを見ずにマスコミを判断するのはやめて欲しい、とも書いている。

白石一文の佳作「この胸に深々と突き刺さった矢を抜け」では、格差社会の矛盾が大きく取り挙げられていた。石田衣良「コンカツ!」でも大学院を出た男が工場の派遣労働職場をリストラされそうで、親会社に勤める主人公に、男の彼女が詰め寄る場面がある。こういったことが現代のニュース報道で見過ごされがちな風潮には、私も確かに大きな流れとして違和感がある。

正直、冷静な根拠が少なくて思う様を述べている部分もあると感じた。でも、やはり硬質な意見にも、余裕を持った上で読むべきだな、つくづくと思う。

7月書評の2

暑い暑い。この3連休は、初日に床屋に行き、土曜日は歯医者。2回目にして新しい詰め物が出来て応急処置終わり。歯石を取ったら、すごく痛かったけれど、前歯がスカスカな感じ。きれいにもなった。やっぱり定期的に歯医者は行かねば。歯磨きの回数も増やして、張り切っているが、歯石取ったあとの昼食後気合い入れて磨いたら、口の中が血だらけになった。(笑)

移動がバスなので、予約の時間と合わないこともあるが、ちょっと早めスタートで、図書館で涼しく読書してから行ったりしている。

では2つめ。どぞどぞ。

ウィリアム・シェイクスピア
「夏の夜の夢・あらし」

ドタバタな感じがシェイクスピアっぽい、のかな。妖精のイメージを変えた?短編喜劇ハッピーエンドもの2編。

舞台はアセンズ(アテネ)。イジアスの娘ハーミアはデメトリアスと婚約させられていたが、ライサンダーという若者と両想いとなり、父の意に沿うか、死刑か、神殿の奥で一生独身で過ごすかという選択を迫られていた。デメトリアスには彼を想うヘレナという元恋人がいた。妖精の王オーベロンは冷たい妻タイターニアを懲らしめるべく、最初に見た者に惚れる薬を作るが、妖精のパックにデメトリアスがヘレナに惚れるように使え、と言い含めて薬を渡す。しかしパックは間違えてライサンダーに薬を使い、ライサンダーはヘレナを見てしまう。(「夏の夜の夢」)

どちらも1600年ごろ書かれた話で、いつもながらその時代の様々なものを反映していそうで興味が湧く。

「夏の夜の夢」はごとく、取り違えのためにドタバタする喜劇で、悲劇のロミオとジュリエットと同様の展開である。解説によれば、妖精というのは当時どちらかというと不気味なものという捉え方だったのに、この作品が世に出てお茶目なイメージが広まり、今日まで続いてるんだとか。

「あらし」は、シェイクスピア最後の物語で船が難破して、無人島にナポリの王侯貴族とその従者が流れ着くが、実は嵐を起こしたのは、深い恨みを抱く、現魔法使いの元ミラノ公で・・という話。セリフ的にもいろんな含みがありそうにも思える。

ドタバタする流れは同じである。しかしいくつかの場面が同時進行するなど技巧的。王侯と対照的に、従者や市井の人々のハチャメチャな会話を取り入れ、しかも全体として超自然観とか宇宙観とかを醸し出すー。なんとなくシェイクスピア独特の良さがちょっと分かってきたかな。4大悲劇を読みたくなってきた。

敷村良子「がんばっていきまっしょい」

困った、不思議な物語だった。なんでもないシーンで泣けてきてしまう。魔力的。名門松山東高校の、女子ボート部の物語。

1970年代後半。進学校の松山東高にやっとこさ受かった篠村悦子は、海辺で見た光景に天啓を得て女子ボート部を立ち上げる。なんとか部員を揃えて高校総体予選に出場したが、悦子たちは惨敗を喫するー。

最初からザパッ、ザバッと荒い文体で、しかも主人公悦子はアンニュイなベースで、もう少ししなやかなスポ根ものをイメージしていた私は虚をつかれた。ストーリーは確かにスポーツ青春ものに近いのだが、アンニュイで不器用な悦子の高校生活、どこか泥臭い部活に頼りなさそうな部員たち、方言でのあまり長くない会話、などがマッチして、一種のリアルさを感じ取れる作りになっている。

