2017年1月4日水曜日

12月書評の3




ここでご挨拶。2017年もよろしくお願い致します。新年の瞬間は、今年もルーフテラスで、大阪湾の夜景の中にユニバの花火が上がるのを見て、港の船が一斉に鳴らす汽笛のボーーッという音に浸ってました。あっという間に年は暮れ、明けた感じです。天候は穏やかです。では12月書評最後の3冊。



藤谷治

「船に乗れ! � 合奏と協奏」


音楽科高校生の、青春小説。本屋大賞ランクイン。3部作で、このあとおおきなうねりがあるらしい。まあ第1巻は、キラキラしてるな。


裕福な音楽一家に育った津島サトルは、中学生の時、チェロの道に進むことになった。国立の高校を落ち、祖父が学長を務める新生学園大学付属高校音楽科に進学、男子は学年で6人しかいなかったが、個性的な仲間に出会い、ヴァイオリンの南枝里子に恋をする。


最初は、ちょっと鼻が高い男子が高校に入って、これからどう展開するんだろう、平凡でなければいいなあ、と思っていた。正直。哲学が入ってきたくらいからちょっと変わってきたかな、という感じがしたが、総じてこの巻は、上で言った通り、演奏と恋に彩られ、キラキラしながら走る巻で、波はあまり感じない。ヒロイン的役割の南枝里子の容姿が、あまり想像出来ず、タレントさんにもなぞらえなかった。


音楽部分がかなり専門的で、分からない楽しさ、を久々に味わった。やっぱ音楽ものはいい。


人に薦められて読んだ本で、正直この作家さんも全く知らなかった。一時期この作品は、王様のブランチやダ・ヴィンチで紹介されたりしたらしい。 


幸福と苦難のバランスを取るのが物語。またこのキラキラが、�巻、�巻でどのように作用するのか、これからどんな運命なのか、ちょっとだけ楽しみだ。


ボニー・マクバード「シャーロック・ホームズの事件録  芸術家の血」


クリスマスに、ホームズを。よく似合う、と勝手に思っている。去年もそうしたし。でも特に後半引き込まれて、イブになる前に読了してしまった。(笑)


1888年11月の終わり頃、ロンドンの世情はいまだ切り裂きジャック事件の混乱を引きずっていた。「四人の署名」で恋に落ちたメアリ・モースタンと快適な新婚生活を送っていたワトスンのもとに、かつての下宿の管理人、ハドスン夫人から、ホームズが自分の部屋に火をつけた、という手紙が舞い込む。


解説を読んである意味納得したのだが、ホームズものはある意味、品の良い物語で、異常犯罪や、本格的な格闘のシーンが無く、追随する作家が、そのような要素を入れたくなるのも自然なこと、とか。また、この女流作家さんは、かなり本格的にハリウッドで映画の仕事をされた方とのことで、明らかに映画、テレビシリーズの「SHERLOCK/シャーロック」を意識していると思う。


私はアマチュアシャーロッキアンだが、かなり保守的で、映画も見たが、シャーロック・ホームズは007ではない、と心中で断罪した(笑)。今回も、推理機械で女性嫌いのホームズが、なぜ依頼人の女性に心動かされる?とか、ダブルで探偵を雇われてまだ任務を続ける?とかいろいろ引っかかった。


後半は次から次へと物事が動くからそれなりに面白かった。にしても、ちょっと抜けている場面が目立ったかな。


でも、毎年いくつも生み出されるホームズのパロディやパスティーシュを追いかけていると、原作を忠実に再現したのは少数で、あといくつかはうまく原作を活かしつつ新たな要素が入れてあるいいパロディがあって、大半が実は、なんらかの違和感を多く感じるものだ。しかし、矛盾するようだが、ホームズものは色んな形があってしかるべきだと私は思っていて、その中で保守的でありたいと願っている。映画も、違和感ありまくりのものも、それなりに楽しむのが基本姿勢だ。


ちなみに、聖典(シャーロッキアンの間では、ドイル原作の話をこう呼ぶらしい)の初の短編集「シャーロック・ホームズの冒険」所収である「青いガーネット」がクリスマス時期の話で、絵芝居のように物語が楽しめ、うまく終結させている良き話。私はこれが好きで、だから毎年クリスマスにホームズを読もうと思う。


みなさんも、よろしければ、ぜひ。ちなみに私は自分の読んでいる光文社文庫新訳版を気に入ってます。


ガリレオ・ガリレイ「星界の報告」


1610年、世界に衝撃を与えた論文。理解しようと努力したら、読むのにえらく時間がかかった。


1609年、ガリレオはオランダ人が一種の遠眼鏡を製作した、と聞いてこの噂が事実である事を確かめ、直ちに自作のものを作って宇宙に向ける。月面や木星を周回する、いわゆるガリレオ衛星たちの観察、また太陽黒点についての論文が入っている。


この時期、月の表面は滑らかだと考えられていたが、ガリレオは詳細な観察によって、地球と同じく起伏に富んでいる事を発見した。黒点については、同じく望遠鏡での観察及び物理的数学的な考察となっている。


アリストテレス的な常識でいうと、この時代は、月下界と月上界隈に分けられており、月より向こうの天空は永久不変の完全な世界で、太陽と月は地球を回っている、というのが広く信じられていた。


また太陽の黒点についての論文(書簡)は、その矜持を守るべく、黒点は太陽表面ではなく、地球と太陽の間にある何らかの天体である、とされた説に真っ向から反論するものである。


議論のベースが、信じられない次元であり、ゆえにそれなりに面白みがあった。木星の観察図や太陽黒点の図はかなりのページに渡っている。ベースが、現代の我々にすればあまり専門的ではない、だから、書いてある事を逐一理解しようと読んでみた。中には、太陽黒点の移動に関する、数学的図形的な考察もあり、やっぱり時間がかかったな。


ガリレオは、この革新的すぎる論により、宗教裁判にかけられるのは有名な話。現代のようなデータがあふれる社会ではないから、論文の内容も興味深い。


そういえば2009年に、今年はガリレオが望遠鏡をのぞいてから400年の年、とフェアをやってたな。同じ岩波文庫の、ハッブル著「銀河の世界」も読みたかったけど、絶版だそうな。ぜひ復刻版を出して欲しいな。



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