先日、体育館、クラス、予備校の仲間、元バレーボール部の同級生と、30年ぶりに再会した。彼は老け込んだところもなく相変わらずナイスガイで、オレオマエ、で話せるところが本当に良かった。今だから話せるマル秘話もあって面白かった。この歳になって同級生、いい時期を迎えている。
江國香織
「泳ぐのに安全でも適切でもありません」
ふううむ。なんか、上手さもあるんだけど、世の中にあるたくさんの恋愛のシーンを切り取って、まともに向かい合っている感じ。フェミニンだなあ、と思う。やっぱ女子ウケがいいのかな。山本周五郎賞。
無職で酒飲み、しかし身体の相性がいい彼と同棲している私は、祖母が危ない、との連絡で、母と姉の待つ病院へ向かう。(表題作)
短編集である。中盤まではきっちりと同じページ数で書かれている。妙齢の女性が主人公で、なんてことないけど、でも、心象的に薄く刺さる、本人にとっては記憶に残る、理屈ではない意味のあるシーンだよね、ということを書き連ねてある。なかにはドラマチックなものもある。別に結論も付いてないし、不可解ぽいものばかりだ。
ただ、シーンの設定や文章はなかなか印象的であって、濁っているけど澄んでいるものを求めてるようなイメージがある。
誰しもいくつかの恋愛を経験してるが、それぞれ形が違ったよね、というのを思い出させてくれるような、フェミニンで、大人で、少女趣味なテイストだ。
3ヶ月連続で江國香織の本を読んでいるから、途中でちょっと食傷気味になったけれど、読後感は良かった。評価されたのも分かる気がするな。
江戸川乱歩
「江戸川乱歩全集 第5巻
押し絵と旅する男」
乱歩の代表作の1つとも言われる短編。なんというか、不思議さと、妖しさと、モダンさに女性への執着。
蜃気楼を見ようと富山の魚津へ行った帰り道、上野に向かう列車に乗った「私」は、額を窓に立てかけた老人に出会う。男は話し掛けてきて、私に不思議な絵を見せ、その絵にまつわる妖しい話を始めたのだった。
江戸川乱歩は人気作家で、私の周りにも全集を持っている人が複数いる。その内の1人から借りて読んだ。乱歩は私も多少は読んでいるが、この小説の名は、「ビブリア古書堂の事件手帖」の、全編に渡り乱歩を取り挙げた4巻で初めて知った。
確かに、幻想的で異次元的な風景の導入から、乱歩らしい怪奇で不思議な話、また小道具として望遠鏡がトリッキーな役目を果たしている。さらに女性への執着が、乱歩の味を出していると思う。
この全集第5巻は、「押し絵」のほかには、「蟲」「蜘蛛男」「盲獣」と、なかなかエログロな境地、やはり女性への執着を描いた短編、長編が収録されている。「蜘蛛男」は明智小五郎も出てきて、かなり探偵小説風。しかし、日本を代表する名探偵の明智も、ちょっと抜けた役どころだったりするのだが。
私は小学生の頃、「怪人二十面相」シリーズを図書館にあるもの全部読んだ口で、高校生の時に「白髪鬼」を読み、ここ数年で「孤島の鬼」「幽霊塔」「黒蜥蜴」なんかを読んだ。エログロなんだけど、乱歩にしかない味はやはりあって、親しみを感じてしまうのである。
朝井まかて「阿蘭陀西鶴」
ふむ。落ち着いた、騒がしくも温かい物語。
なんか朝井まかての方向性を感じたな。浮世草子で一世を風靡した、痛快な関西人、井原西鶴を、斬新な形で語る。織田作之助賞。
大阪・鑓屋町に住む盲目の娘、おあいは父、井原西鶴と2人暮し。西鶴は俳諧師として名を成しつつあったが、家事を取り仕切る15才のおあいは、見栄っ張りで、派手好きで、おあいのことを話の種にして自慢する父が嫌いだった。
話は1680年頃、世が太平となり、町人の間に文化的教養が高まった時分の大阪が舞台である。負けず嫌いで、周りが困るほど意気軒高な西鶴。ライバルとも言える松尾芭蕉との確執、浮世草子が生まれた背景、近松門左衛門との出会い、やたらと法令を出した徳川綱吉の時期の世情と、興味深いベースが並ぶ。
その中、たった1人の家族、おあいの、父に対する感じ方が変わっていくところが温かい。朝井まかては関西人で、いかにも的な西鶴の性格描写も堂に行っている。ちなみに鑓屋町というのは、大阪城の近く、今の谷町四丁目付近らしい。
さて、朝井まかては庭師を題材にした「ちゃんちゃら」や青物問屋を題材にした「すかたん」女3人のかしましいお伊勢参りを描いた「ぬけまいる」など、初期には設定はしっかりしていながら、どちらかというと柔らい時代ものを書き、かなりまじっと幕末の悲劇を描いた「恋歌」で直木賞を取った。私も上に挙げた作品は楽しませてもらい、「恋歌」の清冽な大河感には酔わせてもらった。
パンチの効いた「恋歌」とは今回はまた違う、落ち着いた、柔らかさも硬さも技巧も含んだ、歴史上の人物の人間ドラマである。この人の作品は、どこかすっと蒼い風が吹き抜けるような感覚があって、いつも新しい。面白い時代小説だった。楽しめそうなネタの作品を出しているようだし、次作もまた読みたい。
花崎正晴「コーポレート・ガバナンス」
ちっと自己啓発。小説ではありません。念のため(笑)。
一般的なコーポレート・ガバレンスとは、とか、この言葉の定義とかの本ではなく、経済学的観点から、アメリカ型のガバナンスを紹介し、日本型ガバナンス、かつての銀行のガバナンスを再検討し、東アジア企業のガバナンスを研究している。ここでいうガバナンスとは、企業が、よくありがちな、効率性や収益性の悪い企業行動を抑制するものは、という大きな視点のもの。間違ってたらごめんなさい。
日本型のこれまでのシステムは、ある程度評価していると受け取っているが、バブル崩壊までの銀行のガバナンスに関しては、厳しい視線が向けられている。
外国人投資家が増え、日本の企業活動にとって環境の変化は続いている、という気にさせられる。思ったよりも学術的な本だったが、それなりに勉強になりました。
正座してワイシャツにアイロンをかけている時、背筋がキクッといってしまい、痛みをかかえながら、全豪オープンのナダルvsフェデラーの決勝戦を見ながら、深夜に読み切った。
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