そして、普段の練習風景とか、大会の日の朝の散歩のシーンという、なんでもないところで不思議と泣けてくるのである。それなりの年月本読みをしているが、こんなことはなかなか無い。淡々として、大げさすぎず、キレイでもなく、長くもない悦子の心の動きの描写が妙なリアル感となり、その中に控えめに散らされるまっすぐな部分に刺される感じである。

松山東高は夏目漱石が赴任し「坊ちゃん」の舞台となった名門進学校である。様々な伝統があり、自らも卒業生である作者の愛情を込めた特有のエピソードも盛り込まれている。1996年の作品で、松山市が主催する坊ちゃん文学賞受賞作。映画とテレビドラマにもなっている。映画は田中麗奈の初主演作だとか。

私はwebで書評を読んで、手に取る気になった。書評を書いた方も、賞を選考した方も、映画やドラマに携わった方も、この不思議な魔力を正しく?味わったのだろうか。

表題作と続編で構成された本で、「がんばっていきまっしょい」は100Pもない話である。しかし得難い体験をしたと思う。

エドガー・ライス・バローズ
「火星のプリンセス」

1910年代の名作。バローズは「ターザン」シリーズもものした人。この時代らしいな、と感じる流れもいくつかある。

南北戦争で南軍の騎兵大尉だったジョン・カーターはアリゾナで金鉱の発掘をしていたがインディアンに追われて逃げ込んだ洞窟で、突如火星に転移する。

火星でカーターは身体能力と果敢さ、思慮深さを武器に、プリンセスのために大活躍、また火星の民族とも友情の絆を結ぶ。

運河、気候、2つの月、重力の差などの、火星の居住環境にもワクワクするが、まず特徴的なのは、火星の民族が好戦的で残忍、暴力的な下剋上があり、人間らしい情に薄い、という設定だろう。

多くの行軍が出てくるが、戦いの展開、勇敢さなどの描写に、作者自身が元軍人であった事が反映されているようだ。また超大型の飛行艇を使った空中戦なども、時代を反映してるようでもあり、さらにジブリアニメのようでもあり、なかなか興味深い。

ストーリーの展開は多少ご都合的とも言えるし、現代ものと比べて看過、スルーしてるな、という部分も見えるが、それでも全体として躍動感があり面白い。SF的な趣きって、いろんな角度から楽しめるな、と思う。

湊かなえ「山女日記」

なんというか、コミカルで面白かった。湊かなえ、の別の顔?

勤め先のデパートのアウトドアフェアで、登山靴にひと目ぼれして購入した律子は、女子の同期3人で妙高山に登ることにするが、仲の良い舞子が欠席し、あまり付き合いが無く、部長と不倫している由美と2人で行く事になる。(「妙高山」)

その短編で登る山の名前がタイトルについた短編集。主人公はいずれも妙齢の女子。恋愛に、不倫に、人生に悩んでいる。短編集の妙味でそれぞれの短編の主人公は、他の話と微妙にもしくは直接的に絡んでいる

ベースとなる設定のテクニカルなところもイケていて、なかなかに小粋な演出である。物語の中にそうだったのか、というネタばらしがあるものもあり、飽きさせない。

やや本格的な登山を扱ったものとしては、先に北村薫「八月の六日間」を読んだ。こちらは連作短編で、1人の女性の心のうちが語られていた。この「山女日記」はよく似ている部分もあるが、ずっとコケティッシュで思わず笑えたりする。中では、バブルの残滓をスタイルに残した女子がお見合いパーティーで知り合った男と山に登る「火打山」が良かったかな。

湊かなえは「告白」「境遇」と読んだが、こんなに柔らかいのはイメージ外でちょっとびっくり。登山は趣味だそうだ。なるほど。

太宰治「走れメロス」

太宰治中期の、充実した作品集。スッキリとした表現で、明るい作品が多いと感じる。ふむふむ。

手ひどくふられた私は、大学の講義の合間に上野公園の甘酒屋に通うようになる。店の娘、17歳の菊ちゃんは、失恋の相手によく似ていた。ある日私はその店で、シューベルトに化け損ねた狐のような顔の男、馬場に出会う。(「ダス・ゲマイネ」)

「ダス・ゲマイネ」「満願」「富嶽百景」「女生徒」「駆込み訴え」「走れメロス」「東京八景」「帰去来」「故郷」が収録されている。

「ダス・ゲマイネ」だけが昭和10年、初期の作品で、他は30歳の時、井伏鱒二氏が親代わりとなって石原美知子と結婚し安定していた時期の作品群である。「帰去来」「故郷」は絶縁状態だった青森の実家へ恐る恐る帰った経緯が描かれている。この後長編「津軽」が書かれたそうだ。

さて、「満願」「富嶽百景」「女生徒」は表現が実に清冽である。

「富嶽百景」は有名なフレーズ「富士には、月見草がよく似合う」が出てくるし、ラストも鮮やかだ。「女生徒」はくるくる変わる、複雑で可愛らしい心情がよく出ている佳作で、「キウリの青さから、夏が来る」とかいう表現も短い言葉で爽やかさの極みを表している。

「駆込み訴え」は代表作の1つとどこかで聞いていて初めて読んだのだが、ふうむ、という感じである。キレがあるとは感じた。「走れメロス」中学生以来?健康的で、まっすぐな物語。ちょっときれい過ぎるかな。

さて、太宰治は先に「人間失格」とか「晩年」を先に読んでしまい、ネガティブなイメージが強かった。ファンが多い理由に触れてみたくて少しずつ読んでいる。「女生徒」を読んでなんか分かり、「斜陽」を読んで感心し、今回はなかなかいいな、と思った。明るいもの、筆がノってる感じのものは受け止めやすい。ただ数が増えて、太宰の筆致に慣れが出て来たこともかなり大きい。

知り合いの若手本読みは、いまだに良さが分からない、と言う。私も理解したとは言い難いが今回保存版で、他の作品も読みたくなった。

7月書評の1

ちょっと遅くなったが、7月の書評を。

最初の方はややペース遅いかな、と思ったが追いついた。自己啓発系がないので探しに行かなければ。ではレッツゴー!

有川浩「植物図鑑」

街中や郊外に生える雑草の知識と料理法+甘あまのラブコメ。歩く時に草が気になるようになった。

「噛みつきません。躾のできたよい子です。」26才、会社員のさやかは飲み会の帰りに、自宅マンションの植え込みで行き倒れていたイツキを「拾い」部屋に住まわせることにするー。

そしてイツキは植物とその調理法の知識が豊富で、2人で食べる雑草の採取に出掛けるうちに距離は縮まり・・というラブコメだ。

雑草の知識、調理法については、有川浩の得意分野らしく、楽しんで描いているのがよく分かる。

あとがきにご本人がいろいろ書かれているが、今回は「リアル落ち物女の子バージョン」。確かに物語では男性主人公が美女もしくは美少女と偶然出会う事が多いが、
「男の子の前に美少女が落ちてくる(評者注:ラピュタとか)なら女の子の前にイケメンが落ちてきて何が悪い!」だそうだ。

また「個人的に過去最強に恥ずかしかった」というくらい甘いラブコメになっている。

私は、かつて「ビブリア古書堂」の書評で女性の方が、主人公の栞子さんについて、男性の理想の女性像を具現化した、という意味のような事を書かれていたのを目にした事がある。確かに極度の人見知り、にして黒髪美人、スタイル良しの巨乳、メガネと萌え要素満載。この小説を読むと、その男女逆転版だなあと、思い出してちょっと笑えた。けっこうこれ女子がやってなにか悪いの、というのは最近のありふれた考え方に思える。

そういえば私は有川浩ってどれくらい読んだんだろうと思い返す。

自衛隊3部作+「クジラの彼」は新鮮に面白く、「図書館戦争」はラブコメが甘すぎてシリーズは読まず、「レインツリーの国」で結構ベタ&繊細だなと思いつつ・・おっとここまでか。最近の作品ほとんど読んでないな。オススメはなんだろう。

今回の作品は趣味とあまあまラブコメ路線なので、作家の引き出しの1つと捉えておこうかと思う。植物の知識は確かに興味深く、歩く時に生えている草が気になるようになった。

松岡圭祐
「シャーロック・ホームズ対伊藤博文」

またコレクションが増えた。明治の日本で、ホームズが国際的陰謀を暴き解決する!

スイス・マイリンゲンの滝でホームズは、宿敵モリアーティ教授と対決し、日本の柔術(原典では「バリツ」)で滝壺へと落とす。状況を見て自分が死んだと思わせようと、ホームズは身を隠し、イギリス政府に仕える兄マイクロフトの計らいで日本へと辿り着く。

日本の巡査津田三蔵がロシアの皇太子ニコライに斬りつけた「大津事件」を題材に、ホームズと伊藤博文のコンビが大活躍する。ラストは迫力ある場面で、息もつかせぬ展開で一気に読み進んだ。ホームズ作品への言及もたくさん、シャーロッキアン的な要素が散りばめてあり大いに楽しめる。

原作と同じ設定でホームズに事件を解決させるパスティーシュ、時代を変えたり登場人物の名前を変えたり、物語中に当時の有名人を登場させてみたりするパロディ、世界で聖書の次に読まれていると噂の、ホームズものは世界中にいるシャーロッキアンの作家たちにより続編が書かれ続けていて、日本でも毎年数冊が発売されている。私はアマチュアシャーロッキアンでたまに読むのを楽しみにしている。

日本と絡むもので言うと、夏目漱石が物語中に登場する長編が2つある。日本人が書いたものもたくさん。奇想天外な発想でちょっとカタくもある。井上馨が期待通りで良かった。

コナン・ドイルはもともと歴史小説が描きたくて、ホームズの連載は早く終わりたかった。で、「最後の事件」でホームズを亡き者にしたわけだが、ロンドンでは喪章を付けて歩く人もいたとか。およそ10年後、「空き家の冒険」でホームズは復活しシリーズは再開したのだが、死体が見つからない設定にしたのはただの偶然だ、とドイルは後に回顧している。原作では1891年から1894年まで、ホームズはチベットやトルコを訪問し、フランスで研究にいそしんだりしていた。この空白の期間を題材にした作品も多い。

パロディではフロイトやマルクスが出て来たり、ドラキュラと対決したり、果ては地球に襲来した火星人と戦うものもあり、トンデモ的な設定ものもけっこう面白かったりするのだが、総じてパスティーシュ、パロディは舞台が大きくクライマックスもハデになっている。

そういった部分でも正当派の系譜のパロディと言えるだろう。

ドリアン助川「あん」

名前はなんとなく知ってたし顔も見覚えのある方。でもこんな小説を書くとは知らなかった。映画化。カンヌ出品作。

刑務所を出てから、亡き恩人の店を任され、毎日どら焼きを作る千太郎は、ある日店先で指の曲がった老婦人・吉井徳江に雇ってほしい、と頼まれる。徳江の作るあんは本格的で、美味かったー。

この作品はどこまでネタばらしをしていいのか分からない。予測が甘いのかも知れないが、私はそういう話だったのか、とコペルニクス的転回がちょっと入った。

ほのぼのとはしているが、社会派な物語である。ダメダメな千太郎と、徳江に心を開く中学生ワカナ、千太郎の雇い主である「奥さん」もしゃべり方が少し昔の小説風であるのも含めて、それぞれ味のある役どころだ。

河瀬直美監督で映画化され、カンヌで賞賛を浴び世界各国で上映されたらしい。この小説をどう撮ったのかは興味があるな。

ラストはハッピーエンドではなく、泣けてしまうが、明るくない中にも何か光をつかむような構成が小説的だ。難を言えばちょっと単調な部分もあるかな。でもあっというまに読めた。

早見和真「イノセント・デイズ」

結末へ向けて疾走する、という感覚の、犯罪・社会派小説。救いが乏しく、どこか映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を思い出す。日本推理作家協会賞。

確定死刑囚、田中幸乃。放火で依然付き合っていた男の妻と幼児2人を焼死させた女は、死刑の判決を聞いた後、傍聴席にいた何者かを見て、笑みを浮かべたー。

判決文には、被告の犯罪に至る人生の出来事が語られる、またもちろん、犯行の動機や計画性、残忍さ、なども語られる。まず現在と、判決公判、登場人物を先に見せ、事件というか、犯罪から裁判に至るまでの様相を先に書き、判決文の部分的な言葉が真実だったのかどうかを辿っていく構成である。

家庭の不幸、生い立ちの不幸、また人間くさいプライドと勘違い、性格の壊れた部分、感覚のズレ、などを含みながら、幼少の頃から現在に至る幸乃の足跡を辿り直す旅だ。とてもジメジメしていて暗い。

読む方は心のどこかで救い=死刑が執行されないことを願う。救世主が誰なのかと考えながら読み進む。そこには一種の急く気分が醸成される。読者をそのように持って行く熱がこの作品にはある。また死刑は、どこか題材の受け手に興奮を生む側面は否定できない。

しかし、正直、暗い。発想は面白く、前記の熱にも浮かされるが、論理的に考えれば、幸乃を救おうとする側に、動機が充分でないと思うし、感情の行き方も、んーと思う部分もある。

救いが乏しかったり、暗かったりするのは、物語の構成要素としては重要だったりすると思う。2000年のカンヌ映画祭で最高賞パルム・ドールを獲ったラース・フォン・トリアー監督の「ダンサー・イン・ザ・ダーク」なんかひどい話で、救いの無さに衝撃を受けたが、この衝撃も物語の持つ力だと思う。

早見和真は「ひゃくはち」「6(シックス)」と野球関連の本を2冊読み、この分野は新境地らしいが、筆力と、あと構想に知性と工夫を感じる作家さんだ。

この作品、もちろん仕掛けがそうさせているのだが、ただ読む方に高い熱を生む性質を持っているだけで、小説としては成功なんだろうな、なんて思っちゃったのでした。

2017年8月7日月曜日

来る

まさに盛夏で毎日暑い。あと20日もすれば朝晩涼しくなるさとそればかりが心の慰めである。

土曜日は近い市立図書館行って本を返し、古いiPadの充電ケーブルがイかれたから買いに行った。もう古いタイプは1種類しかない。考えどき。あとは、整髪料と髭剃りの時に塗るローションを買って終了。9時に行って11時半には帰着。こんなスケジュール多い。

午後はのんびり。これもいつものパターン。晩は屋上テラスから淀川花火大会を遠くに見ながら風に吹かれて、ヒグラシの声を聞いていた。夏山にヒグラシは涼のしるしか。

翌日曜日はママ外出の車に乗って、中央図書館に出掛ける。川の遊歩道がまっすぐ伸びていて風光明媚。しかし暑い。煙草を吸いに駅前まで行くが、凶悪な陽射しで、久しぶりにヤバいと思った。

中央図書館は借りたい本もあるが、まずは奥のイスに座って涼しく読書。家にいてはなかなかゆっくり涼しく本読むことが出来ないからね。1時間半ほどいて、「鹿の王4」完結編を読了。うーん。面白くなくはなかったが、どうしても「守り人」シリーズと比べてしまうな。

借りたのはM・J・トロー「霧の殺人鬼」という本。これは、シャーロック・ホームズに出て来るレストレード警部、ルパンで言えば銭形警部のような、引き立て役のスコットランドヤードの警察官、が主役となって活躍するシリーズの最初の巻である。読めば25年くらいをかけて、ようやくシリーズ3冊を読み終える。

若い頃に第3巻「レストレード警部と3人のホームズ」を読み、これが傑作だったから他も読みたいと思ったが、相当マイナーな本だったらしく見つからず、第2巻「クリミアの亡霊」は3年前に神田神保町で見つけた。駄作だったが・・。そしてやっと第1巻を読める。

楽しみだ。今月は毎年のミステリー・サスペンス強化月間で、江戸川乱歩選定のランキング第1位、イーデン・フィルポッツ「赤毛のレドメイン家」、桜庭一樹の小説のあとがきで知って読みたかった、ボアロー&ナルスジャック「悪魔のような女」をすでに読了。

帰りは川沿いを歩く。遊歩道は木陰も多いしさっきほどは暑くない。バス停駅に帰り着いて、100円ショップでレモン水を買い、煙草を吸って、バスに乗って帰った。午後は眠くなってお昼寝。犬とともにゴロゴロ。

明日は台風だという。会社行けるか、帰って来れるか。上陸すると、急速に衰えるもので、少しずつ勢力は削がれている。しかしゆっくりだから、しばらく荒れそうだ。進路予想がだいぶ南にずれてきた。最初岡山を通過するのが、明石付近になり、いまは大阪市にまっすぐ。和歌山の方にそれる可能性もあるのかな。

うーん、久々に苦難、となるんだろか。